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帝都活動編
第二百二十五話 閑話 帝都の催し④
しおりを挟むヨハンが地上に戻った途端、広場にいる人々から歓声が沸き起こる。
「おい!アイツだぞ!」
「ああ。まさかゼンを一撃で倒すなんてな!」
「えっ?えっ?」
驚き困惑する中、アイシャとニーナが駆け寄って来た。
「ヨハンさん、すっごいカッコよかったです!」
「なにが?」
「さっきの戦い、映っていたんですよ!」
映像の魔道具を指差したアイシャによって理解する。
「あっ……――」
見上げるそこには地下の様子が全て把握できているというわけではないのだが、それでもいくつかが切り替わるように映し出されていた。
「――……へぇ。そうなんだ」
声までは聞こえない。あくまでも映像だけで確認できるだけなのだが、それでも観客は大いに楽しんでいる。
そして丁度今写し出されているのは、アリエルがその拳を持ってシャドウドッグを粉砕している場面。
「(今の動き、アリエルさん相当強いなぁ)」
感嘆するのはアリエルがさも当然とばかりにしている動きがどれも一級品。流石の一言。
「それよりお兄ちゃん、早く早く!もうあたしお腹ペコペコだよぉ」
「あっ、ごめん。じゃあアイシャお願いできる?」
「任せて下さい!腕によりをかけて作りますよ」
腕まくりをして手を上げる笑顔のアイシャ。
「あっ!」
「なんですか?」
「ごめん。どれぐらい獲ってくればいいかわからなかったんだけど、それで足りるかな?」
「…………え?」
アイシャは途端に目をパチクリとさせた。
「何を言ってるのですか?」
「え?」
「普通、これ一匹狩るだけでも相当難しいんですよ?」
「そうなの?」
「これ、すばしっこいし結構爪とか危ないですから。それが貰ったものも合わせて八匹」
「貰ったというか、奪ったんだけど……」
「どっちでもいいですよ。とにかく十分すぎますよ!」
満面の笑みで答えられる。
「そう? ならいいけど」
そもそもとして、元々の相場が全くわからない。
とにかく調達担当としての役割を終えたので、ここからはアイシャが調理するのを眺めるだけ。
「他のチームは大体二~三匹かぁ」
次々と地上に戻って来る他の調達担当を見ていると、持っているシャドウドッグの数はどれも似たようなもの。
「ここからがまた難しいからな」
「あっ、アリエルさん。おかえりなさい」
「ああ」
いつの間にかアリエルも地上に戻って来ており、ヨハンの横に腕を組んで立つ。
「難しいっていうのはどういうことですか?」
「それはもちろん。そもそもとして、あの子にあれだけの量を調理しきることができるのかどうかということだよ」
調理の審査には商業ギルド所属の調理師が立ち合い、無駄にしてしまう部位の確認をしていた。
必要以上に無駄を出すと減点対象になってしまうので、ただ調理するだけではなく如何に食材の無駄を少なくするのかも調理担当であるアイシャ達の役割。
「大丈夫ですよ。アイシャなら」
「なに?」
「ほら」
多くの調理担当が四苦八苦しながら調理に取り組んでいる中、アイシャを指差す。
「ふんふふーん♪」
鼻唄混じりに余裕をもって調理を行っていた。
「おいおい、あのお嬢ちゃん中々やるじゃねぇか」
調理を見守る観客の声。
楽しそうに調理をしているアイシャは他の大人たちに引けを取らないどころか上回る様子を見せている。
「へぇ、やるじゃないかあの子」
「アイシャの料理は本当に美味しいですからね。僕も孤児院でいつもご馳走になってますし」
「そうか。なら今度私も食べに行こうかな?」
「喜ぶと思いますから是非」
そうして調理は順調に進み、残すところもあと僅か。
しかしいくら数を用意しようとも、調理ができようとも、この大会はあくまでも大食い大会。一番重要視される部分が最後に控えている。
「とはいえ、ここからが最後の問題だ」
着々と食事担当の前に並べられる料理の数々。
その中にはどう見ても調理に失敗してしまい、異臭を放っているものもあった。
「ふむ。どうやらあの子は特に目立った失敗はしていなさそうだが、それでもあれだけを食べられるかどうか」
「あー、その辺は問題ないと思いますよ?」
「ん?」
断言できる。
むしろここまで来れば優勝は確実。
どう見てもニーナの前に並んでいる料理はどのチームよりも一番多い。
「おいおい。せっかくあれだけあるのにあの娘あんなに食べられないだろう?」
「だなっ。となると本命はアッチか」
だがヨハンの余裕とは裏腹に、懐疑的に見る観客の反応は当然の反応だった。
「さて、いよいよ終盤戦! ここからが本当の勝負です! 例え料理が不味くとも食べた者勝ち! そうなると一番料理が多くとも果たしてあの少女が勝てるとは限りません!」
司会のカルロスが声高に発するのを観客は誰も否定できない。
「キミはあの娘が勝つと信じているようだな」
「はい。まぁ見てればわかりますよ」
「相当な自信なようだな」
「そうですね」
思わず苦笑いしてしまうのは、普段のニーナを見ているから。
「ではいよいよこれで最後になります。覚悟はよろしいですね! ではお召し上がりください!」
カルロスの合図によって食事がスタートしたのだが、結果は火を見るよりも明らか。
他のチームが勢いよくガッとかき込み始める中、ニーナは動くことなく両手にナイフとフォークを持つだけ。
「可哀想にあの娘、ビビっちまってるじゃねぇかよ」
「無理すんなよぉ!」
「辛くなったら代わりに食べてやろうか!?」
観客の声援が飛ぶ中、ニーナは意に介せず舌なめずりする。
「きーめたっ!」
小さく呟いた後、ニーナの手が動いた。
「えっ?」
「な、なんだ?」
観客だけに留まらず、他の参加者も思わず目を奪われる。
「んー!おいひぃ!さすがアイシャしゃん!」
ガツガツと勢いよく食べ始めるニーナの姿に呆気に取られていた。
「なっ!?」
それはアリエルも同じ。
「ねっ。アレなら大丈夫でしょ?」
「ま、まさかあれだけの量を全て食べきるつもりなのか?」
「でしょうね」
「ならどうして最初動きが止まっていた?」
それだけの勢いで食べられるのなら最初に止まっていた理由がわからない。
「まぁたぶんどれから食べるのか決めてただけでしょうね」
「……それだけか?」
「はい」
アリエルは思わず目を丸くさせる。
「プッ」
直後、前を見て吹き出した。
「はははっ。なるほどなるほど。何もかも規格外だなキミ達は。 どうだ? シグラムに帰らずこのまま帝都にいては?」
「えっ?」
「いやなに、これだけ面白いのだ。もっとキミ達を見ていたくなってね。もし帝都に残るのなら色々手を回してやるぞ?」
ヨハンに向かって微笑むアリエル。
「あぁー……いえ、すいません。お誘いは嬉しいのですが、まだ学校に通っていますし、それに仲間を待たせているので」
「そうか。その様子だと難しそうだな。それは残念だ。だがまだ帝国にいるのだろう?」
「はい。もうしばらくは」
「なら気が変わったらいつでも言ってくれ」
「いやぁ……気が変わることはないですよ」
そうした話をしていると、ニーナはもう完食間近。
「おいおい、マジかよ……」
「……あれだけあるのを全部食べやがった」
会場全体が呆気に取られている。
参加者の中にはもう勝てないと踏んで食べるのを止めて諦める者もいるほど。
「はぁーおいしかったぁ!ごちそうさまでしたぁ!」
カチャンとナイフとフォークを置いて大声で完食を宣言した。
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