S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
241 / 724
禊の対価

第二百四十 話 果樹園

しおりを挟む

ヨハン達はドミトールを出て西にしばらく向かい、街道沿いから分かれる細い林道を歩いている。

「なんか良い匂いがするねぇ」

クンクンと鼻を鳴らしてどこかニヤケ顔になるニーナ。

「そうかしら?」
「ニーナは目だけじゃなく鼻も相当良いんですよ」
「ふぅん」

竜人族の持ち得る身体的特徴にカレンが感心する中、そこから少し歩いたところで林道が開け、目の前には大きな果樹園が広がっていた。

「うわぁ! 美味しそう!」
「へぇ。これは立派ね」

数百本もある樹が立ち並び、それぞれの樹に色とりどりの果実が生っている。
奥には果樹園の主の建物なのか、大きな家屋が見えた。

「物凄い多いですね。それに種類も。何種類ぐらいあるんですかね?」
「そうねぇ。少なく見ても十種類以上はあるわね」

現在実が生っているだけで少なく見ても五種類程度はある。他にも遠くに枯れた木があるのだが、それにも果実が生るのだとすれば相当数、恐らく年間を通して時季をずらした果実が生るのだろうと見て取れた。

「全部食べてもいいのかな? ねぇカレンさん!?」
「ちょっと待ちなさい。ここの人に聞いてからでないと買えるかどうか……――」

「……――あら? どちら様ですか?」

家屋を目指して歩いている中、木々の向こうから姿を見せたのは赤い三角巾を被った女性で歳の程はカレンと同じか少し上といった具合。
三角巾の間からは茶色い髪が見えており、腕の中には果物の入った網籠を持っていた。

「あっ、すいません。ここの方ですか?」
「ええ。そうですけど?」

三角巾の女性は首を傾げながらヨハン達を見る。

「突然の訪問申し訳ありません。少しお聞きしたいことがあって来ました」
「聞きたいこと?」

女性は三度首を傾げた。

「はい。わたしはカレン、この子がヨハンでこっちの子がニーナといいます」
「どうもこんにちは。私はサリーよ。それで? わざわざこんなところにまで来て聞きたいことって?」
「それは……――」

カレンが鞄から魔石の欠片を取り出そうと視線を手元に向ける。

「……――この」
「ねぇねぇ!サリーさん!ここの果物って全部サリーさんが作ってるんだよねぇ!?」

グイっと目を輝かせたニーナが前に出た。

「え、えぇそうよ」

突然のニーナの行動にサリーは驚きたじたじになりながらもその問いに返答する。

「あのオリジ、すっごい美味しかったんです!」
「オリジ?」

ニーナが指差しているオリジの樹を見て、そこでサリーはニーナの言葉の意味を理解した。

「あ……ああ。あなた、もしかしてここで採れたオリジを食べてくれたのね?」
「うん!それでね!他のも食べてみたいんだけど……――」

口元に指を持っていきながら首を回し他の果物の樹を見る。

「……――ちょ、ちょっとニーナ、あなたなにやってるのよ!」

カレンによって引き離されるニーナ。

「そうだよ。ちょっと落ち着いたら?」

ヨハンも呆れながらニーナに声を掛けた。

「だ、だって! カレンさんがここの人に聞けって言ったんじゃない!」

ビシッと勢いよくカレンを指差す。

「それはそうだけど、物には順序ってものがあるのよ! 大体最初に聞くのはそのことじゃないわよ!」
「なによそれ! 聞いてないよ!」
「普通わかるわよっ!」

「…………」

ニーナからすれば、魔石のことを聞くよりも果実のことを聞く方がよっぽど重要だった。

「ふふふっ。なんだ。そんなことね」

サリーは目の前のカレンとニーナの様子を見て呆気に取られながらも、数秒後には小さく笑う。

「いいわ。せっかく来てもらったのだし、紅茶でも入れるからこっちに来てゆっくり話しましょうか」

笑顔を向け、そのまま奥に見える家屋の方に向かって歩いて行った。

「あっ……」
「だってカレンさん」

当初の目的と違う話の流れになり、カレンはニーナを軽く睨みつけるのだが、ニーナはフフンとしたり顔。

「どうしてあなたが勝ち誇っているのよ!」
「い、いたいれしゅカレンさん」

カレンによって頬をつままれるニーナを横目に、ヨハンは周囲を見渡す。

「(確かに立派だなぁ。それに……――)」

その立派な果樹園を見ながら疑問を抱いていた。

「(――……この辺りでこれだけの果樹園が広がっているなんてね)」

メイデント領に入って以降、周囲はとても肥沃な土地と呼べるものではない。
年の半分近く雪に覆われるという話の割に、これほどの果樹園を手広く行えるなどということを不思議に思っていた。

「もしかしたら、何か特別な肥料でも使っているのかな?」

農園、果樹園に関してそれ程詳しくはないが、故郷のイリナ村近辺でも知っている限りでは年間を通した農園などというのは栽培が難しいということは知っている。

「まぁ魔石とは関係ないけどね」

もう既にサリーが歩いて行った方角、ニーナがカレンに怒られながら歩き始めている二人の後ろ姿を追うようにしてヨハンも歩いて行った。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...