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禊の対価
第二百八十三話 意図不明
しおりを挟むドミトール近郊の平野に張られた天幕。
周囲に帝国の旗が掲げられたその場所には帝位継承権第三位であるルーシュ・エルネライがいる。
どうしてカレンが反逆者とされているのか、カレンによると魔族であるドグラスの関与を疑いながら、もうすぐそこに辿り着こうというところで立ち塞がっている男、ペガサスのジェイド。
「……カレンさん。下がっていてください」
その圧倒的な存在感。
周囲には帝国兵が多く見ている中、腕を水平に伸ばしてカレンの歩みを止める。
「ハルマン少将?」
問い掛けるのは、どうしてペガサスがここにいて、自分達の歩みを止めるのか。
「わかりません。ですがその子の言う通りでございます。今近付いては危険です」
ゴクリと息を呑むハルマンのその表情からも緊張は伝わって来ていた。
「……わかったわ」
ヨハンの横顔を見ながらスッとカレンはハルマン少将とその場から少し離れる。
「ニーナ、ごめん。危険かもしれないけど一緒に来てくれる?」
「やるの?」
「わからない。けど、あの雰囲気じゃその可能性がある」
「あたしは別にいいよ。お兄ちゃんに頼りにされているってことだもんね」
ニカッとニーナははにかんだのだが、果たしてそれでいいのかと迷ってしまうのは、ジェイドが放つ明らかな殺気。近付けばそれだけで襲い掛かられる危険性が十分に感じられた。
「(……シンさん)」
ジェイドのすぐ近くで岩に腰掛けているシンとその横に立つローズを見るのだが、目を合わせるシンとローズの顔付きは真剣そのもの。普段話す気さくな様子の一切が見られない。ジェイドを挟んだ反対側。斧を背負う巨漢の男、バルトラも異様な気配を放っている。
「じゃあカレンさん。少し待っていてください」
「……気を付けてね」
「はい」
笑顔をカレンに送り、ジェイドたちペガサスに向けて歩を進める。
「こんにちは。ジェイドさん」
一歩一歩、ジェイドから視線を外すことなくゆっくりと近付くのだが、不意討ちを受けるということはなく声が掛かるところまで近付けた。
「ほぅ。拙者の気を感じながらよくこれだけ近付けたものだ。鈍感というわけでもなさそうだし。なるほど。ここまで二人だけで来れるというのも納得だな」
二人だけ。多くの兵たちに取り囲まれながらもカレンをここまで連れて来たその強さを素直に称えられる。
「すいません、ジェイドさん。うしろ、通してもらえるわけにはいかないですか?」
背後に見える天幕。あそこまでカレンを連れてルーシュに対面させることが目的。
「通すと思っているのか?」
「ですよね」
これだけ強烈な殺気を放っているのだからヤル気は満々。簡単に通してもらえるとは思えない。
「(どうしよう。これは相当厄介だよなぁ)」
強引に突破、普通に戦って勝てるような相手ではない。シン一人とってもあの実力。それが四人。確実に天幕に辿り着くためにヨハンに残されている道は交渉しかなかった。
「どうすれば通してもらえますか?」
「どうあっても通さない」
「……そうですか」
返って来る答えに強い意志を感じる。
チラリと見るシンとローズはジェイドの様な殺気を放っているわけではないのだが、それでもいつもの調子ではなく真剣そのもの。
「ねぇお兄ちゃん。どうしてあの人たちあたし達を力づくで抑え込まないんだろう?」
「まぁたぶんその必要がないからだろうね」
不意に疑問を呈して来るニーナ。既にニーナも臨戦態勢。ジェイドの殺気を受けていつでも応戦できるよう心構えは十分。
「(あれ?)」
ニーナの質問で現状を改めて考えてみるとおかしな点がいくつか浮かび上がって来た。
「(シンさんとローズさんがいるんだからニーナはまだしも僕はある程度知られているよね?)」
戦力が割れていることの不安。通常、相手の手の内がわからない間は探り合いをすることもある。可能性としては、ニーナの実力がわからないからジェイド達が踏み込めずにいるのかと考えたのだが、すぐにそうではないと否定した。
「(あの人たちなら全員で来られればいくらなんでもニーナと二人だけでは太刀打ちできない。そもそももしかしたら逃げることすらできないかもしれない)」
正直実力差がどれぐらいあるのだろうかという興味が僅かに湧くのだが、今はその考えをそっと片隅に置いておく。
「(だとすると、あの人たちにはカレンさんを捕らえる必要がないっていうこと?)」
実力行使に及ぶ必要がないということが示すのはどういうことなのか。反逆者に仕立て上げられたカレンを捕らえるのであればとっくにしているはず。実際ここに来るまでの兵士達はそうしようとしていた。
「(子どもだからって侮られている感じもしないし…………。でも通してもらえないんだよね)」
最低限なりふり構わないということではない。強引に取り押さえられずに、ただただ道を塞がれているだけ。
一体どういうことなのだろうかと思考を巡らせる。
「…………あの?」
「なんだ?」
状況を考えてみても結局答えは見つからなかった。
「どうしてジェイドさんはカレンさんを捕まえないのですか?」
わからないことは質問するしかない。
「……必要ないからだ」
「どうして必要ないのですか? カレンさん、反逆者なんですよね?」
「必要ないものは必要ない」
取り付く島もなかった。
「(もしかして、カレンさんが狙いじゃない?)」
自分達であればいつでも捕まえられる余裕という意味なのだろうかと考えるのだが、どうにもそういうことではないらしい。ジェイドから放たれている殺気はカレンではなくヨハン達に向けられている。
「(一体どういうことなんだろう?)」
答えが見つからないこの状況では先に進めない。しかし、このまま引き下がることもできない。
「……通りたければ、拙者を倒していくことだな」
再び思考を巡らせようとした途端、ジェイドは口を開くのと同時に地面に突き刺していた槍を引き抜くと両手に持ち、ヨハンに向けて構えた。
「プッ!」
途端にシンは吹き出し、すかさずローズがシンの後頭部をヨハン達に見えないように後ろ手に持つ杖で叩く。
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