S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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禊の対価

第二百九十二話 微精霊使い

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自身とニーナを護るために展開されたカレンの魔法障壁。

「くっ!」

眼前に迫る二種類、赤と青の二色の魔力弾はローズの魔法。
時折ガゴンッと音を立てて障壁に衝突するとピシッとヒビが入り、その度にカレンはヒビへ向けて魔力を送り込み障壁を修復していた。

「このまま防戦一方でいいの?」

問い掛けるセレティアナ。

「し、仕方ないじゃない」

ローズから繰り出される魔法の手数の多さ。一発一発の威力もさることながら、障壁を解除してローズに攻撃を加える隙を与えない程の断続性。

「それにしても、まさかローズさんも精霊術士だったなんてね」

ローズを取り囲んでいる二色の光の粒子。青と赤。ローズの魔力に反応して可視化する程に微精霊が飛び交っていた。

「うーん。かなり頑丈ね。これは厄介だわ」

現状防戦一方のカレンに対して波状攻撃を加えるローズの魔法である構図。

「でも時間稼ぎをしたところで無駄なのはわかっているでしょうに」

チラリと視線を向けるのはジェイドとバルトラへ。いくらヨハンが潜在能力抜群の逸材だったとしても順当に行けば二人が負けるはずがないという見解を抱いている。
時間稼ぎをしている意図。一対二の自分達に対してジェイド達は二対一。人数比率は真逆なのだが、だからといって自分も易々と倒されるつもりはない。

「負けてもいいのだけど、そうなるとバルトラが相当に怒るでしょうしね」

大きく溜め息を吐いた。

「ほんと私達のパーティーって個性的だわ」

自由人のシン。生真面目なジェイド。頑固者のバルトラ。まともなのは自分一人と思えてくる。対して、戦力的なバランスは相当に良いというのは、S級まで上り詰めたことからしても自覚はあった。

「カレン様には悪いけど、私達にできることはないの」

負けることを許さないバルトラと依頼に忠実なジェイドのこと。今後のことも考えると任務に入ったローズも容赦はできない。

「……にしても、やっぱり妙よね」

違和感を覚えるのは微精霊の反応。問題なく魔法を行使出来ているのでそれは構わないのだが、微かに伝わる微精霊の振動。

「あの精霊に反応しているわねやっぱり」

障壁の中のセレティアナに目を送り、そこでふとセレティアナと目が合った。

「…………まさか、ね」

微精霊が反応する可能性に思い当たることがないこともない。しかし、いくらなんでもソレがこんなところに存在するなどとはとても思えない。

「――……お待たせ。カレンさん」

ゆっくりと目を開けるニーナ。

「遅いわよ!」
「勝つんだよね?」

ニヤッと笑いかけるニーナに対してカレンは小さく息を吐く。

「当り前じゃない!」

キッと目つき鋭くさせてローズを見た。

「ここまで好き勝手にされたけど、反撃よ」

目が合うニーナと軽く頷き合う。

「じゃあ、いくわよ」
「うん!」

とはいえ、まずは目の前の状況を突破しなければならない。
カレンは両手を伸ばして、障壁に送る魔力を解くタイミングを計った。断続的に放たれるローズの魔法なのだが、規則性がある。カレンにはそれが感じられた。同じ精霊術士として。

「いち……に……いち…………に……いち……――」

僅かの隙間。

「――……に……いち……に……いち、今よッ!」
「りょーかい!」

呼吸を合わせてニーナに声を掛ける。

「えっ?」

カレン達を取り囲んでいた魔法障壁がパンッと破裂すると同時に前方へ飛び出したのはニーナ。

「ティア!」
「あいあいー」

すぐさまセレティアナに魔力を送り込んで獅子の姿に変化させると、セレティアナはカレンのローブを咥えてその場を飛び退いた。

「はっ!」

ニーナは眼前に迫る魔力弾の一つを大きく蹴り上げて外に弾き飛ばす。

「なっ!?」

その他の魔力弾はカレン達が飛び退いた後にドンドンと音を立てて着弾した。
突然の突破にローズは思わず目を見開き、それに対処しようと杖を構えたのだが、ニーナの踏み込みの方が速い。

「くっ!」

ここまで到達されてしまった以上その拳を受けてしまうことは諦めたのだが、それでもただでは喰らわない。

「ぐっ!」

ニーナの拳を喰らって後方に弾き飛ばされるのだが、吹き飛びながらローズはニヤリと口角を上げる。

「つぅうううう」

ローズを殴りつけた拳を反対の手で押さえるニーナ。ヒヤリとした感触が拳を覆っていた。その拳はパキパキッと凍りついている。

「つ、つめたあああぁっ!」

殴られる刹那の瞬間ローズはニーナの拳を凍らせることでダメージの軽減を図っていた。

「頑丈な身体ね。ほんとなら砕け散ってもおかしくなかったのに」

クルっと空中で体勢を立て直してニーナの拳が原形を保っていることを確認して感心しながら目を左側に向ける。

「ティア!」
「ちっ!」

獅子に変化したセレティアナがローズに向けてガパッと口を大きく開けていた。
急いで魔力を練り上げながら杖をカレンに向ける。

氷吹雪ブリザード
「ガアアアッ!」

セレティアナの口から放たれる業火と同じくして咲き乱れる氷の嵐。
二人の中間地点でドカンと大きな爆発を起こした。

「ふぅ、ふぅ」

グッと拳に力を込めると、拳を覆っていた氷がパキンと割れ、ニーナは息を吹きかける。

「よ、よくもやったわねっ!」

横を向いているローズに対して再び踏み込んでいった。

「はっ!」

ローズは杖を持っていない反対側の手をニーナに向けて振るう。
赤い粒子がニーナに向けてふよふよと静かに飛んでいった。

「なにこれ?」

微かに光っている粒子がどういうものなのか理解できずにそのまま真っ直ぐに突進したのだが、ソレがニーナの身体にピタッと触れた途端ボンっと破裂する。

「ぐっ!」

立て続けに赤い光がニーナの身体にピタピタと張り付くと同じようにしてボンボンと爆発した。

「きゃあっ」

威力は低いのだが数が多い。

「ぐっ、くうっ!」

身体のあちこちに焦げ跡を残すニーナ。勢いを削がれ、その場に立ちすくむ。

「ニーナっ!」

シュッと獅子のセレティアナの咆哮が止まり、カレンは慌ててニーナに向けて駆け寄った。

「大丈夫!?」
「い、いやぁ、ちょっと大丈夫じゃないかも。コレかなり痛いね」
「それだけ言えたら十分よ。すぐに回復させるわ」

苦笑いするニーナの身体にそっと手の平を当て、白い光を灯していくと焦げ跡がスッと消えて始めていく。

「……はぁ……はぁ。や、やるじゃない二人とも」

息を切らせているローズもまた魔力を大きく消耗していた。

「今のは危なかったわ」
「よく言うわね。こっちの攻撃はほとんど防がれて、そっちはニーナの最初の一撃しか受けてないじゃない」
「そりゃあ経験値が違うわよあなた達とは。それに……――」

ローズがゆっくりと杖をカレンとニーナに向ける。

「――……また最初に戻ったわね。ほらっ。大人しく障壁を張りなさい。待っていてあげるわよ」

杖の先端をポゥっと光らせた。

「そっちはあなた達かヨハンくんのどちらかが勝てれば良かったみたいだけど、こっちもあっちも私達の勝ちね」
「えっ?」

首を回して遠くを見るローズに釣られてカレンもその方角を見る。そこはヨハンが戦っている方角。

「アレは……?」

黒々とした雷雲が上空に立ち込めており、パリパリと稲光を放っている。
その下には左肩を押さえながら、ボタボタとかなりの量の血を流しているヨハンの姿があった。

「ヨハンッ!?」

カレンの悲痛な叫び声がその場に響く。
雷雲。上空から一筋の雷がヨハンに向かって落ちていった。

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