S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
330 / 724
帝都武闘大会編

第三百二十九話 閑話 いつかの軌跡(後編)

しおりを挟む

「は~ぁ、楽しかった。それで? 一体どうしてスフィンクスがここにいるの?」

目尻の涙を指で拭いながらクーナはあっけらかんと問い掛ける。

「いやその話をしようとしていたんじゃねぇかよ!」
「あー、そうだったわね」

ポンと軽く手を叩いた。

「……ちょっと待ってね」

コホンと軽く咳ばらいをしたクーナは背筋を伸ばして座る。

「?」

突然の様子の変化に一体どうしたのかとアトムは疑問符を浮かべた。

「よしっ!」

意を決したように声を発する。
真剣な鋭い眼差しでアトム達全員に目を送った。

「それで? かつてエルフの里を救って頂いた英雄であるスフィンクスの皆様がここに再びいらっしゃったということは、何か重大なご用件かと推測致しますが?」
「遅えよ! 今更何を取り繕ってやがんだッ!」

わざわざ里長としての態度を取り繕うことに思わず声を荒げた。

「えー。今は里長だからせっかくだし里長らしくしているんじゃない。これでも対外的には上手くやってるわよ? 周りからはクーナ変わったねってよく言われるんだから」

不満気に声を漏らす。

「じゃあ何で最初からそれをしねぇんだよ!?」
「最初はしていたじゃない!?」
「最初だけな!」
「むぅぅっ。だって、久しぶりに皆に会ったら嬉しくなっちゃったから仕方ないじゃない。それに皆に体裁を取り繕っても仕方ないでしょ?」
「ちっ、ほんと変わんねぇな。クーナはいつまでもクーナだな」
「嬉しい。ありが――」

身を乗り出して両手を広げるクーナ。
途端にパチンッと破裂音が鳴った。

「ひっ!」

アトムとクーナの眼前に稲光が通り過ぎる。

「それ以上はダメよ? クーちゃん」
「え、エリザちゃん?」

頬を引き攣らせたクーナの視線の先には満面の笑みを浮かべているエリザ。

「ごめんなさいね。私はシルビアさんと違って電撃の微妙なコントロールが出来ないの。だから間違って感電死させたらいけないので先に謝っておくわね」
「う、ウソよウソ! も、もうエリザちゃんは冗談が通じないわねぇ」

元の席に座り直すクーナは俯き加減にエリザを見た。

(あっぶなー。そういえばアトムに下心を持って身体的接触を試みるとこうなるんだった。っていうか今の電撃、絶妙な位置にコントロールしていたじゃないの!)

言葉と行動の齟齬の違和感を正確に汲み取る。

「ほれ、もうこの辺でいいか? いい加減に本題に入らんと時間がいくらあっても足らんわ」

丁度良い頃合いを見計らってガルドフが声を掛けた。

「そういえばラウルとロー君はなんでいないの?」

クーナが口にするラウルとロー君。
それはもちろん剣聖ラウル・エルネライとローファス・スカーレット現シグラム王国国王のこと。当時スフィンクスと行動を共にしていた二人。

「それが、儂たちがここに来た理由じゃ」
「どういうこと? ガルドフさん」

疑問符を浮かべて首を傾げるクーナにガルドフ達はエルフの里長クーナに、ここエルフの里を訪ねた理由を話して聞かせることになる。


「―――というわけなのじゃ」

一通りの話を聞いたクーナの顔付きは真剣そのもの。冗談の一切の介入の余地を許さない。

「………それは本当の話なの?」
「事実かどうかはわからぬ。儂らはそれを確認するために行動しておる。もちろん、ここにおらぬラウルにしても事情を説明して協力を仰ぐつもりじゃ」
「アイツなら間違いなく俺達に手を貸してくれるさ」
「それはそうだと思うけど……――」

何かを考え込むクーナはガルドフ達から聞いた話を頭の中で整理していた。
そのまま再び口を開く。

「――……そっか、そういうことだったのね。世界樹の光が落ちて来た理由にも納得がいったわ。それで、私は何をすればいいの?」
「クーちゃんも私達に手を貸して。ジェニファーの為にも」
「私はそのロー君の相手を知らないけど、しょうがないわね」
「ありがとう助かるわ」
「………でもそうね。じゃあせっかくだからこっちからもお願いしたいことがあるの」

薄く笑みを浮かべるクーナ。

「なんじゃそのお願いとは?」
「ガルドフさんが学校の校長でロー君が王様でしょ? それでエリザちゃんとアトムの子が通っているのよね? だったら面倒を見て欲しい子がいるの」
「どういうことじゃ?」
「ちょっと待ってて。すぐ連れて来るから」

すくっと立ち上がるクーナはすぐさま部屋を出て行った。

「誰を呼びに行ったのかしら?」
「さぁ?」

しばらくすると、クーナは若いエルフの男女を連れて来る。

「紹介しますね。こっちの女の子がナナシーといいまして、こっちの男の子がサイバルといいますの」

先程までの気楽な様子を見せないクーナは里長としての装いを見せていた。

「は、はじめまして」

ナナシーとサイバル。
かつてヨハン達をエルフの里に案内した少女である。偶然この時里帰りをしていた。

(ど、どういうこと?)

突然里長に呼び出されたナナシーとサイバルは目の前に人間がいることに理解が及ばない。お互いに目を合わせるが、どちらもその人間に見覚えがなくサイバルも困惑して小さく首を振る。

「あ、あの? 里長? こちらの方達は? 見たところ人間の方のようですが?」

ニコニコしている里長を不気味に感じながらも、ナナシーは我慢できずに問い掛けた。

「こちらの方たちは、冒険者パーティースフィンクスの方達です」
「えっ!? じゃあこの中にヨハンのお父さんとお母さんがいるんですか?」
「ええ、こちらのお二人がそうですよ。紹介しますね。アトムさんとエリザさんです。それと、こちらの方がガルドフさんで、こちらの女性がシルビアさんといいます」

アトムとエリザがクーナの態度に寒気を覚えるのだが、おかまいなしにその態度を貫く。

(へぇ。この人達が……)
(あのスフィンクスか)

突然紹介された人物達をジッと見た。
ナナシーとサイバル、共に物心つく前の出来事。里の他の子ども達と同じように聞かされてきた人間の中でも信に足る人物なのだと。
元々ナナシーが人間に興味を持ち始めることになった最初の話。それが今目の前に実際にいることにどこか感動に似たような感覚を得る。

同時に妙な縁も感じていた。
もう一年も前のことなのだが、つい最近のことのように思い出せるその出会い。ヨハンだけに限らず初めて出来た人間の友達とのその繋がり。

「つまりこの子がローファスの言っていたヨハン達を助けたエルフの女の子ってことだな?」
「ええ、そしてそれは同時にローファスの娘を助けた子、ということにもなりますね」
「つまりこの子を行かせるわけじゃな?」
「はい、お願いできますか?」
「任せておけ。少し時間をもらう」

しかし何の説明もされぬまま話が進んでいく。

「えっ? えっ? 行くってどこに?」

突然の話。何が起きているのかとナナシーはきょろきょろと困惑して周りにいる人物達を何度も見るのだが、未だに説明はない。
何か自分の知らないところで話がトントン拍子に進んでしまっているのではないかと。どこか焦りを感じた。

(これは何か嫌な予感がする)

サイバルはこの後自身に降りかかる事態に腹を括る。どうにも良い予感の一切がしない。

「あの、里長? 私、どこかに連れて行かれるのですか?」

いい加減我慢できずにナナシーが問い掛ける。

「ええ。あなたとサイバルは私と一緒に王都に行ってもらうわ」
「えっ!?」

額に手を送るサイバルとは対照的にキラキラと目を輝かせるナナシー。思わず飛び跳ねて喜んだ。

「やった! うそっ!? 嘘じゃないですよね!?」
「ええ。向こうでは私とは別行動になりますし、詳しい話はまた後でしますね」
「王都に行けるよ、私! やったよサイバル!」

明らかにげんなりしているサイバルの手を取って無邪気な子供の様にぴょんぴょん跳ねるナナシー。

「ただし、遊びにいくわけではありません。あくまでも人間の世界を知る勉強の一環と思いなさい。あなた一人だけでは心配なのでお目付け役としてサイバルも一緒に行ってもらうのですから」

クーナの言葉でサイバルも理解する。ナナシーのとばっちりを受けたのだと。

「あっ。でも村長に言いに行かないと……」
「フルエ村の村長には私の方から連絡をしておきますので安心なさい」
「ありがとうございます!」

一連のやりとりを見ているエリザは思わず口をポカンとさせる。

(あれ? クーちゃん意外とまともに里長してるのね)

クーナの思わぬ一面に感心していた。
そうしてヨハンの知らないところでナナシーとサイバルが王都に向かう段取りが整えられることになる。当然それはエレナやモニカにレインも知らないことであった。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

処理中です...