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再会の王都
第三百五十五話 カトレア卿の憤慨
しおりを挟む王宮を出たヨハンとカレンにニーナは歩いて冒険者学校の学生寮まで向かっている。
「あれ?」
その途中。中央区でのこと。多くの人が行き交う中でその中でも一際豪華な屋敷に見知った人物が入っていくように見えた。
「どうかしたの? お兄ちゃん」
「あっ、ううん。なんでもないよ」
「ふぅん」
後ろ姿だったこともあり、はっきりと断言出来ないのですぐに小さく首を振る。
(まさかこんなところにエルフの長がいるわけないよね)
一度しか会っていないので恐らく見間違い。エルフが堂々と王都の中を歩き、それもどう見ても明らかに見た目豪華な貴族屋敷に入っていくなどあり得ない。
(誰の屋敷だろう?)
とはいえ、なんとなく気になる横目に見る豪華な邸宅。普通の貴族家ではないということは容易に見て取れた。
「あーあ、結局アトムさんと話せなかったなあたし」
「あっ、そうだったね。ごめんねニーナ」
「ううん。別に急いでいるわけじゃないからいいよ」
「それにしても一体どうしたんだろう? 父さんが王都に来ているなんて」
ニーナの話によれば、ヨハンの故郷であるイリナ村にいなかった父が今は王都にいる。その疑問が全く解消されていない。
(もしかして、何か起きてる?)
自分達が席を外されたことからしてもラウルに重大な用件があるのだと。学生の身分であるのだから、ローファスとラウル、シグラム王国とカサンド帝国の国家間の重要案件であれば話せないことは当たり前として、そこに父が同席しているのだから。
昔馴染みでの話かもしれないが、どうにも雰囲気から察するにそういった風には見えなかった。
(あの父さんが伝説の冒険者、ねぇ)
改めて再会しても実感が湧かない。疑問を抱きながらも今すぐに答えがでるわけでもない。
そうして学生寮に向かうその途中でカレンに王都の案内を軽くしながら向かう。
「ニーナってほんと食べ物ばっかりね」
「そう?」
綺麗に区画整備された街の説明をするヨハンに対してどこそこの食べ物が美味しいと食のことばかり話すニーナだった。
◇ ◆ ◇
「どういうことですか国王!」
王宮の小さな応接間。
ソファーから立ち上がり、ダンッと怒鳴り声を上げるカールス・カトレア侯爵。正面には難しい顔をしているローファス王。
「そんなに怒鳴るな」
「これで怒るなという方が無理というものです!」
「俺も驚いているのだ。だが話を聞けば納得してしまうものもある」
ラウルから帝国で起きた一連の騒動を聞いていると幾分か理解できることもあった。
結果的にヨハンが帝国から爵位を賜ることとなり、それどころかカレンを婚約者として迎え王都に帰還している。そのことに対してカールス侯爵は憤慨している。
しかしローファスとしても、妹が生まれた時のラウルのことを思い返すと不憫な思いをさせたくないという気持ちもわからなくもない。不遇な境遇に身を置かせるのも忍びない。
「それは帝国の問題でしょうが! 王国の問題はどうするのですか!?」
「いやいや、そもそもお前この間と言っていることが真逆ではないか」
「ぐっ……」
冷静にローファスに返されるカールスは歯噛みした。
「これで晴れてヨハンは王国の貴族にならずに済む。それはお前の本来の望みではなかったのか?」
家を出たエリザの子であるヨハン。血脈でいえば孫なのだが、いまさらどうして孫ですと言えるものだろうか。以前、侯爵家に迎え入れるつもりはないとローファス王に話していた。
「で、ですが、そうなれば帝国に貴重な戦力を持っていかれてしまうことになります! 勝手にSランクまで与える始末ではないですか! 学生がSランクなど前代未聞です!」
「祖父として鼻が高いな」
「冗談を言っている場合ではありません!」
再び勢いよくテーブルを叩く。
通常、学生の身分で規格外の力を発揮したとしてもB級が最上位。それも学生の内に相当な功績を残した場合に限っていた。
「ならお前はどうしたいのだ? 確かにS級はやり過ぎだとは思うが逆なら俺も同じことをしていたかもしれない。それに、俺の立場としてはこれはこれでヨハンがカサンドとの貴重な架け橋にもなり得ると思っているのだが? まさか王国の貴族が皇族との婚姻などというものはそうそうできるものでもない」
ジッとカールスを見つめるローファス。
「…………」
「どうだ?」
「…………――」
何か良い打開策はないかとカールスはしばし考え込んだ。そうしてゆっくりと口を開く。
「――……そうですな…………では、こういうのは如何でしょうか? こちらからは出せる物も限られますが、ヨハンには以前の礼、飛竜討伐の褒美として中央区の屋敷を進呈するということで」
「ふむ」
「それにはもちろん我が家の屋敷、空き家ではありますがそれを提供しましょう。ヨハンも王国を救った英雄には変わりありません。屋敷の一つや二つを提供することに問題もありません」
「で、その口実は? 学生だから寝泊まりは基本的に寮になる。使わない屋敷を今すぐ提供する理由もない」
カールス侯爵の言わんとしていることは理解している。ヨハンの住居を王国に持たせようとするものなのだと。しかし褒美であれば金銭などの方が喜ばれるし、それが通常。
「それは、皇女をいつまでも王宮の客間に泊まらせるなどというわけにはいきませぬ。街の宿など以ての外です。落ち着いた住まいを提供して正式な来賓として扱うのが筋かと」
「なるほどな。それで? その後のことは?」
「それは追々考えます。とにかく今はヨハンを帝国に取られないようにする方が先決です。確たる住居を王都に据えることが先かと」
カールス侯爵の提案を受けたローファスは僅かに考え込む。
「……そうか。わかった。お前がそうしたいならそれで良い」
「ありがとうございます。では早速手配してきます。もちろん国王の命令ということで」
「ああ。それぐらい構わん」
軽く頭を下げてカールスは部屋を出て行った。
◇ ◆ ◇
もう間もなく学生寮に着くという頃、ヨハンを知る者がちらほらと出始めている。
「お、おい、あいつ!」
「ああ。帰って来たのか」
ひそひそと話していた。
「隣にいるのは誰だ?」
「桃色の髪の子は確か一学年の子だったと思うけど……」
ニーナのことを見知っている学生もいる中、視線はカレンに集中している。
「やばい、めっちゃ綺麗だ」
「誰なんだろうな?」
「さぁ。見たことないなあんな綺麗な人」
視線が集中しているカレンが学生達に向けてニコリを笑いかけた。
「やっぱり学生が多いのね」
「そうですね。僕たちは普段寮で生活していますから」
「……そう。だったらわたしはどうしようかしら?」
まだ王都に着いたばかり。宿も決まっていない。
「ラウルさんは何て言っているんですか?」
「ヨハンの婚約者として当分は王都にいろってさ。さっきの話の内容次第なのだろうけど」
カレン一人でどこかに行くつもりもない。当分は王都を満喫するつもり。
「ここです」
「へぇ。結構大きいのね」
冒険者学校の学生寮。およそ半年ぶりに戻って来るその寮を目の前にすると懐かしい気分にもなる。
(帰って来たんだ)
レイン達はどこにいるのだろうかと思いながら寮の敷地内に入っていき、周囲を見渡しながら変わらないその景色にどこか安心感を抱く。
「えっ!?」
遠くからヨハンを視界に捉えるのは、寮の玄関から丁度外に出ようとしている艶のある黒髪を肩ほどまで伸ばした少女。ヨハンの姿を見つけるや否や驚愕に目を見開いた。
そのまま真っ直ぐヨハン目掛けて走り出す。
「おかえり! ヨハン君!」
「さ、サナ!?」
ドンっと衝撃を受けながら飛び込んで来る少女を抱き留めた。
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