S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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碧の邂逅

第 四百十一話 閑話 サナ達への依頼⑤

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「これでいいんだよな!」

岩の上から堂々と誇らしげに声を放つキッド。

「うん、それでいいよ! ちょっと待っててね」
「え?」

キッドが疑問符を浮かべる中、サナはヒョイヒョイと軽快に岩を駆け上がっていく。

「すっげ……」

思わず漏れ出る感嘆の声。あれだけ苦労してよじ登った岩をものの数秒で登って来たのだから。

「ふっふーん、どう見直した?」
「うん。姉ちゃん意外とやるんだな。すげえのは乳だけだと思ってた」

直後に響き渡るゴンという鈍い音。
頭頂部を押さえながらキッドはしゃがみ込む。目は涙目。

「痛ってぇな! なにすんだよ!」
「それだけ言える元気があれば大丈夫ね。それとももう一回くらう?」
「い、いや……――」

ニコニコとしているサナに対してキッドは表情を引き攣らせた。

「――……って、いててっ。そういや体中傷だらけだ……」
「バカなことを言っているからよ。ほら、ぐずぐずしていないで早く行くわよ」
「どこに?」
「もちろんその花を加工してくれるところ!」

サナはそう言ってテキパキと他にいくつかの月光草を摘むと、キッドを脇に抱えてその岩場から飛び降りる。

「わわわっ!」

スタンと華麗に着地した。

「ナナシー、この子の傷治してもらってもいい?」
「ええ。深緑の恵み」

途端にキッドを包む仄かに光る柔らかな蔦。
そうしてナナシーにより素早く治癒魔法が施される。体中にあった無数の痣や擦り傷は即座に消えて無くなった。

「こっちの姉ちゃんもすげえのな。俺、どの魔法もあんまり使えないからさ」
「ふふふっ」
「さて、じゃあいこっか」

そうしてすぐさま王都へ帰還して真っ直ぐにグスタボの工房を目指す。

「そういえばサナ。そのグスタボという人に何を頼んだのだ?」
「えへへっ、それは出来上がりを見てのお楽しみってことで」

ユーリが疑問符を浮かべる中、王都に着いた。
夜も深まり、それでも街の中は賑やかな様相を呈しているのは飲食店。倉庫や作業所などの専門業者関係の大半は閉まっている。

「おっ、そろそろ帰って来る頃だと思ってたぞ」

しかしグスタボの工房は窓から明かりが漏れていた。

「すいません、お待たせしました」
「いや構わん。月光草はすぐに加工しないといけないからな」

抜いた直後から魔力が漏れ出し始めている。
枯れる前に魔力回路を繋いで花の輝きを維持できるようにしなければならない。

「それでそっちの子がキッド君だな?」
「えっ!? 姉ちゃんもしかして話したのか!?」
「仕方ないじゃない。手伝ってもらうのだからそれぐらい我慢して」
「で、でも……」
「料金もタダなの」
「……うぅぅぅ」

手持ちのないキッドはそう言われては何も言い返せない。

「時間かかりそうだから中を見せてもらっても?」
「かまわんが?」

工房に並ぶ家具に目を輝かせているナナシー。その様子にサイバルが溜め息をつく。

「そんなに嬉しいものか?」
「彼女、田舎の生まれだから」

苦笑いしながら見送るナナシーの背中。
ナナシーは初めて訪れたグスタボの工房の中に所狭しと並んでいる様々な形の家具、家の中で使用する魔灯石を用いたその照明器具や調理器具、食器棚や装飾品など多岐に渡る物を見て感嘆の息を漏らしていた。

後日、その中のいくつかがヨハンの屋敷に並べられ、ナナシーはお得意様となる。
余りにも無駄遣いすることからイルマニとネネによって怒られる始末だった。

―――そして一時間後。

「できたぞ!」

無事月光草の魔力回路を繋ぎ合わせることに成功する。

「わっ! 見せて下さい!」

トンと机の上に置く月光草。
そうしてグスタボは部屋の灯りを消した。

「すげぇ」

真っ暗な部屋の中で輝く月光草の灯りは綺麗なもの。

「へぇ。なるほど。これなら良いプレゼントになりそうだな」
「甘いわねユーリ。これだけじゃないわ」
「どういうことだ?」

これだけでも贈り物としては十分ではないかと思うのだが、サナの意図はまた違う。
ただ月光草を贈っただけではつまらない。

「それはまた明日。今日のところはここまで。じゃあグスタボさん、お願いします」
「ああ。任せておけ。明日持って行こう。確かシャロンだったな」
「はい」
「ん? シャロンって確か……」

思い当たるその店の名前は元々翌日とある人達との待ち合わせ場所。

「ユーリ」

シッと唇に指を一本持っていくサナ。

「キッドくん、そういうわけで明日そのシャロンってお店に来てくれる?」
「ここじゃないのか?」
「ええ。あんまり仕事の邪魔したら申し訳ないから。今は夜だからまだいいけどそれでもグスタボさんに迷惑を掛けているのよ?」
「ふぅん。わかった。しょうがねぇな」
「ええ」

月光草を採って来られたことによる満足感でキッドは満たされていたのだがふと疑問が浮かぶ。

「あっ、でも俺、ローラに会いにいく方法がないや」

そこで中央区に入る方法がないことを思い出した。

「それも明日教えてあげるわ」
「え? 今教えてくれよ!」
「だーめ」
「ちぇっ。まぁいいや。じゃあまた明日な! 俺そろそろ帰らねぇと!」

そうしてキッドは足早に帰っていく。


「――……ねぇサナ?」
「ん?」

サナ達も工房を後にして帰路に着いていた。

「どうして彼に教えてあげないの? 明日そのシャロンにローラちゃんが来るってことを」

首を傾けながら問い掛けるナナシー。
実は先日メイリエル子爵家に足を運び、事情を話してローラにシャロンへ足を運んでもらえないかとお願いしている。
突然の話なので大いに驚かれたのだがキッドの名前を出したことで疑問に思われながらも了承されていた。

「だって言えばキッドくんきっと色々考えちゃうと思うから」
「そりゃあそうでしょう」
「こういう時は本音をぶつける方が良いのよ」

ニコリと笑みを浮かべる。

「結果がどうなったとしてもね」
「……ふぅん。そういうものなの?」
「そういうものなのよ」

変に改まる方が良くないだろうとサナは考えていた。

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