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碧の邂逅
第 四百十二話 閑話 サナ達への依頼⑥
しおりを挟む「あっ、どうだったサナ?」
学生寮に帰ったところでヨハンに声を掛けられる。
「うん、今日のところは上手くいったけど、明日が本番だから」
「そっか。明日ローラって子に会うんだよね」
「ローラちゃんの気が変わってなかったらいいけど」
キッドやナナシーにああは言ったものの、上手くいかなかった場合どうしようかと今更ながらに不安が過った。
「大丈夫だよ。本当に強い思いは時間が経ってもちゃんと繋がってるから」
自信を失いかけていたところで不意に笑顔のまま言葉にされる。
「……かっこいい」
思わずその顔に見惚れてしまっていた。
「えっ?」
「う、ううん、なんでもないよ。じゃあ約束通り明日またどうなったか教えるから屋敷にいてね!」
「いや、別に無理に教えてくれなくっても」
「いいから約束だからね!」
「まぁ、うん」
そうして翌日。
自信を胸に抱き、王都中央区にある高級菓子店に来ていた。
それぞれ普段よりも綺麗な衣装に身を包んでいる。
「確かサナといったな。覚えているぞ」
「ありがとうございます」
じっくりとサナを見る目の前に座るローラの父、ヘンリー・メイリエル子爵。
「少し大きくなったか?」
胸元に視線を向けるヘンリー。以前見た時よりも大きさが増していた。
「あはは」
愛想笑いはもう慣れたもの。それぐらいこれから何度でも訪れる羞恥。余裕で耐えられる。
「それより、本日は急にお呼び立てして申し訳ありません」
「いや、構わぬ。ただし今回限りだがな」
「はい」
用件は予め伝えてあった。キッドが面会をしたいという。
「ふむ。それともう一つ、初めて見る顔もいるな」
ヘンリーが記憶している限り、以前とはメンバー構成が変わっていた。
「はじめまして」
軽く頭を下げるナナシーとサイバル。
「まぁそういうこともあるな。余計な詮索だった」
「いえ、大丈夫です」
ヘンリー子爵との挨拶をそこそこにサナはヘンリーの隣に座る幼女を見る。
「ローラちゃん、久しぶり」
「その節はお世話になりました」
「違うよ? 私達がローラちゃんのお父様のお仕事から勉強させてもらったのよ」
そこでカランと鐘の音が鳴り、ユーリとキッドが店に入って来た。
「お、お久しぶりですヘンリーおじさん」
「キッドか。久しぶりだな」
正装をしたキッドは緊張から身体をカチコチにさせている。
先日軽はずみに返事をしたのだが、まさかこのような店に来るとは思ってもみなかった。
「ふむ。彼らに見立ててもらったのだな?」
「は、はい」
ぎこちない返事を返すキッドをローラは不安気に見ている。
「そ、それでヘンリーおじさん」
「お前も大変なのはわかる。だがお前の世話はあの時をもって終わりだと伝えたはずだが?」
「あっ……――」
勇気を振り絞って思いを口にしようとした矢先、出鼻を挫かれた。
「――……っぅ」
続けて口にする言葉を持ち合わせていない。
「どうしてオレ達に話していたように話さない?」
その様子を訝し気に見るサイバル。
「多少の身の程は弁えているようだな」
溜息を吐くヘンリー子爵。
「まぁいい。それで、ローラに用件があるということだったな?」
「…………」
「どうした? 何か言わなければわからないではないか」
サナに向け助けを求めるような視線を向けるキッド。
だがサナは何も言わない。キッド自身の言葉がここでは必要になる。
(大丈夫よキッドくん。正直に話せば伝わるはずよ)
グスタボに依頼した品はまだ手元にない。むしろ物で釣るようなことを今はするべきではない。
「昨日泣いてまで頑張ったのに?」
ナナシーが疑問符を浮かべた。
あれほどまでに必死になって月光草を手に入れていた面影はどこにもない。
「え?」
小さく声を漏らすローラ。
「キッドが泣いた!?」
そのまま思わず口許に手を送る。
「泣かないのこの子?」
「えっ? あっ、はい。わたしが知る限りでは、その、キッドのご両親が亡くなったその日しか…………」
泣いている姿を見たことはない。次の日には塞ぎ込んではいたものの涙を流すことなどなかった。
「どうしてキッド?」
「…………」
問い掛けに対してキッドは思わず顔を逸らす。
その様子を見て再び溜め息を吐くヘンリー子爵。
「話にならんな。帰るぞローラ」
ガタンと立ち上がり、ローラの腕を引く。
「で、でも」
困惑した表情のままヘンリーとローラは店の入り口に向かって歩いて行った。
「……いいの?」
そっと小さく問いかけるサナ。対してキッドはグッと奥歯を噛み締める。
「ま、待ってください!」
大きな声が店内に響き、多くの視線を集めた。
「お、おれは、い、いえ、ぼ、僕はローラにお礼がしたかったんです!」
「お礼、だと?」
店の入り口でピタと足を止めるヘンリーは振り返る。
「僕は」
「ちょっと待て。周りの迷惑だ。話す気があるなら聞こう。そのために来たのだからな」
再び席に向かうヘンリー。周りに向けて笑顔で頭を下げていた。
「さて、続きを聞こうか」
射抜くような眼差しをキッドに向けるヘンリー。その様子を見ながらローラは不安が拭えない。
「ぼ、僕は、あの時自分のことで頭がいっぱいでした」
「それは仕方ない。だからお前が落ち着くまで我が家で面倒を見ていたのだ。お前の親への義理もあったことだしな」
落ち着いた頃を見計らって特別保護地区に移る手続きをされている。
想定していたよりも早くに元気を取り戻したとは思っていたのだがそれはローラのおかげ。寄り添っていたからこそ得られた結果。
「それで、それがどうした?」
「はい。僕が大変な時にローラさんにはとてもお世話になりました。でも、結局僕は何も挨拶ができないまま、お礼の一言も言わないままだったので…………」
そこで口籠った。
「つまり、今更ではあるがその時のお礼がしたいということだな?」
「……はい」
しかしそれだけではない。月光草を用いた返礼品があるはずなのだが未だに手元にはない。
「わかった。しかしあの時のことは気に病むな。お前が元気に生きて行けば親もいくらかは報われよう」
これからは道が違うのだと言わんばかりに突き放すような一言。
「お客様、困ります!」
「大丈夫だ。すぐに帰る」
店を出入りするカランという鐘の音が響いた後に聞こえる声。
「おっ、おったおった!」
手を振りサナ達の席に向けて歩いて来る男。まるで店の内装に似つかわしくない格好。
「ほれ、約束の品ができたぞ」
「グスタボさん。ナイスタイミング!」
ニッと笑みを浮かべるグスタボに同じく笑顔を返すサナ。
「じゃあ約束は果たした。頑張んな」
ゴトッとテーブルの上に箱を置いたグスタボはすぐに店を出て行く。
「誰だあいつは?」
突然店に姿を見せたかと思えばわけもわからない物を置いて行った。
「彼は、私達と一緒でキッドくんの気持ちを伝えるための品を届けてくれたのです」
「キッドの気持ち、だと?」
「こちらです」
箱を開け、蓋を外した先にあったのはガラス玉。
「きれーい」
ローラが感嘆の声を漏らす中、ヘンリーは目を細めてガラス玉の中を凝視する。
「これは、中に入っているのは月光草か?」
「はい」
「そうか、昨日は満月だったな」
しかしそれがどうしたのかと。月光草など珍しい物でもない。
「これは、彼が一人で採った花なのです」
「キッド一人でか?」
「泣きながらな」
「……なるほど、そういうことか」
ようやくヘンリーとローラはキッドが泣いていた理由を理解した。
「わかった。ありがたくこれは頂こう。良いものをもらったなローラ」
「……うん」
そこでサナはキッドに小さく耳打ちしている。
「ねぇキッドくん。あのガラスにね」
「はぁっ!?」
サナの言葉を聞いた途端、キッドは驚きの声を漏らした。
「どうかしたか?」
「い、いえ」
苦笑いして誤魔化すサナ。
「ねぇナナシー」
「もういいの?」
サナは次に小さくナナシーに声を掛けるとナナシーは立ち上がり店員の方に向かって歩いて行く。
「すいません。お客様。少々失礼します」
店内に響く店員の声。それぞれ疑問符を浮かべる中、店員たちは次々と店内のカーテンを閉めていった。
「なんだ?」
途端にぼんやりと薄暗くなる店内。
「皆様、あちらをご覧ください」
店員が腕を伸ばす先はサナ達がいるテーブル。
「今よキッドくん」
「お、おう!」
サナの声に同調するようにしてキッドはガラス玉の下に備え付けられていたボタンを押す。
「えっ!?」
「おおっ!」
「うわぁ!」
店内に響くいくつもの声。そのどれもが感心や感嘆といった声色。
「ど、どういうことだ!?」
周囲をキョロキョロと見回すヘンリー。
店内を桃と黄の二色の光が円を描きながら照らしていた。
ローラも同じようにしたのだが、すぐにガラス玉に目を向ける。
「もしかして、これのおかげ?」
「ええそうよ」
問い掛けにニコリと笑みを浮かべた。
「これは……凄いな。一体こんなものどうやって作った?」
「作ったのはグスタボさんというさっきの方なので作り方まではなんとも」
依頼に違わぬ仕上がり。むしろ予定以上。文句のつけようがない。
「ただ、キッドくんからローラちゃんにプレゼントを送りたいっていうのを聞いて、キッドくんと一緒に何が良いのか考えたのです」
「えっ!?」
その返答にキッドは思わず仰天する。
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