S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
415 / 724
学年末試験 二学年編

第 四百十四話 試験の始まり

しおりを挟む

「さて、これからあなた達に二学年時の学年末試験について説明します」

シェバンニが全体に向けて話すヨハン達二学年の学生が集められた場所は広大な冒険者学校の敷地の中でもこれまで立ち入り禁止だった場所。
鍛錬場と同じような作りではあるが、屋根は半球状に造られた大きな空間、その場所に入ったことはこれまで学生の中には誰一人としていない。

「なんでここに入ったらダメだったの?」
「さあ?」

その観戦席に座りながらヨハンが浮かべる疑問にレインは答えられない。しかしそれは学生達の誰もが同様にして抱く疑問と相違ない。それほどに何もない場所。

「まず、あなたたち二学年の学年末試験は二つのグループに分けさせてもらいます」

二つに分けると聞いても理解できない。疑問に疑問を重ねる。

「二学年に入ってからあなた達の力の差は大きく開きが見られます。これは毎年のことですが、この学年は特にその開きが大きいです」

二学年の中頃から成績と実績に合わせて付けられている順位。その順位に応じて卒業後の進路に大きな差が生まれる。

(僕、何もしてないんだけどなぁ)

その頃ヨハンはカサンド帝国に赴いていた。
王都に帰って来てから後で知ったこと。いつの間にか一位になっている。
エレナ達に言わせれば当然なのだというのだが、果たしてそれで良かったのかと申し訳なさも感じていた。

「分けるグループのことですが、まずはあなた達の中から十五名を選抜します」

冒険者学校の学生は一学年少なくとも二百人程度いる。

「その十五名で選抜試験を行いますので他は観戦しておいてください。今回呼ばれなかった者には別に試験を用意しますのでそのつもりで」

突然のシェバンニの話に誰も付いていけていない。

「ではカレン先生よろしくお願いします」
「はい」

カレンが羊皮紙を広げながら困惑する学生達を見渡した。

「では名前を呼ばれた者は前へ」

凛とした声が響く中、カレンは羊皮紙に視線を落とす。

「チーム1、モニカ、ユーリ、テレーゼ」
「えっ!?」

名前が読み上げられた途端、モニカを始めとした学生達がにわかにざわつき始めた。

「チーム?」
「確かにそう言ったね」

しかしざわついているのはそれだけではない。

「それにヨハンと違うチーム?」

選抜というものだから個別なのだと思っていた学生が大半の中、それはまるで想像していなかった展開。驚きながらもとにかくモニカは立ち上がる。
困惑しながらも前に向かって歩くのだが、同じように名前を呼ばれたユーリと赤髪の少女テレーゼにしても同じ。

「はぁ。そういうことですの」
「そういうことって?」
「聞けばすぐにわかりますわ」

続けて呼ばれる名前を聞いてヨハン達も理解した。

「チーム2、エレナ、サイバル、ロイス」

学生達の動揺などお構いなしに名前を読み上げるカレン。
次に呼ばれたことで溜息を吐きながらすくっと立ち上がるエレナ。

「もしかして、僕たちバラバラになる?」
「ではヨハンさん、試験内容次第ではありますがとりあえずこういうことみたいですので」

ガッカリしながらエレナも歩いていく。

「おいおいおいそういうことかよ」

そこでほとんどの学生達がなんとなくだが状況を理解した。
先の三人は順位も上位であったのでまだ理解できたのだが、エルフであるサイバルが選抜として選ばれている以上、こうなれば誰がどう呼ばれるのか見当もつかない。

「チーム3、カニエス、オルランド、シリカ」

続けて呼ばれたのはヨハン達が普段接点のない三人。互いに困惑しながら前に向かって出る。

「チーム4、ヨハン、ゴンザ、サナ」
「サナと……ゴンザ?」

立ち上がりながら顔を向けるサナは両手を口元に当てているのだが、憮然とした態度を取っているのはゴンザ。

(まさかよりにもよってヨハンとゴンザかよ)

レインは内心で驚きつつも、しかし微妙にそれどころではなくなっていた。焦りが生まれている。
選抜十五名であるならばあと三人で終わり。まさかここに来て自分が呼ばれなければヨハン達と同じパーティーメンバーとして恥ずかしくて仕方がない。それにチラリと視線を送る先にいるのはナナシー。サイバルが呼ばれているのであるならばその可能性は十二分にあった。

(頼む!)

平静を装い、手汗をかきながら握っている手の平。

「チーム5、レイン、ナナシー、マリン」

呼ばれた瞬間に内心で大きくガッツポーズをする。

(ひゃっほう!)

元気よく立ち上がり、ナナシーと目が合った。

「ナナシー! 呼ばれたぜ。ほら行こうぜ!」
「わかってるわよ。それよりもどうしてそんなに嬉しそうなのよレイン」
「んにゃ、そんなことねぇぜ」
「なにそれ?」

ニヤけているレインを笑っているナナシーが二人で歩いて行く。

「あのエルフと同じチーム?」

マリンはナナシーの背中を憎々し気に見ながら二人の後を歩いていた。
そうして名前を呼ばれた全員が前に立つ。

「今回の選抜試験、学内順位で選んだわけではないということはわかりますね?」

そもそもナナシーとサイバルは順位が付けられていない。それどころかマリンに至っては総合成績が三十位程度。エレナはまだしもマリンまで選抜に選ばれている以上何かしらの忖度があるのではないかと考える者もいた。

「理由は試験を見届ければ自ずと理解できるようにしてあるのですが、もし不満がある者がいれば遠慮なくこの場で申し出てください」

確かにいくらかの学生は不満を抱えている。しかしシェバンニからすればそれは予想の範囲内。

「お前いかなくていいのか?」
「去年を思い出せよ。誰が行くかっつの」

ひそひそと話しているのは順位が十五位である学生トール。しかしこの場に出たいと思わない。
呼ばれたのはそのほとんどが成績上位者。仮に同じようにしてその場に行けば比べられるのはその上位者達と。それならばここは不満を押し殺して我慢してでも次に行われるらしい試験に備えればいいと考える。

(はぁ。仕方ありませんね)

本当であれば呼ばれなかった学生にはここで気概の一つでも見せて欲しいと思うのがシェバンニの本音。
例え試験であろうが取り組むことに対しての姿勢や向上心がまるで見当たらない。そこそこでいいのだろうという考え。そんなことでは結果どうしてもそこそこにしかならない。

(他を見て刺激になればいいのですが)

その点、呼び出したのはそれらを持ち合わせていると判断した学生達。

「さて、案の定混乱しているようですね。では改めて説明します。今回の試験は三人一組の団体戦。知っている者もいるとは思いますが、例年二学年は団体戦になっています。しかし今回は見ての通り、普段組むことのないチームで組んで頂きます」
「ハッ! 俺はゴメンだぜ」
「ゴンザ。異論は認めません」

ゴンザの一言をシェバンニが一蹴する。

「チッ!」

憎々し気に一瞥しながら地面に唾を吐いていた。

「不満があるのはわかります。しかし依頼によっては普段組まない、組むことのない仲間とどんな関係を作り、どんな風に連携していくのか、常に周りは見知った間柄だけではありません。即席の応用力も必要になります。そういう意味ではあなた達はその分顔見知りが大半なのですからまだマシなほうですよ」

ゴンザを真っ直ぐ見ながら諭すように話す。

(うーん、視線が)

ヨハンが思わず苦笑いしてしまうのは、ゴンザはシェバンニの顔を見ようともせずヨハンを見ていた。

「それと、これはただの団体戦ではありません」

もう既にただの団体戦ではなくなっているのだが、他に何があるのかと。

「あなた達はこの場所が不思議だったでしょう?」

そこでシェバンニにしては珍しいといっていい程に小さく口角をあげる。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

処理中です...