425 / 724
学年末試験 二学年編
第四百二十四話 心の中に抱くのは
しおりを挟む魔導闘技場が生み出したその深い森の中を歩いているゴンザ。
「チッ。誰もいやしやがらねぇ」
一人相手を探し回っているのだがどうにも見つからない。
「ん? ははん」
一本の太い木の奥、薄っすらと遠くに見える人影。どうにも目深にフードを被っているので誰なのか判断付かないのだが、ようやく見つけられたことに思わず笑みがこぼれる。
「次こそぶっ倒してやるぜ!」
大剣をギュッと握りしめ、勢いよく走り出した。
「はっはぁっ! ん?」
ザンッと大きく横薙ぎに振るわれた大剣は人影を切り裂いたのだが手応えが全くない。いつの間にか人影はどこにもない。
「んだ?」
不思議な感覚だけが手の中に残ったのだが、次に辺りに響いたのは聞いたこともない声。
「よもやまさかと思って来てみれば、どうやら可能性があるようだな」
「誰だッ!?」
地面からぬっと伸びる影。すぐに人の形に形成される。それは先程のフードの男。
「あんだてめぇ?」
どうやって先程の一撃を躱したのかという疑問も抱くのだが、それよりも改めて正面から見てそのフードの男には全く見覚えがない。見た目それなりに歳を取っている風貌に血の通いが悪そうな白い肌。試験に参加している学生でもなければ学校の教師陣でもない。
「儂はガルアー二・マゼンダという者だが、お主、何をそんなに興奮しておる?」
「興奮、だと?」
確かに試験の一回戦を終えてここまで苛立ちが抑えきれなかったのだが、その原因も数多い。余裕で学内最強になれると思って誰よりも強くあろうとしていたのだが、まるで歯が立たない存在が何人もいたこと。加えて教師陣の小言や周囲の目もまた苛立ちに拍車を掛けていた。
(チッ)
何より、のほほんとしている同級生、ヨハンの存在が何よりも許せなかった。それがあれだけの戦い、思い出すだけでも腹立たしい手の届かなさを目の前で繰り広げられたのだから。
「……てめぇには関係ねぇな」
しかし見ず知らずの他人に胸の内を話そうとは思わない。それどころか誰に話せるものでもない。結果で示せばそれでいい。それで認められる。
(ふむ。まだ時期尚早といったところか。では種だけでも仕込んでおくか)
ガルアー二・マゼンダが視るゴンザの体内には確かにどす黒い塊が渦巻いている。それは魔族へ転生するに値する確かな根源。
「んで関係ねぇヤツがなんでこんなところにいやがる?」
「少々道に迷ってな。帰り道はどこかな?」
「チッ。耄碌ジジイかよ。アッチにいけば出れるんじゃねぇか?」
ふてぶてしくめんどくさげに親指を向け、火時計が見える比較的出口に近い方角を差した。
「これはどうも。お礼にこれを贈ろう」
「あん?」
スッと手を差し出す老爺を訝し気に思いながらもゴンザも何の気なしに手の平を差し出す。
そのまま手の平に乗せられたのは小さな黒い玉。手の平で十分に収まった。
「なんだよこりゃあ?」
ジッと見つめたのだがどういう物なのか全く判断出来ない。
顔を上げガルアー二・マゼンダに向けて問い掛けたのだが、もうどこにもその老爺の姿はなかった。
「チッ。なんだあのやろう」
わけもわからない出会いがまた余計に不満を生む。
「くそっ。余計な時間を喰っちまったじゃねぇかよ」
受け取った黒い玉を強引に胸元へ押し込んでそのまま索敵を再開した。
◆
「くるっ!」
ドンっと勢いよく地面を踏み抜いたナナシーが一直線に向かって来ている。
(速いっ)
これは模擬戦などではない。試験とはいえ真剣勝負そのもの。相手の手の内を探るのにも油断するわけにはいかない。
「はっ!」
腕を伸ばして手の平をナナシーに向ける。そのまま腕先に魔力を練り上げ、繰り出されるのは三つの小さな火球。殺傷力は高くないのだが、速さはかなりのもの。
「そりゃあそうだよね」
ドドドッと射出された火球をナナシーは左右に軽く跳躍して何事もなく躱す。
「だったら」
続けて地面に向けて魔力を送り、パッと小さな魔方陣がナナシーを挟むように二つ描かれた。
「土槍」
ドシュッと伸びるその土の槍をナナシーは高々と跳躍して躱す。
「光の矢」
そのまま上空のナナシーに向けて射るのは白く光る弓矢。間髪入れずナナシー目掛けて射た。
「瞬速の矢」
ヨハンが光る矢を射るのとほぼ同時。時間差がなくヨハンに向けて飛来する緑色の矢。
ナナシーが放てる最速の矢が射られている。
空中で互いの矢の先端が衝突した瞬間、辺り一帯が白みを帯びた。
「いまっ!」
素早く高く跳躍する。
「ごめんねナナシー」
上空のナナシーの背後を取ることに成功すると大きく剣を振りかぶり、このままナナシーを地面に叩きつければ相当なダメージが見込めた。
「お互い様ね」
「えっ?」
クルっと反転して笑みを浮かべているナナシー。
笑顔の理由が理解できないのだが、躊躇なく剣を振り下ろす。
「ぐぅっ」
呻き声を上げるナナシーはドゴッと音を立てる剣の衝撃と共に地面へと叩きつけられた。
当然それだけで倒せるとはヨハンも思っていない。視界の先にいるナナシーは素早く起き上がりその場から後方に飛び退く。
「うっ!」
地面に下りて追撃を仕掛けるつもりだったのだが、直後にヨハンが受けるのは背中への痛み。トストスと鋭い痛みを得た。
一体何が起きたのかと肩越しに背を見ると、緑色の矢羽が僅かに見える。
「ぐっ、なるほど。そういうことか」
地面に着地するなり考えられる状況を絞り込み、結果導き出した答え。周囲に目を送るとヨハンの着地と同時に地面へ刺さった他の矢も背の矢と同じもの。
ヨハンとナナシー、二人して考えたことは同じ。辺り一帯が白みを帯びたその瞬間が相手の隙を突く機会。より上手をいったのはナナシーの方だったのだが、見誤っていたのはヨハンの素早さと避けきれない速度で振るわれた斬撃。
「初手は痛み分けってところね」
背後を取るのは戦いの常。ヨハンがその手段に移るのはある程度予測できており、より上空に射かけていた幾つもの矢なのだが、矢が落ちて来るよりも先にヨハンの動きの方が早かった。
「さーて、どうしよっかぁ」
放ったその魔法の矢の魔力が状態を維持できずにシュウッと微かな音を立てて霧散していく中で巡らせるこの後のこと。
(これは思っていた以上だわ)
正直なところ、ヨハンの動きが読めないことにナナシーは困惑してしまっている。表情には出さないようにしていたのだが、先程繰り広げられた魔法の多様さだけでなく判断の速さにその的確さ。素直に驚嘆、驚きを隠せない。先手を仕掛けたつもりでいたのだが常に先手を取られていた。
そうして最後の攻撃にしても予測を上方修正した結果、ようやく得た成果。
「今度はこっちからいくよっ!」
どう対応しようかといくらか思考を巡らせていたのだが考えがまとまらないまま、目の前で対峙するヨハンは剣に闘気を流し込んでいた。
14
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる