S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百二十八話 黒煙が持つ意味

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燃える森の中で対峙するエルフと人間。ギュッと拳を握りしめるナナシーに対して不敵な笑みを浮かべ大剣を構えているゴンザ。

(まるであの時のような構図ですね)

観戦席から二人の動向を見ているシェバンニは十七年前を思い返していた。
ここ数百年に於いてシグラム王国最大の内戦とも呼ばれている【エルフの里襲撃事件】。

当時の国王、前国王になるライアン・スカーレット国王の密命を受けて調査をしていたアトム達スフィンクス。
結果としては、当時の魔道具研究所の副所長と軍事大臣の扇動によって里は襲撃を受けることになってしまう。さらに裏で糸を引いていたのがローファス王の叔父であり、ライアン前国王の弟でもあったロベルフェルム・スカーレット公爵。国を二分し兼ねない謀反。そのため、王立騎士団も権力闘争に巻き込まれて内部で大きく分裂してしまっていた。

そうしてガルドフの要請を受けてシェバンニ……シェバンニ・アルバートも当時エルフ側に協力をしていた。その時にも映像の中に映し出されているような、燃える森の中で一人のエルフの女性が王立騎士団の中隊長と対峙していたことがある。

(……嫌なことを思い出してしまいましたね)

エルフの里以外にも王国として多くの犠牲者を出したことと、一番近い身内が大規模な内戦を招いてしまった責任を取ってライアン・スカーレット前国王は退任。ローファス・スカーレット王子に国王の座を引き継がせていた。

(何事もなければいいのですが)

胸の内に秘める僅かな不安。ヨハンが周囲に与える影響をゴンザも受ければいいと考え試験では同じチームに編成しているのだが判断を誤ったのかと。作戦として諜報などの別行動をするのであれば良いが、仲違いした結果による別行動はただの分裂。
軋轢が生まれた場合、他者の介入によって関係性が余計に拗れることは誰よりもシェバンニ自身が一番理解している。最終的には当人の問題に他ならない。

試験が終わった後の結果が上向いていることに祈りを込めてそのまま試験を見届けた。





ナナシー達がいる場所からそれほど遠くない森の中。

「あれ?」

茂みの中に身を潜めるサナ。ふとすんすんと鼻を動かし、焦げ臭いにおいを感じ取った。

「もしかして、何かが焼けてるの?」

森の中で周囲を焼く程の火魔法を使うことが原則ご法度などということは一学年時で既に習っている。使用する場合、その場面は限られていた。退路を確保しつつ、難敵から身を護るためぐらいである。でなければ燃え広がった結果、自らを窮地に追いやりかねないのだから。そんな危険なことを選抜に選ばれる人間が安易に行うとは思わない。

「……どうしよう」

そうなれば意図的なものかもしくは不測の事態。一人になったいま現状の把握が出来ないのでこの場を動くかどうか悩むところ。二回戦の制限時間まであと三十分程度。やり過ごすにはまだ多くの時間が残されている。

「…………」

思案に耽るのだが、それ以上に得られる感覚はまた別のもの。右手に着けているブレスレット、四大精霊ウンディーネの加護を得たそのブレスレットが仄かに薄い水色の光を放った。
スッとその場から立ち上がるサナ。潜在的に理解したのは、顔を上げた先に見えた黒煙。何故かその場に向かって駆け付けなければいけないのだということを。





近くで燃える森を見ながら、周囲の動向を注視しているのはカニエス達チーム3。

「どうするのだカニエス?」
「そうですね。これほど不用心に火を回らせることをするものなど考えられますね」

どうにも短絡的な行いに見える。

(このようなこと、マリン様やエレナ様はまず行わないでしょう)

可能性の模索。
今回の参加者に誰がいたのかと思い返しながら、その可能性がある人物に対して思い当たった。

(そうなれば彼しかありえないですね)

既にモニカ達チーム1が敗退していることは目撃している。加えて、自然を愛するエルフが森を焼くなどとても考えられない。

「どうやら、あの場にはゴンザがいるようですね」

それ以外ありえない。

(だがどうするのが正解だ?)

しかし他に誰がいるのか、それが最大の問題。ヨハンがいることが一番の関門。

「……とにかく、向かいましょう」
「いいのか?」
「ええ。ポイントを稼がないことにはどうにも立ち行かないですからね私達のチームは」

そうして周囲の警戒をしながらカニエス達チーム3はゆっくりとその場に向かって歩き出した。





「あれは!?」

ヨハンは森の中を駆けながら、ふと遠く、視界に飛び込んで来た男に見覚えがあった。

「……ドグラス。あいつがどうしてこんなところに?」

見間違いではない。はっきりとその顔を思い出せる。
カサンド帝国ではバルジ・ドグラスと名乗っていたのだが、シトラスにはガルアー二・マゼンダと名乗っていたのだとサリーに教えてもらっていた。

「魔王の復活が関係している?」

サリーの最期の言葉。
シグラム王国には魔王に関する何かしらが関係しており、魔王の復活がもう間もなくだということも合わせて伝えられている。
その話の信憑性や正確性に関しては定かではないのだが、世界樹があることや魔王の呪いに関する伝承がエレナの血筋である王家に残されているのでサリーが残した言葉も無視はできない。意味もなくそのような言葉を最期の言葉にするはずがないというのは短い付き合いながらも理解していた。

「とにかく追いかけよう」

見失わないよう、気配を絶ちながらその後ろ姿を追いかけることにする。





「――……ふむ。間違いなくこの周辺に魔王の器が存在しているのだがいまいちはっきりとせんな」

周囲を見渡しながら、バルジ・ドグラス……ガルアー二・マゼンダは思考を巡らせていた。
魔王の気配、魔族にしか感じられないその波動がここ数年で大きくなっているのだが詳細まではわからないでいる。

「ゴルゴンが無駄なことさえしなければ」

先走った結果、人間によって倒されてしまっていた。
ガルアー二・マゼンダが把握している魔族の中でも最大の探知能力の持ち主だったのだが、最初に魔王を見つけ、取り入ろうと抜け駆けしようとしていたのを知っていた。

「もうしばらく様子を見る必要があるか」

しかし魔王の器足る人間がどこにいるのか掴めないのであればまだ時を要するのだという見解に至った。

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