429 / 724
学年末試験 二学年編
第四百二十八話 黒煙が持つ意味
しおりを挟む燃える森の中で対峙するエルフと人間。ギュッと拳を握りしめるナナシーに対して不敵な笑みを浮かべ大剣を構えているゴンザ。
(まるであの時のような構図ですね)
観戦席から二人の動向を見ているシェバンニは十七年前を思い返していた。
ここ数百年に於いてシグラム王国最大の内戦とも呼ばれている【エルフの里襲撃事件】。
当時の国王、前国王になるライアン・スカーレット国王の密命を受けて調査をしていたアトム達スフィンクス。
結果としては、当時の魔道具研究所の副所長と軍事大臣の扇動によって里は襲撃を受けることになってしまう。さらに裏で糸を引いていたのがローファス王の叔父であり、ライアン前国王の弟でもあったロベルフェルム・スカーレット公爵。国を二分し兼ねない謀反。そのため、王立騎士団も権力闘争に巻き込まれて内部で大きく分裂してしまっていた。
そうしてガルドフの要請を受けてシェバンニ……シェバンニ・アルバートも当時エルフ側に協力をしていた。その時にも映像の中に映し出されているような、燃える森の中で一人のエルフの女性が王立騎士団の中隊長と対峙していたことがある。
(……嫌なことを思い出してしまいましたね)
エルフの里以外にも王国として多くの犠牲者を出したことと、一番近い身内が大規模な内戦を招いてしまった責任を取ってライアン・スカーレット前国王は退任。ローファス・スカーレット王子に国王の座を引き継がせていた。
(何事もなければいいのですが)
胸の内に秘める僅かな不安。ヨハンが周囲に与える影響をゴンザも受ければいいと考え試験では同じチームに編成しているのだが判断を誤ったのかと。作戦として諜報などの別行動をするのであれば良いが、仲違いした結果による別行動はただの分裂。
軋轢が生まれた場合、他者の介入によって関係性が余計に拗れることは誰よりもシェバンニ自身が一番理解している。最終的には当人の問題に他ならない。
試験が終わった後の結果が上向いていることに祈りを込めてそのまま試験を見届けた。
◆
ナナシー達がいる場所からそれほど遠くない森の中。
「あれ?」
茂みの中に身を潜めるサナ。ふとすんすんと鼻を動かし、焦げ臭いにおいを感じ取った。
「もしかして、何かが焼けてるの?」
森の中で周囲を焼く程の火魔法を使うことが原則ご法度などということは一学年時で既に習っている。使用する場合、その場面は限られていた。退路を確保しつつ、難敵から身を護るためぐらいである。でなければ燃え広がった結果、自らを窮地に追いやりかねないのだから。そんな危険なことを選抜に選ばれる人間が安易に行うとは思わない。
「……どうしよう」
そうなれば意図的なものかもしくは不測の事態。一人になったいま現状の把握が出来ないのでこの場を動くかどうか悩むところ。二回戦の制限時間まであと三十分程度。やり過ごすにはまだ多くの時間が残されている。
「…………」
思案に耽るのだが、それ以上に得られる感覚はまた別のもの。右手に着けているブレスレット、四大精霊ウンディーネの加護を得たそのブレスレットが仄かに薄い水色の光を放った。
スッとその場から立ち上がるサナ。潜在的に理解したのは、顔を上げた先に見えた黒煙。何故かその場に向かって駆け付けなければいけないのだということを。
◆
近くで燃える森を見ながら、周囲の動向を注視しているのはカニエス達チーム3。
「どうするのだカニエス?」
「そうですね。これほど不用心に火を回らせることをするものなど考えられますね」
どうにも短絡的な行いに見える。
(このようなこと、マリン様やエレナ様はまず行わないでしょう)
可能性の模索。
今回の参加者に誰がいたのかと思い返しながら、その可能性がある人物に対して思い当たった。
(そうなれば彼しかありえないですね)
既にモニカ達チーム1が敗退していることは目撃している。加えて、自然を愛するエルフが森を焼くなどとても考えられない。
「どうやら、あの場にはゴンザがいるようですね」
それ以外ありえない。
(だがどうするのが正解だ?)
しかし他に誰がいるのか、それが最大の問題。ヨハンがいることが一番の関門。
「……とにかく、向かいましょう」
「いいのか?」
「ええ。ポイントを稼がないことにはどうにも立ち行かないですからね私達のチームは」
そうして周囲の警戒をしながらカニエス達チーム3はゆっくりとその場に向かって歩き出した。
◆
「あれは!?」
ヨハンは森の中を駆けながら、ふと遠く、視界に飛び込んで来た男に見覚えがあった。
「……ドグラス。あいつがどうしてこんなところに?」
見間違いではない。はっきりとその顔を思い出せる。
カサンド帝国ではバルジ・ドグラスと名乗っていたのだが、シトラスにはガルアー二・マゼンダと名乗っていたのだとサリーに教えてもらっていた。
「魔王の復活が関係している?」
サリーの最期の言葉。
シグラム王国には魔王に関する何かしらが関係しており、魔王の復活がもう間もなくだということも合わせて伝えられている。
その話の信憑性や正確性に関しては定かではないのだが、世界樹があることや魔王の呪いに関する伝承がエレナの血筋である王家に残されているのでサリーが残した言葉も無視はできない。意味もなくそのような言葉を最期の言葉にするはずがないというのは短い付き合いながらも理解していた。
「とにかく追いかけよう」
見失わないよう、気配を絶ちながらその後ろ姿を追いかけることにする。
◆
「――……ふむ。間違いなくこの周辺に魔王の器が存在しているのだがいまいちはっきりとせんな」
周囲を見渡しながら、バルジ・ドグラス……ガルアー二・マゼンダは思考を巡らせていた。
魔王の気配、魔族にしか感じられないその波動がここ数年で大きくなっているのだが詳細まではわからないでいる。
「ゴルゴンが無駄なことさえしなければ」
先走った結果、人間によって倒されてしまっていた。
ガルアー二・マゼンダが把握している魔族の中でも最大の探知能力の持ち主だったのだが、最初に魔王を見つけ、取り入ろうと抜け駆けしようとしていたのを知っていた。
「もうしばらく様子を見る必要があるか」
しかし魔王の器足る人間がどこにいるのか掴めないのであればまだ時を要するのだという見解に至った。
14
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる