S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百三十一話 追跡者

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「わ、わかったわ」
「ありがとう」

笑顔からすぐさま表情を厳しくさせてゴンザを見るナナシーなのだが、すぐさまその表情は呆けたように移り変わっていく。

「ナナシー?」

一体どうしてそのような表情になるのかと疑問を抱いたのだが、そのままサナも釣られるようにしてナナシーの視線の先を追っていった。そこにはゴンザではなく倒れ伏しているレインの姿。

「あっ……」

思わず小さく声を漏らすサナ。なんとか起き上がろうと身体に力を込めているレインがいる場所、その地面に魔方陣が浮かび上がっていた。
その魔方陣には見覚えがある。遠距離で放たれる火魔法。トラップとして用いられる爆裂魔法。予め仕込んでおかなければ発動に時間を要するのだが、満身創痍であるレインには躱す術はない。
地面は赤みを帯びており、間もなく魔法が発動される。

「ごはっ!」

間違いなくゴンザの魔法ではないと理解するのと同時に、ドカンと大きく響く爆発音。
呻き声を上げ、突如として起きる爆発によってレインは身体を浮かせた。

「あ?」

ゴンザは振り返りながら爆発が起きた場所に目を向けると、宙を舞っているレインの姿が視界に映る。

「は?」

ゴンザでも、ナナシーでも、サナでもない。サナとナナシーの二人よりも気付くのが遅れたゴンザは目の前の光景に思わず呆気に取られた。数秒遅れて状況の理解が追い付く。

「どこのどいつだ?」

今ここでレインが爆発に巻き込まれたのは誰かがレインに攻撃を加えたとしか考えられない。状況を理解したゴンザはすぐさま周囲の茂みを具に観察した。

「あ、んのやろうッ!」

そうして見つけた。
もう既に遠く、それなりに距離が開いている。この場から離れようと揺れる茂みに僅かに頭部を覗かせている。火の粉が舞う奥にカニエス達チーム3の三人の姿を捉えた。

「ははは。本当に上手くいったようだな」
「だね。まさかレインがリーダーでしかも弱っているところに出くわすなんてね」

笑顔で話しているオルランドとシリカ。

「だがあの状況をゴンザ一人でしたのだと思うか?」
「…………さぁ?」
「いいから逃げますよ。ゴンザが怒り狂ってすぐに追いかけて来るでしょう」
「ああ」
「うん」

目の前で獲物を横取りされたのだから。確実にゴンザは怒る。それも相当に。
戦況を遅れて見に来ていたカニエスにも状況の整理に時間を要した。そうして得た話の中で、ゴンザの力が想像以上に上だったことに驚きを隠せないのだが、降って沸いた機会を逃すこともない。

(マリン様、申し訳ありません)

共闘を持ち掛けておきながら相反する行動。しかしレインを殺させるわけにもいかないのは日ごろからマリンの感情の機微を目にしているカニエスにしても同じ。であれば出来る事は少ない。
今できること、レインを倒すことだけに専念し、遠隔魔法である爆裂魔法を用いて見事にそれを成し遂げる。

「テメェら待ちやがれッ!」

遠く響く怒声。
カニエス達が素早く駆けながら振り返ると、遠くに見えるゴンザが物凄い勢いで迫って来ているのが視界に入った。

「なんだアイツ!?」
「早く早くっ!」

怒るのはわかっていたのだが、殺気を伴うその様子は予想を上回っている。逃げるようにして、慌ててカニエス達はその場を後にした。

「「…………」」

ひゅるひゅると宙を舞っているレインをドサッとナナシーが受け止める。

「レインくんは?」
「大丈夫。気絶しているけど、生きてるわ」
「そっか。よかった」

まだ安心できる状態ではないのだが、巻き起こった爆裂魔法程度ではレインが死なないことを二人とも理解している。

「じゃあサナ。そういうことみたいだから私達はここで負けね」
「うん」

レインが倒されたことでチーム4の二回戦は敗退。直に魔印の反応を得た教師達がこの場に駆け付け、森を出なければならない。

「燃えちゃった」

魔素によって生み出されたとはいえ、木々や植物は間違いなく本物。せめてなんとかしたいものだがなんともならない。レインを腕に抱くナナシーが浮かべる儚げな表情。

「あっ、ちょっと待って」
「え?」

声を掛けなければいいのではないかというナナシーの疑問。
敗退したチームが残っているチームに介入すると罰則が科されると説明されている。敗退者は黙ってその場を離れなければいけないのだが、サナはニコッと笑みを浮かべた。

「大丈夫」

ナナシーの表情から読み取れる疑問を理解しているサナは笑顔を向ける。
そのまま両手を上方にかざした。

「ウンディーネさん。力を借ります」

右手のブレスレットが仄かに青い光りを放つ。

雨の矢シャイニングレイン

ズモモと燃える木々の上に生まれる黒々とした雲。それはまるで雨雲。

「あっ……」

ぽつぽつと、ナナシーの頭や肩を濡らす滴。そのまま急速に勢いを強めるその滴、雨は大粒となり轟々と燃える木々の上に降りかかった。

「威力はだいぶ抑えておいたけど。これでいいかな?」

元来、広範囲攻撃魔法であるその魔法。突き刺さる程の針の雨を降らすのだが、ウンディーネの力を行使することで微調整を可能にさせた。

「…………うん、ありがとうサナ」

雨を発生させて消火したのだと理解したナナシーは満面の笑みをサナに向ける。
そうしてそのまま森の影に姿を消していった。





ヨハンが森の中で追いかけるのはローブの後ろ姿。

「どこにいくつもりだ?」

どうしてガルアー二・マゼンダ、魔族がこんなところにいるのか理解できない。目的を探るために追いかけていたのだが、何か行動を起こすようにも見えない。それどころかこのままいけば火時計の位置からしてその先は魔導闘技場の外壁付近。

「仕方ない」

もしかしたらもう何かしらの目的を達成したのかもしれないと考える。

「ドグラス!」

大きく声を掛けると、前方を駆けていたローブはピタと足を止めた。

「その名前を知っているということは……」

振り返り、声の主を確認するドグラス。離れた場所にいるヨハンを見つけるなり薄く口角を上げる。

「そうか、やはり貴様か」
「ドグラス。どうしてお前がここにいる?」

深い森の中、シグラム王国のそれも学年末試験で再びまみえることになるとは思ってもみなかった。

「それとも、ガルアー二・マゼンダと呼んだ方が良かったか?」

ヨハンの言葉を受けたドグラス――ガルアー二・マゼンダはピクリと眉を動かす。

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