S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第四百八十三話 王国からの依頼

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依頼を出されるにしても、どうして騎士団の中隊長を二人立ち合わせるのだろうかという疑問が浮かぶ。

「さて、いきなり騎士団の中隊長を紹介されてもわけがわからないだろう?」

その疑問の通り、ローファス王が口を開いた。

「そういうわけで早速本題に入るぞ。さっきも言った通り、お前たちへは依頼をだすのだが、その依頼内容は騎士団と協力して王国の南東にあるサンナーガの遺跡調査に入ってもらいたい」

エレナの予想通りの展開で依頼を出される。つまり騎士団との合同依頼。
ただし、それだけではまだわからないことだらけ。どうして合同である必要があるのかということ。

(僕たちに依頼を出さなければいけないような問題が起きたということ?)

その疑問の一つはグズランと名乗った騎士が口を開いたことで判明する。

「王よ、発言よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「お言葉ではありますが、やはり私は納得できません。本当にこんな子供が前代未聞のS級なのですか?」
「お前が信じられないのもわかる。だが事実は事実だ。受け入れるしかない」
「……左様でありますか」

目が合うグズランからは冷たい視線を感じ取った。あからさまに猜疑心さいぎしんを抱く眼。

「まぁ、というわけだ。今回、王国としても看過できない事態が起きた。それでS級であるヨハンがいるお前たちのパーティーに依頼をだすこととなった」

S級である冒険者への依頼ということは、それはいつもと異なるということ。国家規模での依頼ということである。

「……何が、起きたのですか?」

問い掛けに対して、レインが喉を鳴らす中、グズランはピクリと眉を動かした。

「数か月前、東部で大きめの地震が起きた。幸い被害はそれほど大きくはないのだが、その被害を調査中にサンナーガの遺跡で地下遺跡が見つかったのだ」
「地下遺跡、ですか」

それを現在騎士団が調査をしている内容だということは察しがつく。

「その調査にこのグズランの部隊である第六中隊を派遣したのだが、その半数を失うことになった」
「!?」
「百数十名を一気に失う事態だ。中で相当な出来事があったのだろう。魔物の出現もそうだが、罠も仕掛けられていたらしい。それで次の調査にお前達と第一中隊に向かってもらおうと考えている」

一般兵ではなく騎士を失うことの損失は大きい。武力で云えば王国の最大戦力であるのだから。
それまで無表情であったグズランは大きく表情を歪ませた。

「国王! やはり私が納得できません!」
「グズラン。発言する際は――」
「はっ! 申し訳ありません。以後気を付けます」
「かまわん。続けろ」
「ありがとうございます」

忠告するアマルガスを制止するローファス王。グズランは軽く頭を下げて再び口を開く。

「いくら噂の冒険者とはいえ、やはり子供に後任を任せるということなど私としてはとても」
「そうか。お前の気持ちはよくわかる。部下を失い、隊長としての信頼も落としているのだ。だが、未知の事態の全てがお前に責任があるというわけではない」

視線を向ける先はアマルガスへ。騎士団全体に責任があると言わんばかりのその言葉にアマルガスは無言で頭を下げるのみ。

「であれば、隊長として責任は最後まで取らせて頂きたいです」
「ふむ。しかしどうするのだ? お前の隊は半壊状態ではないか」
「……無礼を承知でもう一つだけ、よろしいでしょうか?」
「忌憚のない意見を言え。どんな発言でも容認しよう。とはいうが無論、弁えた上でな」
「はっ! ありがとうございます!」

ローファス王の言葉を受けたグズランは正面に立つ騎士、アーサー・ランスレイを見た。

「確かに私の部隊は半壊しました。これに関しては弁解の余地もありません。見込みが甘かった私の責任であります」
「…………」

ジッと見られるアーサーはグズランの言葉に対して無言。表情を一切変えない。

「ですが、その後任を第一中隊に任せるともなればそれもまた反感を買う要因となりましょう。国王もご存知の通り、騎士団は内部にいくつもの問題を抱えています」
「あまり大きな声で言うな」
「エレナ様であればご事情をご存知であられましょう?」

ヨハンの横にいるのが王女であるということは周知の事実。普段であれば言及するのもはばかられるのだが、グズランは敢えて口にする。

「そうなの?」

エレナに小さく声を掛けると苦笑いされる。

「確かに。利権絡みがあるのは否定しませんわ」
「そっか」

つまり、騎士団が一枚岩でないということ。
以前、各中隊には貴族の後ろ盾があるのだと聞いたことがあった。

(だったらあの人には……)

ランスレイの名を冠するということは四大侯爵家であるランスレイ家がそうなのかもしれないと。少なくとも無関係ではないと考えられる。

「いくら精鋭だとはいえ、その第一中隊に後任を任せ、あまつさえいくらS級とはいえ学生冒険者を交えるともなれば贔屓されていると思われても致し方ないかと」
「グズランッ! 国王の前だ! 言葉が過ぎるぞ!」

怒声を放つアマルガス。その場の空気が一気にピンと張り詰めた。

「かまわん。忌憚なく話せと言ったのは俺だ。それにこの程度、アイツで十分に慣れているしな」

片肘を着きながらの溜め息。

「無礼な発言、大変申し訳ありませんでした。ですがこれも全て王国への忠誠の為」
「お前の言うことも一理ある。だがとはいうが騎士団もそれ程余裕があるわけではないが、その辺りはどう考えている?」

遠征をはじめ、国内の多方面に広く活動している騎士団。人的な資源が豊富であるというわけでもない。

「その上で私の主張を聞いていただけますか?」
「内容によるがな」
「ありがとうございます」

それまでほとんど表情を変えなかったグズランはそこでニタっと小さく口角を上げる。
その様子を見ていたアーサーもまた視界にグズランとヨハン達を捉えながらほんの僅かに頬を緩ませていた。

「それで、よろしければこの子供達の実力を確かめる機会を頂きたく思います」

ローファス王に向けていた顔を回してヨハン達を見るグズラン。

「エレナ様もおわす以上、その実力は相当なモノなのだということは理解できますが、何分私は噂でしか耳にしたことがありませんので」
「よし、わかった」
「は?」
「つまり、お前はヨハン達の実力をはっきりと確認できれば自分達に代わって遺跡調査に入るということを認められるということだな?」
「た、確かにそうでありますが」
「ではお前のやり方でいいからこの者達の実力を自らの目で確かめてみるがいい」
「よ、よろしいので?」

グズランからすれば願ってもない展開。まさか好きにしても良いと言われるとは思ってもみなかった。

「ああ。かまわん。そこでお前が課す内容をこの者達が上回ることが出来なければこの者らへの依頼を取り下げ、グズラン、お前をもう一度調査隊に組み込もう。もちろん総指揮権は与えられんがな」
「ほ、本当によろしいのでしょうか?」
「無論だ。こんな場で嘘など言わん。それと、もちろん俺もそれには同席するから不正はできないと思え」
「不正などとはとんでもございません。むしろ機会を頂きましてありがたく存じます」

深々と頭を下げるグズランなのだが、先程以上に笑みを浮かべている。想定以上の事の運び様に笑わずにはいられなかった。

(まさか権限まで与えてもらえようとは)

ヨハン達の実力を批評する手段まで択ばせてもらえるとは、不正をする以上の成果。となればやりようはいくらでもある。
しかし、グズランは気付いていなかった。

(まったく。知見が狭いとはこういうやつのことだな……――)

グズランが頭を下げるその中、見比べるのはアーサーとヨハン達。

(――……一石二鳥と思えばいいか)

ローファスもまた同じように薄く笑っていたことに。

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