S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第四百九十四話 アーサーの事情

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「どういうことだスフィア?」

モニカとアーサーの戦いを見下ろしながら疑問を抱いているのはキリュウ・ダゼルド。隣に立つスフィアへと問いかけるのだが、スフィアは苦笑いをするしかできない。唖然としている。

「それは私よりも、キリュウさんの方がよく知っているのではないですか?」
「あれは誰の隊長だ?」
「それを言うなら、キリュウさんの方が付き合いは長いでしょう? 元々一緒の隊だったのだし」

アーサーがヨハン達の下に向けて飛び降りた時は衝撃を受けていた。一体なぜ乱入したのかということが理解できていない。

「どうやらこれに勝てば彼女を婚約者にするみたいだな」

その二人の背後から聞こえる声。思わず二人して振り返る。

「団長!?」
「マクスウェル様!?」

ニコリと笑顔を浮かべる赤いマントを羽織った男は王立騎士団団長であるマクスウェル・ハートレット。

「婚約とは、どういうことでしょうか?」
「いやなに、先程現場に居合わせた騎士から報告があってな」

鍛錬場にいた意識のあった第六中隊の騎士からマクスウェルへと上がった報告。

「おいおい、そんなに睨まないでくれ、二人とも」

スフィアとキリュウの二人には全く理解できないその話の流れ。

「た、隊長がどういうつもりなのかは存じ上げませんが、そのようなこと、よろしいのでしょうか?」

必死に平静を装いながら問いかけるスフィア。

「ん? というと?」
「公的な依頼の場、その試験を兼ねているこの場に於いてそのような私情を持ち込んでいることについて、です」
「ああ。別にかまわないさ。どうせついでだろうし、アレもそろそろ身を固めておかないと周りがうるさいからね」

マクスウェルの言葉を受けたキリュウが思案に耽りながらゆっくりと口を開く。

「それはつまりランスレイ家として、アーサーの婚姻を進める、ということでしょうか?」
「そうだね。彼も侯爵家には色々と遠慮しているようで、その辺の貴族とは婚姻を結びたがらないからね。その辺りは付き合いの長い君が良く知っているだろう? キリュウ君」
「……ええ。まぁ」

そうして目を細めながら眼下に視線を向けるキリュウ。
それはアーサーの身の上話であり、侯爵家の養子となったことで付いて回る話。

『――やっぱりめんどくさいね、こういうのは』
『だったら養子になどならなければいいのだろうに』
『そういうわけにはいかないさ。私にできることであれば、あの家には恩返しをしないとね』

ランスレイ家に養子として迎え入れられる数日前に話していたことを思い出していた。
それからというもの、ランスレイ家から婚姻を持ちかけられることはなかったのだが、それでも婚姻を進めるようにとの話自体はある。
アーサーからすればお世話になった家に迷惑をかけたくないという気持ち。しかし侯爵家の威光を狙うような貴族は以ての外。仇で返す事のないようにしたいと。

(それが彼女だというのか?)

視界に捉える剣戟を躱す剣姫とアーサー。
ギュッと握りこぶしを作りながらその戦いの行く末を見守っていた。

(隊長がモニカと?)

であれば勝たなくていいという気持ちを抱きながらも、しかし負ける姿を見たくないという、相反する気持ちをスフィアは抱いてしまっていた。

「さて、結果がどうなるか見届けようではないか。これだけの戦い、そうそう見れるものではない」

そんな二人の感情を気にも留めず、マクスウェルは二人の間に割って入る。





「ふふっ」

モニカから不意に漏れだす笑み。

「まだ何かあるのかい?」
「いえ、何もないわ」
「へぇ。だとすると、どうして笑ったのだい?」
「あなたと戦うことが出来て喜んでいる私がいるなぁって」
「喜んで頂けている?」

現状に合わない返答を受けて思わず呆気に取られるアーサー。

「で、では先程の話を考えて――」
「それはない! 絶対にないっ! これから先もないわ! 二度と口にしないでッ!」

語気を強めて鋭く睨み付けた。
約束はしたものの、負けることを認めたわけでも、勝ちにいくことを諦めたわけでもない。

「そんな全力で否定しなくても……さすがに私でもいくらか傷付きますよ」
「否定するに決まってるじゃない!」
「だったらどうして喜んだのだい?」

一体どうしたのかと首を傾げるアーサー。

「まだまだ私は強くなれるってことがはっきりとわかったからよ」

今はまだ敵わないかもしれない。それでも今以上に強くなれるのだという確かな実感が湧いてきている。間違いないと抱く確信。

「そうだね。キミはまだ強くなれると思うよ。私が保証しよう」
「あなたの保証なんていらないけどね」

後先さえ考えなければ相打ちぐらいには持っていけるかもいれない。そのためには決死の覚悟が必要になる。

(大丈夫。私にだってできるわ)

最後の力を振り絞る様に、先程意図せずに発動した紫電の力を木剣に宿そうと試みた。

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