503 / 724
紡がれる星々
第五百二 話 特別閑話 プレゼント(中編)
しおりを挟むエレナとモニカが王宮で話を聞いているその刻を同じくして。
「なにかいい口実はないかなぁ」
王都の中を歩きながら思案に耽っているのはサナ。なんとか理由を付けてヨハンのところへ訪れたいのだが、理由もなく訪問するなどできようはずがない。しかし逆にいえば何らかの用事があれば訪れるのも極々自然。
「ナナシーは今日レインくんと出掛けてるみたいだし」
そうなるとパーティーも違えば休暇に入っている今口実がない。顔を見たい。会いたい。話したい。このままでは窒息してしまう。
「せめて贈り物でもできたらいいのだけど」
視線を落として右手首を見る。チャラっと音を鳴らすヨハンからもらったブレスレット。今となってはただの大事な装飾品ではなく、ウンディーネの力を宿していた。戦力の底上げでは済まないその力。
「お返しだったら問題ないかな?」
しかしとはいうものの、重たい女にはなりたくはない。自然な口実が一番望ましい。
「あっ、あれ……――」
そうして歩きながらふと目に留まったのは露店に吊り下げられている毛糸のセーター。赤がしっかりと映えている。
(あぁアレ、ヨハンくんによく似合いそうだなぁ)
そのセーターを着ているヨハンの姿を想像していると露店の女店主と目が合った。
「お嬢ちゃん、ジッと見ているが、これが欲しいのかい?」
「えっ? あぁ、そうなんですけど、でも私のじゃないんです」
「つまり、誰かを想像していたということだな?」
「い、いえ、違います!」
思わず反射的に両手を振って否定する。
(って、別に今は慌てなくてもいいのか)
その意気地のなさに我ながら辟易としてしまい苦笑いした。
「なんじゃ、違うのかい」
「……すいません、実は気になる男の子のことを考えていました」
溜息を吐きながら、せめて知らない人には素直に気持ちを曝け出すことから始めようと本音を漏らす。
「ふむふむ。その様子だとまだ付き合っておらんようだな。お嬢ちゃん程に可愛いけりゃすぐに付き合えるだろうに」
「そんなことないですよ」
苦笑いしながらの返答。そもそもとして元々の分が悪い。普段から一緒に過ごせないどころか、いつの間にかできた婚約者。それに加えて周囲を取り囲んでいる女性達の凄さったらこの上ない。これ以上なにがあるのかという程。
「……はぁ」
改めて思い返すだけで溜め息が出る。
「なんじゃい。上手くいっておらんのかぃ。だったらその身体を使えば十分気を引けるだろうが」
指差す先は胸。豊満な胸。
「そ、そんなの私には無理です!」
バッと慌てて両手で覆い隠した。
(このひと、人が気にしてることをズバッと…………)
歳の割には――というよりもそれどころか一般的な大人の女生と比較しても余りある大きさの胸。
人によっては羨ましいらしいのだが、大きければ大きいなりの不満もある。これ程大きくある必要はない。
「ふぅむ。奥手な子じゃのぉ」
「ほっといてください」
「つまるところ、その意中の男性に贈り物ができたらいいんじゃな」
「それができるならそうしてますよ」
「なら、こんな話はどうだい? こんな商売をしていると色々と面白い話を聞けてのぉ」
「面白い話?」
「ああ。このシグラム国ではない、とある異国の話じゃ。このような寒い時期に意中の相手に贈り物を贈る風習があるそうなんじゃ。それにかこつけて渡してみてはどうだい?」
「へぇ……」
「ほれ、丁度雪も降り始めて来た。そこでは雪は縁起がいいとされておる」
「そうなんですね。もう少し詳しく教えてもらえますか?」
付け焼刃かもしれないが、口実があればそれに越したことはない。
「――……という話じゃ」
そうして聞いた話は偶然にもエレナとモニカと同じ話。
「…………」
サナは口許に指を送り、考える。これ以上ない程に都合の良い話ではないかと。
「わかりました。ありがとうございます。じゃあそれください!」
「まいどありぃ」
そうして話を聞き終えたサナはセーターを購入することとなる。
(――……それがどうしてこんなことになってるのよ!)
しばしの回想を終えたサナは目の前の光景に呆れてしまっていた。
自分だけではなくエレナとモニカが同じような話を聞いているなんて。カレンだけはサナとエレナの話を聞いて慌てて用意している。
「それにしても、不思議な国なんだねそこ」
「え?」
「だって、祈願成就のために異性に贈り物をするなんて」
「祈願成就?」
笑顔で話すヨハン。その言葉にどこか足りなさを感じたモニカはエレナとサナを見ると、フイっと顔を逸らされた。
(も、もしかして、ちゃんと話してないの?)
恋人に贈るプレゼント、又は意中の相手に贈るのがその国の風習。それを歪曲とまでは言わずとも正確に伝えていないのだと。
11
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる