S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百十八 話 閑話 入浴時間(前編)

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「さて、いくら合同任務とはいえ、キミ達は学生に変わりはない。この辺りで一度しっかりと休息を取ろうか」
「休息、ですか?」

突然のアーサーの提案にそれぞれが疑問符を浮かべる中、出掛けることになる。
向かう先は遺跡から離れた山、クラビット山。離れているとはいえ日帰りで行ける距離。

「にしても、こんなところに天然温泉があるだなんてね」
「秘湯というやつね」
「ウチも助かるわぁ。あそこだとお湯に浸かれないもん」
「アスティは任務でもあるのよ?」
「わぁかってるってスフィアちゃん。でも半分は非番みたいなものじゃない」
「はぁ。ほんとしょうがないわね。今日だけよ?」
「さっすが!」

馬に跨りうきうきとしているのはモニカやカレンにアスタロッテ達女性陣。
同行している男性、ヨハン達学生は勿論、アーサーやスネイルにバリスといったスフィアの小隊に所属しているいくらかの騎士。

「こりゃあ役得だぜ」

名目上はエレナとマリンの護衛も兼ねているのだが、ヨハン達の方が実力は上。しかしスネイルからすればそんなことはどうでも良かった。

「アルスとマルスもそう思うのか?」

問い掛けるバリスなのだが、アルスとマルスの視線の先には女性陣。

「さすがアルスさんとマルスさんはわかってるぜ。伊達にスフィア隊長とアスタロッテに襲い掛かっただけはねぇな」
「「なっ!?」」

思い返すその初任務。操られていたとはいえ、異常なまでの醜態を曝してしまっていた。

「…………」

その騎士達が駆ける馬に近付く一頭にはレインが跨っている。

「おい……――」

ギロッと睨みつけていた。

「聞こえていたか。下世話な奴らですまんな」

級友を色目で見られることに対する不快感だと解釈するバリスなのだが、レインは厳しい表情からすぐさま小さく口角を上げると目尻を下げる。

「お前らだけじゃ失敗する。俺も一緒にやるぜ!」

スネイル達だけに見えるよう、親指を立てていた。

「ヨハンさんはあの中に入らないでくださいませ」
「……わかってるよ」
「逞しいだろう? 私の隊は」
「……そういう問題でもないような」

倫理観はどうなっているのかと、苦笑いすることしかできない。
後方から駆けるヨハンとエレナとアーサー。既に目論見は見透かされている。

(ま、なるようになるか)

あくまでも目的は息抜き。気を張り詰める必要もなかった。





そうしてしばらく馬を駆けた先にあるクラビット山。
元々王国内でも昔から火山として知られており、地熱があることで普段は付近の住人も立ち寄らない。最後に噴火をしたのは記録に残されているだけでも何百年前のこと。専門家の間では現在のところ噴火の心配はないと。
その山の中腹に、知る人ぞ知る秘湯がある。

「本当にこんなところに秘湯があるのよね?」

モニカがそう疑問を呈するのも仕方ないと思えるほどの岩山。それなりに険しく、一般の人ならまず登らないだろうという断崖絶壁の行程。馬を引きながら歩いているのは、滑落でもすればひとたまりもない。

「この独特な匂いは?」
「硫黄といわれる火山から採れる成分ですわ」
「ふぅん」
「そういえば温泉って慢性的な持病の改善や健康維持とかの効能があるって言われているわね」
「そうなんだ」

エレナとカレンによる補足説明。

「美容に良いという噂もあるらしいけど」

キラッと目を光らせるサナとモニカ。思わず歩く速さを上げる。

「あんたはもういらないでしょ! そんなおっきな胸してんだから!」
「そういうモニカさんこそそんなに綺麗なのにこれ以上綺麗になってどうするんですか!」

小さく言い合いをしていた。

「どうして俺まで一緒に行かなければならないのだ」
「サイバルは興味ないの?」
「そういうことは特にはな」

まるで関心を示していない。

「そんなに付き合いが悪いと嫌われるよ?」
「そうだぞサイバル。せっかく声を掛けてもらったんだ。たまには俺達に付き合えよ」

ナナシーに同調を示すレイン。そっと小さく耳打ちする。

「心配するなって。ちゃんとお前にも良い思いさせてやるからさ」
「良い思いって?」

ヨハンが首を傾げて問い掛けると、レインは慌てて手を振った。

「な、なんでもねぇって。お前は気にするな。なっ!」

明らかに誤魔化している仕草。

(っぶねぇ。こいつがいると計画が失敗するかもしれねぇからな)

純真無垢なヨハンには理解してもらえず、説明のしようがないのだと。
程なくして、木造建ての家屋が見える。

「どうやらあそこみたいだ」
「山の上なのに寒くないんですね」
「恐らく火山の地下熱が気温に影響しているのだろうね」

アーサーと二人周囲の様子を観察していると、中から老婆が姿を見せた。

「おやおや、いらっしゃい」
「あなたは?」
「わたしゃここを管理している者だよ。時々様子を見に来るのだが、これだけ大勢で来るなんて珍しいこともあるものだ」
「入ってもいいんですか?」
「ああ構わんよ。こうして大勢で来ても入れるように区切らせてもらっておるので遠慮せずに入るがいい」

建物の奥に見える木柵。どうやら入り口から既に男女別に区切られているらしい。

「よかったぁ」

ニコニコと話す老婆の言葉を受けて安堵の息を漏らすサナ。

「当然ね。どこかの変態が覗きに来ないとも限らないからね」

明らかに疑念の眼差しをレインに向けるモニカ。

「ちょっ!? お、おい! なんでこっちを見んだよっ!? 覗くわけねぇじゃねぇか!」
「どこまで本当だか。じゃあおばあちゃん、失礼しますね」

そうしてぞろぞろと建物の中へと入っていった。

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