S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百二十四話 竜木

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竜窟。
竜の巣とは別の意味を持つその名称。それは竜木が存在する場。
神秘的なその場が今現在は自然が生み出す暴力が渦巻く場と化している。

「くっ、近付くことすらままならないか」

振り回される夥しい数の枝。伸び縮みする様はまるで生き物のようであり、その複雑難解な動きは距離を縮めることを容易とさせない。

「どうなってるのよコレ」

見事なまでの見切りを持って枝を躱し続けるモニカは鋭い斬撃を以て枝を斬り落とすのだが、枝は斬られた瞬間から即座に伸びていた。それはさながら無限再生を繰り返していた地下で遭遇した魔獣の複合体と通ずるものがある。

「でも今回はそれじゃ……」

ガンガンと鈍い音を鳴り響かせるのは枝が叩く先にある障壁。カレンが展開している魔法障壁。威力は障壁を壊す程ではないので強度としてもまだ余裕があった。

「これは厄介ね」

ナナシーが足下から生み出す植物の数々。竜木が繰り出す数とほぼ同数。竜木の枝を絡めとるのだが、枝はそれらを断ち切るように形状を変えて鋭い刃と化していた。

「一思いに燃やせたらいいのに」
「それがダメってヨハンは言ってたでしょ」
「めんどくさ」
「誰のせいよ誰のっ!」

ただ倒すだけではいけない。目的は竜木を持ち帰ること。

「どうしたらいいですか?」

並び立つリシュエルとヨハン。
横目に見るこれまでのリシュエルの立ち回りは凄まじい。

(この人、本当に強い)

主たる武器は大剣なのだが、大剣の扱いがどうとかよりも、流れるような身のこなしに豪快さを伴う力強さ。それが見事に共存している。
しかし、それはリシュエルにしても同じ。視界に映す少年の動きを内心では素直に称賛していた。

(なるほど。期待通り、いや、期待以上だな)

サンナーガ遺跡で騎士の加勢をした後に聞いた話。学生達が未知の遺跡の調査に主力として同行しているというのだから。果たしてそれだけの実力者などいるのだろうかという疑問が浮かんでいた。
その内の一人が娘のニーナだということ、引いてはアトムの息子であるヨハン達だというのだから結果的にはその話にも一定以上の納得はしている。

(あの時のアトムよりはまだ幼いが)

だが、実際に目にしたところ、これがまた末恐ろしい。
異常な光景を目にしても臆することのない胆力はもちろん、即断即決の判断能力。加えてそれらを実現できるだけの実力。機敏な動きは申し分ない。

「はっ!」

なにより、その剣の冴え。本当にあのアトムの息子なのかと疑いたくなる程。それ程に流麗な動き。
リシュエルの記憶にあるアトムは我流で磨いた剣。野性味溢れる剣技。師はいないとも言っていた。それが目の前の少年は洗練された剣を見せている。正に対照的。

(それだけではない)

とはいえ、時には剛剣とも思える、アトムの様な剣を振るうことで想起させるその姿は、正に最適化を図るための合理的な剣にすら見えていた。その動きで連想するのはアトムとは別の一人の若い剣士。現在では剣聖の称号を持つ男。

「リシュエルさん?」

具体的な打開策の提示を求めるヨハンは首を傾げる。

「ああ、いやすまん。とにかくコイツの鎮静化を図らなければいけないのだが……――」

そうして打開するための具体案を提示しようとしたのだが、思い留まった。

「――……ヨハン、お前はどうしたらいいと思う?」
「え?」

答えは敢えて出さない。答えを提示してその過程を見届けるのは子供を相手にすること。しかしこの子は既に一人前の冒険者で肩を並べるのに値する。

(試されている?)

リシュエルのその顔を見てすぐさまそう思ったのだが、小さく首を振った。

(いや、確かにそういうこともあるかもしれないけど、これはあくまでも僕たちが達成しなければいけないことなんだ)

これは授業の一環ではない。S級任務としての依頼。

「そうですね…………さっき、リシュエルさんが言っていたように魔力の流れを正常に戻さないのであれば僕が踏み込みます」
「一人でか?」
「いえ。さすがにそんな無茶はしませんよ」

苦笑いしてすぐさまニーナへと顔を向ける。

「ニーナ!」
「ふぇ?」
「モニカとスフィアさんも僕に続いてください。サナとカレンさんは念のためにナナシーを守ってて」
「ほぅ。それでどうする?」
「僕は一人じゃないです。仲間がいますので」

ニコリと微笑んだ。何も自分一人だけで解決するようなことでもない。次に顔を向けるのはナナシーへ。

「ナナシー。庭でやってる要領で竜木の魔力の流れを戻せないかな?」
「え? あっ……あぁ、そういうこと?」

直後、勢いよく駆け出す。そのヨハンを追うように動く三つの人影。

「まったくぅ。説明が足りないよお兄ちゃん」
「それだけ私達が信頼されているということよ」

竜木の特性はここまでの動きで良く分かった。近付く者を無差別に攻撃するということ。再生も竜窟に溜め込まれた魔力と自然の魔素を取り込んで行われているのだと。その根本を断ち切れば枯れ落ちる可能性もある。

「ナナシー! 僕たちが中央を突破するからその隙にお願い!」

であれば、この中で魔法に長けている者は一人。植物に関しては右に出る者がいない程に卓越した魔法を操れるのはエルフであるナナシー。

「なるほどね。やっぱりヨハンはわかってるわ」
「いつものように頼むわよ。今回は思いっきりやっていいから」
「任せてくださいカレン様――っと、ここではカレンさんでしたね。つい癖で」

テヘッと笑うナナシー。

「それだけ余裕があれば大丈夫そうね」
「ねぇ、何をするの?」

その中で唯一理解が及ばないのはサナ。

「そういえばあなたは見たことなかったわね。彼女の仕事っぷりを」

疑問符を浮かべているサナに笑みを向けるカレン。

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