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紡がれる星々
第五百五十九話 剣と杖
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(この流れ込んでくる感情)
ありありと伝わってくる溢れんばかりの感情。心の底からの安堵。
(とにかく、良かった)
その温かさを、はっきりと感じ取る。
「どうして貴様がここにいる、シグ」
「お生憎様だなバースモール」
「確かに貴様はこの手で屠ったはずだ。それがどうして?」
クリオリスは疑念の眼差しをシグへと向けた。
「ああ。さすがの俺もアレは死んだかと思ったぜ。けど、見事に騙されたみたいだな」
「騙された、だと?」
「お前が殺したつもりになったのは俺が顔を似せて作ったお前の部下さ」
「…………」
「お前らの企みを知った時に俺は身の危険を感じていた」
「ねぇシグ? 魔族の、十二魔将の企みってどういうこと?」
ミリアが問いかける。
話を理解し合えているのはこの場でシグと魔将クリオリス・バースモールのみ。
「ミリア、あいつら魔族は――」
「シグ!」
説明しようとしたところで響くスレイの声。
ガルアーニ・マゼンダが放つ黒弾がシグへと飛来した。
「舐めてんのか? んなもん当たるかっての!」
シグは瞬間的に魔力を練ると風の膜を発生させる。ジッと音を立てる黒弾は風の障壁によって上空へと弾かれた。
「すご……い」
あまりにも華麗な魔法を目の当たりにして目を丸くさせるミリア。これほどの魔法、他に類を見ない。
「おいおい、ミリアは俺が天才だってことを忘れてたのか?」
「ううん、知ってたけど改めてそう思っただけ!」
満面の笑みで答える。
「シグ! 事情は後で聞くとして、今はとにかくあいつらを倒すぞ!」
「そうだな。じゃあ久々の共闘といこうか!」
ポゥッとミリアに魔法をかけると、ミリアは身体を宙に浮かせて遠くへと運ばれていった。軽く跳躍するシグはスレイの横に立つ。
(勉強になる。こんな魔法の使い方があるだなんて)
圧倒的なまでの魔力操作。ヨハンが思い浮かべるのはシェバンニ。千の魔術師。
「はっはは、これは面白いことになった。まさか裏切り者がそちら側に立つというのか?」
「裏切り者だなんて心外だな。裏切るも何も俺は最初からお前らの仲間になったつもりなんかなかったぜ? お前らが怪しい研究をしていやがるから、何をしているのか調べてただけだっての」
「研究って、なんのことだ?」
周囲を警戒しながら訊ねるスレイ。
「あいつら、魔族は元々人間なんだ」
「確かにそういう話は聞いているが、具体的にどういうことなんだ?」
「俺がグラシオンに着いた頃、いやもっと前だろうな。もう既に国全体の様子がおかしかったんだ」
魔物を率いて周辺諸国を蹂躙しているグラシオン魔導公国。
「それで戦争に勝って喜んでいるぐらいだからな。とても人間の成せることじゃないね。だから俺はグラシオンに何が起きているのかを調査するために予定通り仕官した。そんでまぁ俺は天才だから当然採用されるってわけだな」
「おい、なんか途中が偉そうだぞ?」
「しょうがないだろ。事実だからな」
「はぁ、相変わらずだよお前は」
溜息を吐きながらシグを見るスレイ。
「そうだな。せっかくその才能に目を掛けてやったのに、まさかこういう形で返されるとは思ってもいなかったぞ」
「なーにが、こういう形だ。俺を実験に利用しようとしていやがったくせに」
潜入調査によって得られた情報。
「おい、話が全く見えないぞ」
「まぁ聞いてくれ。それであいつらが禁術の、魔族に転生する研究をしていることを知った俺はより深くあいつらの懐に潜り込んだ。そしてあいつらの真の目的を知った」
「真の目的、とは?」
「お前ももう知ってるはずだぜ? 魔王を生み出すことだよ」
「……本当にそんな存在がいるのか?」
「間違いない。あいつらの目的は魔族の支配する世界を作ることだ。だから俺は師匠と協力してその企みを潰すことにしたのさ?」
「師匠?」
「一度そっちに行ったはずだ。パバールってやつが」
「……あの女か」
チラリと視線を向ける先はミリアへ。パルスタットの神殿に魔宝玉を持ってきた賢者。
「それで、要は魔王を倒せばいいんだな?」
それでこの戦争が終わるのだと。
「ああ、いや、どうやら魔王はまだ生まれていないんだ」
「生まれていない?」
「だが確実にそれは存在する。器としてな」
「…………器」
「これも師匠と色々調べた結果だが、奴らは魔王の器となる人間を探している」
「……覚醒」
スレイが小さく呟く。その言葉を聞いたシグはきょとんとした。
「なんだ、知ってたのか?」
「いや、それらしいことをあいつらが口にしていたのを聞いた」
「そうか」
「納得した。つまり、この戦場に器になる人間がいるということだな」
「どうしてそう思う?」
「あいつだ」
スレイの視線が捉えているのはシルヴァたちと激しい戦いを繰り広げている魔族、ガルアーニ・マゼンダ。
「お前が来る前、今もそうだが探し物をしている風だった。それがまさか魔族の器となる人間だったとはな」
「だったら話は早いな」
「え?」
「例えその魔王の器がここにいたとしても、俺達でアイツらを倒せばそれで万事解決さ」
異空間に腕を伸ばして、取り出すのは先端に魔石を取り付けた杖。
すぐさまクリオリスへと向ける。
「…………そこまで調べておったか。中々にやりおる。貴様の言う通りだシグ」
「どうも」
「だが果たしてその言葉通り、上手くいくのか?」
「上手くいくかどうかじゃねぇよ。やってみせるんだよ!」
杖の先端が輝いたかと思えば、弾けるようにしてすぐさま射出される魔力弾。その大きさは人間大。
「ぬるい」
応戦するようにしてクリオリスが魔力弾を放つのだが、シグはニヤッと笑みを浮かべる。
「バースト!」
互いの魔力弾が衝突するその瞬間、シグが放った魔力弾は八方に弾け飛んだ。そのまま覆い尽くすようにしてクリオリスへと襲い掛かる。
「ぬぅっ!」
しかしスレイの斬撃同様、黒い膜によってクリオリスへの着弾は適わない。
「肝を冷やしたぞ」
危うく甚大なダメージを負うところだった。
「まさかこれだけ――」
以前よりも遥かに向上させた魔法技能。しかしシグの狙いはそれとは別。
「――がはっ!」
突如噴き出す人間とは異なる紫色の血、吐血するクリオリス。
「なるほどな。そうやって掻き消せばいいのか」
クリオリスの背後には既に駆け抜けているスレイ。腹部へと斬撃を加えていた。
(今の一瞬で互いの意図を理解しあったんだ)
鉄壁の防御を築いていたクリオリスを護っていたガルアーニが展開していた障壁。その突破口。一瞬の隙。
「ぐっ、ぐぅっ……」
腹部を抑えて治癒魔法を施すクリオリス。
劣勢だった戦局を瞬間的に自分たちの側へと手繰り寄せた二人の連携。
(魔王の器……それに呪い)
明らかに優勢となった戦局だとはいえ、壁画から読み取れる情報としては、魔王は確かに蘇っていたのだと、そして勇者に呪いを与えたのだと。それがこの後に待ち受けていることは間違いない事実。
ありありと伝わってくる溢れんばかりの感情。心の底からの安堵。
(とにかく、良かった)
その温かさを、はっきりと感じ取る。
「どうして貴様がここにいる、シグ」
「お生憎様だなバースモール」
「確かに貴様はこの手で屠ったはずだ。それがどうして?」
クリオリスは疑念の眼差しをシグへと向けた。
「ああ。さすがの俺もアレは死んだかと思ったぜ。けど、見事に騙されたみたいだな」
「騙された、だと?」
「お前が殺したつもりになったのは俺が顔を似せて作ったお前の部下さ」
「…………」
「お前らの企みを知った時に俺は身の危険を感じていた」
「ねぇシグ? 魔族の、十二魔将の企みってどういうこと?」
ミリアが問いかける。
話を理解し合えているのはこの場でシグと魔将クリオリス・バースモールのみ。
「ミリア、あいつら魔族は――」
「シグ!」
説明しようとしたところで響くスレイの声。
ガルアーニ・マゼンダが放つ黒弾がシグへと飛来した。
「舐めてんのか? んなもん当たるかっての!」
シグは瞬間的に魔力を練ると風の膜を発生させる。ジッと音を立てる黒弾は風の障壁によって上空へと弾かれた。
「すご……い」
あまりにも華麗な魔法を目の当たりにして目を丸くさせるミリア。これほどの魔法、他に類を見ない。
「おいおい、ミリアは俺が天才だってことを忘れてたのか?」
「ううん、知ってたけど改めてそう思っただけ!」
満面の笑みで答える。
「シグ! 事情は後で聞くとして、今はとにかくあいつらを倒すぞ!」
「そうだな。じゃあ久々の共闘といこうか!」
ポゥッとミリアに魔法をかけると、ミリアは身体を宙に浮かせて遠くへと運ばれていった。軽く跳躍するシグはスレイの横に立つ。
(勉強になる。こんな魔法の使い方があるだなんて)
圧倒的なまでの魔力操作。ヨハンが思い浮かべるのはシェバンニ。千の魔術師。
「はっはは、これは面白いことになった。まさか裏切り者がそちら側に立つというのか?」
「裏切り者だなんて心外だな。裏切るも何も俺は最初からお前らの仲間になったつもりなんかなかったぜ? お前らが怪しい研究をしていやがるから、何をしているのか調べてただけだっての」
「研究って、なんのことだ?」
周囲を警戒しながら訊ねるスレイ。
「あいつら、魔族は元々人間なんだ」
「確かにそういう話は聞いているが、具体的にどういうことなんだ?」
「俺がグラシオンに着いた頃、いやもっと前だろうな。もう既に国全体の様子がおかしかったんだ」
魔物を率いて周辺諸国を蹂躙しているグラシオン魔導公国。
「それで戦争に勝って喜んでいるぐらいだからな。とても人間の成せることじゃないね。だから俺はグラシオンに何が起きているのかを調査するために予定通り仕官した。そんでまぁ俺は天才だから当然採用されるってわけだな」
「おい、なんか途中が偉そうだぞ?」
「しょうがないだろ。事実だからな」
「はぁ、相変わらずだよお前は」
溜息を吐きながらシグを見るスレイ。
「そうだな。せっかくその才能に目を掛けてやったのに、まさかこういう形で返されるとは思ってもいなかったぞ」
「なーにが、こういう形だ。俺を実験に利用しようとしていやがったくせに」
潜入調査によって得られた情報。
「おい、話が全く見えないぞ」
「まぁ聞いてくれ。それであいつらが禁術の、魔族に転生する研究をしていることを知った俺はより深くあいつらの懐に潜り込んだ。そしてあいつらの真の目的を知った」
「真の目的、とは?」
「お前ももう知ってるはずだぜ? 魔王を生み出すことだよ」
「……本当にそんな存在がいるのか?」
「間違いない。あいつらの目的は魔族の支配する世界を作ることだ。だから俺は師匠と協力してその企みを潰すことにしたのさ?」
「師匠?」
「一度そっちに行ったはずだ。パバールってやつが」
「……あの女か」
チラリと視線を向ける先はミリアへ。パルスタットの神殿に魔宝玉を持ってきた賢者。
「それで、要は魔王を倒せばいいんだな?」
それでこの戦争が終わるのだと。
「ああ、いや、どうやら魔王はまだ生まれていないんだ」
「生まれていない?」
「だが確実にそれは存在する。器としてな」
「…………器」
「これも師匠と色々調べた結果だが、奴らは魔王の器となる人間を探している」
「……覚醒」
スレイが小さく呟く。その言葉を聞いたシグはきょとんとした。
「なんだ、知ってたのか?」
「いや、それらしいことをあいつらが口にしていたのを聞いた」
「そうか」
「納得した。つまり、この戦場に器になる人間がいるということだな」
「どうしてそう思う?」
「あいつだ」
スレイの視線が捉えているのはシルヴァたちと激しい戦いを繰り広げている魔族、ガルアーニ・マゼンダ。
「お前が来る前、今もそうだが探し物をしている風だった。それがまさか魔族の器となる人間だったとはな」
「だったら話は早いな」
「え?」
「例えその魔王の器がここにいたとしても、俺達でアイツらを倒せばそれで万事解決さ」
異空間に腕を伸ばして、取り出すのは先端に魔石を取り付けた杖。
すぐさまクリオリスへと向ける。
「…………そこまで調べておったか。中々にやりおる。貴様の言う通りだシグ」
「どうも」
「だが果たしてその言葉通り、上手くいくのか?」
「上手くいくかどうかじゃねぇよ。やってみせるんだよ!」
杖の先端が輝いたかと思えば、弾けるようにしてすぐさま射出される魔力弾。その大きさは人間大。
「ぬるい」
応戦するようにしてクリオリスが魔力弾を放つのだが、シグはニヤッと笑みを浮かべる。
「バースト!」
互いの魔力弾が衝突するその瞬間、シグが放った魔力弾は八方に弾け飛んだ。そのまま覆い尽くすようにしてクリオリスへと襲い掛かる。
「ぬぅっ!」
しかしスレイの斬撃同様、黒い膜によってクリオリスへの着弾は適わない。
「肝を冷やしたぞ」
危うく甚大なダメージを負うところだった。
「まさかこれだけ――」
以前よりも遥かに向上させた魔法技能。しかしシグの狙いはそれとは別。
「――がはっ!」
突如噴き出す人間とは異なる紫色の血、吐血するクリオリス。
「なるほどな。そうやって掻き消せばいいのか」
クリオリスの背後には既に駆け抜けているスレイ。腹部へと斬撃を加えていた。
(今の一瞬で互いの意図を理解しあったんだ)
鉄壁の防御を築いていたクリオリスを護っていたガルアーニが展開していた障壁。その突破口。一瞬の隙。
「ぐっ、ぐぅっ……」
腹部を抑えて治癒魔法を施すクリオリス。
劣勢だった戦局を瞬間的に自分たちの側へと手繰り寄せた二人の連携。
(魔王の器……それに呪い)
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