S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
560 / 724
紡がれる星々

第五百五十九話 剣と杖

しおりを挟む
(この流れ込んでくる感情)

ありありと伝わってくる溢れんばかりの感情。心の底からの安堵。

(とにかく、良かった)

その温かさを、はっきりと感じ取る。

「どうして貴様がここにいる、シグ」
「お生憎様だなバースモール」
「確かに貴様はこの手で屠ったはずだ。それがどうして?」

クリオリスは疑念の眼差しをシグへと向けた。

「ああ。さすがの俺もアレは死んだかと思ったぜ。けど、見事に騙されたみたいだな」
「騙された、だと?」
「お前が殺したつもりになったのは俺が顔を似せて作ったお前の部下さ」
「…………」
「お前らの企みを知った時に俺は身の危険を感じていた」
「ねぇシグ? 魔族の、十二魔将の企みってどういうこと?」

ミリアが問いかける。
話を理解し合えているのはこの場でシグと魔将クリオリス・バースモールのみ。

「ミリア、あいつら魔族は――」
「シグ!」

説明しようとしたところで響くスレイの声。
ガルアーニ・マゼンダが放つ黒弾がシグへと飛来した。

「舐めてんのか? んなもん当たるかっての!」

シグは瞬間的に魔力を練ると風の膜を発生させる。ジッと音を立てる黒弾は風の障壁によって上空へと弾かれた。

「すご……い」

あまりにも華麗な魔法を目の当たりにして目を丸くさせるミリア。これほどの魔法、他に類を見ない。

「おいおい、ミリアは俺が天才だってことを忘れてたのか?」
「ううん、知ってたけど改めてそう思っただけ!」

満面の笑みで答える。

「シグ! 事情は後で聞くとして、今はとにかくあいつらを倒すぞ!」
「そうだな。じゃあ久々の共闘といこうか!」

ポゥッとミリアに魔法をかけると、ミリアは身体を宙に浮かせて遠くへと運ばれていった。軽く跳躍するシグはスレイの横に立つ。

(勉強になる。こんな魔法の使い方があるだなんて)

圧倒的なまでの魔力操作。ヨハンが思い浮かべるのはシェバンニ。千の魔術師。

「はっはは、これは面白いことになった。まさか裏切り者がそちら側に立つというのか?」
「裏切り者だなんて心外だな。裏切るも何も俺は最初ハナからお前らの仲間になったつもりなんかなかったぜ? お前らが怪しい研究をしていやがるから、何をしているのか調べてただけだっての」
「研究って、なんのことだ?」

周囲を警戒しながら訊ねるスレイ。

「あいつら、魔族は元々人間なんだ」
「確かにそういう話は聞いているが、具体的にどういうことなんだ?」
「俺がグラシオンに着いた頃、いやもっと前だろうな。もう既に国全体の様子がおかしかったんだ」

魔物を率いて周辺諸国を蹂躙しているグラシオン魔導公国。

「それで戦争に勝って喜んでいるぐらいだからな。とても人間の成せることじゃないね。だから俺はグラシオンに何が起きているのかを調査するために予定通り仕官した。そんでまぁ俺は天才だから当然採用されるってわけだな」
「おい、なんか途中が偉そうだぞ?」
「しょうがないだろ。事実だからな」
「はぁ、相変わらずだよお前は」

溜息を吐きながらシグを見るスレイ。

「そうだな。せっかくその才能に目を掛けてやったのに、まさかこういう形で返されるとは思ってもいなかったぞ」
「なーにが、こういう形だ。俺を実験に利用しようとしていやがったくせに」

潜入調査によって得られた情報。

「おい、話が全く見えないぞ」
「まぁ聞いてくれ。それであいつらが禁術の、魔族に転生する研究をしていることを知った俺はより深くあいつらの懐に潜り込んだ。そしてあいつらの真の目的を知った」
「真の目的、とは?」
「お前ももう知ってるはずだぜ? 魔王を生み出すことだよ」
「……本当にそんな存在がいるのか?」
「間違いない。あいつらの目的は魔族の支配する世界を作ることだ。だから俺は師匠と協力してその企みを潰すことにしたのさ?」
「師匠?」
「一度そっちに行ったはずだ。パバールってやつが」
「……あの女か」

チラリと視線を向ける先はミリアへ。パルスタットの神殿に魔宝玉を持ってきた賢者。

「それで、要は魔王を倒せばいいんだな?」

それでこの戦争が終わるのだと。

「ああ、いや、どうやら魔王はまだ生まれていないんだ」
「生まれていない?」
「だが確実にそれは存在する。器としてな」
「…………器」
「これも師匠と色々調べた結果だが、奴らは魔王の器となる人間を探している」
「……覚醒」

スレイが小さく呟く。その言葉を聞いたシグはきょとんとした。

「なんだ、知ってたのか?」
「いや、それらしいことをあいつらが口にしていたのを聞いた」
「そうか」
「納得した。つまり、この戦場に器になる人間がいるということだな」
「どうしてそう思う?」
「あいつだ」

スレイの視線が捉えているのはシルヴァたちと激しい戦いを繰り広げている魔族、ガルアーニ・マゼンダ。

「お前が来る前、今もそうだが探し物をしている風だった。それがまさか魔族の器となる人間だったとはな」
「だったら話は早いな」
「え?」
「例えその魔王の器がここにいたとしても、俺達でアイツらを倒せばそれで万事解決さ」

異空間に腕を伸ばして、取り出すのは先端に魔石を取り付けた杖。
すぐさまクリオリスへと向ける。

「…………そこまで調べておったか。中々にやりおる。貴様の言う通りだシグ」
「どうも」
「だが果たしてその言葉通り、上手くいくのか?」
「上手くいくかどうかじゃねぇよ。やってみせるんだよ!」

杖の先端が輝いたかと思えば、弾けるようにしてすぐさま射出される魔力弾。その大きさは人間大。

「ぬるい」

応戦するようにしてクリオリスが魔力弾を放つのだが、シグはニヤッと笑みを浮かべる。

「バースト!」

互いの魔力弾が衝突するその瞬間、シグが放った魔力弾は八方に弾け飛んだ。そのまま覆い尽くすようにしてクリオリスへと襲い掛かる。

「ぬぅっ!」

しかしスレイの斬撃同様、黒い膜によってクリオリスへの着弾は適わない。

「肝を冷やしたぞ」

危うく甚大なダメージを負うところだった。

「まさかこれだけ――」

以前よりも遥かに向上させた魔法技能。しかしシグの狙いはそれとは別。

「――がはっ!」

突如噴き出す人間とは異なる紫色の血、吐血するクリオリス。

「なるほどな。そうやって掻き消せばいいのか」

クリオリスの背後には既に駆け抜けているスレイ。腹部へと斬撃を加えていた。

(今の一瞬で互いの意図を理解しあったんだ)

鉄壁の防御を築いていたクリオリスを護っていたガルアーニが展開していた障壁。その突破口。一瞬の隙。

「ぐっ、ぐぅっ……」

腹部を抑えて治癒魔法を施すクリオリス。
劣勢だった戦局を瞬間的に自分たちの側へと手繰り寄せた二人の連携。

(魔王の器……それに呪い)

明らかに優勢となった戦局だとはいえ、壁画から読み取れる情報としては、魔王は確かに蘇っていたのだと、そして勇者に呪いを与えたのだと。それがこの後に待ち受けていることは間違いない事実。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...