S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百七十四話 円卓会議

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ヨハンがモニカを追って円卓の間を出たその頃、アトム達は今回の件の検証を行っていた。

「まぁ結局全部予想が当たっちまったな。最悪な方に」

歯噛みするローファスに、申し訳なさから顔を伏せるジェニファー。その様子を見るエリザは息を吐く。

「違うわよあなた。最悪なのはあの子が魔王として覚醒してしまうことよ。そうなれば取り返しがつかなくなるけど、今なら間に合うもの。何か手はあるはずよ」
「ん……まぁ、な」
「でも実際これからどう動くのさ? あたしとしてはこれだけの事態なのだから協力は惜しまないわ。必要であれば他のエルフにも協力してもらうけど?」
「そうじゃな。状況から察するに、封魔石の封印が解け始めているということじゃからな」

クーナの言にガルドフが顎を擦りながら答える。
世界樹の輝きが落ちているということがそれを示していた。

「何かないのかババア?」
「そうじゃなひよっこ。一つ間違いないのは、世界樹の輝きが落ちてきていることとあのモニカという少女の成長が関係しているということだな。問題はその猶予がどれぐらい残されているのかということだが」
「申し訳ありません、皆様……」

そのやりとりをこれまで黙って聞いていたジェニファーが顔を俯かせたまま謝罪を口にする。

「あなたは謝らなくていいのよ? これは誰のせいでもない問題なのだから」
「けど……」
「そうよ。こんなこと、普通に話したとしても誰も信じられないわ。それにあなたはモニカちゃんの、自分の子の幸せを願っただけよ」
「……クーナさん」
「だいたい過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ。これからどうするかを考えましょ」
「へぇ。クーちゃんにしては良いこと言うわね」
「まぁ、先代なら悩むよりまず行動を起こせって言ってただろうしね」
「あの爺さんなら言いそうだな」
「でしょ? でもエリザちゃん、にしては、ってのだけは余計だけどね」
「ごめんごめん」

軽快な会話が行われる。

(ありがとう、ございます)

涙を流しながら心の中で感謝を述べるジェニファー・スカーレット王妃。
その場にいる面々を以前より知っている、とはいってもエリザ以外とは王の妃として立場上知り合っていることが大半。その繋がりがあるだけ。しかし事の重大さに対しても変わらない余裕は問題を軽んじているわけでもない。

「ドルドもすまなかった。お前に打ってもらった剣を報告もなくモニカに渡してしまって。どうやらお前はあの剣のことに気付いていたようだが」
「構わぬ。これだけの事情、それも理解できるわ。だいたい祝剣とはいえ、武器は飾り物ではない。使ってこそだ。それに儂の打った剣を唯一の贈り物に選ぶ当たりわかっておる。職人冥利に尽きるというものよ」

ぶっきらぼうにだが満足気に答えた。

「そういってくれると助かる」
「しかし鞘はどうした?」

当初よりドルドは疑問を抱いていた。
仮に盗賊などに奪われた物であれば剣と鞘が別々にあるということにも納得はできたのだが、そうではなく出自を誤魔化すために剣のみにしているのだから。

「宝物庫に保管してあるが?」
「そうか。アレは鞘と対にしてこそ本来の能力を発揮できるのだが、どうやら気付かなかったようだな」
「そうか、では後で案内しよう」
「うむ」

問題が落ち着いた頃を見計らって鞘はモニカに渡すことにし、そうしていくらかのわだかまりも払拭される。

「あっ!」

その場に響くアトムの声。

「どうしたのアトム? 突然大きな声だして?」
「またくだらぬことでも思い出したのだろう。そういえばお主とはニーナのことで話があるのだが」
「ちょ、ちょい待てリシュエル。その話は今はマズい」

両手をかざして周囲を見回す。いくらか疑問符を浮かべているのだが、用件は互いの子、その婚約について。
実家に顔を出したエリザからもこっぴどく叱られていた。義父であるカールス・カトレア侯爵がひどく憤慨しており、すぐに連れて来いと。だが侯爵邸には顔を出すことなく逃げ回っていた。

「お、おいローファス!?」

エリザからの視線を苦笑いしながら逸らす。せっかく前回の帰省でいくらかの関係修復が図れたのに元の木阿弥だと。

「どうした?」
「いや、すっかり忘れてた。そういやこないだヘレンに会ったんだが?」

その時は昔馴染みと偶然再会したのだとばかりに思っていたのだが、こうなると事情が変わっていた。

「ああ、そのことか。すまないが呼んで来てくれないか?」
「はい」

立ち上がるジェニファー。

「呼んで来るって、いるのか? ここに?」
「はい。ヘレンには今私の部屋で待ってもらっています。全てが明るみになるようであればヘレンにも多くを説明してもらう必要がありましたので。では呼んで参ります」

軽く頭を下げるジェニファーはそのまま円卓の間を出て行く。
元々モニカから手紙が送られていることもあり、定期的な王都の訪問があるので時期としても丁度良い。何事もなければヘレンもただ娘の顔を見て帰るつもりだった。

「なるほどねぇ。だからあいつは」

逃げる様にあの場を後にしたのだと。
そうして程なくしてジェニファーと共にヘレンがシェバンニと共に顔を見せる。

「みんな久しぶりね。どうやら知らない顔もいるけど、全部見られちゃったのよね」

笑顔の様子に溜め息を漏らすアトム。

「だいたいズルいよねぇ。そんなのが視れるのなら私も一緒に見たかったんだけど?」

空いている席に座りながらヘレンが向ける視線の先にはパバール。

「もう無理じゃな。宝珠の魔力が残されておらぬ」
「ふーん。そうなんだ。残念。ねぇ先生」
「そうですね。しかし今はそれよりも、話はどの程度まで進んでいますか?」

確かにシェバンニとしても人魔戦争をその目で見られるのであれば見てみたかったという思いもなくはないのだが、過ぎたことを嘆いても仕方ない。

「とりあえず、何を話すにしてもあの子達がモニカちゃんを連れて帰って来てからのことだけどね」

呪いに対して実際的にどう対応するのか。
その方針についての話し合いが行われた。



王宮の外、大きく陽が傾いたその頃。方針が決まる。

「――……ま、それぐらいが妥当だな」

後頭部に両の手を回すアトム。

「しっかし、あいつらも大変だぞこれ」
「本当にいいんですか、先生?」
「ええ。問題ありません」

苦笑いしながらシェバンニを見るヘレン。シェバンニは深く頷いていた。

「確かにあれは中々だな。まるでお前たちの若い頃を見ているようだ」
「カレンも頑張っているようだしな」

口にするのはリシュエルとラウル。

「ええ。あなたほど適当ではありませんよ」
「世話になってる」
「にしても、成長なんて早いもんだな」
「ねぇー。エリザちゃんもこんなに老けちゃったもんねぇー」

ピクッと眉を動かして反応するエリザ。

「ちょっとクーちゃん? 今のは聞き捨てならないわねぇ」
「あれ? 聞こえちゃった?」
「聞こえる様に言ったでしょ?」
「さぁ?」

ぎゃあぎゃあと言い合う様はいつも通り。
片肘を着くヘレンは懐かしそうにそのやり取りを見ていた。

(ほんと、変わらないわね)

短い間しか共に過ごせなかったが、幾年月を重ねても変わらない。
見た目は大人になろうとも、掘り起こせる当時の記憶。憧れだった人達。

『エリザお姉ちゃんどうしてあたしを連れて行ってくれなかったの!?』
『ごめんね。でも、あなたにはまだ早かったから』

竜峰コルセイオス山から帰って来た時に泣きながら責めた時のこと。その悔しさが忘れられず奮起した結果、元々の素質はあれども短期間で単独で最上位であるS級に上り詰めるまでになっていたその遠い記憶。
そうして少しの懐かしさを噛み締めていたところ、円卓の間のドアがギィッとゆっくりと開かれる。アトム達の視線が入り口に集中し、そこにはヨハンの姿があった。

「ご迷惑を、おかけしました」

そのヨハンの後ろから一歩前に出て深々と頭を下げる少女はモニカ。無事に連れ帰って来られたのだと。

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