S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第五百八十八話 相談

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翌日、屋敷の私室でクリスティーナ達の訪問を待っている。部屋にはヨハン、ミモザ、アリエル、イルマニ。

「でも、内密な話なんてなんなのかしら?」

疑問符を浮かべるミモザにアリエルは思案していた。

「……まぁ、この場合、大半は碌な相談話にはならないとは思うが、彼らの場合はそれを逆手に取れるだろうから好都合かもしれないがな」
「それもそうね」

彼ら――ヨハン達にとっては思いがけない隠れ蓑。友好の証として使者団が帰るのに伴って次にはエレナがパルスタットを訪問するということになっていた。

「先日の話は、王国に飛空艇の発着場を作り、貿易を行うというもののようでした」
「知ってるんですか? イルマニさん?」
「はい。カールス様に教えていただきまして。情報は時には武器ともなりますので、必要な情報は集めております」
「さすが」

元々の立場もあったとはいえ、イルマニのその優秀さはとんでもないもの。
しかし貿易とはいうものの、通常とは異なり使用するのは飛空艇。多くの人々が行き交うことが容易になるのは利点とする反面、マルクスが危惧していた通り飛空艇の権利をパルスタットが有しているので利益がそれほど取れるというものではない。使用料の支払いを王国側の税金で賄わなければならない。当然それは物品を輸送する側にもしわ寄せがくるので、王国独自の特産品としての付加価値を付けられるかどうかで値上げの有無が生じる。

「ねぇヨハン、エレナがお客さんを連れて来たわよ」
「ナナシー。あなたは何度――」
「げっ、イルマニさんいたんだ」

イルマニの姿を目にする使用人姿のナナシーはすぐに頭を下げた。

「申し訳ありませんヨハン様。エレナ様がお客様を連れて来られたので応接間の方にお通ししておきました」
「……ははは、ありがとう」

時々気を抜いている時にナナシーが怒られるのはいつものこと。

「じゃあミモザさん、アリエルさん、またあとで」
「ええ」
「ああ」

そうして応接間へと向かう。
応接間のドアを開けると、アイシャがクリスティーナ達へと紅茶を淹れていた。

「あれ? アイシャ?」

使用人姿のアイシャに疑問を浮かべる。

「あっ、ヨハンさん。ただお世話になっているのも悪いので私もお手伝いをしようと思って」
「そんな、別にいいのに」
「いいの。私がやりたいだけだから」
「そっか。相変わらず頑張り屋さんだね、アイシャは」
「う、うん」

恥ずかしそうに僅かに顔を俯かせるアイシャとすれ違うようにして会話を交わし、クリスティーナ達の前に座る。

「立派なお屋敷ですね」
「頂き物ですけど」
「それだけの功績を上げられたということです。謙遜されることではありませんよ」
「そうですか」

未だに実感の湧かないその感覚。

「それで、相談とはどういった内容なのでしょうか?」

問い掛けに対してクリスティーナは表情を暗くさせた。
そうして僅かに思案する様子を見せると、ゆっくりと口を開く。

「…………実は、ここ数年、いえ、正確にはもっと以前からなのでしょうが、国の様子がおかしいのです」
「国の、様子?」

漠然としたその内容を受けて隣に座るエレナを見るのだが、エレナは小さく首を振った。

「おかしい、とはどういうことなのでしょうか?」
「それが、上手く言えないのですが、穏やかならざる気配が感じられるのです」

水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウンが言うには、パルスタット国内に於いて不穏な気配が感じられるのだが、それがどのようなものなのかということがわからないのだと。しかし確実に何かが存在しているのだが、大神官や他の聖女に確認するものの要領を得ないのだとあしらわれてしまう始末。

「何もないに越したことはありませんが、感じるのです。邪悪な気配が」
「つまり、僕たちがパルスタットにいる間にそれが何か調べて欲しい、ということでよろしいでしょうか?」
「はい。お願いできますか? もちろん正式な依頼として処理していただいて構いませんので」

確認する様にエレナを見ると、僅かに頷くエレナ。

「わかりました。このことは僕の仲間に話させてもらっていいですか?」
「もちろんです。そのためにシグラムで頼りになる人がいれば依頼を出そうと思っていましたので」

不穏な気配のある国で聖女ともあろう人物が不用意に内部を探る様な依頼を出すわけにもいかない。

「では詳しい話は道中お話させて頂きますね」
「はい。よろしくお願いします」

そうして飛空艇の発着場やその他諸々の外交に関する条約を詰めた後になる五日後、パルスタット神聖国へと向かうことになる。

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