S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百七  話 手紙

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パルスタットに滞在して七日が経った。
街の観光もそこそこに、同じようにしてパルスタット神聖国に来ていた他の学生もある程度は独特な宗教的な雰囲気や隷属の首輪などといったこれまで触れて来なかった部分にも慣れて来ている。
滞在期間があと十日程になっているのは、巨大な飛空艇の魔力を溜めるのに一定以上の日数を要するのだと。他にも小型の飛空艇はあるのだが飛行距離は短く、国内の移動用。

「ねぇ聞いてよヨハンくん。シェバンニ先生ったらほんと容赦ないの」
「ははは。先生らしいね」

宿を訪れ愚痴を漏らしているのはサナ。
せっかくなので遠征ついでに学生達を引き連れて集団依頼をこなしていた。

「いやぁ、懐かしいなぁ。俺も一学年の時はかなりしごかれたからな」

その内容の厳しさったらレインが一番よく知っている。

「でも確かに今このタイミングで経験できたことは大きいかもね」

卒業後に他国へ渡る者からすればこの経験は何物にも得難いモノがあった。

「うぅっ、ヨハンくん達だけずるいよぉ」
「こっちはこっちで大変なんだって」

クリスティーナからの依頼。翼竜厩舎に出入りしながらニーナが魔眼でそれらしい気配を探している。カレンは微精霊を飛ばしながら街の中を。

(どこかに魔族の気配があるって言ってたけど)

捉えたわけではないのだが、それらしい気配がそこかしこに感じられるのだと。

(何かが、起きようとしているんだここで)

人魔戦争を垣間見た以上放っておくこともできはしない。早く正体を掴みたいのだが、動きも取りにくい。

「どうしたのサナ?」

考え事をしていると、サナが深刻そうな表情を浮かべていた。

「あの、言おうかどうしようか迷ったのだけど、一応言っておくね」
「なにを?」

雰囲気から察するに確定した何かではないのだが、それでも重要な何か。

「私が直接見たわけじゃないのだけど、ゴンザくんを見たって子がいたの」
「えっ!?」
「なんだって!?」

ヨハンとレイン、共に驚愕を示す。

「それって本当なの!?」
「う、うん。でも見間違いかも知れないから」
「いや、可能性は十分あるよ」

魔族の気配が感じられる以上、その可能性は十分にあった。

(偶然? それとも……――)

場所が場所なだけに、これがどう関係するのか。

「――……とにかくありがとうサナ。また何かわかったら教えて」
「うん。ヨハンくんも気を付けて」
「ありがとう」
「ついでにレインくんも」
「おいおい、俺はついでかよ」
「当たり前でしょ? 一番危ないことするのいっつもヨハンくんなんだからヨハンくんの心配するのが最初なの」
「ははは。ちげぇねぇな。ったく、頼むぜ親友」
「そんなことないと思うけどなぁ」

首を傾げるヨハンに対して溜息を吐くレインとサナ。

(ダメだコイツ、自覚ねぇんだわ)
(ほんとヨハンくんって色々と危なっかしいからほっとけないのよねぇ)

共に自身のことは凡人と認識している。だからこそ少しでも追い付こうと、必死にここまで努力してきた。思い返せば当時では考えられない程の力を身に付けて。

「ヨハン様、よろしいでしょうか?」

部屋をノックされ、宿の従業員である猫耳の獣人が姿を見せる。

「どうかされましたかミケさん?」
「お手紙を預かっております」
「手紙?」

受け取りながら疑問符を浮かべていると、そっと手を握られた。

「ヨハン様。先日はありがとうございました」
「ああいえ、無事でなによりです。あれからなにも?」
「はい。さすがに聖女様であるクリスティーナ様と懇意になさっているシグラム王国からの来客に手は出さないかと」
「なにかあったの?」

二人の会話に疑問符を浮かべるサナ。

「一昨日、この人、ミケさんが絡まれているのを助けたんだよ」
「そうなんだ」
「はい。相手が聖騎士の方でしたので困っていました」

宿の食事処で酒に酔った聖騎士。序列としては土の七位だったのだが、聖騎士ということもあり他の従業員も手を出せずに困っていた。

『ヒック、おいおい、オレの相手ができねぇってのかよ?』
『こ、困りますお客様』

手を出していいものなのか迷っていたのだが、先に手を出したのはヨハン側。
ガシャンと瓶が聖騎士の頭に当たり、酒は聖騎士の頭から全身を浴びせさせ、そのまま床に飛び散る。

『誰だッ!?』
『おっと、すまないね。酒を注いで欲しそうだったから注いであげたのだが?』

瓶を投げたのはアリエル。隣で溜息を吐くミモザ。

『せっかく美味しいご飯食べてたのにあんたのせいで不味くなったじゃない。どうしてくれんのよ』
『だったらテメェら二人が注いでくれりゃあいいじゃねぇかよ』

どすどすと近付いて来る。

『こんなガキの相手してもしょうがねぇだろ?』
『じゃあヨハンくん、後は頼んだわよ』
『え?』
『私達は食事中なのでな』
『い、いや、ちょ、ちょっと』
『おいおい、見捨てられたのか坊ちゃんよぉ』
『……ははは。どうなっても知りませんよ』

結果、ドローネと名乗った聖騎士を倒してしまっていた。
気を失ったドローネを従業員が神殿に連絡して連れ帰ってもらっているのだが、以降音沙汰がないのは気にはなっていた。

(そっか。その辺り計算してたんだね)

水の聖女クリスティーナがいるというミモザとアリエルの打算。でなければいくら酒に酔っていたとはいえ聖騎士を叩きのめすことなどできはしないと考える。
しかし実際はそんなことはなかった。アリエルもミモザも酒に当てられていただけ。気持ちよく酒を呑めればそれで良かった。ついでにヨハンが聖騎士を倒すのを酒の肴に。

「では、失礼します」

頭を下げるミケを見送りながら、手紙へと視線を向ける。

「ん?」
「どうかしたの?」
「なんて書いてんだ?」
「いや、それが……」

ぴらっと手紙の内容に目を通すのだが、詳しい話は直接話す、と。手紙の主は先代水の聖女テトであり、急ぎで来て欲しいと書かれていた。

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