S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
649 / 724
神の名を冠する国

第六百四十八話 疑問と真贋

しおりを挟む

火の蜥蜴。サラマンダーと呼ばれる召喚獣――このパルスタットに於いては神獣と称されるその存在はまるで魔物の如き凶暴さを露わにしていた。術者の意思をその行動に反映させるのが召喚獣。

「何をするつもりさね?」

特に何かを打ち合わせをしたわけではない。しかしテトとカレン。二人の智謀を持ち合わせればその対応には打ち合わせなど必要としない。

「まぁいいさね。何をしようとも無駄さね」

バニシュ自身を纏う炎のゆらめき。一際大きく蠢くと、バニシュから繰り出されるのは数多の火の粉。その火の粉一つひとつに魔力が込められている。

「なに!?」

しかしそれらはサナ達の下へと到達することはなかった。舞い上がる火の粉は一定以上の距離を飛び、何かに張り付いている。

「引っ掛かったわね」

小さく笑みをこぼすカレン。
薄暗い地下水路であるからこそ気付きにくいのだが、よく目を凝らすと、バニシュを取り囲むようにして微かに円形の薄い膜が生じていた。その膜に火の粉がひたひたと張り付いている。
展開されていたのは限界ギリギリまで薄く張られた魔法障壁。カレンが繰り出したもの。本来であれば術者や他者の身を護るために使用する障壁をこの場に於いては用途を逆転させていた。

直後、ドゴンと障壁の中で大きく響く爆発音。何かに触れて初めて効果を発揮するバニシュの魔法の特性を逆手に取る。

「ふっ。小癪な真似を。しかしこんなものでウチが倒れるとでも?」

障壁が決壊する程の爆発の中なのだがバニシュは無傷。しかしそれもカレンにとっては想定内。

「ふふっ」
「なにが可笑しい?」
「だってあなたぐらいの魔導士をこの程度で倒せるだなんて思っていないもの。これはただの時間稼ぎよ」
「なに?」

カレンが時間稼ぎに回った理由。それは後方でいくつもの水撃を受けている召喚獣の対処。

「ちっ。神の使いを畏れぬ愚か者どもめ」

水撃を受け続けているのは自身の召喚獣であるサラマンダー。

「手数を緩めるな! このまま一気に押し切るのじゃ」
「はいっ!」

テトとサナ。二人の水魔法の使い手による攻撃。火に対する水の絶対的な相性は申し分ない。

(ぬぅ。それにしても、これは厄介じゃな)

手数は勿論、一撃の威力も魔力と体力の消費を顧みずに上げているのだが、先程よりもダメージを負わせられていない。弱るどころかサラマンダーは瘴気を生み出していた。見るからにバニシュの怒りに連動している。

「おねがい。おねがい、もうすこしだけ」

そこでテトの耳に不意に飛び込んで来る小さな声。

「ウンディーネさん力を貸して。もうちょっと、だから。私も頑張るから!」

思わず耳を疑い、目を丸くさせてサナを見た。

「お主、今なんと言った?」
「え?」
「ほれっ、今しがただ」
「頑張る、から?」
「頑張るのは当然じゃ!」
「すいません!」
「その前じゃ」
「え?」

いきなり質問をぶつけられることの意図が全くわからない。

「その前? えぇっと……ウンディーネ、さん? 力を貸して?」
「やはりそうか! その魔具じゃな」
「え? え? ちょ、ちょっと、テトさん!?」

手を緩めるなと言ったテト自身が水撃を放つ手をピタと止めている。凝視しているのはサナのブレスレット。

「ギシャアアアッ!」

まるで獰猛な獣の如く吠えるサラマンダー。
テトの魔法がなくなったことでサラマンダーが勢いを吹き返し始めた。

「ぐっ!」

サナの魔法だけでは力を増幅させているサラマンダーは押し込めない。

「どうも妙な違和感があるかと思っておったのじゃが、なるほどそういうことか」
「な、なにがですかっ!? それよりもあっちは」

ガシッと腕を握られたことでサナの魔法も止まってしまう。

「これは四大精霊ウンディーネの力を宿しておるのじゃな?」
「え? は、はい」

チラとサナの顔を見上げるテト。しかしすぐさま視線は再びブレスレットへと向かう。

「ふむ。見るからにただの模造品や模倣品には見えないが? まさかとは思うが、これは本物なのか?」

どうにも勘繰る様なその眼差し。
模造品。この言葉の意味は四大精霊を筆頭に、世界の名だたる存在の力を宿している物のこと。特に四大精霊はその知名度と汎用性の高さからして作られやすいし作りやすい。自然界の四属性のマナを素として作られるのは大体がそのような扱いを受けていた。
しかし伝説級の道具と比べればその大体が本来の性能からいって粗悪品。しかしそれはあくまでも本来の性能と比較しての、ということ。
それはサナ自身も知っていた。だからこそ類似品にはない力がこのブレスレットには宿っている。街中に見られるそれらの模造品に比べれば圧倒的に本物に近しい。それだけの力も引き出せている。

「……まぁ、はい……そういう意味では本物なの、かな?」

本物を知らないし、謂わばこれは後継品。

「なんじゃ歯切れが悪い言い方をしおるよの。まぁいい、とにかくこれにはまだ何かを感じる」
「そうですね。ウンディーネさんの力を最大まで引き出せたらもっと凄いかもしれないですね」
「その口振りだとウンディーネ本人を知っておるようだが?」
「あー……本人から力を授かりましたから」

苦笑いしながら答える。あまりにも突飛な言葉にテトは耳を疑う。しかし嘘とも冗談とも思えない何かがブレスレットの奥底から感じられた。

「そ、そんなことよりも! 早くしないとっ!」
「だとすれば甘いな」
「え?」
「仮に本物だとしてだ、本物であればこの程度ではない」
「で、でも……」

本物なのは間違いない。しかしテトの言葉の意味が理解できない。これまでにも確かな力をブレスレットは与えてくれていた。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...