S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百五十五話 打開策?

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レインとリオンの二人がかりだろうともユリウス一人に互角の攻防。それどころか徐々に疲弊させられていた。

「このままではいけないわ」

戦況を分析するマリン。もどかしさを感じながら焦燥感に駆られている。

「レインっ!」
「こっちくんな!」

駆けだそうとするマリンに対して大きく声を掛けるレイン。

「この状況で女を気遣う余裕があるとは、私も軽く見られたものだ」

高速の移動術。瞬時にレインの目の前へと姿を見せるユリウスは横薙ぎに剣を振るっていた。

(んなぁろぉっ!)

まともに直撃すれば身体を真っ二つにされる勢い。
背筋を寒くさせるその一撃に対して、レインは両の短剣を重ね合わせて受け止めることでなんとか防御姿勢を取れるのだが――――。

「がはっ!」

後方に大きく吹き飛ばされ、壁に背中を強打する。

「ぐっ、くっそ、いってぇ……」

吹き飛びそうな意識をなんとか保ち、吐血しながら片膝を着いた。

「ちっ、どうすんだよこれ」

胸の感触。肋骨が何本か持っていかれたのは感覚的にわかる。
治癒魔法は元々不得意。リオンが使えるとも思えない。離れたところで心配そうに見ているマリンは使えるのだが、効力は薄い。

「ったく、めんどくせぇなおい」
「無事か?」

即座にレインの近くに来るリオン。

「無事じゃねぇよ」
「ならばこれを使いたまえ」

放り投げられる小瓶は回復の魔法薬。

「んだよ。いいもん持ってるじゃねぇか。じゃあ遠慮なく」

親指でピンっと栓を抜くと、ぐびっと一気に飲み干す。

「あんがとよ。おお、これはかなり良いやつじゃねぇかよ」

みるみる内に痛みが引いていった。

「そうだな。クリスティーナ様の加護が込められているから当然だ」
「これがあるならまだやれるな」
「……残念ながらそれが最後だ。残りは街の方に持たせてある」

水の部隊に所属している兵達。被害甚大になるであろう街の方が案件として戦前は重要だった。
そもそも、リオンも戦闘は覚悟していたが兄と対峙することになるとは思ってもいなかった。

「ったく。そういうことは飲む前に言えよ」
「言えば飲まなかったのか?」
「飲んだよ。迷わずにな」
「ならば変わらないではないか」
「ああいえばこういう奴だな。まぁいいや。にしてもお前の兄ちゃんどうなってんだよ。ありゃあ強すぎじゃないか?」

自身も相当に強くなったという自負と自覚はあったのだが、世の中は広いものだと改めて認識する。さすがは国家を代表する聖騎士という評価。

(やっぱ魔族化してんだろうな)

とはいえ、大陸最強の呼び声高い最上の強者達を知るレインからすれば、それらに匹敵するやもしれない強さを持つ者など、いくら世の中が広いとはいえそう何人もいるとは思えなかった。
しかしユリウスの強さはそれらに迫る勢いを見せている。つまり、その原因と仮定できるのは魔族化、それ以外に考えられない。

「兄さんは昔から強かったさ。強すぎると言ってもいい程だ」
「ちっ。なんだよそれ。兄弟自慢か?」
「いや、強すぎるのだよ。異常だと言ってもいい」
「ってことは、やっぱ理由があるってことだろ?」
「……恐らく」

立ち上がり、リオンとレインが正面に捉えるのは剣に炎を灯しているユリウス。

「どうした? 話はもう終わったのか?」

魔法剣を使用しているにも関わらず、併用する闘気による身体能力の向上。そのレベルが明らかにリオンの知っている兄よりも高い。

「なら……俺もあんま言いたかないけど、魔族化の影響じゃねぇのか?」

仮定でしかなかったのだが、もうほぼ確実だろうと。そう考えれば概ね納得がいく。

「元に戻せるのか?」
「…………俺は知らないね……――」

僅かに思考を巡らせるのは、かつて巻き込まれるようにして目にした人魔戦争。元に戻せるような情報の一切はなかった。それがあればシグはスレイを元に戻している。

「――……つーか、無理かもしれねぇ」

その可能性に希望を持たせるような無責任なことなど出来ない。

「…………そうか。ならば、せめて兄さんがどうしてあれだけの殺意を持っているのか知りたかったのだがな」

言い終えるとダンッと勢いよく踏み込むリオン。

「…………」

そのリオンの背中を見送ると、リオンは駆けながら顔だけ振り返った。

「キミは何か打開策がないか考えてみてくれ! 少しだけなら時間を稼ぐ!」
「……ああ」

即座に剣を交えるリオンとユリウス。高速の剣技を繰り広げるユリウスなのだが、回避と防御に専念するリオンはそれらの猛攻に対して多少の切り傷を負いながらも致命傷は避けられている。

「打開策、か…………」

そんなことを言われてもすぐには思いつかないが、ユリウス・マリオスがどうして魔族化したのかに関しては僅かに思い当たることがあった。それもかなり偏った考えに基づいた推測でしかない。

「レインっ!」

思考を巡らせている最中、遠くから恐る恐る近付いて来るマリン。
リオンとユリウスの戦いに気を付けながら壁伝いにレインへと向かい歩いて来ている。

「おぅ。すまんな、やっぱあいつ強えわ」
「そんなこと見ればわかりますわ。だから今のうちに逃げますわよ」
「…………は?」

チラリと通路に目を送るマリン。不意にマリンが口にした言葉にレインは耳を疑う。

「なんつったいま?」
「だから、ここは彼に任せてわたくし達は離脱しますわって言っていますの」
「だからなんでだよ?」
「決まっているではありませんの。彼とレインでは勝てませんわ。だったらせめてわたくし達二人だけでも助かるべきだと思いますの」

目を見れば本気で言っているというのはわかる。そもそもこんな状況で冗談を言うような奴ではないことはわかっていた。

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