S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百七十九話 空中戦

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神都パルストーンでは激しい戦闘。獣人と神兵に魔物といった混乱した戦いが繰り広げている中、その空ではまた別の戦いが繰り広げられていた。

「な、なんだアレは?」

先頭を切って突入していた赤狼族も混乱している。翼竜に跨っているのが聖騎士の鎧を着た男と、七族会と契約を交わした竜人族の少女。
高度を下げた時に僅かに目にしたことからしても間違いはない。

(いったいどうなっているというのだ?)

ただ、わからないのは聖騎士の目に見える異形を伴う異常さ。見間違いでなければ風の紋様が彫られていた。見えなかったとしても翼竜に跨っていることからしても風の部隊に違いはないのだが、どうして竜人族の少女と敵対しているのか。

「族長! 今は指示を出してくださいッ!」
「あ、ああ。そうだな。全軍、ニンゲンどもが混乱している今が勝機だ! 一気に圧し進めッ!」

しかし悠長に戦いの行方を眺めているわけにもいかない。チラリと視界に捉えながらも街への侵攻を再開する。





「そろそろ我等も向かおうぞ」
「ハッ!」

最後方に控えてパルストーンの様子を見ていた獅子王族。状況を見るに、全軍で踏み込んで一気に攻勢に出るべきだと判断した。

「ぐあっ!」
「ごふぅ」

攻め入ろうとした直後、後方の兵達が次々と吹き飛ばされる。聞こえてくる叫び声。

「何事だ!?」
「わ、わかりません! 突然背後から人間が姿を見せました!」
「なに!?」

周辺は伏兵がいないかと、虱潰しに調査をしていたはず。

「ダメです! 手に負えません!」
「相手はどれぐらいいる?」

最後方は獅子王族の戦士が多数控えていたのだが、まるで相手になっていない。

「二人――いえ、戦っているのは一人です!」
「む、むぅ……」

矛を手にする獅子王族の族長であるバンス・キングスリーが前に出る。
たった一人を相手にして踏み込まれていた。

「おっ、ここがリーダーか」
「ここまで来るとはお前は何者だ? ここへ何しに来た?」

矛先を目の前に姿を見せた軽装の黒剣の男に向け、臨戦態勢になる。

「なにしにって、なんていやぁいいのかな? ただの冒険者なんだけどな」
「もう。ここは正直に話し合いに来たって言えばいいだけよ」

男の後ろから姿を見せる金色の髪の女性。バンスが見たところ魔導士。

「おいおいエリザ。話し合おうとしたけど襲って来たのはこいつ等の方だろ?」
「そうだけど」
「どこの誰だかわからぬが、仲間の仇、覚悟しろッ!」

勢い良く突き出されるバンス・キングスリーの矛。戦闘力でいえば単体で獣人の最高峰。

(殺ったッ!)

踏み込んで来たのに呑気に話しているからだと思いながら胴体を一突きにしようと突き出す。

「あん? んだよ。テメェもやるってのか?」
「なっ!?」

確実に一突きにしたはず。それだというのに黒剣を矛の間に滑り込まされていた。どれだけの反射神経をしているのか。

「ぐっ……」
「勘違いすんなよ? さっき仇つったけど誰も殺してねぇっての」
「む? 殺していないだと?」

男の言葉の通り、顔を振りながら立ち上がる何人かの獅子王族の戦士たち。

「加減をしていた、ということか?」

歴戦の戦士である獅子王族を相手にして殺さずに気絶させることなど尋常ではない力量差。

「まぁな。俺としては殺る気で来た相手に情けなんかいらねぇと思うんだけどよ」
「それだとまた不要な争いを生むだけでしょ? いい加減学んでよ」
「わかってるっての。だからこうして手加減してやってんだろ」

まるで緊張感のない会話。しかしはっきりとしていることがある。

(たった二人でも、やろうと思えばいつでもやれるということか)

それだけの強者。ならば話し合いに来たということも嘘ではないだろう、と。
そのままバンス・キングスリーは矛を下げる。

「お?」
「わかった。話を聞こう」
「にしし、あんがとよ」

そうしてパルストーンへと踏み込もうとしていたところ、突然姿を見せた人間――アトムとエリザと話をすることになった。





障害物のない空を大きく飛行する二頭の翼竜。しかしそれはこれまで日常的に見られていた光景とは大きく異なっている。

「ぐっ……」

漆黒の翼竜に跨るカイザスは後方からの圧力に耐えていた。

「ギガゴン! 次はあっちあっち!」
「わかっておル」

速度はギガゴンの方が勝っているのだが俊敏性はカイザスの翼竜ボルテックスの方が上回っている。

「舐めるなッ!」

上方に旋回しながらギガゴンの後方に回るカイザスは、ボルテックスの骨から生み出した魔剣を大きく振るった。生み出されるのは風の刃。

「はあッ!」

手甲煉獄に魔力を込め、ギガゴンへと迫る風の刃を炎の拳圧によって相殺する。

「無用な心配ダ。あの程度でワレの皮膚には傷もつけられまイ」
「けど痛いのは痛いでしょ?」
「……むぅ」
「そんなことより、どうやって倒そうかアイツ?」

戦局は平行線。

「ワレの一撃であれば容易く葬れるのだが、お主が控えろというのではナ」
「だって、街をこれ以上壊したらだめだよ」

ギガゴンの魔力弾の破壊力であれば眼下にいる多くの人達を巻き込んでしまう。

「ならばどうする?」
「うーん、ちょっと待って。ん?」

何か良い方法がないかと考えるのだが、ふと視界に入るのは眼下。

(これってカレンさんとサナさん? すっごい魔力量)

よく知る魔力を感じ取る。

「ねぇギガゴン」
「なんダ?」
「ギガゴンのこと、信じてるね」

何を言い出したのかわからないのだが、不意に角を握られるギガゴンは顔を上に向けた。

「そのまま真っ直ぐに飛んで!」

意図がわからないニーナの言葉にただ従うギガゴン。

「何をする気ダ?」

突然高度を真上に上げ始めた様子を訝し気に見るカイザス。

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