S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
690 / 724
神の名を冠する国

第六百八十九話 水の聖女の意地

しおりを挟む

テトとバニシュとアリエルが戦う教皇の間は、飛び交う魔法により大きく損壊していた。
平時であればこれだけの騒ぎになればすぐに神兵が多く駆け付けるのだが、神都パルストーン自体にはもうそのような余裕などない。それほどの未曽有の事態に見舞われている。

「これは厄介だな」

そうした中、アリエルの目の前に立つ二人の光の聖騎士。白と黒の鎧。

「想像以上の強さだな貴女は」
「それはこちらの台詞だがね」
「我等二人を相手にして尚もそのような軽口を吐けるとは恐れ入る」
「そうしていないと耐えられないと思ってくれて構わないさ」

そうしてアリエルが向ける視線の先、聖騎士二人の後方には光の聖女アスラ・リリー・ライラックの姿。

「あなた程の武人、ここで死なすのは惜しいです」
「私が死ぬことが前提なのだな」
「ええ。違いますか?」
「死力を尽くしてでもそこは通らせてもらおう」
「そうですか。やはり対話は無駄なようですね。そもそも、ここで貴女が私たちを倒せたとしても、あなた達には彼女を救い出すことなどできないでしょう」
「言ってくれる」
「事実です」

確かに囚われているモニカとエレナを助ける手立てに思い当たることがあるわけではない。

「……そうかもしれないが、やってみなければわからないだろう」

とはいうものの、聖騎士二人の強さが相当なもの。アリエル自身ここへ来た時点ではまだ幾らか余裕はあったのだが二人同時に相手取ることがそもそも難しい。

「これは冗談ではなく、久々に死ぬ気でかからないといけないみたいだな」

時間的猶予が残されていないのは、光の聖女アスラの奥に浮かぶモニカとエレナが放つ光の規模からしても予想出来ていた。

「早くしてくれないかミモザよ」

反対側、自身の後方で捕らえられている元相方の姿を見る。
そこでは土の檻から脱出を試みているミモザ達の姿。

「これは!?」
「なにか見つけた?」

ミモザとカレン、二人で牢の解除の方法を探っていた。

「はい!」

力強く声を発すカレン。

「だったら、そっちは任せるわ」

すぐさま振り返るミモザ。

「ねぇニーナちゃん、お願いがあるの」
「ふぇ? お願いって?」
「ここを出た後のことよ。そっちのドラゴンにも手伝って欲しいの」
「ワレに何をしろと言うのだ?」
「勿論あなたにしかできないことよ」
「ふむ」

土の牢を解除したあとのことを、ミモザを中心として話し合っていく。

「それで、何を見つけたんですか?」

横からカレンに問い掛けるサナ。行っていたのは牢に流れる魔法式の解析。

「あの子、最後の力を振り絞って自分の魔力を紛れ込ませていたのよ」
「あの子って……――」

カレンの言葉の先の女性――それが誰の事なのかということはサナにもわかっていた。
水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウンを見るのだが、その姿に思わず胸を痛める。未だにクリスティーナは血を流したまま倒れていた。今は血を流し過ぎたのか、意識を失っている。

(あれ?)

しかしどうにも妙な感覚を得た。明らかに不自然。
地面を流れる血が、どうにも土の牢へと向かっている。そこから推測されるのは先程のカレンの言葉の意味。

「――……もしかして、自分の血を使って!?」
「その通りよ。ほんの小さな力だけど、あの子の力が綻びを生んでいるのよ」

複雑難解で強固な魔法式で展開された土の牢。
そこへクリスティーナの魔力が割り込むようにして介入していた。

(ほんと、恐れ入るわ)

生死を分かつこの状況に於いて、いくら水に秀でているとはいえ自身の血を操って土に混入させるなど。

(ありがとう)

水の聖女の成せる業。
これだけのことができるのであれば、たとえ自分自身への治癒魔法ができなくとも少なくとも自然治癒力を上げて意識を保つ程度であればできたはず。

(絶対にあなたも助けるわ。だから、今は我慢していて)

モニカとエレナだけではない。可能な限り多くの人を助ける。

「もう、あんな思いは絶対にしない!」

脳裏に甦る記憶。助けたくとも助けられなかったサリーのことを思い出していた。
あの時のような後悔をしないためにも、全員でここを生きて帰るのだと。
精神力と集中力を最大に発揮するカレンの決意と共に胸の翡翠の魔石が仄かに光を宿す。

「ここっ!」

瞬間、クリスティーナの血の魔力によって得られた綻びの中心部に辿り着いた。

「あとはここへ」

ようやく見つけた点。そこに魔法式を壊すための魔力を流し込めばいいだけ。だが強固に張り巡らされたこの魔法式へはカレンの魔力量ではまだ足りない。

「サナ? あなた魔力はあとどれくらい残ってる?」
「え? あっ、いえ、私はそんなに……」

伏し目がちになるサナ。地下水路での戦いで大きく消耗してしまっている。

「そう。それは仕方ないわ。あなたには十分助けられたから気にしないで」
「…………は、ぃ」

サナが負い目を感じないように声を掛けたのだが、それでもカレンは歯痒さが残った。

(自分の力不足が憎い)

それというのも、そもそもカレン自身の力不足によるもの。本来であれば不足している分の魔力は微精霊の力を使えば必要な量が足りるのだが、これだけ混沌とした場であるため微精霊は逃げるようにしてもうほとんどがこの場からいなくなっている。

「だったら、ニーナちゃんやあの人たちの魔力は使えないんですか?」
「難しいわね。できればサナの方が親和性が高いから良かったのだけど」

魔力自体にそもそも相性がある。個性とも言えるそれは魔力の波長が合わない者同士では相乗効果が薄い。サナとは合同魔法が扱えるほどに良かったのだが、ニーナとは明らかに合わない。というよりも、ニーナの場合は竜人族という種の特性上、魔力の流れが不規則であり、量もカレンに比べて膨大。荒れ狂う魔力の性質の制御をしなければなかった。時間をかければそれもなんとかなるかもしれないのだが、今はそのような余裕などない。人化したギガゴンにしても似たようなもの。
あとはミモザになるのだが、ミモザの場合は少ない魔力量を繊細かつ緻密な操作で扱っているので魔力が多くあるわけではない。

「こうなったら四の五の言っていられないわね」

とはいえ、他に手立てがあるわけではない。ミモザの魔力であれば恐らく少なくとも波長が合うはず。

「今の話、もしかしてアレがあれば解決するのかしら?」
「「え?」」

結論を出したところで不意に背後から聞こえる声。

「まったく。何をしていますのよこんなところで」

カレンが振り返った先、呆れるように声を発しているのはマリンだった。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...