S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百九十六話 呼応

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「何が起きたッ!?」

それぞれが事態により動きを止める中、浮かび上がるモニカとエレナの身体。

「何をするつもりか知らないが、余計なことはさせぬ!」

二人へ向けて腕を突き出すゲシュタルク。背に生えた黒き翼が大きく共鳴するように光を宿した。

「魔王の力はこちらのものとなったのだ。もう貴様らに用はないッ!」

一直線に放たれる黒弾。

「むっ?」

瞬時に飛び込んで来る一筋の影。

「やらせないよ」

黒弾を弾き返したヨハン。ゲシュタルクの顔の横を掠めると、背後の壁を穿ちガラガラと音を立てて崩れ落ちる。

(クリスがモニカとエレナに何かを施そうとしている?)

それならば可能な限りの時間を稼ぐ。

「……よかろう。いい加減貴様の顔を見るのも飽いた。ならば貴様を先に殺してやろうではないか」

浮かび上がる無数の魔法陣がヨハンを取り囲んだ。

「誰を相手にしておるとおもっておるのだ?」

だが的確に射抜く稲光が魔法陣を壊していく。

「やれるものならやってみろ」
「チッ!」

辺り一帯を埋め尽くすシルビアの魔法の数々。

「魔道を極めんとする者の力を思い知るがいい」
「小癪なッ!」

建物の倒壊など意にも介していない。
一層に引き上げられた魔力のぶつかり合い。シルビアとヨハンの二人を相手にして尚も怯むことのないゲシュタルク教皇。戦闘が激しさを増す。

(やはり二人の魂はまだここにあります)

既に原形を留めていない教皇の間。その最中に再び浮かび上がるモニカとエレナ。正面には白き天使と見紛う存在が舞い上がっていた。
この様子ならばまだ息を吹き返すことは十分に可能。だが懸念が一つだけある。

(今にも切れそうですね)

魂の先に繋がっている細い糸。それはゲシュタルク教皇へと向かっていた。

(恐らく、無理矢理移したせい)

元々の魔王の器はモニカ。それが何らかの術式によってゲシュタルク教皇へと移されている。教皇の持つ魔力の高さはクリスティーナも認識していたのだが、人智を越えた魔王の力を移すなどということはいくら教皇の魔力が高かろうとも不可能。
――――通常では。

(エレナ様の力……――)

恐らくそのためにエレナが必要だったのだと。あくまでも推測でしかないが、こうして二人の魂と直接繋がったことで初めて理解した。魔王の力を強引に抑え込むためにエレナの魔力――かつての勇者の魔力を必要としたのだと。
理解したのはそれだけでなく、加えてもう一つの力が大きく作用している。

(――……アスラ様)

二人の魔力に大きく干渉しているのは光の聖女アスラの魔力。これらを相乗的に発揮することで今のゲシュタルクを生み出していた。
そうであるならば、ここですることはただ一つ。魔王との繋がりを断ち切るのみ。

「時間がない」

もう命の火が尽きようとしている。風前の灯火。
エレナとモニカ、二人からゲシュタルクへと繋がっている糸を両の手で握りしめる。

「やあっ!」

すぐさま自身の魔力を流し込んだ。

ドクンッ!

「ぐっ」

クリスティーナの中に湧き起こる激情。負の感情の数々。得も言われぬ波。
あまりにも突然の衝撃にクリスティーナは思わず胸を掴む。

「こ、これだけの感情の渦、す、凄まじいですね」

思わず手放したくなる程の衝動。何よりも悲しみを抱くのは、その大半が聖都パルストーンに住む国民の感情。

「わ、私は聖女です。水の聖女を担う、クリスティーナ・フォン・ブラウン。この命に代えてもこの国を救うのですっ!」

抱く恐怖を振り払いながら、クリスティーナは一層の魔力を流し込んだ。

「ぐっ……ぐぅぅぅっ…………――――」

黒い魔力の波動の中に徐々に白みを混ぜ始める。
そうしてクリスティーナの意識が吸い込まれていった。

「――――…………ここは?」

目の前には荒野の戦場が広がっている。
そこはかつて人魔戦争と呼ばれた時代。

「こんな……こんなにも激しい戦争が起きていたのですね」

誰に何を説明されなくとも全てを理解出来た。クリスティーナの頬を一筋の涙が伝う。

「このような血塗られた歴史を繰り返すわけにはいきません」
「だからこそキミは彼女たちを救わなければいけないのだよ」
「え?」

不意に飛び込んで来る声。全く聞き覚えのない声。

「助かったよ。ボクもようやく現世に戻って来られた。キミのおかげで」

振り返った先では幼女がクリスティーナを見上げていた。





宙に浮く三つの光。煌々と輝く光を、折りたたまれたギガゴンの翼の中で守られるカレン達はその動向を見つめていることしかできない。

(……ティア。わたしはここで何もできないの?)

胸元の翡翠の精霊石を握りしめるカレン。ここに至るまで出来得る限りのことはしている。

(兄さん……わたしはどうしたら…………)

戦いに参加したくとも、自身の戦闘力は誰よりも自分自身が理解していた。これ程までの激闘に入れば足手まといにしかならない。

「カレンさん? それ、どうなってるんですか?」
「え?」

ナナシーに声を掛けられるのだが、それと言われても何のことなのか。
振り返ると同時に、目の前には緑の宝玉が浮かび上がっていた。

「ティア?」

翡翠の精霊石から緑の魔宝玉へスッと伸びる一筋の光。それはトリアート大森林から聖都へ帰還する際に差した時と同じ光。

「あれ?」

一同の視線が精霊石の光に集中する中、サナは腕に違和感を覚える。

「ウンディーネさん?」

小さく呟くのは、ウンディーネの魔力を宿すブレスレットが明滅するように光っていた。

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