「婚約破棄、ですね?」

だましだまし

文字の大きさ
1 / 4

前編

しおりを挟む
「ルア!お前とは婚約破棄だ!」


今日は王宮で行われる社交シーズン最後の大規模パーティ。

王都での政務お疲れ会と言われるようなパーティなので家族で参加している者も多い。
王家主催で国中殆どの貴族が参加する大規模な会であるにも関わらず、身分を越えて気さくにやり取りを楽しめる会であった。

それは日頃、腹の探り合いが多い社交の会を嫌う者たちもこの日のパーティだけは楽しみにする程だ。
なんせ中央での政務が一旦落ち着くので探る腹も無くなり派閥を気にせず純粋にパーティとして楽しめる。

そして今日を過ぎれば領地に帰る者が沢山いる。
次の社交シーズンまで王都を離れる領地持ちの臣下への慰労と壮行の意味を込め、王家は毎回楽しい余興も用意していた。


だから突如響いた王太子ケンシーのこの声も皆は余興が始まったと思ったのだ。

「殿下、もう一度仰ってください」
こう返したのは子爵令嬢ルア・レイナ。

彼女は5歳の頃に聖女として王家が城に迎え入れ、王太子の婚約者となった。
貴族たちは2人をグルリと囲むようにスペースをあけ、王太子自らが役者として何かするのかと楽しそうに眺めた。

「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」
ビシリとケンシーが指差した先にいるルアは令嬢にしてはでっぷりとしている。
目が肉に埋もれ細くキツく見えるほどだ。
「婚約破棄、ですね?」
その細い目をキラリと光らせ噛み締めるように繰り返した。

「そうだ!婚約破棄だ!およそ聖女と思えぬその醜い容姿!身分の低さ!私の婚約者に相応しいとは言えぬ!しかもその醜悪さは容姿だけでなく性格もだったというではないか!彼女から全てを聞いたぞ!」
そう言って肩を引き寄せた相手はヤラド侯爵令嬢のフィリア様だった。

「レイナ子爵令嬢、もう私もフォローをするのは限界なのです…。あなたの傲慢かつ我儘な振る舞いに大勢の令嬢や使用人が苦しんでいると何度も申し上げたでしょう?」

「…いえ、初対面ですし今これが初めての会話ですね」

「そんな!酷いですわ…今まで視覚に入っていなかったと仰りたいのね」
「あぁ、フィリア、可哀想に…。ルア、お前は都合の悪い事は無かったことにするんだな。心の底から失望した!」

3人のやり取りに周りの貴族たちはざわめき始める。
『何かおかしい』そう思う頃には手遅れだった。

「本当に婚約を破棄すると言うなら破棄を宣言をしながら『婚約の腕輪』を外してくださいませ」

ルアが腕を差し出しケンシーが手を掛けた時、バタバタと国王陛下が騒ぎを聞きつけ人垣を押し除け駆けつけてきた。
先程まで王妃殿下と共に今日の挨拶と、その後披露される本物の余興の段取りについて最終確認をしていた。
そのため駆け付けたのが今になったのだ。

悲しいかな、貴族たちが割って入ってくるのが陛下だと気付き、人垣が割れたのとケンシーが腕輪を婚約破棄だと宣言しながら外したのはほぼ同時だった。

「婚約を破棄する!」
「まて!ケンシー!!!」

王の叫びも虚しくケンシーが腕輪を外すと、その薄い金の腕輪はボロボロと崩れ地面に落ちる前に消えていった。
ただ1つ、中央に付いていた真っ赤な宝石だけがカツーンと落ちて国王陛下の前まで転がっていく。

「あぁ…あぁ…なんということを…」
震える手でその赤い宝石を、宝石を模した強力な魔石を摘み上げる。
そして腕輪が外された聖女ルアからは光が放たれた。
皆あまりの眩しさに目を背け、何事かと再びルアを見て…その反応は様々だった。
目を瞬く者、見開く者、2度見をする者…眉をしかめる者もいる。

ルアの容姿が変わっていたのだ。
老婆の白髪のようだった髪は月光のような美しい銀髪に、肉が弛んだ皮膚は白磁の陶器のような輝く白さに、肉に埋もれた隙間から見える仄暗い深淵の様な目は夜の空の様に濃い藍で星が煌めくような瞳を二重が縁取っている大きな目に、でっぷりと不摂生を思わせる身体は曲線美をおび艶かしさすらある。
神秘的で、たおやかで、聖女の肩書に相応しい美しい女性となっていた。

突如現れた美しい女性に其処此処から感嘆の声が漏れ聞こえた。
ただ1人、国王陛下のだけは呻くような声を上げながら前髪をグシャリと掴む。

「ぐっうぅ…あぁあ……!」
皆の視線がルアに釘付けになっていた為、王子ケンシーの容貌も変わっていることに彼がうめき声を上げるまで誰も気付かなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

奪われたものは、全て要らないものでした

編端みどり
恋愛
あげなさい、お姉様でしょ。その合言葉で、わたくしのものは妹に奪われます。ドレスやアクセサリーだけでなく、夫も妹に奪われました。 だけど、妹が奪ったものはわたくしにとっては全て要らないものなんです。 モラハラ夫と離婚して、行き倒れかけたフローライトは、遠くの国で幸せを掴みます。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

飽きたと捨てられましたので

編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。 計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。 横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。 ※7000文字前後、全5話のショートショートです。 ※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。

<完結済>婚約破棄を叫ぶ馬鹿に用はない

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
卒業パーティーでの婚約破棄に、声をあげたのは5番目に破棄された令嬢だったーー記憶持ちの令嬢、反撃に出ます!

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

処理中です...