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前編
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「ルア!お前とは婚約破棄だ!」
今日は王宮で行われる社交シーズン最後の大規模パーティ。
王都での政務お疲れ会と言われるようなパーティなので家族で参加している者も多い。
王家主催で国中殆どの貴族が参加する大規模な会であるにも関わらず、身分を越えて気さくにやり取りを楽しめる会であった。
それは日頃、腹の探り合いが多い社交の会を嫌う者たちもこの日のパーティだけは楽しみにする程だ。
なんせ中央での政務が一旦落ち着くので探る腹も無くなり派閥を気にせず純粋にパーティとして楽しめる。
そして今日を過ぎれば領地に帰る者が沢山いる。
次の社交シーズンまで王都を離れる領地持ちの臣下への慰労と壮行の意味を込め、王家は毎回楽しい余興も用意していた。
だから突如響いた王太子ケンシーのこの声も皆は余興が始まったと思ったのだ。
「殿下、もう一度仰ってください」
こう返したのは子爵令嬢ルア・レイナ。
彼女は5歳の頃に聖女として王家が城に迎え入れ、王太子の婚約者となった。
貴族たちは2人をグルリと囲むようにスペースをあけ、王太子自らが役者として何かするのかと楽しそうに眺めた。
「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」
ビシリとケンシーが指差した先にいるルアは令嬢にしてはでっぷりとしている。
目が肉に埋もれ細くキツく見えるほどだ。
「婚約破棄、ですね?」
その細い目をキラリと光らせ噛み締めるように繰り返した。
「そうだ!婚約破棄だ!およそ聖女と思えぬその醜い容姿!身分の低さ!私の婚約者に相応しいとは言えぬ!しかもその醜悪さは容姿だけでなく性格もだったというではないか!彼女から全てを聞いたぞ!」
そう言って肩を引き寄せた相手はヤラド侯爵令嬢のフィリア様だった。
「レイナ子爵令嬢、もう私もフォローをするのは限界なのです…。あなたの傲慢かつ我儘な振る舞いに大勢の令嬢や使用人が苦しんでいると何度も申し上げたでしょう?」
「…いえ、初対面ですし今これが初めての会話ですね」
「そんな!酷いですわ…今まで視覚に入っていなかったと仰りたいのね」
「あぁ、フィリア、可哀想に…。ルア、お前は都合の悪い事は無かったことにするんだな。心の底から失望した!」
3人のやり取りに周りの貴族たちはざわめき始める。
『何かおかしい』そう思う頃には手遅れだった。
「本当に婚約を破棄すると言うなら破棄を宣言をしながら『婚約の腕輪』を外してくださいませ」
ルアが腕を差し出しケンシーが手を掛けた時、バタバタと国王陛下が騒ぎを聞きつけ人垣を押し除け駆けつけてきた。
先程まで王妃殿下と共に今日の挨拶と、その後披露される本物の余興の段取りについて最終確認をしていた。
そのため駆け付けたのが今になったのだ。
悲しいかな、貴族たちが割って入ってくるのが陛下だと気付き、人垣が割れたのとケンシーが腕輪を婚約破棄だと宣言しながら外したのはほぼ同時だった。
「婚約を破棄する!」
「まて!ケンシー!!!」
王の叫びも虚しくケンシーが腕輪を外すと、その薄い金の腕輪はボロボロと崩れ地面に落ちる前に消えていった。
ただ1つ、中央に付いていた真っ赤な宝石だけがカツーンと落ちて国王陛下の前まで転がっていく。
「あぁ…あぁ…なんということを…」
震える手でその赤い宝石を、宝石を模した強力な魔石を摘み上げる。
そして腕輪が外された聖女ルアからは光が放たれた。
皆あまりの眩しさに目を背け、何事かと再びルアを見て…その反応は様々だった。
目を瞬く者、見開く者、2度見をする者…眉をしかめる者もいる。
ルアの容姿が変わっていたのだ。
老婆の白髪のようだった髪は月光のような美しい銀髪に、肉が弛んだ皮膚は白磁の陶器のような輝く白さに、肉に埋もれた隙間から見える仄暗い深淵の様な目は夜の空の様に濃い藍で星が煌めくような瞳を二重が縁取っている大きな目に、でっぷりと不摂生を思わせる身体は曲線美をおび艶かしさすらある。
神秘的で、たおやかで、聖女の肩書に相応しい美しい女性となっていた。
突如現れた美しい女性に其処此処から感嘆の声が漏れ聞こえた。
ただ1人、国王陛下のだけは呻くような声を上げながら前髪をグシャリと掴む。
「ぐっうぅ…あぁあ……!」
皆の視線がルアに釘付けになっていた為、王子ケンシーの容貌も変わっていることに彼がうめき声を上げるまで誰も気付かなかった。
今日は王宮で行われる社交シーズン最後の大規模パーティ。
王都での政務お疲れ会と言われるようなパーティなので家族で参加している者も多い。
王家主催で国中殆どの貴族が参加する大規模な会であるにも関わらず、身分を越えて気さくにやり取りを楽しめる会であった。
それは日頃、腹の探り合いが多い社交の会を嫌う者たちもこの日のパーティだけは楽しみにする程だ。
なんせ中央での政務が一旦落ち着くので探る腹も無くなり派閥を気にせず純粋にパーティとして楽しめる。
そして今日を過ぎれば領地に帰る者が沢山いる。
次の社交シーズンまで王都を離れる領地持ちの臣下への慰労と壮行の意味を込め、王家は毎回楽しい余興も用意していた。
だから突如響いた王太子ケンシーのこの声も皆は余興が始まったと思ったのだ。
「殿下、もう一度仰ってください」
こう返したのは子爵令嬢ルア・レイナ。
彼女は5歳の頃に聖女として王家が城に迎え入れ、王太子の婚約者となった。
貴族たちは2人をグルリと囲むようにスペースをあけ、王太子自らが役者として何かするのかと楽しそうに眺めた。
「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」
ビシリとケンシーが指差した先にいるルアは令嬢にしてはでっぷりとしている。
目が肉に埋もれ細くキツく見えるほどだ。
「婚約破棄、ですね?」
その細い目をキラリと光らせ噛み締めるように繰り返した。
「そうだ!婚約破棄だ!およそ聖女と思えぬその醜い容姿!身分の低さ!私の婚約者に相応しいとは言えぬ!しかもその醜悪さは容姿だけでなく性格もだったというではないか!彼女から全てを聞いたぞ!」
そう言って肩を引き寄せた相手はヤラド侯爵令嬢のフィリア様だった。
「レイナ子爵令嬢、もう私もフォローをするのは限界なのです…。あなたの傲慢かつ我儘な振る舞いに大勢の令嬢や使用人が苦しんでいると何度も申し上げたでしょう?」
「…いえ、初対面ですし今これが初めての会話ですね」
「そんな!酷いですわ…今まで視覚に入っていなかったと仰りたいのね」
「あぁ、フィリア、可哀想に…。ルア、お前は都合の悪い事は無かったことにするんだな。心の底から失望した!」
3人のやり取りに周りの貴族たちはざわめき始める。
『何かおかしい』そう思う頃には手遅れだった。
「本当に婚約を破棄すると言うなら破棄を宣言をしながら『婚約の腕輪』を外してくださいませ」
ルアが腕を差し出しケンシーが手を掛けた時、バタバタと国王陛下が騒ぎを聞きつけ人垣を押し除け駆けつけてきた。
先程まで王妃殿下と共に今日の挨拶と、その後披露される本物の余興の段取りについて最終確認をしていた。
そのため駆け付けたのが今になったのだ。
悲しいかな、貴族たちが割って入ってくるのが陛下だと気付き、人垣が割れたのとケンシーが腕輪を婚約破棄だと宣言しながら外したのはほぼ同時だった。
「婚約を破棄する!」
「まて!ケンシー!!!」
王の叫びも虚しくケンシーが腕輪を外すと、その薄い金の腕輪はボロボロと崩れ地面に落ちる前に消えていった。
ただ1つ、中央に付いていた真っ赤な宝石だけがカツーンと落ちて国王陛下の前まで転がっていく。
「あぁ…あぁ…なんということを…」
震える手でその赤い宝石を、宝石を模した強力な魔石を摘み上げる。
そして腕輪が外された聖女ルアからは光が放たれた。
皆あまりの眩しさに目を背け、何事かと再びルアを見て…その反応は様々だった。
目を瞬く者、見開く者、2度見をする者…眉をしかめる者もいる。
ルアの容姿が変わっていたのだ。
老婆の白髪のようだった髪は月光のような美しい銀髪に、肉が弛んだ皮膚は白磁の陶器のような輝く白さに、肉に埋もれた隙間から見える仄暗い深淵の様な目は夜の空の様に濃い藍で星が煌めくような瞳を二重が縁取っている大きな目に、でっぷりと不摂生を思わせる身体は曲線美をおび艶かしさすらある。
神秘的で、たおやかで、聖女の肩書に相応しい美しい女性となっていた。
突如現れた美しい女性に其処此処から感嘆の声が漏れ聞こえた。
ただ1人、国王陛下のだけは呻くような声を上げながら前髪をグシャリと掴む。
「ぐっうぅ…あぁあ……!」
皆の視線がルアに釘付けになっていた為、王子ケンシーの容貌も変わっていることに彼がうめき声を上げるまで誰も気付かなかった。
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