18 / 967
時限爆弾ケーキ
夜へカウントダウン/2
しおりを挟む
孔明の指先は漆黒の長い髪をすっとすいてきて、
「あれ~? ボクの爪を見る仕草って、これだったんだけど……」
手のひらをこっちへ向けると、銅色の懐中時計が手に握られていた。何度かしていた。もちろん、策士は一人ではない。月命のおどけた声が入ってきた。
「おや~? 僕のこめかみに人差し指を突き立てる仕草は、こちらです~」
やっていた。困った時に特に。手首がこっちに向くと、桜色のベルトをつけた腕時計が顔を見せた。
焉貴のはだけたシャツの前にある、何重ものチェーンが手ですくい上げられ、
「俺のネックレスも飾りじゃないの~」
その中のひとつは、時計のヘッドだった。当然、優雅な王子夫も策略家だ。
「私の思考時のあごに当てる指は、こちらです」
くすくす笑っていた唇から手を離し、裏を返すと、鈴色の懐中時計があった。
「時計……。どうして、焉貴さんも月さんも、孔明さんも持ってるんですか?」
まだまだ、策士である夫たちの思考回路を理解していない妻だった。光命が遊線が螺旋を描く優雅な声で、おバカな妻に問いかけた。
「教えてほしいのですか?」
「あぁ、はい。お願いします」
素直にうなずく颯茄。テーブルの端に座っていた、明引呼は口の端をニヤリとさせた。
「ふっ! またはまりやがって」
「こうして、お姫さまは、優雅な王子さまに舞踏会へ連れ去れちゃいました」
貴増参がにっこり微笑むのを、不思議そうな顔で、颯茄は見つめたが、
「え……?」
光命の言葉はこれだった。
「それでは、教えて差し上げますから、私も入れてください」
孔明と同じ手口。
「はい! じゃあ、光が入って、8P」
――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と孔明と光命と自分。
策略的に11Pに近づいてゆく。妻は顔を両手で覆って、テーブルの上に突っ伏した。
「いや~! 交換条件の罠で、また増えてる!」
貴増参の羽布団みたいな柔らかな声色なのに、中身は妻の望んでいないものだった。
「それでは、僕が仕上げの魔法をかけちゃいましょう。今夜もみんなでニャンニャンです」
「結局これってか」
明引呼のしゃがれた声が、ふっと笑うと、焉貴が右手をパッと斜めに上げ、ハイテンションで叫ぶ。
「はい! じゃあ、アッキーと貴が入って、10P!」
さっきから黙ってみていた張飛に、妻はまたすがるような瞳を向けた。
「入るんですか~?」
「みんな仲よくが法律っすからね。当然っす」
「はい! じゃあ、張飛が入って、11P! 終了です!」
焉貴が綺麗にしめくくると、妻は椅子の上でジタバタ暴れ出した。
「いや~、そう言う意味じゃないと思う~、その法律は~~!」
と言ってはみたものの、妻は平常心を取り戻して、大きく納得する。
「いや、それも入っているのか。陛下様様~!」
大理石の上で椅子が夫たちそれぞれの後ろへ、ガタガタと引かれ始めた。
「僕の名前は貴増参です。省略しないで呼んでくださいね♪」
夫の口癖を聞きながら、妻だけを置いて、次々と撤退を始める夫たち。
「はあ……」
妻はため息しか出てこなかった。独健の鼻声が颯茄を間にして、頭上で舞うと、
「蓮、頼む」
「ん」
俺さまの短いうなずきが起き、テーブルの上は、食事をする前に一気に戻った。
どこまでもずれているクルミ色の瞳は、生クリームも茶器もなくなった、テーブルクロスの白を眺めながら、力なく両手は膝の上に落ちた。
「あぁ~。蓮の魔法で、綺麗に後片付け……」
「お前、ピンヒール履くの?」
「サイズがあるのなら、履きますよ~」
焉貴の質問に、月命が答えながら、どんどん瞬間移動で、食堂から消えてゆく。そんな中で、冷静な水色の瞳と無感情、無動のはしばみ色のそれは一直線に交わってしまった。
「夕霧……」
「光……」
一度消えかかっていた明引呼が再び戻ってきて、男は背中で語れ的に、光命と夕霧命に忠告した。
「てめぇら、ここでおっぱじめんなって。フライングしすぎだろ」
孔明が後ろ手に首をかしげると、長い漆黒の髪がさらっと肩から落ちた。
「颯ちゃん、ボクたちのデジタル思考回路を解説するの忘れちゃったから、罠にはまっちゃったのかも~?」
「はぁ~……問題はあと回しにしてはいけませんって、よく言う。今日の反省点だ……」
颯茄が見上げると同時に、聡明な瑠璃紺色の瞳はすっと消え去った。一人きりになった食堂で、妻は妄想世界に飛び、乙女軍という戦士になり、いつの間にか戦地に立っていた。
頭には決意の証の赤いハチマキが巻かれていたが、荒野を駆け抜けてくる突風に連れていかれ、どこかへ飛び去った。打ち砕かれた熱意を表すように。
斜めがけしたライフル銃を背中に背負い、惨敗という現実を受け止めるしかなかった。敵軍の兵士はもうどこにもいないのである。
「こうして、私は十対一という、夫たちと妻の戦いに敗れたのだった。文字通りはめられたのである。いや、ここからもはめられるので――」
さりげなくまだ一人残っていた敵兵――張飛が背中をとんと優しく叩いて、颯茄を励ました。
「今日は、あの甘いケーキみたいに、いつもよりももっと優しい夜になるっすよ」
「ありがとうございます」
妻がのんびり頭を下げると、瞬間移動で消え去った。そして、ドアの向こうから、遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声が響く。
「颯、お風呂に入りますよ」
現実へ戻って、颯茄はニコッと微笑んで、
「は~い、光さ~ん!」
椅子からさっと立ち上がり、ウッキウキで大理石の上をドアへ向かって歩いてゆく。
「お子さまは寝る時間で~す!」
パチンと電気のスイッチが押されると、明智家の食堂は真っ暗になった――――
「あれ~? ボクの爪を見る仕草って、これだったんだけど……」
手のひらをこっちへ向けると、銅色の懐中時計が手に握られていた。何度かしていた。もちろん、策士は一人ではない。月命のおどけた声が入ってきた。
「おや~? 僕のこめかみに人差し指を突き立てる仕草は、こちらです~」
やっていた。困った時に特に。手首がこっちに向くと、桜色のベルトをつけた腕時計が顔を見せた。
焉貴のはだけたシャツの前にある、何重ものチェーンが手ですくい上げられ、
「俺のネックレスも飾りじゃないの~」
その中のひとつは、時計のヘッドだった。当然、優雅な王子夫も策略家だ。
「私の思考時のあごに当てる指は、こちらです」
くすくす笑っていた唇から手を離し、裏を返すと、鈴色の懐中時計があった。
「時計……。どうして、焉貴さんも月さんも、孔明さんも持ってるんですか?」
まだまだ、策士である夫たちの思考回路を理解していない妻だった。光命が遊線が螺旋を描く優雅な声で、おバカな妻に問いかけた。
「教えてほしいのですか?」
「あぁ、はい。お願いします」
素直にうなずく颯茄。テーブルの端に座っていた、明引呼は口の端をニヤリとさせた。
「ふっ! またはまりやがって」
「こうして、お姫さまは、優雅な王子さまに舞踏会へ連れ去れちゃいました」
貴増参がにっこり微笑むのを、不思議そうな顔で、颯茄は見つめたが、
「え……?」
光命の言葉はこれだった。
「それでは、教えて差し上げますから、私も入れてください」
孔明と同じ手口。
「はい! じゃあ、光が入って、8P」
――焉貴と独健と月命と夕霧命と蓮と孔明と光命と自分。
策略的に11Pに近づいてゆく。妻は顔を両手で覆って、テーブルの上に突っ伏した。
「いや~! 交換条件の罠で、また増えてる!」
貴増参の羽布団みたいな柔らかな声色なのに、中身は妻の望んでいないものだった。
「それでは、僕が仕上げの魔法をかけちゃいましょう。今夜もみんなでニャンニャンです」
「結局これってか」
明引呼のしゃがれた声が、ふっと笑うと、焉貴が右手をパッと斜めに上げ、ハイテンションで叫ぶ。
「はい! じゃあ、アッキーと貴が入って、10P!」
さっきから黙ってみていた張飛に、妻はまたすがるような瞳を向けた。
「入るんですか~?」
「みんな仲よくが法律っすからね。当然っす」
「はい! じゃあ、張飛が入って、11P! 終了です!」
焉貴が綺麗にしめくくると、妻は椅子の上でジタバタ暴れ出した。
「いや~、そう言う意味じゃないと思う~、その法律は~~!」
と言ってはみたものの、妻は平常心を取り戻して、大きく納得する。
「いや、それも入っているのか。陛下様様~!」
大理石の上で椅子が夫たちそれぞれの後ろへ、ガタガタと引かれ始めた。
「僕の名前は貴増参です。省略しないで呼んでくださいね♪」
夫の口癖を聞きながら、妻だけを置いて、次々と撤退を始める夫たち。
「はあ……」
妻はため息しか出てこなかった。独健の鼻声が颯茄を間にして、頭上で舞うと、
「蓮、頼む」
「ん」
俺さまの短いうなずきが起き、テーブルの上は、食事をする前に一気に戻った。
どこまでもずれているクルミ色の瞳は、生クリームも茶器もなくなった、テーブルクロスの白を眺めながら、力なく両手は膝の上に落ちた。
「あぁ~。蓮の魔法で、綺麗に後片付け……」
「お前、ピンヒール履くの?」
「サイズがあるのなら、履きますよ~」
焉貴の質問に、月命が答えながら、どんどん瞬間移動で、食堂から消えてゆく。そんな中で、冷静な水色の瞳と無感情、無動のはしばみ色のそれは一直線に交わってしまった。
「夕霧……」
「光……」
一度消えかかっていた明引呼が再び戻ってきて、男は背中で語れ的に、光命と夕霧命に忠告した。
「てめぇら、ここでおっぱじめんなって。フライングしすぎだろ」
孔明が後ろ手に首をかしげると、長い漆黒の髪がさらっと肩から落ちた。
「颯ちゃん、ボクたちのデジタル思考回路を解説するの忘れちゃったから、罠にはまっちゃったのかも~?」
「はぁ~……問題はあと回しにしてはいけませんって、よく言う。今日の反省点だ……」
颯茄が見上げると同時に、聡明な瑠璃紺色の瞳はすっと消え去った。一人きりになった食堂で、妻は妄想世界に飛び、乙女軍という戦士になり、いつの間にか戦地に立っていた。
頭には決意の証の赤いハチマキが巻かれていたが、荒野を駆け抜けてくる突風に連れていかれ、どこかへ飛び去った。打ち砕かれた熱意を表すように。
斜めがけしたライフル銃を背中に背負い、惨敗という現実を受け止めるしかなかった。敵軍の兵士はもうどこにもいないのである。
「こうして、私は十対一という、夫たちと妻の戦いに敗れたのだった。文字通りはめられたのである。いや、ここからもはめられるので――」
さりげなくまだ一人残っていた敵兵――張飛が背中をとんと優しく叩いて、颯茄を励ました。
「今日は、あの甘いケーキみたいに、いつもよりももっと優しい夜になるっすよ」
「ありがとうございます」
妻がのんびり頭を下げると、瞬間移動で消え去った。そして、ドアの向こうから、遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声が響く。
「颯、お風呂に入りますよ」
現実へ戻って、颯茄はニコッと微笑んで、
「は~い、光さ~ん!」
椅子からさっと立ち上がり、ウッキウキで大理石の上をドアへ向かって歩いてゆく。
「お子さまは寝る時間で~す!」
パチンと電気のスイッチが押されると、明智家の食堂は真っ暗になった――――
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる