明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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リレーするキスのパズルピース

先生と逢い引き/2

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 兄貴は今頃、今日の孔明はいつもよりわがままだったとしか思っていない。まさか自分からキスするように仕向けられていたとは夢にも思わないのだった。

 漆黒の腰までの長い髪は扇子で仰がれて、頬に触れては遠ざかりを繰り返している。

「それから、次のことにつながるようにもする。明引呼の気持ちは盛り上がって、ボクにしばらく向き続ける」

 クルッと素早く振り返ると、白の裾が広がった布地と、髪飾りの細く赤い縄がサーッという衣擦れの音を、岩清水のような心地よく澄んだ響きで作って、一人きりの控え室に泳ぎ舞う。

「時間を計ってたもうひとつの理由は、長居しないことが理由。長く一緒にいたら、新鮮さがなくなる可能性が高い。だから、仕事に間に合わないように装って、帰ってきた。ここは実際、間に合ってないけど、間に合わなくていいんだ。もうひとつの罠を発動させるための足がかりなんだから」

 窓枠に腰でもたれかかると、外からの陽光が後光ごこうのように差し込み、白の薄手の生地は男の体の影をぼんやり浮かび上がらせ、チラ見えの効果のような人の注意を惹きつける様に変化メタモルフォーゼ。持っていた扇子をたたんで、手のひらにトントンと軽く当て始める。

「さっき、ボクは明って呼んでたけど、今は明引呼。呼び方も変える。これくらい簡単にできないと、成功はやってこない~かも?」

 子供が嬉しくて仕方がなく、微笑むようにふふっと言おうとすると、斜め向こうにあった部屋のドアが、ハイヒールで階段を急いで降りるようにトントンとノックされた。

 さっきまでの甘々の声色は息をひそめ、よそ行きの陽だまりみたいな柔らかで好青年の雰囲気で孔明は聞き返す。

「はい?」

 すると、ドアの向こうから、応えてきたのはこんな声だった。凛として澄んだ儚げで丸みがある女性的なものだが、誰がどう聞いても男のもの。あの先生のようだった。

「お時間ですので、お願いいたします」
「はい、今から参ります」

 孔明は言葉遣いをしっかりとして、ドアノブを回すのではなく、その場からすうっと消え去った。


 壇上だんじょうで一人スポットライトを浴びる、小学校の講堂。日本ほどの広さがある場所。当然、人一人など生徒全員から見えるはずもなく、あちこちの宙に浮かぶ大きなモニター画面に、孔明先生は映っていた。姫ノ館の校章――神がかりな若葉のデザインが印刷された大きな旗の前で。

「どんなことでも、大切なのは相手の立場に立って考えることです」

 答弁台にあるはずのマイクはどこにも見当たらなかったが、講堂の最後列にいる、生徒の様子を見守っている先生たちにまで、陽だまりのようであり軽めの声はきちんと聞こえていた。

 聡明で好青年の瑠璃紺色の瞳に映る、生徒の列はところどころゆるく蛇行だこうをしていたが、どこまでも続くあまの川のように奥へ奥へつらなっていた。

 孔明が立っている舞台の斜め前で、生徒の一人がそわそわし始めた。それは、とぐろを巻いて、さっきまできちんと座って? いた白蛇の小学生だった。キョロキョロしようとすると、すうっと先生が近くへ瞬間移動してきた。

 かがみ込んでニコニコの笑顔で、凛とした澄んだ柔らかみのある女性的な、ささやき声で聞く。

「どうかしたんですか~?」

 ゆるゆる~と語尾が伸びた優しそうな、人の男の先生。彼の髪は、はっきりとしたピンク――マゼンダ色の腰までの長い髪。それを、まるで乗馬でも楽しむ貴族のように、首の後ろでしっかりリボンで縛っている。

 白蛇の男の子は先が2つに割れた舌をペロペロと出しながら、切羽詰まった様子で話してきた。

「トイレに行きたくなっちゃった」

 先生はニコニコしたまま、的確に指導する。

「それでは、静かに行ってきてください」
「わかった」

 白蛇の男の子がうなずくと、地をはってゆくのではく、十センチほど浮き上がって、すうっと空中を横滑りして、近くにあった講堂の扉から外へ出ていった。

 舞台上にある大きなスクリーンには、文字や矢印、図などが映し出されていて、それを見るために、孔明が振り返ると、漆黒の長い髪と赤い縄のような髪飾りが、生徒の前で説明という動きで右に左に動いた。

「……この問題点は、ひとつの方向からしか見ていないということです」

 白蛇を見送った月のように綺麗な頬が振り返ろうとすると、すぐそばにいた生徒が声をかけてきた。その子の背中には、透き通った羽がふたつついていて、まるで妖精――いや本当に精霊の子供だった。

「先生、結婚したの?」

 プライベートな話題。だが、先生のニコニコの笑顔は崩れることなく、生徒の質問を無視することなく、返事をきちんと返した上で教育的指導をした。

「えぇ、しましたよ。ですが、そちらの話はあとにしましょうね、孔明先生のお話を聞いてください」
「うん」

 スクリーンの方に向いていた、凛々しい眉は、再び小学生の列に戻ってきた。その脇には春の花がふんだんにけられた大きな花瓶が彩りを添える。

「ですから、別の方向から見るということをいつも忘れないようにします」
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