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最後の恋は神さまとでした
いきなりのパパ/1
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邪神界の本拠地はとうとう跡形もなく、この広い宇宙から消え去った。優男が話をスルーするという前振りを、ガタイのいい男はカウンターパンチさながらに、こっちも無視して、へたり込んでいた地面から立ち上がった。
「オレもよ、家に帰ってねえから――」
人間の想像をはるかに超えたブラック企業という名の世界統治から解放された神ふたりは、久しぶりの実家へ帰省しようとしたが、幼い声がいくつか引き止めた。
「僕たちはどうすればいいんですか?」
「あぁ?」
「えぇ」
男ふたりが甲冑を歪ませながら振り向くと、五十センチの背丈しかない子供が四人、幼い丸い目をこっちへ向けていた。着物と草履。童という言葉がよく似合う子供たち。
藤色の剛毛はガシガシと、節々のはっきりした手で乱暴にかき上げられた。
「大人は手え出しちゃいけねえっつうから、苦肉の策でガキの化身作って、人間守らせたんだよ」
一難去って、また一難。悪と戦っている間に、男たちの生活は激変してしまっていた。カーキ色のくせ毛を指先で軽くなで、優男は何も気にした様子もなく、
「人間のために何とかしたいという想いから、僕も作っちゃいました、護法童子。僕のは葛と禄です。ちなみに、葛は口から火を吐いちゃいます。すごいでしょ?」
ドラゴンみたいなちびっ子の前で、アッシュグレーの瞳を持つ男は、優男の腕を手の甲でトントンと叩きながら、その男の名を呼んだ。
「不動明王さんよ。話ずれてってんだよ。護法童子って、元に戻せんのか? 指先ちぎって出しちまったけど」
魂の世界に生きる神なら、それくらいで、個別の存在を生み出すことはできた。羽のように柔らかで低めの男の声が、ガタイのいい男の名を口にする。
「孔雀明王さん、そちらは僕に聞かれても困っちゃいます。僕も初めての経験ですからね。ですが、せっかく出てきていただいたんですから、一緒に暮らすっていうのはどうでしょ?」
どこまでものんきに話を続けてゆく不動明王。森羅万象の強制変更の前に立ち尽くす孔雀明王。ふたりの男の前で、四人の子供たちは心配げな顔で話の行方を追う。
「オレ、結婚してねえんだよな。しかもよ。化身は成長しねえだろ? からよ、いつまでも五歳のガキがそばにいるっつう話になんだろ?」
子供と違う化身をめぐって、未婚の男ふたりの話し合いは続く。
「育児放棄はいけません」
「話が微妙にずれてってんだよ。どうやって育てんだよ?」
「子供の教育は大切だと、人間界でも言ってました。それは専門のどなたかに聞くか――」
のんびりしている不動明王の話の途中で、瞬発力のある孔雀明王は、着物姿の子供ふたりの前にかがみ込んだ。
「っつうかよ、白、甲、てめえら、いつも森に勝手に行ってふたりで遊んでただろ? 放任主義ってことでいいだろ? そこで遊んでろよ。たまに顔見せに行ってやっからよ」
野放しもいいところで、不動明王はきっちり物言いした。
「やはり育児放棄です」
親指を立てて、頬の横で後ろに引く仕草を、孔雀明王はする。
「こいつら千年も生きってっから、見た目はガキでも、そこらへんの大人より知恵はあっから生きてけんだろ」
「ですが、親の愛は知りません」
あぁ言えばこう言うで、不動明王に返されてしまった孔雀明王は、藤色の剛毛をガシガシと乱暴にかいて、ため息をつく。
「はぁ~、マジでどうすん――」
「みなさんにお知らせです!」
大気も何もない惑星の地表で、大きな声が響き渡った。邪神界が崩壊した場面を眺めていた人々は、全員振り返った。
「えぇ?」
そこには、名も知らない男が一人立っていた。そして、こんなことを言う。
「先ほど、邪神界を倒した方が陛下となられ、この世界を治められることとなりました」
兜を手のひらの上で弄ぶように、ポンポンと投げてはつかんでを繰り返しながら、孔雀明王は声をしゃがれさせる。
「いいんじゃねえか? 誰も倒せなかったの、一人で倒したんだからよ。前の戦いじゃ、軍の統制も取れてたしよ。味方は無傷で、敵は大打撃なんつう戦い方して、頭もいいからよ。それに、あんだけの力持ってるっつうことは、上の世界から降りてきたんだろ。ついてくやついんだろ、たくさんよ」
新しい風が吹き始めた世界に、希望の光が差し込んでくる。今やってきた男はコホンと咳払いをひとつした。
「それでは、さっそく陛下からの通達です」
邪神界を作れと言われて、統治者の言うがまま。暗雲立ち込める世界で、細々と暮らしてきた神々は、緊迫した空気に包まれた。
アッシュグレーの鋭い眼光は、鋭利な刃物のようになって、
「あぁ? やっぱ統治が変わっと、いろいろ変わるってか?」
「僕たちは中間管理職ですから、従うしかありません」
さっきまでのボケた感がなくなり、不動明王は神妙な面持ちになった。伝令の使者が沈黙を破る。
「化身である五歳の子供は、自身の子供として今後成長するように調整されました。ですから、そのまま一緒にお暮らしください」
今まさに問題になっていた話で、孔雀明王は珍しく驚いた声を上げた。
「マジってか!?」
森へと行けと言われた子供たちは、目を輝かせて、生みの親に近づく。
「パパ!」
孔雀明王はあきれた顔で、また髪をガシガシとかく。
「パパって呼ぶなよ。結婚してねえんだよ。子供生まれたこともねえんだよ」
「オレもよ、家に帰ってねえから――」
人間の想像をはるかに超えたブラック企業という名の世界統治から解放された神ふたりは、久しぶりの実家へ帰省しようとしたが、幼い声がいくつか引き止めた。
「僕たちはどうすればいいんですか?」
「あぁ?」
「えぇ」
男ふたりが甲冑を歪ませながら振り向くと、五十センチの背丈しかない子供が四人、幼い丸い目をこっちへ向けていた。着物と草履。童という言葉がよく似合う子供たち。
藤色の剛毛はガシガシと、節々のはっきりした手で乱暴にかき上げられた。
「大人は手え出しちゃいけねえっつうから、苦肉の策でガキの化身作って、人間守らせたんだよ」
一難去って、また一難。悪と戦っている間に、男たちの生活は激変してしまっていた。カーキ色のくせ毛を指先で軽くなで、優男は何も気にした様子もなく、
「人間のために何とかしたいという想いから、僕も作っちゃいました、護法童子。僕のは葛と禄です。ちなみに、葛は口から火を吐いちゃいます。すごいでしょ?」
ドラゴンみたいなちびっ子の前で、アッシュグレーの瞳を持つ男は、優男の腕を手の甲でトントンと叩きながら、その男の名を呼んだ。
「不動明王さんよ。話ずれてってんだよ。護法童子って、元に戻せんのか? 指先ちぎって出しちまったけど」
魂の世界に生きる神なら、それくらいで、個別の存在を生み出すことはできた。羽のように柔らかで低めの男の声が、ガタイのいい男の名を口にする。
「孔雀明王さん、そちらは僕に聞かれても困っちゃいます。僕も初めての経験ですからね。ですが、せっかく出てきていただいたんですから、一緒に暮らすっていうのはどうでしょ?」
どこまでものんきに話を続けてゆく不動明王。森羅万象の強制変更の前に立ち尽くす孔雀明王。ふたりの男の前で、四人の子供たちは心配げな顔で話の行方を追う。
「オレ、結婚してねえんだよな。しかもよ。化身は成長しねえだろ? からよ、いつまでも五歳のガキがそばにいるっつう話になんだろ?」
子供と違う化身をめぐって、未婚の男ふたりの話し合いは続く。
「育児放棄はいけません」
「話が微妙にずれてってんだよ。どうやって育てんだよ?」
「子供の教育は大切だと、人間界でも言ってました。それは専門のどなたかに聞くか――」
のんびりしている不動明王の話の途中で、瞬発力のある孔雀明王は、着物姿の子供ふたりの前にかがみ込んだ。
「っつうかよ、白、甲、てめえら、いつも森に勝手に行ってふたりで遊んでただろ? 放任主義ってことでいいだろ? そこで遊んでろよ。たまに顔見せに行ってやっからよ」
野放しもいいところで、不動明王はきっちり物言いした。
「やはり育児放棄です」
親指を立てて、頬の横で後ろに引く仕草を、孔雀明王はする。
「こいつら千年も生きってっから、見た目はガキでも、そこらへんの大人より知恵はあっから生きてけんだろ」
「ですが、親の愛は知りません」
あぁ言えばこう言うで、不動明王に返されてしまった孔雀明王は、藤色の剛毛をガシガシと乱暴にかいて、ため息をつく。
「はぁ~、マジでどうすん――」
「みなさんにお知らせです!」
大気も何もない惑星の地表で、大きな声が響き渡った。邪神界が崩壊した場面を眺めていた人々は、全員振り返った。
「えぇ?」
そこには、名も知らない男が一人立っていた。そして、こんなことを言う。
「先ほど、邪神界を倒した方が陛下となられ、この世界を治められることとなりました」
兜を手のひらの上で弄ぶように、ポンポンと投げてはつかんでを繰り返しながら、孔雀明王は声をしゃがれさせる。
「いいんじゃねえか? 誰も倒せなかったの、一人で倒したんだからよ。前の戦いじゃ、軍の統制も取れてたしよ。味方は無傷で、敵は大打撃なんつう戦い方して、頭もいいからよ。それに、あんだけの力持ってるっつうことは、上の世界から降りてきたんだろ。ついてくやついんだろ、たくさんよ」
新しい風が吹き始めた世界に、希望の光が差し込んでくる。今やってきた男はコホンと咳払いをひとつした。
「それでは、さっそく陛下からの通達です」
邪神界を作れと言われて、統治者の言うがまま。暗雲立ち込める世界で、細々と暮らしてきた神々は、緊迫した空気に包まれた。
アッシュグレーの鋭い眼光は、鋭利な刃物のようになって、
「あぁ? やっぱ統治が変わっと、いろいろ変わるってか?」
「僕たちは中間管理職ですから、従うしかありません」
さっきまでのボケた感がなくなり、不動明王は神妙な面持ちになった。伝令の使者が沈黙を破る。
「化身である五歳の子供は、自身の子供として今後成長するように調整されました。ですから、そのまま一緒にお暮らしください」
今まさに問題になっていた話で、孔雀明王は珍しく驚いた声を上げた。
「マジってか!?」
森へと行けと言われた子供たちは、目を輝かせて、生みの親に近づく。
「パパ!」
孔雀明王はあきれた顔で、また髪をガシガシとかく。
「パパって呼ぶなよ。結婚してねえんだよ。子供生まれたこともねえんだよ」
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