明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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最後の恋は神さまとでした

先生は女性的な男/3

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 マゼンダ色の長い髪が水色のリボンに綺麗に結ばれ、秋風が入り込む長い廊下を、茶色のロングブーツのかかとを鳴らしながら歩いてゆく。

 遠くから見ると、女性のような線を描く人の後ろに、ガタイのいい男が瞬間移動ですうっと現れた。

「おう、先生?」

 小学生たちが騒ぎながら、明引呼の背後にある廊下を横切ってゆく。水色をした細身のパンツは歩くのを止めず遠ざかる。明引呼はもう一度呼んだ。

「月主命先生?」
「はい?」

 凛として澄んだ女性的な声が響き、マゼンダの長い髪を揺らして、教師は振り返った。ジーパンの長い足がウェスタンブーツに連れられ近づいて、藤色の長めの短髪は礼儀正しく頭を下げた。

「白と甲の父親の、明引呼って言います。初めまして」
「初めまして、よろしくお願いいたします」

 月のように透き通った白い滑らかな肌。ニコニコのまぶたに隠れていて、月主命の瞳を見ることはできなかった。

 人当たりのいい感じで佇んではいるが、明引呼は鋭く言葉のパンチを放つ。

「先生はお笑い好きですか?」
「いいえ、私が生きてきた時代は、あちらが普通です」

 にっこり微笑んだまま、月主命は首を横に揺らすと、水色のリボンも動いた。慣れない敬語を使って、明引呼のしゃがれた声が廊下に響く。

「失礼ですが、おいくつですか?」

 月主命は小首を傾げ、人差し指をこめかに当て考える仕草をした。

「そうですね~? ざっと三百億年・・と言ったところでしょうか~?」

 明引呼は口の端でふっと笑い、思わずタメ口を解禁する。

なげえな。社会じゃなくてよ、歴史の先生のほうがいいんじゃねえのか?」
「なぜですか?」

 白いフリフリのシャツが木漏れ日に乱反射した。自分と背丈は変わらないのに、まるで雰囲気の違う新任教師に、明引呼ははっきりと意見してやった。

「そうそういねえぜ。三百年じゃなくて、三百億年も生きてるやつはよ。先生自体が歴史だろ」

 初めて姿を現したヴァイオレットの瞳は、冷静で落ち着いているが、感情という温かみのあるものはどこにもなかった。

「ご指摘ありがとうございます」

 凛として儚い女性的な声なのに、男の低い響きを残して、月主命はきびすを返し、廊下を歩いて行ってしまった。

 マゼンダの長い髪が揺れるさまを、明引呼は眺める。

「気にさわったってか?」

 カツンカツンと茶色のロングブーツは音を立てながら、すれ違う生徒に頭を下げてゆく。

「にしてもよ、女みてえな男だな」

 よく見れば男性の線なのに、ぱっと見は女に見える先生は、ニコニコの笑みのまま、子供たちに上品に手を振る。鋭いアッシュグレーの瞳には、そんな男の姿が映っていた。

「あれが、昔は男らしかったってか?」

 再び歩き出した、マゼンダ色の腰までの長い髪が揺れるのをじっと見つめていたが、

「けどよ、面白おもしれえ野郎だな」

 渋く微笑んで、明引呼は瞬間移動で消え去った。

 それを待っていたかのように、茶色のロングブーツは廊下の真ん中で立ち止まり、振り返った。滅多に姿を現さないヴァイオレットの瞳が、何の感情もなく、ガタイのいい男が立っていただろう場所を見つめる。

「僕とは違って、兄上のような男らしい人……」

 風になびいた髪を手で押さえて、凛とした澄んだ声は地をはうように低く囁かれた。

「歴史……。変えてもいいかもしれない」

 再び廊下を歩き出し、乾いた空気にかかとの音がゆっくりと響いていた。

    *

 どこかずれているクルミ色の瞳は、パソコンの画面を凝視していた。パチパチとキーボードを打ちながら、奇跡来はコウに言われた作業をしている。

「ん~~? 月主命さんの職業は、小学校の歴史の先生。っと。孔雀大明王さんは、魂の研究所の副所長。研究者肌だった? 何となくイメージが違うなぁ~」

 外国産の甘いチョコレートを頬張る。

「火炎不動明王さんは……聖輝隊。国家の治安維持部隊だったよね? 人間界でいえば、国家公務員ってところかな?」

 ガラスのカップに入ったハーブティーの香りに癒され、続きを打ち込んでゆく。

「夕霧命さんは……躾隊。国家の環境維持部隊。光命さんは恩富隊。その中でも曲を作るんだ。楽器は何を使うんだろう?」

 ふと手を止めて、会ったこともない神のことを思案する。向かいのオフィスフロアの電気はもうすでに消灯していた。カーテンを閉めることもないガラス窓に映った自分をしばらく瞳に映していたが、答えは出てこなかった。

「先生たちの組織名は教江隊おしえたい。神様の世界って、ダジャレ好きだな」

 奇跡来は珍しく微笑んで、データをセーブした。
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