252 / 967
最後の恋は神さまとでした
恋する天才軍師の戦術/1
しおりを挟む
引っ越して一週間後。澄藍は頭を悩ませていた。都会と違って、ネットで頼んだものがその日のうちではなく、二、三日もかかること。
タクシーで行っていたデパートにあった外国産の品物は、どこにも売っていない。車も持っていないから、買い物に行くのも四苦八苦。
しかも、南国らしく毎日、気温は四十度で湿度は百パーセント近く。白いビニール袋を持って、高台にある家まで坂道を登ってゆく。
「はぁ~、言葉がわからない」
国内にいるのに、これほど話が通じないとは、地方へ行ったことがなかった澄藍には驚きとともに、やはりストレスだった。
「『東京はぬくいですか』って聞かれて、意味がわからなかった」
住宅街の公園を過ぎて、のんびりと車が行き交う交差点を確認して渡ってゆく。
「布団で『ぬくぬく』するとか言うから、あったかいの意味なのかな? って思ったんだけど、今の季節は夏……」
前を歩いてゆく配偶者の背中を見つめる。
「『ぬくい』は『暑い』の意味らしい。しかも、標準語で話してるんだけど、通じなくて。どうも、アナウンサーが話すような綺麗な発音じゃないと聞き取れないみたいなんだよね。同じ言葉を言ってても、イントネーションがちょっと違うだけで、通じないみたい」
慣れない土地で、厳しい現実を生きる澄藍だったが、一軒家の門を入って、玄関にたどり着こうとすると、庭に干してあった洗濯物を目の当たりにして、思わずため息が出た。
「あぁ~、買い物をしてる間に、南国特有のスコールが降ったんだ。洗濯やり直りだ」
ほんの数十分だと思って、干したままにして、ここ一週間で何度も雨にやられて、同じ失敗ばかり。それでも、優しい人たちに囲まれて、澄藍はのんびりとした日々を送ってゆくこととなった。
*
壁中が本のカビ臭い部屋で、澄藍は引越し先から持ち込んだ書斎机の上で、コントローラーを両手でつかんで、ヘッドフォンをしながらテレビゲームに夢中だった。
孔明をモデルにしたキャラクターの話す内容に注意深く耳を傾ける。相手はあの天才軍師だ、どこに罠が仕掛けられているかわからない。
「うんうん、中間テストの話……」
誰がどう聞いても好青年という声色で、会話が流れてきて、澄藍は珍しく驚いた。
「え?」
先に進めることもせず、知識の宝庫と言っても過言ではない本だらけの部屋を見渡す。
「そういう考え方?」
一週間前まで暮らしていた上層階からの景色と違って、同じ高さを車が通り過ぎてゆく音がした。
「見てる方向が違う。いや、範囲が違う。頭いいや、本当だ」
今年で三十二歳だ。今の年齢ならわかるが、物語の中は高校生。自分が同じ歳だった時と比べると、そう思わずにはいられなかった。
*
そして、クリアをして別のゲーム。今度はオタクのキャラクターに孔明がモデルになっているもの。
キャラクターと出会って日も浅い頃で、ゲーム画面は夜の近所を歩いているところだった。
「あぁ~、今日もバイト終わった。家に帰って――」
「こんばんはぁ~」
やけに間延びした口調で、賢い感じにはどうやっても見えないキャラクター。
「あぁ、久遠くん、偶然だね」
「そ~う~? どうしたの~?」
「今、バイトの帰りだよ」
「そう~。何のバイト~?」
「コンビニなんだけど……」
甘えているみたいな口調でボソボソと言ってくる。
「前からやってみたかった~?」
「ううん、家の近くだから決めただけ」
「そ~か~。中学の頃って~、何かやりたいとか思ってた~?」
「そうだなあ? ウェイトレスとかかな?」
「可愛い~。ボクもそういうのにすればよかったかな~?」
澄藍はびっくりして、コントローラーのボタンを誤って早く押し、主人公のセリフにすぐ変わってしまった。
「え? 久遠くんがウェイトレスをするの!?」
どこからどう見ても、十代後半の青年であり、女装趣味などという設定はなかった。キャラクターが可愛く小首を傾げる。
「そうかも~?」
「どういうこと?」
「な~んちゃってかも~?」
こういう話し方であり、こういう人物だと思い、主人公は気にせず先に話を進めた。
「本当は何がしたかったの?」
「ボクはね、デバッカーかなあ~?」
「ゲーム好きだもんね?」
「そうかも~?」
「あ、こんな時間だ、じゃあまたね」
「うん、バイバ~イ」
眠くなるくらい間延びした声で言って、画面から消え去った。主人公は一人きりの路上で、ぽつりつぶやく
「ウェイトレスって……。久遠くん、おもしろいなぁ~」
場面展開がされて、澄藍はスルーしていこうとした。
「会話は終了。普通に会って、話して――!」
今何が起きたのか気づいて、途中で家中に広がるような悲鳴を上げた。
「きゃあぁぁぁぁっっっ!!!!」
タクシーで行っていたデパートにあった外国産の品物は、どこにも売っていない。車も持っていないから、買い物に行くのも四苦八苦。
しかも、南国らしく毎日、気温は四十度で湿度は百パーセント近く。白いビニール袋を持って、高台にある家まで坂道を登ってゆく。
「はぁ~、言葉がわからない」
国内にいるのに、これほど話が通じないとは、地方へ行ったことがなかった澄藍には驚きとともに、やはりストレスだった。
「『東京はぬくいですか』って聞かれて、意味がわからなかった」
住宅街の公園を過ぎて、のんびりと車が行き交う交差点を確認して渡ってゆく。
「布団で『ぬくぬく』するとか言うから、あったかいの意味なのかな? って思ったんだけど、今の季節は夏……」
前を歩いてゆく配偶者の背中を見つめる。
「『ぬくい』は『暑い』の意味らしい。しかも、標準語で話してるんだけど、通じなくて。どうも、アナウンサーが話すような綺麗な発音じゃないと聞き取れないみたいなんだよね。同じ言葉を言ってても、イントネーションがちょっと違うだけで、通じないみたい」
慣れない土地で、厳しい現実を生きる澄藍だったが、一軒家の門を入って、玄関にたどり着こうとすると、庭に干してあった洗濯物を目の当たりにして、思わずため息が出た。
「あぁ~、買い物をしてる間に、南国特有のスコールが降ったんだ。洗濯やり直りだ」
ほんの数十分だと思って、干したままにして、ここ一週間で何度も雨にやられて、同じ失敗ばかり。それでも、優しい人たちに囲まれて、澄藍はのんびりとした日々を送ってゆくこととなった。
*
壁中が本のカビ臭い部屋で、澄藍は引越し先から持ち込んだ書斎机の上で、コントローラーを両手でつかんで、ヘッドフォンをしながらテレビゲームに夢中だった。
孔明をモデルにしたキャラクターの話す内容に注意深く耳を傾ける。相手はあの天才軍師だ、どこに罠が仕掛けられているかわからない。
「うんうん、中間テストの話……」
誰がどう聞いても好青年という声色で、会話が流れてきて、澄藍は珍しく驚いた。
「え?」
先に進めることもせず、知識の宝庫と言っても過言ではない本だらけの部屋を見渡す。
「そういう考え方?」
一週間前まで暮らしていた上層階からの景色と違って、同じ高さを車が通り過ぎてゆく音がした。
「見てる方向が違う。いや、範囲が違う。頭いいや、本当だ」
今年で三十二歳だ。今の年齢ならわかるが、物語の中は高校生。自分が同じ歳だった時と比べると、そう思わずにはいられなかった。
*
そして、クリアをして別のゲーム。今度はオタクのキャラクターに孔明がモデルになっているもの。
キャラクターと出会って日も浅い頃で、ゲーム画面は夜の近所を歩いているところだった。
「あぁ~、今日もバイト終わった。家に帰って――」
「こんばんはぁ~」
やけに間延びした口調で、賢い感じにはどうやっても見えないキャラクター。
「あぁ、久遠くん、偶然だね」
「そ~う~? どうしたの~?」
「今、バイトの帰りだよ」
「そう~。何のバイト~?」
「コンビニなんだけど……」
甘えているみたいな口調でボソボソと言ってくる。
「前からやってみたかった~?」
「ううん、家の近くだから決めただけ」
「そ~か~。中学の頃って~、何かやりたいとか思ってた~?」
「そうだなあ? ウェイトレスとかかな?」
「可愛い~。ボクもそういうのにすればよかったかな~?」
澄藍はびっくりして、コントローラーのボタンを誤って早く押し、主人公のセリフにすぐ変わってしまった。
「え? 久遠くんがウェイトレスをするの!?」
どこからどう見ても、十代後半の青年であり、女装趣味などという設定はなかった。キャラクターが可愛く小首を傾げる。
「そうかも~?」
「どういうこと?」
「な~んちゃってかも~?」
こういう話し方であり、こういう人物だと思い、主人公は気にせず先に話を進めた。
「本当は何がしたかったの?」
「ボクはね、デバッカーかなあ~?」
「ゲーム好きだもんね?」
「そうかも~?」
「あ、こんな時間だ、じゃあまたね」
「うん、バイバ~イ」
眠くなるくらい間延びした声で言って、画面から消え去った。主人公は一人きりの路上で、ぽつりつぶやく
「ウェイトレスって……。久遠くん、おもしろいなぁ~」
場面展開がされて、澄藍はスルーしていこうとした。
「会話は終了。普通に会って、話して――!」
今何が起きたのか気づいて、途中で家中に広がるような悲鳴を上げた。
「きゃあぁぁぁぁっっっ!!!!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる