明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
254 / 967
最後の恋は神さまとでした

恋する天才軍師の戦術/3

しおりを挟む
 夕日をレンズに当てて、そこから床に伸びた光をたどると、コウがふわふわと本を神の力で持ち上げ、棚に戻しているところだった。

「でも、それが返って、印象に残ることになる。つまり、他の男の人たちから差をつけられる可能性が出てくる。恋愛シミレーションゲームだから、自分を選択してもらわないと意味がないから、その対策でもある」

 現実の恋愛でもライバルは数いる。その中から自分を選ばせるには、アクシデントと見せかけて、わざと印象に残るものを起こすことなど恋する軍師はできるのだ。

 恋愛を理論立てて考えたら、この流れになっている。当事者は感情に流されているから、そのことを客観的に見れないだけで、相談相手が言っている内容はつまりはこういうことなのだった。

「そのあと、嘘だと言って、自分のことを相手が聞くように仕向けてる。それを聞いてしまうと、さらに相手が自分に興味を持っている可能性は上がる。興味がなければ聞かない。しかも、さりげなく自分の好きなものも教えてる。それは同時に、怪しまれないための会話でもある」

 質問の内容がどうとかいう問題の前に、仕向けられているのだ。嘘だったと言われたら、本当のことを聞きたくなるのが人情。それを聞いた時点で、罠に引っかかっている――孔明の思うままなのだった。

 聞きたくないのなら、戸惑ったりする可能性が高いのだから。平気で聞き返したら、恋愛に持ち込める可能性はますます上がる。

 質問をする疑問形と違うもうひとつのことに、澄藍は捜査のメスを入れた。

「『そうかも?』は、不確定な上に疑問形になってるから、相手に情報が伝わりづらい。質問をしている限り、自分の情報は漏洩しないけど、相手が答えてくれば、情報は手に入れられる」

 これを撃退する方法はある。質問し返せばいい。しかし、これは孔明には聞かない。さっきのわざと質問させるという罠が常に張られているからだ。澄藍は手強さを痛感した。

「次に会った時は、ウェイトレスとデバッカーとゲームの情報を使って、罠を組み立ててくる可能性大。相手の話題に合わせられる可能性が上がる。だから、お互いの心の距離が縮まる可能性は上がる……」

 恋する天才軍師の作戦通り、ますます進んでゆくというものだ。孔明らしい恋愛の仕方を前にして、コウは書斎机の上にちょこんと座り、まとめ上げる。

「お前が考えすぎなんじゃなくて、理論ができないやつは、気づかないですぎてく。だけど、まだまだだ。他にも罠は隠れてる」

 罠だと気づく繊細さもないのなら、孔明の思惑通りに動かされ続ける。彼から見たら、相手に意外性がなく恋愛対象にもならないだろう。つまりは彼にとってその他大勢と変わらない。

 彼の特別な存在になるためには、思考回路を多少なりとも理解して、同じ土俵に立たないといけない。これが孔明を――いや理論で考えている相手を攻略する方法――恋の勝利ということだ。

「マジですごい人だ」

 テレビゲームの説明書をめくって、澄藍は感嘆した。

「これは氷山の一角だ」

 コウの近くに置いてあったコーヒーを飲み、彼女は珍しくにっこり微笑む。

「私は何も考えずに、このまま罠に埋もれて、恋愛するのがいいかも?」

 望んでいるかもしれないし、嘘かもしれない。

「お前も少しできるようになったな、理論を」
「そうかも?」

 調子に乗って、恋する天才軍師の手口を多用し始めた、澄藍はさわやか好青年は見た目だけのキャラクターをじっと見つめて、

「でも、感情もきちんと持ってる人だ。そんな感じがする?」

 コウの姿はもう消え去っていて、感情を冷静な頭脳で押さえ込んでいる孔明と、面影が重なる人をふと思い出した。

 コーヒーカップをソーサーへ置き、一人きりの部屋でカチャンと食器の鳴る音が、青の王子を脳裏に色濃く蘇らせた。コウからあの日以来何も聞かないが、もう結婚したのだろうと、澄藍は思うと、急に視界が涙でにじんだ。

「理論を使うたび思い出すなら、使わなければいいと思う。だけど、人生は勘や感情だけでは決してうまくいかない。やっぱり理論が必要。だから、光命さんに感謝します。私に理論を教えてくださるきっかけになっていただいて。私の人生を大きく変えていただいて、本当にありがとうございます」

 叶わないのなら、会うこともないのなら、せめて、人間として神さまに感謝をしようと、澄藍はそう思うのだった。たとえ光命に届いていなくても。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...