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最後の恋は神さまとでした
夏休みのパパたちは三角関係/5
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イベントは終わり、眠そうな顔をした子供たちを連れて、ホテルのそれぞれの部屋へ戻ってきた。明引呼はベランダに出て、ミニシガリロの青白い煙を上げる。
そして、ブラインドを下ろす仕草をした。世界で一人きりの空間で、ひとりごちる。
「貴の野郎、探ってる振りして、オレに気持ち伝えてきやがって」
どうにもやりきれない気持ち。恐れ多くも陛下のお宅はハーレムだが、他は全員男女一人ずつで結婚をしている。女性同士はあっても……。
「野郎が野郎に惚れる。そんな話聞いたこともねえんだよな」
二千年も生きていれば、少しは理論も身につくものだが、基本感情で動く男は、黄昏気味に言うと、柔らかい灰がぽろっと落ちた。
「がよ、こんなのはフィーリングだろ? 動いちまったもんはしょうがねえだろ」
兄貴の中では、惚れたは惚れたなのだ。それ以上でもそれ以外でもない。学校では教わらない単語が、下界の人間に名前の知られた神の唇からもれ出る。
「人間が言ってたよな。他と区別するために、ゲイとかBLとか何とかよ」
妻たちは女三人でやけに気が合って、一階のテラス席でさっきから酒をガンガン飲んでいるのがベランダから見えた。
「どよ、それじゃねえんだよな。カミさんにも惚れたんだからよ。そうすっと、両刀使い。あとなっつったか? あ~っと、バイセクシャルとか言ってたな。それだろ?」
奥さんたちの笑い声が天まで抜けるように届く。少しだけ振り返って、すやすやとベッドで眠っている子供たちを視界の端に映した。
「しかも、野郎ふたり同時に惚れちまって、どうなってやがんだ?」
さっきアトラクションの柵で隣り合わせた男は、カーキ色のくせ毛を持ち、優しさの満ちあふれたピンク色の瞳で、いつもボケているかと思えば、罠だったりする。
学校の廊下で会い、エスプレッソを飲む男は、マゼンダ色の長い髪を水色のリボンでピンと縛り、ニコニコのまぶたにヴァイオレットの瞳を隠し持っている。負けることが大好きな罠を仕掛けてくる女性的に思える男。
絶妙に共通点があるのに、似ているようで似ていない。変な関係で、ひとつの教室の中で自分を入れて三人だけが浮き彫りにされた気分になる時がよくある。
「神さんよ、何させる気だよ?」
保護者と担任教師とパパ友。我が子や人の未来は多少は見える。しかし、自分のことは予測がつかない。心の成長を望まれている以上、先が見えないようにできている。
あっという間に仲良くなった奥さんたちを眺めていたが、明引呼は真正面に顔を向け、青白い煙を上げた。
「けどよ、まずは現実だろ? 野郎どもはどう思うんだよ? 人間にゃ、そんな性癖もあるんだろうけどよ、他の種族のやつにそういう概念あんのかよ?」
価値観が多種多様で、話題にさえ昇らせたくない人だっているだろう。自分を慕ってくれる野郎どもの顔が一人一人、走馬灯のように浮かんでは消えてゆく。
「一人でも納得できねえなら、上に立つ身としちゃ、隠しちまったほうが、みんな仲良くになんだよ。上に立ってるやつは下のやつを守るためにいんだろ? 傷つけたりするためにいるんじゃねえ」
みんなを守りたい兄貴は、ミニシガリロの吸いカスを夜空を放り投げ、
「からよ、誰にも知られるわけにはいかねえんだよ」
自動回収で消えてゆくのと同時に、心に鍵をしっかりとかけた。
*
奥さんたちと交代で、旦那さんたちはホテルのバーへとやってきていた。こんな場所も昔はなく、三人であちこち眺めながら、たわいのない会話をして酒を飲む。
そして、独健と明引呼の間で、貴増参は再び心のブラインドを下ろした。ビールを飲みながら、明引呼と話す男をじっと見つめる。
「独健は僕の気持ちに気づいてません。僕の気持ちは、家庭を持ってる彼には迷惑になっちゃいます。ですから、言いません」
彼はストレートで、男女の結婚で子供がいる今が幸せなのだ。彼を心から愛する貴増参には、親友でいるのが愛の形なのだ。
ジンのショットをかみしめるように飲む男が、独健と話す姿をうかがう。
「明引呼は僕の気持ちに気づいてます。彼は勘の鋭い人ですからね。ですが、彼はみんなの兄貴です。たくさんの人の気持ちがかかってきます。ですから、やはり言いません」
妻帯者でそこに他の男が加わった。未だに自分たちの関係性を表す言葉はないが、みんなに慕われる男だからこそ、貴増参にはこれ以上近寄れないのだった。
微妙で複雑な愛が交差する夏休みの夜。彼らの関係性が壊れるのは意外なところからで、何年も先のことだった。
そして、ブラインドを下ろす仕草をした。世界で一人きりの空間で、ひとりごちる。
「貴の野郎、探ってる振りして、オレに気持ち伝えてきやがって」
どうにもやりきれない気持ち。恐れ多くも陛下のお宅はハーレムだが、他は全員男女一人ずつで結婚をしている。女性同士はあっても……。
「野郎が野郎に惚れる。そんな話聞いたこともねえんだよな」
二千年も生きていれば、少しは理論も身につくものだが、基本感情で動く男は、黄昏気味に言うと、柔らかい灰がぽろっと落ちた。
「がよ、こんなのはフィーリングだろ? 動いちまったもんはしょうがねえだろ」
兄貴の中では、惚れたは惚れたなのだ。それ以上でもそれ以外でもない。学校では教わらない単語が、下界の人間に名前の知られた神の唇からもれ出る。
「人間が言ってたよな。他と区別するために、ゲイとかBLとか何とかよ」
妻たちは女三人でやけに気が合って、一階のテラス席でさっきから酒をガンガン飲んでいるのがベランダから見えた。
「どよ、それじゃねえんだよな。カミさんにも惚れたんだからよ。そうすっと、両刀使い。あとなっつったか? あ~っと、バイセクシャルとか言ってたな。それだろ?」
奥さんたちの笑い声が天まで抜けるように届く。少しだけ振り返って、すやすやとベッドで眠っている子供たちを視界の端に映した。
「しかも、野郎ふたり同時に惚れちまって、どうなってやがんだ?」
さっきアトラクションの柵で隣り合わせた男は、カーキ色のくせ毛を持ち、優しさの満ちあふれたピンク色の瞳で、いつもボケているかと思えば、罠だったりする。
学校の廊下で会い、エスプレッソを飲む男は、マゼンダ色の長い髪を水色のリボンでピンと縛り、ニコニコのまぶたにヴァイオレットの瞳を隠し持っている。負けることが大好きな罠を仕掛けてくる女性的に思える男。
絶妙に共通点があるのに、似ているようで似ていない。変な関係で、ひとつの教室の中で自分を入れて三人だけが浮き彫りにされた気分になる時がよくある。
「神さんよ、何させる気だよ?」
保護者と担任教師とパパ友。我が子や人の未来は多少は見える。しかし、自分のことは予測がつかない。心の成長を望まれている以上、先が見えないようにできている。
あっという間に仲良くなった奥さんたちを眺めていたが、明引呼は真正面に顔を向け、青白い煙を上げた。
「けどよ、まずは現実だろ? 野郎どもはどう思うんだよ? 人間にゃ、そんな性癖もあるんだろうけどよ、他の種族のやつにそういう概念あんのかよ?」
価値観が多種多様で、話題にさえ昇らせたくない人だっているだろう。自分を慕ってくれる野郎どもの顔が一人一人、走馬灯のように浮かんでは消えてゆく。
「一人でも納得できねえなら、上に立つ身としちゃ、隠しちまったほうが、みんな仲良くになんだよ。上に立ってるやつは下のやつを守るためにいんだろ? 傷つけたりするためにいるんじゃねえ」
みんなを守りたい兄貴は、ミニシガリロの吸いカスを夜空を放り投げ、
「からよ、誰にも知られるわけにはいかねえんだよ」
自動回収で消えてゆくのと同時に、心に鍵をしっかりとかけた。
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奥さんたちと交代で、旦那さんたちはホテルのバーへとやってきていた。こんな場所も昔はなく、三人であちこち眺めながら、たわいのない会話をして酒を飲む。
そして、独健と明引呼の間で、貴増参は再び心のブラインドを下ろした。ビールを飲みながら、明引呼と話す男をじっと見つめる。
「独健は僕の気持ちに気づいてません。僕の気持ちは、家庭を持ってる彼には迷惑になっちゃいます。ですから、言いません」
彼はストレートで、男女の結婚で子供がいる今が幸せなのだ。彼を心から愛する貴増参には、親友でいるのが愛の形なのだ。
ジンのショットをかみしめるように飲む男が、独健と話す姿をうかがう。
「明引呼は僕の気持ちに気づいてます。彼は勘の鋭い人ですからね。ですが、彼はみんなの兄貴です。たくさんの人の気持ちがかかってきます。ですから、やはり言いません」
妻帯者でそこに他の男が加わった。未だに自分たちの関係性を表す言葉はないが、みんなに慕われる男だからこそ、貴増参にはこれ以上近寄れないのだった。
微妙で複雑な愛が交差する夏休みの夜。彼らの関係性が壊れるのは意外なところからで、何年も先のことだった。
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