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最後の恋は神さまとでした
もっと自由に羽ばたけ/4
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だからこそ、目の前にいる猥褻な高校教師が適任なのだ。孔明は年の差を感じない男に春風みたいに微笑む。
「三百億年生きてる焉貴はぴったりだったんだね」
「そういうことね」
田舎を出て、十年近く経つ。都会へ行きたいという気持ちは、今こうして身を結び、子供三人と妻、そして、愛する男がふたりいる。
大きく運命は変わり――いやまだ序曲で、これからいろいろ続いてゆくのだ。長い間生きてきた焉貴はそう直感した。
孔明が焉貴に瞬間移動をかける。よほどの仲にならないと、タブーとされている行為だったが、縁側にまだ戻り、孔明は焉貴を膝枕した。
ふたりで話す時はいつもこの格好だった。焉貴は凛々しい眉をしている孔明を見上げるのが好きだった。
「お前、好きな男と結婚しないの――?」
張飛の名前どころか、素振りさえ見せていなかった。孔明は焉貴を見下ろすと、綺麗な頬に山吹色のボブ髪を淫らにかかっている。
「いつから知ってたの?」
「初めに会った時から」
孔明は指先で焉貴の髪を耳にかけ、あの高級ホテルでタクシーに乗ろうとした時のことを、何ひとつもれずに脳裏に並べた。
「その時のいつから?」
「俺の誘いにお前が承諾した時から」
鳥が羽を休めるように、焉貴は横に向きになって背を丸め目をそっと閉じる。
「どうして、そう思ったの?」
この男の頭の重さを膝でいつまでも感じていたい。自分と出会った時から今までの記憶がつまっているこの重さが、やけに愛おしくのだ。
まぶたは開かれ、いつもよりも真摯な黄緑色の瞳がまっすぐ見上げてきた。
「だってそうでしょ? お前最初行かないって言ってたのに、急に行くって言い出した。何かそこに考えがある。だから、他に男がいるになるでしょ?」
理論派なのに、無意識の直感で途中の説明をすっ飛ばす、自分と違った頭のよさを見せる男の言葉を聞いて、孔明は春風みたいに穏やかに微笑んだ。
「ふふっ。焉貴らしい。しかも、途中で理論端折ってる」
孔明は思う。あのあと、自分が焉貴に同性愛について質問をあれこれしていたのだ。頭のいい人間なら、同性愛について悩んでいるのだろうと気づく。
質問をするのは、相手から情報を得るための基本だが、自身の思惑が相手にバレてしまうものでもあるのだ。
薄い服の上から、焉貴が孔明の足をそっとなでる。
「いいでしょ? お前に話してるんだから」
今は教師ではなく、ひとりの男として話をしているのだ。ついれこれないなら、置いてゆく。いやこの男はついてこれるのだ。
さっきから自分の膝をなでていた、結婚指輪をしている手をふざけたように、孔明は軽くつかんだ。
「ボクに好きな人がいるって知っても、ボクを好きでいてくれたの?」
「それって関係すんの? 自分が好きなのは変わんないよね?」
この男は誰かの心を傷つけない世界でずっと生きてきた。そんな澄んだ世界で、本当に大切なものを見失わない術を知っている。
「そうだね」
「じゃあ、いいじゃん」
そして、焉貴本人も知らないうちに、いつの間にか罠になっていて、孔明はチェックメイトされた。
「ただ、無理にとは言わないけど?」
男の香りが思いっきりする顔をしたまま、結婚指輪をした手で捕まえられてしまった。張飛よりも先に、焉貴が孔明の心の中へ入り込んだ。
「うん、いいよ……」
孔明は視線をそらして、小さな声でうなずく。
紅朱凛のことは今でも愛している。その気持ちは変わらない。罪悪感がないと言えば嘘になるが、そもそも罪悪感などという概念も言葉も存在しない世界だ。
自分の人を愛する気持ちはゲイなのか、バイセクシャルなのか。そんな区別もないのかもしれない。差別もないのだから、普通のことなのかもしれない。今は誰もしていないが、未来では普通のこと。
この男のように、素直に好きは好きだと言えたら、そこにどんな素敵な世界が広がっていて、新しい価値観を手に入れられる機会がめぐってくるのだ――
考えている途中で、焉貴のわざと低くした声が割って入ってきた。
「お前、恥ずかしがり屋だよね?」
「もう~!」
孔明は頬が火照り、思わず焉貴の手をポイっと遠くへ投げた。大先生だの、帝国一の頭脳を持っているなどと言われているが、それは外ゆきの顔で、三百億年も生きている男からすれば、プレイベートは子供と一緒だった。
「そんなお前に聞きたいことあんの」
「三百億年生きてる焉貴はぴったりだったんだね」
「そういうことね」
田舎を出て、十年近く経つ。都会へ行きたいという気持ちは、今こうして身を結び、子供三人と妻、そして、愛する男がふたりいる。
大きく運命は変わり――いやまだ序曲で、これからいろいろ続いてゆくのだ。長い間生きてきた焉貴はそう直感した。
孔明が焉貴に瞬間移動をかける。よほどの仲にならないと、タブーとされている行為だったが、縁側にまだ戻り、孔明は焉貴を膝枕した。
ふたりで話す時はいつもこの格好だった。焉貴は凛々しい眉をしている孔明を見上げるのが好きだった。
「お前、好きな男と結婚しないの――?」
張飛の名前どころか、素振りさえ見せていなかった。孔明は焉貴を見下ろすと、綺麗な頬に山吹色のボブ髪を淫らにかかっている。
「いつから知ってたの?」
「初めに会った時から」
孔明は指先で焉貴の髪を耳にかけ、あの高級ホテルでタクシーに乗ろうとした時のことを、何ひとつもれずに脳裏に並べた。
「その時のいつから?」
「俺の誘いにお前が承諾した時から」
鳥が羽を休めるように、焉貴は横に向きになって背を丸め目をそっと閉じる。
「どうして、そう思ったの?」
この男の頭の重さを膝でいつまでも感じていたい。自分と出会った時から今までの記憶がつまっているこの重さが、やけに愛おしくのだ。
まぶたは開かれ、いつもよりも真摯な黄緑色の瞳がまっすぐ見上げてきた。
「だってそうでしょ? お前最初行かないって言ってたのに、急に行くって言い出した。何かそこに考えがある。だから、他に男がいるになるでしょ?」
理論派なのに、無意識の直感で途中の説明をすっ飛ばす、自分と違った頭のよさを見せる男の言葉を聞いて、孔明は春風みたいに穏やかに微笑んだ。
「ふふっ。焉貴らしい。しかも、途中で理論端折ってる」
孔明は思う。あのあと、自分が焉貴に同性愛について質問をあれこれしていたのだ。頭のいい人間なら、同性愛について悩んでいるのだろうと気づく。
質問をするのは、相手から情報を得るための基本だが、自身の思惑が相手にバレてしまうものでもあるのだ。
薄い服の上から、焉貴が孔明の足をそっとなでる。
「いいでしょ? お前に話してるんだから」
今は教師ではなく、ひとりの男として話をしているのだ。ついれこれないなら、置いてゆく。いやこの男はついてこれるのだ。
さっきから自分の膝をなでていた、結婚指輪をしている手をふざけたように、孔明は軽くつかんだ。
「ボクに好きな人がいるって知っても、ボクを好きでいてくれたの?」
「それって関係すんの? 自分が好きなのは変わんないよね?」
この男は誰かの心を傷つけない世界でずっと生きてきた。そんな澄んだ世界で、本当に大切なものを見失わない術を知っている。
「そうだね」
「じゃあ、いいじゃん」
そして、焉貴本人も知らないうちに、いつの間にか罠になっていて、孔明はチェックメイトされた。
「ただ、無理にとは言わないけど?」
男の香りが思いっきりする顔をしたまま、結婚指輪をした手で捕まえられてしまった。張飛よりも先に、焉貴が孔明の心の中へ入り込んだ。
「うん、いいよ……」
孔明は視線をそらして、小さな声でうなずく。
紅朱凛のことは今でも愛している。その気持ちは変わらない。罪悪感がないと言えば嘘になるが、そもそも罪悪感などという概念も言葉も存在しない世界だ。
自分の人を愛する気持ちはゲイなのか、バイセクシャルなのか。そんな区別もないのかもしれない。差別もないのだから、普通のことなのかもしれない。今は誰もしていないが、未来では普通のこと。
この男のように、素直に好きは好きだと言えたら、そこにどんな素敵な世界が広がっていて、新しい価値観を手に入れられる機会がめぐってくるのだ――
考えている途中で、焉貴のわざと低くした声が割って入ってきた。
「お前、恥ずかしがり屋だよね?」
「もう~!」
孔明は頬が火照り、思わず焉貴の手をポイっと遠くへ投げた。大先生だの、帝国一の頭脳を持っているなどと言われているが、それは外ゆきの顔で、三百億年も生きている男からすれば、プレイベートは子供と一緒だった。
「そんなお前に聞きたいことあんの」
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