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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/8
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いつもと違って悲しみに揺れている、主人の水色をした瞳を涼介は見つけ、知らないふりをして顔を正面へ戻した。
「そうか……」
どんな時も冷静な崇剛でも泣くことがあるのだと、涼介は直感して心を痛めた。
組んでいた神経質な崇剛の指先が解かれると、襟元でふんだんに使われているシルクの生地に、ガス灯からオレンジ色の光が乱反射する。
「ですから、見ない、聞かないという術を手に入れたのです。そのため、今は人の心を勝手に見ること、聞くことはしていません。事件を解決するために必要な時は使うこともありますが……」
ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンが引きつけられるように、ワイングラスへと伸びてゆき、崇剛はサングリアを一口飲んだ。
「ですが、人を守るための嘘もあります。そちらだけでなく、自身をごまかすために嘘をつくほど、人は弱いものだとも知りました。ですから、今は心は痛んでいません」
千里眼のメシアを持つ聖霊師は神父でもあり、様々な人の懺悔を聞くこともあった。三十二年の月日で、ルールはルールとして融通が効かなかった崇剛も、人を許すことができるようになっていたのだ。
デキャンタはまたカラになり、次のものに手をかけられた。ワイングラスのルビー色が注がれる。涼介はそれを見つけて顔をしかめた。
(今気づいたけど、お前今日、飲むペースが早くないか?)
主人は執事の眼差しをデジタルに切り捨て、グラスを傾ける。
(会話は終了しました。それでは、次の罠を仕掛けましょうか)
涼介の違和感は置き去りのまま、男ふたりの会話――いや策略が進んでゆく。
「先ほどの約束どおり、あなたに質問があります。よろしいですか?」
崇剛の心の中は、数字に強い彼らしい思惑が隠されていた。
(今から二番目の質問で、あなたから情報を提供していただきます)
バルブレアを飲んでいた涼介は、ガラスでできたテーブルの上に気持ちを入れ替えるように、グラスをカタンと置いた。
「あぁ、わかった。それは約束だからな」
崇剛から優雅な笑みは消えて、珍しく猛吹雪を感じさせるような冷たい雰囲気に変わった。
「スズランの葉には毒性――があります。最悪の場合、死に至ります。いつどのように使ったのですか?」
夕方に見つけた葉っぱの真相は、主人でなくとも怒って当然の話だった。正直で素直な涼介は落ち込む――感情に流された。手元に視線を落として、あっさりと情報を渡してしまう。
「毒として本当に使ったことはない。ただ、お前を守ろうと思って……」
策略家の罠はいつでも何重にも張られている。主人を思う執事の主従愛に思える場面だったが、冷酷な崇剛は機会を見逃さず、一気に涼介の懐に切り込もうとする。
(私が繰り返し見ている夢……。それでは、こちらの言葉にしましょうか。もうひとつの情報を答えてきただきます)
崇剛の最初の目的は、スズランのことではなく、執事にある秘密がもれているかもしれないという事実を確認することだ。今まさにそれに手をかけようとしている。
老若男女を振り向かせるほど優美に微笑み、崇剛は中性的な魅惑をひどく振りまいた。主人を守ろうとしていた執事に向かって。
「私を愛してくださっているのですか――?」
BLの香りをぷんぷんと匂わせられて、涼介は戸惑い顔をした。
「お前また……」
主人が自分の気持ちをごまかすためにやってきているのだと、執事は信じて疑わなかった。
涼介は抗議したいのだ。さっき自分が言っていたではないかと。己をごまかすために嘘をつくことはいけないと。それなのに、ごまかしていると、短絡に判断している執事は、主人の瞳をまっすぐ見返した。
「だから、お前が愛してるのは――」
「そうか……」
どんな時も冷静な崇剛でも泣くことがあるのだと、涼介は直感して心を痛めた。
組んでいた神経質な崇剛の指先が解かれると、襟元でふんだんに使われているシルクの生地に、ガス灯からオレンジ色の光が乱反射する。
「ですから、見ない、聞かないという術を手に入れたのです。そのため、今は人の心を勝手に見ること、聞くことはしていません。事件を解決するために必要な時は使うこともありますが……」
ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンが引きつけられるように、ワイングラスへと伸びてゆき、崇剛はサングリアを一口飲んだ。
「ですが、人を守るための嘘もあります。そちらだけでなく、自身をごまかすために嘘をつくほど、人は弱いものだとも知りました。ですから、今は心は痛んでいません」
千里眼のメシアを持つ聖霊師は神父でもあり、様々な人の懺悔を聞くこともあった。三十二年の月日で、ルールはルールとして融通が効かなかった崇剛も、人を許すことができるようになっていたのだ。
デキャンタはまたカラになり、次のものに手をかけられた。ワイングラスのルビー色が注がれる。涼介はそれを見つけて顔をしかめた。
(今気づいたけど、お前今日、飲むペースが早くないか?)
主人は執事の眼差しをデジタルに切り捨て、グラスを傾ける。
(会話は終了しました。それでは、次の罠を仕掛けましょうか)
涼介の違和感は置き去りのまま、男ふたりの会話――いや策略が進んでゆく。
「先ほどの約束どおり、あなたに質問があります。よろしいですか?」
崇剛の心の中は、数字に強い彼らしい思惑が隠されていた。
(今から二番目の質問で、あなたから情報を提供していただきます)
バルブレアを飲んでいた涼介は、ガラスでできたテーブルの上に気持ちを入れ替えるように、グラスをカタンと置いた。
「あぁ、わかった。それは約束だからな」
崇剛から優雅な笑みは消えて、珍しく猛吹雪を感じさせるような冷たい雰囲気に変わった。
「スズランの葉には毒性――があります。最悪の場合、死に至ります。いつどのように使ったのですか?」
夕方に見つけた葉っぱの真相は、主人でなくとも怒って当然の話だった。正直で素直な涼介は落ち込む――感情に流された。手元に視線を落として、あっさりと情報を渡してしまう。
「毒として本当に使ったことはない。ただ、お前を守ろうと思って……」
策略家の罠はいつでも何重にも張られている。主人を思う執事の主従愛に思える場面だったが、冷酷な崇剛は機会を見逃さず、一気に涼介の懐に切り込もうとする。
(私が繰り返し見ている夢……。それでは、こちらの言葉にしましょうか。もうひとつの情報を答えてきただきます)
崇剛の最初の目的は、スズランのことではなく、執事にある秘密がもれているかもしれないという事実を確認することだ。今まさにそれに手をかけようとしている。
老若男女を振り向かせるほど優美に微笑み、崇剛は中性的な魅惑をひどく振りまいた。主人を守ろうとしていた執事に向かって。
「私を愛してくださっているのですか――?」
BLの香りをぷんぷんと匂わせられて、涼介は戸惑い顔をした。
「お前また……」
主人が自分の気持ちをごまかすためにやってきているのだと、執事は信じて疑わなかった。
涼介は抗議したいのだ。さっき自分が言っていたではないかと。己をごまかすために嘘をつくことはいけないと。それなのに、ごまかしていると、短絡に判断している執事は、主人の瞳をまっすぐ見返した。
「だから、お前が愛してるのは――」
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