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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time of judgement/17
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「Stop」
ダルレシアンの魔法で、味方の軍を残して、敵全体の動きがピタリと止まった。急に静かになった戦場の中で、さっきから流れていたクラシック曲は、ピアニッシモの聖なる声とストリングスをひっそりと刻み始めた。
Quantus tremor est futurus/どれほど震えがあるだろう。
Quando judex est venturus/そのとき裁き手が来るだろう。
Cuncta stricte discussurus!/すべてを厳しく打ち砕くだろう!
時を止めた魔法の効力を測るため、崇剛はポケットの上から懐中時計に手を当て、迫ってきた数字を読み取った。
(51017……。十七時十分十七秒。召喚魔法を発動させてから、一分二十秒経過。残り、三分四十秒)
敵の動きが止まってしまっては、戦っている意味もない。戦場で勇姿を見せていたカミエとアドスが本陣へと戻ってきた。
「何があった?」
地鳴りのような低い声で、カミエが聞くと、
「予想した通りになっちゃった?」
少し離れた場所で、大鎌を手裏剣のように投げていたナールがいつの間にかそばにいて、人間ふたりを横から眺めた。
「えぇ、そうみたいです~」
ラジュがニコニコしながら言うと、アドスがポジティブに大きくうなずいた。
「いい休憩になるっすね」
もめそうなのに――。シズキは射殺すようなスミレ色の瞳でやって、吐き捨てるようにうなった。
「貴様、ことの重大さをわかって――」
「しー! お前のひねくれ言葉あとにして」
ナールのナンパするみたいな軽薄な口調で、天使のざわつきは強制終了した。
まわりの反応などどうでもよく、崇剛の水色の瞳は氷の刃の異名を持って、ダルレシアンの聡明な瑠璃紺色のそれをじっと見つめ、いつもより声のトーンを落とした。
「なぜ、魂を消滅させたのですか?」
激情という獣が咆哮するのを、冷静な頭脳でかろうじて食止めている――問い詰める口調だった。それなのに、ダルレシアンは自分の爪を見つめたまま、平然と言葉を口にする。
「正義という名の元において……」
神聖なる戦場に置いて、不釣り合い――いや、許しておけない言葉だった。
聖霊師で神父で千里眼の持ち主である、神に選ばれし崇剛は味方全員の視線が集まる中、教祖に向かって長々と説教し始めた。
「正義という言葉は悪に属する言葉です。なぜなら、邪神界ができる前は世界は普通だったのです。正しいという言葉さえ存在していなかったのです。ですから、正義という名の元に何をしてもいいということにはなりません」
シズキは傍で聴きながら、皮肉な笑みを浮かべる。
「人間同士で争うとはな、何とも無様だな。そうしている間に、死してメシアを神に返上するがいい。レベルの低い貴様らにメシアを持つ資格などない」
爪を見るのをやめて、崇剛に顔を向けたダルレシアンの瞳はどこまでも暖かさに満ちあふれていた。
「ボクもそう思うよ。だけど、ミズリー教は絶対に悪を許さない教えだった。教祖のボクは嘘をつくしかない日々だった。経典を覆すのはボクにもできないからね」
崇剛は今初めて見つけた、ダルレシアンの瞳に影を差しているのを。
ほぼ無意識で千里眼を使う。白いローブを着た教祖は二十九年を生きていた。崇剛とは三つ違い。この男はどんな人生を送ってきたのだろうか。どんな想いで生きてきたのだろうか。
「――キミと意見があって嬉しいよ」
そこまでは、いい感じで和解が進んでいたのに、ダルレシアンは可愛く小首をかしげ、「じゃあ、ぎゅーって抱きしめていい?」
やはり、男色家か――。崇剛はあごに曲げた指を当て笑いもせず、ダルレシアンの聡明な瑠璃紺色の瞳じっと見つめ返した。
「どのような意味ですか?」
「ふふっ、なーんちゃって!」ダルレシアンは肩をすくめて笑い、すぐに真摯な眼差しに戻った。
「人の気持ちは機械じゃない。良い悪いのふたつで分類することは無理があるんじゃないかな? だから、改心する可能性がゼロではない限り、その人が存在している意義はある」
ダルレシアンの白いローブは、右に左に行ったり来たりする。
「たくさんの人からいらないと言われていても、見る角度が変わったら、必要とされてる。人ってそうでしょ?」
「えぇ」
「失敗したからダメだから、全部を無にして最初からやり直す――って考え方自体が悪なんだと、俺は思うよ。今ある状況をどう改善してゆくかが、普通なんじゃないかな? 崇剛はどう思う?」
歩みを止めると、ダルレシアンの漆黒の髪がゆらゆらと背中で大きく揺れた。
ダルレシアンの魔法で、味方の軍を残して、敵全体の動きがピタリと止まった。急に静かになった戦場の中で、さっきから流れていたクラシック曲は、ピアニッシモの聖なる声とストリングスをひっそりと刻み始めた。
Quantus tremor est futurus/どれほど震えがあるだろう。
Quando judex est venturus/そのとき裁き手が来るだろう。
Cuncta stricte discussurus!/すべてを厳しく打ち砕くだろう!
時を止めた魔法の効力を測るため、崇剛はポケットの上から懐中時計に手を当て、迫ってきた数字を読み取った。
(51017……。十七時十分十七秒。召喚魔法を発動させてから、一分二十秒経過。残り、三分四十秒)
敵の動きが止まってしまっては、戦っている意味もない。戦場で勇姿を見せていたカミエとアドスが本陣へと戻ってきた。
「何があった?」
地鳴りのような低い声で、カミエが聞くと、
「予想した通りになっちゃった?」
少し離れた場所で、大鎌を手裏剣のように投げていたナールがいつの間にかそばにいて、人間ふたりを横から眺めた。
「えぇ、そうみたいです~」
ラジュがニコニコしながら言うと、アドスがポジティブに大きくうなずいた。
「いい休憩になるっすね」
もめそうなのに――。シズキは射殺すようなスミレ色の瞳でやって、吐き捨てるようにうなった。
「貴様、ことの重大さをわかって――」
「しー! お前のひねくれ言葉あとにして」
ナールのナンパするみたいな軽薄な口調で、天使のざわつきは強制終了した。
まわりの反応などどうでもよく、崇剛の水色の瞳は氷の刃の異名を持って、ダルレシアンの聡明な瑠璃紺色のそれをじっと見つめ、いつもより声のトーンを落とした。
「なぜ、魂を消滅させたのですか?」
激情という獣が咆哮するのを、冷静な頭脳でかろうじて食止めている――問い詰める口調だった。それなのに、ダルレシアンは自分の爪を見つめたまま、平然と言葉を口にする。
「正義という名の元において……」
神聖なる戦場に置いて、不釣り合い――いや、許しておけない言葉だった。
聖霊師で神父で千里眼の持ち主である、神に選ばれし崇剛は味方全員の視線が集まる中、教祖に向かって長々と説教し始めた。
「正義という言葉は悪に属する言葉です。なぜなら、邪神界ができる前は世界は普通だったのです。正しいという言葉さえ存在していなかったのです。ですから、正義という名の元に何をしてもいいということにはなりません」
シズキは傍で聴きながら、皮肉な笑みを浮かべる。
「人間同士で争うとはな、何とも無様だな。そうしている間に、死してメシアを神に返上するがいい。レベルの低い貴様らにメシアを持つ資格などない」
爪を見るのをやめて、崇剛に顔を向けたダルレシアンの瞳はどこまでも暖かさに満ちあふれていた。
「ボクもそう思うよ。だけど、ミズリー教は絶対に悪を許さない教えだった。教祖のボクは嘘をつくしかない日々だった。経典を覆すのはボクにもできないからね」
崇剛は今初めて見つけた、ダルレシアンの瞳に影を差しているのを。
ほぼ無意識で千里眼を使う。白いローブを着た教祖は二十九年を生きていた。崇剛とは三つ違い。この男はどんな人生を送ってきたのだろうか。どんな想いで生きてきたのだろうか。
「――キミと意見があって嬉しいよ」
そこまでは、いい感じで和解が進んでいたのに、ダルレシアンは可愛く小首をかしげ、「じゃあ、ぎゅーって抱きしめていい?」
やはり、男色家か――。崇剛はあごに曲げた指を当て笑いもせず、ダルレシアンの聡明な瑠璃紺色の瞳じっと見つめ返した。
「どのような意味ですか?」
「ふふっ、なーんちゃって!」ダルレシアンは肩をすくめて笑い、すぐに真摯な眼差しに戻った。
「人の気持ちは機械じゃない。良い悪いのふたつで分類することは無理があるんじゃないかな? だから、改心する可能性がゼロではない限り、その人が存在している意義はある」
ダルレシアンの白いローブは、右に左に行ったり来たりする。
「たくさんの人からいらないと言われていても、見る角度が変わったら、必要とされてる。人ってそうでしょ?」
「えぇ」
「失敗したからダメだから、全部を無にして最初からやり直す――って考え方自体が悪なんだと、俺は思うよ。今ある状況をどう改善してゆくかが、普通なんじゃないかな? 崇剛はどう思う?」
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