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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
お礼参り/4
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酒専門店には、赤ワインだけでもかなりの種類がある。崇剛は考える。屋敷で飲むサングリアの特徴を。
「重厚感があり、柑橘系の香りがするものはありますか?」
崇剛のこだわりが見え隠れするチョイスだった。彰彦はニヤリとする。重厚感のあるワインをサングリアにするとは、珍しいことをしやがる。ノーマルは軽めのやつだろ――。
バーテンダーは穏やかに微笑んだ。
「いいのがありますよ」
「それでは、そちらをお願いします」
無事に注文が終わると、バーテンダーは崇剛と彰彦を残して、カウンター内を離れていった。ワインを手際よく用意しているのを横目で見ながら、崇剛はさっそく情報収集。
「彰彦は何を飲むのですか?」
シガーケースとジェットライターは乱暴にテーブルに投げ出された。衝動でケースのロックがはずれ、赤茶の細長いミニシガリロが出番というように顔を出して、
「オレはジンのショット、オンリーでな」彰彦は葉巻を一本取り出した。
「強いものを飲むのですね」
十三度。
対
四十二度。
飲む酒の強さまでが違っているふたり――。
シガーケースが彰彦から崇剛へ差し出されると、
「ありがとうございます」神経質な指先で抜き取り、優雅にお礼を言った。
ジェットライターでミニシガリロにそれぞれ火をつけ、口にくわえる。青白い煙が一度上がると、バーテンダーの声がその向こうから聞こえた。
「どうぞ」
ルビー色で満たされたワイングラスと、結露ができ始めているショットグラスが出された。彰彦にはもうひとつ透明な液体の入ったグラスが差し出されそうになったが、
「チェイサーはいらねえぜ、今日は。酔いてえからよ。水はナッシングだ」
オーダーを聞き返してきたら、ナイフエッジ チョップをお見舞いしてやろうとしたが、バーテンダーはその攻撃から今夜は免れた。しかし、あきれた顔をする。
「またっすか? やなことでもあったんすか?」
その原因が隣に座っている男だと言うわけにもいかず、彰彦は噛みつくように吠え、
「うるせえ!」シルバーリングのついたゴツい手で、小さなグラスをガバッとつかみ、クイっと煽った。
崇剛はガス灯の明かりを向こう側にして、赤ワインを透かし愛でる。次は香りを楽しみ、中性的な唇に高級グラスだとすぐにわかる薄い口当たりが広がった。飲む前から酔ってしまうほどの心地よさを感じながら、体の中へすうっとワインが染み渡ってゆく。
ふたりともグラスから口を離し葉巻を吸い、酒の香りと味がミニシガリロによって繊細でありながら、鋭く味覚と臭覚が翻弄される。崇剛と彰彦の視線は、真正面に置いてある酒瓶たちを眺めるばかり。酔いとミニシガリロの香りを、黙ったままふたりはしばらく共有していた。店内に流れる音楽とカツカツと氷を削る音が紡がれるだけだった。
お互いのグラスが最後の一口になる頃、崇剛がやっと話し出した。
「通勤にリムジンを使っていただいて構いませんよ」
「あぁ? そりゃ、官僚並み――っつうか、それ以上だな」彰彦は両肘をけだるくテーブルに乗せて、青白い煙を吐いた。
自転車が主流で遠距離の移動は馬車。国家機関の治安省でも、幾重にも重なる許可を突破しないと使えない代物――自動車。その種類がリムジン。政治家でさえほとんど保有していないもの。
「そうなのですか?」
屋敷からほとんど外へ出ない暮らしをしている崇剛は聞き返した。
男らしい頬で氷の刃という視線を受けていたが、彰彦も顔を向け、口につけていたショットグラスを離した。
「リムジンは持ってねえだろ、いくら国の役所でもよ」
「そうなのですね」
千里眼のメシアを使う関係で、あの世に意識がとらわれがちな崇剛はある意味、世間を知らないのだった。
カラになったショットグラスをバーテンダーに見せつけるように、彰彦は揺らす。
「明日から、キャリア時間で出勤してやっか?」
丸刈りの男がすぐに寄ってきて、彰彦のグラスを受け取り、崇剛もカラのそれを渡した。
「同じものを」
「わかりました」
「重厚感があり、柑橘系の香りがするものはありますか?」
崇剛のこだわりが見え隠れするチョイスだった。彰彦はニヤリとする。重厚感のあるワインをサングリアにするとは、珍しいことをしやがる。ノーマルは軽めのやつだろ――。
バーテンダーは穏やかに微笑んだ。
「いいのがありますよ」
「それでは、そちらをお願いします」
無事に注文が終わると、バーテンダーは崇剛と彰彦を残して、カウンター内を離れていった。ワインを手際よく用意しているのを横目で見ながら、崇剛はさっそく情報収集。
「彰彦は何を飲むのですか?」
シガーケースとジェットライターは乱暴にテーブルに投げ出された。衝動でケースのロックがはずれ、赤茶の細長いミニシガリロが出番というように顔を出して、
「オレはジンのショット、オンリーでな」彰彦は葉巻を一本取り出した。
「強いものを飲むのですね」
十三度。
対
四十二度。
飲む酒の強さまでが違っているふたり――。
シガーケースが彰彦から崇剛へ差し出されると、
「ありがとうございます」神経質な指先で抜き取り、優雅にお礼を言った。
ジェットライターでミニシガリロにそれぞれ火をつけ、口にくわえる。青白い煙が一度上がると、バーテンダーの声がその向こうから聞こえた。
「どうぞ」
ルビー色で満たされたワイングラスと、結露ができ始めているショットグラスが出された。彰彦にはもうひとつ透明な液体の入ったグラスが差し出されそうになったが、
「チェイサーはいらねえぜ、今日は。酔いてえからよ。水はナッシングだ」
オーダーを聞き返してきたら、ナイフエッジ チョップをお見舞いしてやろうとしたが、バーテンダーはその攻撃から今夜は免れた。しかし、あきれた顔をする。
「またっすか? やなことでもあったんすか?」
その原因が隣に座っている男だと言うわけにもいかず、彰彦は噛みつくように吠え、
「うるせえ!」シルバーリングのついたゴツい手で、小さなグラスをガバッとつかみ、クイっと煽った。
崇剛はガス灯の明かりを向こう側にして、赤ワインを透かし愛でる。次は香りを楽しみ、中性的な唇に高級グラスだとすぐにわかる薄い口当たりが広がった。飲む前から酔ってしまうほどの心地よさを感じながら、体の中へすうっとワインが染み渡ってゆく。
ふたりともグラスから口を離し葉巻を吸い、酒の香りと味がミニシガリロによって繊細でありながら、鋭く味覚と臭覚が翻弄される。崇剛と彰彦の視線は、真正面に置いてある酒瓶たちを眺めるばかり。酔いとミニシガリロの香りを、黙ったままふたりはしばらく共有していた。店内に流れる音楽とカツカツと氷を削る音が紡がれるだけだった。
お互いのグラスが最後の一口になる頃、崇剛がやっと話し出した。
「通勤にリムジンを使っていただいて構いませんよ」
「あぁ? そりゃ、官僚並み――っつうか、それ以上だな」彰彦は両肘をけだるくテーブルに乗せて、青白い煙を吐いた。
自転車が主流で遠距離の移動は馬車。国家機関の治安省でも、幾重にも重なる許可を突破しないと使えない代物――自動車。その種類がリムジン。政治家でさえほとんど保有していないもの。
「そうなのですか?」
屋敷からほとんど外へ出ない暮らしをしている崇剛は聞き返した。
男らしい頬で氷の刃という視線を受けていたが、彰彦も顔を向け、口につけていたショットグラスを離した。
「リムジンは持ってねえだろ、いくら国の役所でもよ」
「そうなのですね」
千里眼のメシアを使う関係で、あの世に意識がとらわれがちな崇剛はある意味、世間を知らないのだった。
カラになったショットグラスをバーテンダーに見せつけるように、彰彦は揺らす。
「明日から、キャリア時間で出勤してやっか?」
丸刈りの男がすぐに寄ってきて、彰彦のグラスを受け取り、崇剛もカラのそれを渡した。
「同じものを」
「わかりました」
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