794 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
始まりの晩餐/8
しおりを挟む
同じように聞こえていない彰彦は、チーズを一口かじった。
「あぶれたモン同士で話すっか」
ジンのショットを数杯飲んでいる男を、ビールを何杯も飲んでいる男は胡散臭そうに見た。
「お前のその目、嫌な予感がする。子供にも聞かせられる話にしろ」
「いいぜ」
彰彦は椅子の上に乗せた足を組み替え直すと、スパーがカチャッと鳴った。
「じゃあよ、仕事の話だ」
「仕事? 口外していいのか?」
この男は刑事だ。涼介は眉をひそめた。太いシルバーリングをつけた大きな手のひらで、彰彦は涼介の腕を軽く叩く。
「ここだけの話にしとけよ」
「あぁ、わかった」
涼介がうなずくと、ふたりはいつの間にか、食堂の賑わいからはぐれていた。
*
――――ザーッと雨が外で煙る、聖霊寮の不浄な空気の中に、ふたりで立っていた。相変わらずうず高く積まれた資料に囲まれた谷間に、ひとつの事件の記録が広げられていた。
「ある日よ。外国と関係する事件の資料を見つけたんだよ」
「どこの国だ?」
「噂のシュトライツと隣接する国だ」
心霊事件が紐解かれると――、いきなり薄暗い廊下で、彰彦と涼介は靴音を響かせて歩いていた。他に職員がいるのに、不自然なほど大きく物音が響く。
「何があったんだ?」
「学校から人がひとりずつ消えてくっつう事件が起きてるらしくてよ。出張でその学校に行ったんだ」
「出張なんてあるんだな」
聖霊寮の廊下を歩いていたはずなのに、教室が並ぶ学校の通路をいつの間にか歩いていた。死を連想させる冷たい壁と天井に囲まれた空間。場所は変わったはずなのに、相変わらず雨の音が降り注ぐ。
「でよ、高等学校っつって、十代後半のガキが通うところなんだよ」
「ふーん」
真っ暗な空に、青白い閃光がストロボを焚くように、ピカッとあたりを一瞬だけ昼間のように明るくした。
「行ったその日がよ、あいにくひでえ雷雨でよ。この国みてえにろうそくもガス灯もなくて、電気で明かりを取ってたんだ。がよ、落雷して電気はオジャン――停電して真っ暗だ」
遠くにいたはずの雷が、まさしく光の速さで一瞬にして飛んできて、窓から見上げた校舎の屋上にあった避雷針に、青白い線を作ってバリバリと世界を切り裂くように落ちた。
思わず目を閉じて、再び開けると、薄暗い廊下に赤い点が浮かび上がった。まるで血のような生々しい色をして。
涼介は急に寒気がして、両肩を腕でさする。
「学校って独特の雰囲気あるよな。それに、七不思議とかあって、思い出さなくていい時に思い出す。ちょっと怖くなってきた」
赤い点を通り過ぎようとすると、遠くに人影がゆらゆらと浮かんだ。
「でよ、生徒がみんな同じ方向に歩いてくんだ」
「ど、どこにだ?」
贄か処刑台でもあるのか。涼介は心臓がバクバク言い出す。
「それが暗くてよ、よくわかんねえんだよな」
自分たちの足音に別の音が、カツンカツンと人気のない学校の廊下に混じり始めた。音が反響して、どこが源なのかわからず、涼介はキョロキョロする。
すると今度は、自分の足音だけになっていた。彰彦がいない――。ひとりきりになってしまった、怪奇現象が起きている廊下。
冷たい汗が背中をすうっと落ちてゆく。すると、背後にふと人の気配を感じた。恐る恐る振り返るとそこには、ウェスタンスタイルの心霊刑事が立っていた。
「そのうち、センコーがやってきてよ、生徒がひとりずついなくなってるっつうんだ」
「やっぱり本当だったのか?」
彰彦はスパーの音をさせながら近づいてきて、涼介の腕を手の甲で軽く叩いた。
「まあ、最後まで聞けよ」
また靴音が他にした。彰彦と一緒に見ると、大人――先生がひとり廊下を横切っていった。
「オレも生徒の人数数えたんだが、マジで減ってたんだよ」
「あぶれたモン同士で話すっか」
ジンのショットを数杯飲んでいる男を、ビールを何杯も飲んでいる男は胡散臭そうに見た。
「お前のその目、嫌な予感がする。子供にも聞かせられる話にしろ」
「いいぜ」
彰彦は椅子の上に乗せた足を組み替え直すと、スパーがカチャッと鳴った。
「じゃあよ、仕事の話だ」
「仕事? 口外していいのか?」
この男は刑事だ。涼介は眉をひそめた。太いシルバーリングをつけた大きな手のひらで、彰彦は涼介の腕を軽く叩く。
「ここだけの話にしとけよ」
「あぁ、わかった」
涼介がうなずくと、ふたりはいつの間にか、食堂の賑わいからはぐれていた。
*
――――ザーッと雨が外で煙る、聖霊寮の不浄な空気の中に、ふたりで立っていた。相変わらずうず高く積まれた資料に囲まれた谷間に、ひとつの事件の記録が広げられていた。
「ある日よ。外国と関係する事件の資料を見つけたんだよ」
「どこの国だ?」
「噂のシュトライツと隣接する国だ」
心霊事件が紐解かれると――、いきなり薄暗い廊下で、彰彦と涼介は靴音を響かせて歩いていた。他に職員がいるのに、不自然なほど大きく物音が響く。
「何があったんだ?」
「学校から人がひとりずつ消えてくっつう事件が起きてるらしくてよ。出張でその学校に行ったんだ」
「出張なんてあるんだな」
聖霊寮の廊下を歩いていたはずなのに、教室が並ぶ学校の通路をいつの間にか歩いていた。死を連想させる冷たい壁と天井に囲まれた空間。場所は変わったはずなのに、相変わらず雨の音が降り注ぐ。
「でよ、高等学校っつって、十代後半のガキが通うところなんだよ」
「ふーん」
真っ暗な空に、青白い閃光がストロボを焚くように、ピカッとあたりを一瞬だけ昼間のように明るくした。
「行ったその日がよ、あいにくひでえ雷雨でよ。この国みてえにろうそくもガス灯もなくて、電気で明かりを取ってたんだ。がよ、落雷して電気はオジャン――停電して真っ暗だ」
遠くにいたはずの雷が、まさしく光の速さで一瞬にして飛んできて、窓から見上げた校舎の屋上にあった避雷針に、青白い線を作ってバリバリと世界を切り裂くように落ちた。
思わず目を閉じて、再び開けると、薄暗い廊下に赤い点が浮かび上がった。まるで血のような生々しい色をして。
涼介は急に寒気がして、両肩を腕でさする。
「学校って独特の雰囲気あるよな。それに、七不思議とかあって、思い出さなくていい時に思い出す。ちょっと怖くなってきた」
赤い点を通り過ぎようとすると、遠くに人影がゆらゆらと浮かんだ。
「でよ、生徒がみんな同じ方向に歩いてくんだ」
「ど、どこにだ?」
贄か処刑台でもあるのか。涼介は心臓がバクバク言い出す。
「それが暗くてよ、よくわかんねえんだよな」
自分たちの足音に別の音が、カツンカツンと人気のない学校の廊下に混じり始めた。音が反響して、どこが源なのかわからず、涼介はキョロキョロする。
すると今度は、自分の足音だけになっていた。彰彦がいない――。ひとりきりになってしまった、怪奇現象が起きている廊下。
冷たい汗が背中をすうっと落ちてゆく。すると、背後にふと人の気配を感じた。恐る恐る振り返るとそこには、ウェスタンスタイルの心霊刑事が立っていた。
「そのうち、センコーがやってきてよ、生徒がひとりずついなくなってるっつうんだ」
「やっぱり本当だったのか?」
彰彦はスパーの音をさせながら近づいてきて、涼介の腕を手の甲で軽く叩いた。
「まあ、最後まで聞けよ」
また靴音が他にした。彰彦と一緒に見ると、大人――先生がひとり廊下を横切っていった。
「オレも生徒の人数数えたんだが、マジで減ってたんだよ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる