明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
842 / 967
閉鎖病棟の怪

怨霊の魔窟/1

しおりを挟む
 ふたりがいる部屋の外――廊下を白い何かがすうっと横切っていった。あれは歩いている速度ではない。

 パチ、パチ、パチ……。

 ラップ音が合図というように、主役ふたり――いや餌食ふたつがそろい、死へのうたげがとうとう始まった。あたりの気温がひどく下がったような気がした。

「朝まで生き残るしか方法がない――」

 袴姿の男に言われて、颯茄は自分が風呂から出てきた時刻を思い浮かべる。まだ午前零時を過ぎたばかりだ。気が遠くなるような時間の幕開け。

 自分たちを取り囲むように、ぐるぐると回旋かいせんしながら悪霊たちが押し寄せてくるのが、手に取るようにわかる。我先に、自身のエネルギーとなる相手の魂をらいに。

 夕霧の精巧な脳裏に敵の数がカウントされてゆく。

 ――霊体、三十六。邪気、七十。

 すでに、百近くにも登ってしまった。

 幽体離脱をして、同じ次元になった颯茄たちには、幽霊は透き通った白い存在ではなく、きちんと色を持っていた。

 肉体は嘘をつくことができる。だが、心がむき出しとなる霊体。なんのごまかしもなく、今すぐにでも襲ってくる殺気が立ち昇る。

「俺の後ろに下がっていろ」

 知らない男の背中にかばわれたが、颯茄は腕をかき分けるようにして、前に出ようとした。

「自分のことは自分で守ります!」
「戦えるのか?」

 無感情、無動の瞳でまっすぐ見下ろされたが、颯茄は首を横にプルプルと振った。

「戦ったことはないです。ですが、大丈夫な気がする――」
「命がかかっている時に、感情で判断するな」

 ずいぶんと無責任な発言に、重く踏み潰すような低い声が静かに告げた。颯茄は珍しく真剣な顔で恐れもせず見返して、しっかりと意見する。

「確かに、あなたの言う通りだと思います。ですが、私をかばって、あなたまで死んでしまっては意味がありません」

 守られるだけの存在になどなりたくないのだ。理不尽に誰かに連れてこられたとしても、人には迷惑をかけたくないのだ。それが、颯茄の誰にも譲れない信念だ。

 しかし、現実は厳しく、こうしている間にも、敵の数は無情にもどんどん増えてゆく。

 ――霊体、五十七。邪気、九十二。

「では、どうする?」

 ミイラみたいな人たちに囲まれた病室で、女優志望のフリーターは険しい顔で、ない頭を絞る。

「んん~~?」

 人差し指を立てて、くるくるっと円を描いていたが、体のあちこちを急に触り出した。

「魔法……ぶ――あれっ!?」

 そこで、極めて重大な出来事に出くわして、大声を上げた。病室に不釣合いな白と紺の袴が冷たい風に少しだけ揺れる。

「どうした?」
「服が変わってる! どういうこと? パジャマだったのに……」

 今ごろ、こんなことに気づいた颯茄だった。スーツが袴姿に変わった夕霧は、今までの戦いで心得ていた。

「霊体は自身に由縁ゆえんのある服装になる傾向が高い」

 武術をしている夕霧は、袴姿になるのは納得がいく。しかし、颯茄は白のワンピースと編み込んだみたいな茶色のサンダルをまじまじと見下ろして、首をかしげた。

「え……? これはどういうコンセプト?」

 見当違いなところで引っかかってしまった彼女は落ち着きなく、体をねじったりしながら眺め始めた。

 地にしっかり足がついている、いや大地と言っても過言ではない絶対不動の夕霧は、地鳴りのように低い声でまっすぐツッコミ。

「話がそれている」

 ――霊体、七十三。邪気、百五。

 はっとして、颯茄は素早く戦う方法を再び模索し始めた。

「あっ! そうでした。魔法……ぶ――あっっ!!!!」

 雷に打たれたように、天啓が下った。手のひらを、夕霧の顔に近づける。

「ちょっと待ってください」
「俺は待つが、向こうは待たん」

 もっともな意見で、戦闘開始前である。颯茄は自分たちを取り囲んでいる敵を見渡して、大声を張り上げた。

「みなさん、ちょっと待っててください!」
「え……?」

 悪霊たち全員が毒気を抜かれたように、唖然とした。そんなことは眼中になく、颯茄はマイワールドに入り、うんうんと大きく何度もうなずく。

「このためだったんだ。きっと」

 腕組みをして、足でパタパタと病院の床を叩く。

「何だろう? ってずっと思ってきたけど……」

 右に左に首を向ける。

「神父さまに相談した時、神の御心って言われたけど、やっぱりそうだったんだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...