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5章
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テスト期間の予備日だった昨日は学校を休み、一学期の終業式だった今日も休むことになった。結局、夏休みに入るまで一度も学校には行けなかったということになる。
担任からは、成績表と今日配布したプリントについては後日郵送で送ると電話があった。
なんにせよ、テストだけは全教科受けることができたからまだよかった。テストを欠席すると、問答無用で追試になってしまう。つまり夏休みが数日減ってしまうということだ。それはなんとしても避けたかったので、ギリギリセーフだった。
だけど……。
叶太はスマホを手に取り、北村とのメッセージ履歴を画面に表示させた。
『遊園地行けなくてごめんな』
昨日の夕方、熱にうなされながら北村に送ったメッセージの下には、
『気にしないでください! 風邪が治ったら行きましょう!』
と北村から届いたメッセージが続く。
叶太はスマホを手放し、再びベッドの上で仰向けになった。
せっかく誘ってくれたのに、悪いことをしちゃったな。
しょうがないことだとわかっているが、直前になって北村との約束を破ることになってしまった。『ブラレイ』と遊園地のコラボ。きっと北村も楽しみにしていただろうに。
でも……体調が悪くて気持ちも弱っているからだろうか。行けなくなったというのに、不思議とホッとしている自分がいる。それが申し訳なかった。
雨雲のような灰色の罪悪感が、胸にじっとりとまとわりつく。叶太は目を閉じた。
――ほんと残酷なやつ。
ハッとして、すぐに目を開けた。
北村が遊園地に誘ってくれた日、青から言われた言葉。この二週間ほど、叶太はふとしたときにあの日の光景を思い出す。
どうして青にそんなことを言われたのか、何度考えてもわからない。最初はイラッとしたものの、今ではただただ疑問だった。
それにあの日以来急変した青の態度。青に好きな人がいると聞いて、自分は応援したかった。けれど、どこかで自分はきっと青の地雷を踏んでしまったのだろうか。
兄弟のように近くにいた青のよそよそしい態度。それが今はひたすら寂しい。青のことでこんな風に感じるのは初めてだった。
喉の渇きも忘れ、叶太はベッドで猫のように丸まった。
母親経由で、自分が体調を崩したことぐらいは青の耳にも入っているだろう。前は自分が風邪を引くと、「バカは風邪引かないんじゃねーの?」と冷やかしに来ては、叶太の部屋でお菓子を食べたりゲームをしたり、漫画を読んだりと好き勝手していた。
当時はウザかったが、今思えば居心地のいい空間だった。自分が寝ていても、気を遣わなくていい空気が楽だった。
あ、やばい。なんか泣きそう。
やっぱり弱っているんだ。なんだか猛烈に寂しさに襲われて、うるっとした。鼻の奥がツンとして、今すぐ青に会いたくなった。
そのときだった。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。そういえば先日、ふるさと納税で頼んだ桃が近々届くと言っていた。普段なら置き配にしてくれよとうんざりするところだが、桃ならしょうがない。ここで受け取らないと母親に何を言われるかわからない。
どうせ飲み物も取りに行きたいと思っていたのだ。一階に降りるか。
叶太はだるい体を無理やり起こし、いますよ感を足音でアピールしながら階段を降りた。階段を降りてすぐ玄関だ。たたきでサンダルを履き、鍵を開けてドアを押した。
ドアの前に立っている人物が目に飛び込んできた瞬間、叶太は息を吞んだ。
「よう。体調は?」
そこにいたのは青だった。今の今まで会いたいと思っていた幼なじみ。
担任からは、成績表と今日配布したプリントについては後日郵送で送ると電話があった。
なんにせよ、テストだけは全教科受けることができたからまだよかった。テストを欠席すると、問答無用で追試になってしまう。つまり夏休みが数日減ってしまうということだ。それはなんとしても避けたかったので、ギリギリセーフだった。
だけど……。
叶太はスマホを手に取り、北村とのメッセージ履歴を画面に表示させた。
『遊園地行けなくてごめんな』
昨日の夕方、熱にうなされながら北村に送ったメッセージの下には、
『気にしないでください! 風邪が治ったら行きましょう!』
と北村から届いたメッセージが続く。
叶太はスマホを手放し、再びベッドの上で仰向けになった。
せっかく誘ってくれたのに、悪いことをしちゃったな。
しょうがないことだとわかっているが、直前になって北村との約束を破ることになってしまった。『ブラレイ』と遊園地のコラボ。きっと北村も楽しみにしていただろうに。
でも……体調が悪くて気持ちも弱っているからだろうか。行けなくなったというのに、不思議とホッとしている自分がいる。それが申し訳なかった。
雨雲のような灰色の罪悪感が、胸にじっとりとまとわりつく。叶太は目を閉じた。
――ほんと残酷なやつ。
ハッとして、すぐに目を開けた。
北村が遊園地に誘ってくれた日、青から言われた言葉。この二週間ほど、叶太はふとしたときにあの日の光景を思い出す。
どうして青にそんなことを言われたのか、何度考えてもわからない。最初はイラッとしたものの、今ではただただ疑問だった。
それにあの日以来急変した青の態度。青に好きな人がいると聞いて、自分は応援したかった。けれど、どこかで自分はきっと青の地雷を踏んでしまったのだろうか。
兄弟のように近くにいた青のよそよそしい態度。それが今はひたすら寂しい。青のことでこんな風に感じるのは初めてだった。
喉の渇きも忘れ、叶太はベッドで猫のように丸まった。
母親経由で、自分が体調を崩したことぐらいは青の耳にも入っているだろう。前は自分が風邪を引くと、「バカは風邪引かないんじゃねーの?」と冷やかしに来ては、叶太の部屋でお菓子を食べたりゲームをしたり、漫画を読んだりと好き勝手していた。
当時はウザかったが、今思えば居心地のいい空間だった。自分が寝ていても、気を遣わなくていい空気が楽だった。
あ、やばい。なんか泣きそう。
やっぱり弱っているんだ。なんだか猛烈に寂しさに襲われて、うるっとした。鼻の奥がツンとして、今すぐ青に会いたくなった。
そのときだった。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。そういえば先日、ふるさと納税で頼んだ桃が近々届くと言っていた。普段なら置き配にしてくれよとうんざりするところだが、桃ならしょうがない。ここで受け取らないと母親に何を言われるかわからない。
どうせ飲み物も取りに行きたいと思っていたのだ。一階に降りるか。
叶太はだるい体を無理やり起こし、いますよ感を足音でアピールしながら階段を降りた。階段を降りてすぐ玄関だ。たたきでサンダルを履き、鍵を開けてドアを押した。
ドアの前に立っている人物が目に飛び込んできた瞬間、叶太は息を吞んだ。
「よう。体調は?」
そこにいたのは青だった。今の今まで会いたいと思っていた幼なじみ。
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