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6章
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屋台の並ぶエリアから少し外れた場所に移動したあと、青は「叶太の泣いた顔、久々に見た」と言った。
芝生の上に尻をつけて座り、叶太は「うるせー」とポケットティッシュで鼻を噛む。
「あ~、なんか急にセンチメンタルな気持ちになったわ」
「なんで」
「わからん。なんか花火とか祭りって、やっぱりいいなぁって。懐かしくなったっていうかさ」
「ジジイかよ」
青は呆れながらツッコむ。
「でもちょっとわかる。オレも叶太に会った瞬間、わたあめ食いたくなったし」
「オレ昔よく食ってたよなぁ」
姿を現した箸には、まだわたあめがついていた。砂糖が固まった持ち手の部分を、叶太は前歯でガリガリと齧る。
「食いすぎて千恵子さんに虫歯になるからやめろって怒られてた」
「それがなんと! オレさ、生まれてから一度も虫歯になったことないの。すごくない?」
「はいはい。すごいすごい」
「……絶対思ってねえだろ」
ジト目を送るが、青はそれには見向きもせず、賑わっている屋台エリアを遠目に見ている。早く戻りたいのだろうか。自分は正直、人混みの中で北村たちといるよりも、青とこうやって中心エリアから外れて二人きりでいた方が落ち着く。
でも青は? 元々別の友達と来ていたのだ。早く友達と合流したくて当然だろうなと思った。
「戻るか」
青から戻ろうと言われる前に、叶太は膝に両手をつき、重たい腰を上げる。
「だな。あいつらも心配してるだろうし……北村も」
「うん」
青は自分と北村のことを応援してくれているのだろうか。青とバイト先の女子がうまくいくことを、自分が応援しているみたいに。
でも……なんとなく青に応援されるのは嫌だなと思った。どうしてなのかは、自分でもよくわからないけれど。
胸がざわざわする。そういえば青はバイト先の女の子とどうなったんだろう。青から付き合うことになったとか、そういう報告は今のところない。
まだ付き合っていないのかな……と予想しつつ、青は報告とか律儀にするタイプだったっけという疑問が頭に浮かぶ。
二人並んで歩き出すと、遠くの空から花火笛の音が聞こえた。青も聞こえたのか、ほぼ同時に音のする方を見上げる。
次の瞬間、夜空にパッと花火が打ち上がった。少し遅れて、空気の割れる音がドーンッと響く。夜とは思えない明かりが地上に注がれ、叶太と青の姿を浮かび上がらせた。
「やば、始まっちゃったじゃん」
しかも結局きゅうりは買えなかったし、北村と自分の飲み物も買えていない。いよいよ本気で戻らなくちゃ、と早足になる。
ダッシュしようと一歩踏み出すが、パシッと後ろ手を掴まれる。
顔だけ振り向いた叶太の目に飛び込んできたのは、青の真剣な眼差しだった。
「な、なんだよ? 花火にビビったとか?」
冗談めかして笑うが、青は答えない。神妙な面持ちを崩すことなく、目をフッと伏せる。まるで言いたいことを飲み込んだような顔だ。
「ちょ――ちょっ!?」
黙りこくった青は、叶太の手を握り締めるとそのまま叶太の横を通り過ぎた。今度は青に手を引かれるような体勢になる。
手を繋ぎながら屋台エリアを目指している間、青は一言もしゃべらなかった。その代わりに、うるさいぐらいの花火が横で打ち上がっていた。
青はいつから『こう』なっちゃったんだろう。最近、叶太は青のことがよくわからない。いつもと変わらず喋ってくれるときもあるけれど、今みたいに時々自分の心の内に閉じこもるときが増えた気がする。言葉を飲み込むことも増えた。そして……どこか辛そうだ。
どうして自分に言ってくれないんだろう。教えてくれないんだろう。
青の背中を見つめていると、胸が絞られるように痛んでくる。
「なあ、青」
「……なに」
応えてくれないと思っていたから、短くても反応が返ってきたことが嬉しかった。
「おまえ、オレに何か隠してない?」
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