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11章
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蝉の声が聞こえてこなくなったのは、いつからだろう。ニュースで連日のように酷暑といわれていた夏が過ぎ、気づけば制服のシャツも半袖から長袖に変わった。
十月。日中はまだ暑い日もあるけれど、朝晩になるとひんやりする。今日も夕方から気温が落ち着くらしいと、朝の情報番組のお天気キャスターが言っていた。
帰りのホームルームで、叶太は以前より高くなった空を見上げながら、ぼんやりと担任の話に耳を傾ける。
今週末の土日ーーつまり明日からの二日間、校内では文化祭が開催される。去年までは浮き足立って準備したり、開催日をワクワクしながら待ち望んでいたが、三年生にもなるとまるで他校の学校行事について聞かされているような気分だった。
というのも、叶太たち三年生は文化祭にはほとんど関わらない。コンテストの企画や準備など、文化祭ほぼ二年生の仕事だからだ。明日がいよいよ文化祭だといわれても、まるでテンションが上がらない。
――受験勉強の息抜きで短時間なら参加してもいいが、羽目を外しすぎないように。
担任が言いたいことをまとめると、つまりこういうことだろう。
ホームルーム終了後、寺嶋と喋りながら机の中のプリントを整理していると、突然教室のドア近くがざわついた。
それだけで叶太はギクッとなる。恐る恐る顔を横に向けると、ドアの向こうには見慣れた男の姿があった。
叶太の視線をすぐに察知したようで、青はこちらを見るなり「よ」と小さく手を挙げた。 「また五十嵐じゃん。相変わらず懐かれてんなぁ」
寺嶋がニンマリ笑う。
「ったく、来るならもっとおとなしく来いっつってんのに」
「五十嵐に無理言うなって。可哀想じゃん」
「可哀想じゃねーよ。わざと目立つことしてんだよあいつは」
「わざと? なんで?」
寺嶋に聞かれ、叶太は返答に困った。
「ま、どうでもいいけどさ、前はとっつきにくかったけど、今は叶太の番犬って感じだよな」
「青は犬じゃねーぞ」
「へいへい」
早く行ってやれというように、寺嶋は叶太を手で追い払う。
席から立ち上がり、ドアに向かうまでの短い距離。たった五メートルほどなのに、嫌というほど教室じゅうから同級生たちの視線が刺さる。気まずい雰囲気の中で青の近くまで行くと、叶太は小声で「下で待ってろってラインしただろ」と耳打ちした。
「わり。でも早く叶太に会いたくて」
青は声のボリュームを下げずに言う。咄嗟に相手の口を両手で塞ぎ、叶太は青のでかい図体をぐいぐいと押しながら教室をあとにした。
青と両想いになったのは、九月半ばのこと。それから一ヶ月ほど経った今、青の様子はもっとおかしなことになっている。
「おまえさぁ……ああいうの、やめろよな」
二人横並びになり、廊下を歩いている途中で、叶太は釘を刺した。
「ああいうのって?」
「だからその……まるでオレらが付き合ってますーってアピールするみたいな発言っていうの?」
「叶太は嫌?」
「嫌っつーか、反応に困るんだよ。目立つし」
ちなみに青がただの幼なじみじゃなくなったこと――密かに自分たちが付き合い始めたことを、叶太は誰にも伝えていない。自分が元々あまり目立ちたくないからだ。
ただでさえ青の恋人というポジションは目立つというのに、その青本人が目立つことを言えば、ミラーボールのように人の目を引くことになるとわからないのか。おとなしくしてもらわないと、目立つだけじゃない。余計な面倒事に巻き込まれることだってあるかもしれないのに。
「叶太には悪いけど、それは聞けねーな」
階段を降りていると、悪びれもなく青が答えた。
「はっ? なんでよ」
「だってまた叶太が他のやつに告白されるかもしんないじゃん」
「おまえがずっと張り付いてんのに、そんな奇特なことするやついるのか……?」
大体自分は基本モテるタイプじゃない。そう思った瞬間、階段から駆け上がってきた生徒とぶつかりそうになった。
蝉の声が聞こえてこなくなったのは、いつからだろう。ニュースで連日のように酷暑といわれていた夏が過ぎ、気づけば制服のシャツも半袖から長袖に変わった。
十月。日中はまだ暑い日もあるけれど、朝晩になるとひんやりする。今日も夕方から気温が落ち着くらしいと、朝の情報番組のお天気キャスターが言っていた。
帰りのホームルームで、叶太は以前より高くなった空を見上げながら、ぼんやりと担任の話に耳を傾ける。
今週末の土日ーーつまり明日からの二日間、校内では文化祭が開催される。去年までは浮き足立って準備したり、開催日をワクワクしながら待ち望んでいたが、三年生にもなるとまるで他校の学校行事について聞かされているような気分だった。
というのも、叶太たち三年生は文化祭にはほとんど関わらない。コンテストの企画や準備など、文化祭ほぼ二年生の仕事だからだ。明日がいよいよ文化祭だといわれても、まるでテンションが上がらない。
――受験勉強の息抜きで短時間なら参加してもいいが、羽目を外しすぎないように。
担任が言いたいことをまとめると、つまりこういうことだろう。
ホームルーム終了後、寺嶋と喋りながら机の中のプリントを整理していると、突然教室のドア近くがざわついた。
それだけで叶太はギクッとなる。恐る恐る顔を横に向けると、ドアの向こうには見慣れた男の姿があった。
叶太の視線をすぐに察知したようで、青はこちらを見るなり「よ」と小さく手を挙げた。 「また五十嵐じゃん。相変わらず懐かれてんなぁ」
寺嶋がニンマリ笑う。
「ったく、来るならもっとおとなしく来いっつってんのに」
「五十嵐に無理言うなって。可哀想じゃん」
「可哀想じゃねーよ。わざと目立つことしてんだよあいつは」
「わざと? なんで?」
寺嶋に聞かれ、叶太は返答に困った。
「ま、どうでもいいけどさ、前はとっつきにくかったけど、今は叶太の番犬って感じだよな」
「青は犬じゃねーぞ」
「へいへい」
早く行ってやれというように、寺嶋は叶太を手で追い払う。
席から立ち上がり、ドアに向かうまでの短い距離。たった五メートルほどなのに、嫌というほど教室じゅうから同級生たちの視線が刺さる。気まずい雰囲気の中で青の近くまで行くと、叶太は小声で「下で待ってろってラインしただろ」と耳打ちした。
「わり。でも早く叶太に会いたくて」
青は声のボリュームを下げずに言う。咄嗟に相手の口を両手で塞ぎ、叶太は青のでかい図体をぐいぐいと押しながら教室をあとにした。
青と両想いになったのは、九月半ばのこと。それから一ヶ月ほど経った今、青の様子はもっとおかしなことになっている。
「おまえさぁ……ああいうの、やめろよな」
二人横並びになり、廊下を歩いている途中で、叶太は釘を刺した。
「ああいうのって?」
「だからその……まるでオレらが付き合ってますーってアピールするみたいな発言っていうの?」
「叶太は嫌?」
「嫌っつーか、反応に困るんだよ。目立つし」
ちなみに青がただの幼なじみじゃなくなったこと――密かに自分たちが付き合い始めたことを、叶太は誰にも伝えていない。自分が元々あまり目立ちたくないからだ。
ただでさえ青の恋人というポジションは目立つというのに、その青本人が目立つことを言えば、ミラーボールのように人の目を引くことになるとわからないのか。おとなしくしてもらわないと、目立つだけじゃない。余計な面倒事に巻き込まれることだってあるかもしれないのに。
「叶太には悪いけど、それは聞けねーな」
階段を降りていると、悪びれもなく青が答えた。
「はっ? なんでよ」
「だってまた叶太が他のやつに告白されるかもしんないじゃん」
「おまえがずっと張り付いてんのに、そんな奇特なことするやついるのか……?」
大体自分は基本モテるタイプじゃない。そう思った瞬間、階段から駆け上がってきた生徒とぶつかりそうになった。
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