化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
106 / 162

化け物運び屋、団子を運ぶ。【後編】

しおりを挟む



 高速道路の料金所に、ケイトのバイクが入った。

 設置されている決算端末にスマホを押し当て、料金所を抜けていく。

 次に料金所に入ったのは、水色の車だった。






 陸橋の上をケイトのバイクが走ってから数分後、

 ケイトは陸橋の下の近くにある駐車場に駐車した。
「おっし、後は待ち合わせ場所に行くだけだな!」
 フルフェイスのヘルメットを脱ぎ、リアバッグから新聞紙に包まれた本を取り出すと、駐車場から立ち去った。

 その駐車場に止められていた水色の車の扉が開いたことに、ケイトは気づかなかった。





 陸橋の下は、十字の形になるような短いトンネルとなっていた。

 その壁際に、ポツンと置かれた段ボール箱。

 段ボール箱が一瞬だけ上がり、その隙間からふたつの目玉がのぞいていた。
 体は黒くナメクジのよう。その体は段ボール箱の内側に吸盤のように付着していた。いわば、段ボール箱の殻を背負ったカタツムリといったところか。

 その段ボール箱のカタツムリの元に、ゴーグルを装着したケイトがやって来た。
「よっ、待たせたな」
 ケイトはやや声を抑えているものの、トンネルに響かせるには十分な声の大きさだった。
 段ボール箱のカタツムリはケイトの顔を見て、なっとくしたように目玉でお辞儀をした。
「アナタガ“化ケ物運ビ屋”サン?」
「ああ、注文した団子100本、用意したぜ!」
 手に持つ新聞紙に包まれた本を指さすケイトに、段ボール箱のカタツムリは首をかしげるように目玉をかしげた。
「……本ニシカ見エナイケド」
「あ、いけねえ、説明しないとな。こいつは本の見た目をした“変異体”で、ページをめくると……」

 ケイトは説明を止め、不思議そうなまなざしを向けるカタツムリに気がついた。

 そのまなざしはケイトではなく、その後ろに向けられていた。

「アノ……後ロニイルノハ、仲間?」

 カタツムリの言葉に、ケイトは「へ?」と後ろを振り向いた。



 後ろに、団子屋の店主の女性が立っていた。

 背筋を振るわせながら。

「あ……こりゃ……たまげた」

 なにがたまげたのかはわからないが、女性は白目を向いてその場に倒れてしまった。
「……団子屋のおばちゃん、どうしてこんなところに?」
 ケイトが目を丸くしていると、ポケットからテルテルボウズのキツネが顔を出した。
「気絶シテイルミタイネ……」
「ああ、裸眼で変異体を見たんだからなあ……俺はゴーグルを付けているから平気だけど、付けていなかったらむっちゃ怖く見えるんだよなあ」
「アノ……結局、仲間ジャナイノカ?」
 忘れられたカタツムリの声にケイトは「あ、まあ、そういうこと」と振り向く。

「こうなってしまったし、場所を変えねえとな。とりあえず、こいつをじっと見つめてくれ」

 カタツムリの前に、新聞紙に包まれた本が置かれた。











「……ナルホド、ココガ本ノ中、トイウコトカ」

 段ボール箱のカタツムリは広がる図書館を見てつぶやいた。屋根の高さが15mほどあるのは、巨大な鬼のためであろう。
「それじゃあ、俺は本の場所を移動させてくるからな」
 ケイトが出口代わりの本を手に取りページをめくると、ケイトの姿だけ消えた。

 図書館に残されたのは巨大な鬼に鏡の中の男の子、そして段ボール箱のカタツムリだけだった。

 巨大な鬼は聞きたそうな目で段ボール箱のカタツムリを見つめた。
「チョットヨロシイデスカ? 依頼ノ内容ニハ団子ヲ飾ルツモリダト説明シテオリマシタガ……具体的ニハドコニ飾ルノデスカ?」
 その巨体の声にカタツムリは若干殻に引っ込みかける。
「……アア、ソレニツイテハ後デ考エルツモリダッタガ……チョウドイイ場所ヲ見ツケタ」
「ちょうどいい場所?」
 首をかしげる鏡の中の男の子を見て、カタツムリはウインクをした。





 しばらくして、ケイトの姿が再び現れた。
「よいしょっと。公園の公衆便所の個室の中に移動したからもうだいじょう……」



 ケイトの周りは、本棚で囲まれていた。

 その本棚には、団子が花のように飾られている。

 唯一、空いている隙間からは、窓の中で団子を眺める男の子の姿があった。



「……マサカ本当ニ団子ヲ見ル花見ヲスルナンテ……」
 ケイトのポケットから顔を出したキツネの小動物も、この光景にぼうぜんとしていた。
「準備スル方ハ楽シカッタデスヨ。人形ノ飾リ付ケミタイデ」
 本棚の外に座っている巨大な鬼はケイトたちをのぞいて頬をゆるめている。

 机の上では、空になった団子の箱のそばで段ボール箱のカタツムリが景色を楽しんでいた。



「ヤッパリイイモノダ。花見……イヤ、団子見トイウモノハ」

「……あのよお、依頼を見た時から気になっていたけどよお……どうして団子を飾ろうと思ったんだ?」

「ソレハ決マッテイル、団子ハ美シイカラダ。僕ハ桜ノドコガ奇麗ナノカワカラナイ。ダカラ、団子ハ食ベズニ見ルモノナノダ」



 誇らしげに語るカタツムリに対して、ケイトとキツネの小動物は首をかしげた。











 翌日、市街地の道路の上を、ケイトのバイクが走る。



 あの段ボール箱のカタツムリとはもう別れたのだろうか。



 彼の目には、次の目的地へ向かっていた。



 ……信号待ちの時、ケイトは不安そうにミラーに目を向ける。



 そのミラーには、緑色の車が映っていた。






「別にいいじゃないか。今日はあまり客が来ないんだろう?」

 水色の車の運転席で、団子屋の店主の女性はスマホで電話していた。
 スマホのスピーカーから、焦っている様子の声が流れる。店員の青年からだろう。
「だいじょうぶだって。うちが行動派なのは、あんただってわかっているんだから……あ、青になったから切るからね」
 一方的に通話を切った女性は、急いで離れようとするケイトのバイクをにらんだ。

「変異体に合った謎の少年……気になるわあ……よく花より団子って聞くけど、うちの場合は花に近いのかね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...