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回想 異形の街
異形の街 30
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ヌエは迷っていた。
すでに無視できない程の損傷を受けており、戦闘行為の継続は危険な領域に入っている。
本来ならば速やかに戦闘を中止し撤退、傷を癒す必要があった。
シルヴァの予想通り、ヌエは転移することで肉体を再構成できる。しかし、それは傷を無かったことにできるのではなく、ただ傷ついた部分を後ろに隠しているだけであり、損傷それ自体を回復させるにはそれなりの時間がかかる。
今回の戦いではシルヴァから受けた傷こそ小さいが、その後の炎は大きなダメージだった。
ヌエの体の耐熱性能は高いとはいえ、あの炎は無傷で済むほど甘い攻撃では無かった。
どの観点から見ても、今すぐに逃走し回復につとめるべきである。敵は強力であるが小さく、突破は困難であっても逃走なら用意だ。
唯一の懸念は重力の魔法だが、あれは1度見た。2度は喰らわない。
しかし、それでもヌエは迷う。
理性的な本能を超えた何かが、ここに留まり戦えと命じている。
与えられていないはずの知性が、理解できないはずの言語が、複数ある頭の中で響いている。
標的は、とある錬金術師。
身体を捨て去り、精神だけになりながらも数千年自我を維持し続けている正真正銘の化け物。
錬金術の技量も常軌を逸しており、現在存在する錬金術師の中で唯一、『媒介無し』で原子を『永続的』に別物に変化させることが出来る。
異能も権能も持たず、ただ普通の上位元素の適性のみで世界の理さえもねじ曲げる、稀代の大錬金術師。
【秩序殺しの業】
かつてその名で呼ばれたその錬金術師は、今記憶と力の大部分を失い弱体化している。
滅多に街の外には出てこないそれを倒す機会は、今を逃せば二度と訪れないかもしれない。
何故倒さなければならないのか、そもそも霊体であるそれをただの物理攻撃で倒せるのか。
ヌエには何も分からない。
ただ、自身の根源から湧き上がる何かがただひたすらにヌエに命じているのだ。
彼の者を殺せ、と。
シルヴァとアルスは、自分たちから離れた位置で唸っているヌエを遠巻きに見ながら作戦を詰めていた。
「・・・とまあ、要するに僕には決め手が少ないから、出来ればアルスにトドメをお願いしたいんだよね。攻撃魔法は無理でも、その箱の中にはまだ幾らでも爆弾入ってるでしょ?」
『まあ、それはそうじゃが。ただ、どれも攻撃魔法そのものよりは威力が落ちるぞ?』
「大丈夫、数さえあれば威力は集中させられる。壁とか使えないからちょっと面倒ではあるけどね。とりあえず爆弾の種類を教えてくれる?」
『炎、雷、氷の攻撃魔法を込めたものと、重力魔法を込めたもの、それとあとは通常の焼夷弾、炸裂弾、閃光弾と言ったところじゃな。』
「おっけー・・・うん、まあなんとかなるかな。」
シルヴァはそう言うと、首にかけていた音響頭角を再び装着する。
それを見たアルスは思い出したように問いかける。
『ほう、またそれか。結局なんなのじゃ、それは?』
「うーん、細かく説明すると長くなるから凄く簡単に言うと・・・意図的にフラッシュバックを引き起こすための小道具かな。」
『・・・・・・なるほど、条件付けか。』
「あはは、話が早すぎて怖いなぁ。」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑うシルヴァ。
「さて、理由は分からないけど・・・ヌエはどうも逃げる気が無いらしい。いや、無いこともなさそうだけど。」
『今この瞬間逃走していないならば、何らかの目的があって留まっていると考えて良いじゃろう。』
「うん、僕も同じ意見。ってことで、これまでと方針を変えるよ。僕が指示を出すから、その通りに動いてくれるかな。」
シルヴァは言いながら音響頭角を操作する。
『まあ、それは構わぬが・・・』
「必要に応じて援護はするよ。ただ、音を流している間はアルスの声が聞こえないからそこのとこよろしく。」
そして、シルヴァ達の作戦会議が終わるとほぼ同時。
「「「Gryuuuu・・・Gaaaaaaa!!!」」」
ヌエが明確な敵意をその目に浮かべ、地を揺るがす咆哮を轟かせる。
「向こうもやる気みたいだね。じゃあ、始めるよ。」
シルヴァは音響頭角を起動する。
そして、音が彼の脳に響く。
シルヴァの戦闘能力は、彼が作った戦闘強化薬に依存する。
どれだけ脳を鍛えたところで、素の彼の身体能力では音に迫る速度で動ける生き物には対応できない。
つまり、彼はどんな相手であっても強化薬を服用しなければならない。
そのため、彼の体には薬の残留物が蓄積している。当然、日々適切な対処をして可能な限り残留物は体外に排出しているが、それでも全ては排出しきれず体の中に残るものもある。
悪影響は無視できる程度だが、完全に消すことは出来ない。
ならばそれを利用できないかと、シルヴァは考えた。
フラッシュバック。主に長期的に薬物を服用していた者が、薬の使用を辞めた後でも何らかのきっかけで薬の効果・・・主に悪影響だが、それが表面化する現象である。
そのきっかけというのは様々だが、薬を服用した状況に近い光景や音、あるいは連想させる言葉など。
彼は、音楽を用いてフラッシュバックを操る。
その、彼独自の、彼だけの技術、その名は。
深層励起。
「・・・2時の方向に移動、3秒後、足元に焼夷弾を設置してから9時の方向に跳んで。次は・・・」
シルヴァは間断なくアルスに指示を送る。
それは彼が得意とする動き始めの見極めすら超えた、未来予知にも近い完璧な予測に基づいた指揮。
それに従うだけで、アルスは面白いようにヌエにダメージを与えていく。
シルヴァは意図的に条件付けすることで、薬ごとに特定の音楽をトリガーとして擬似的に効果を発生させることが出来る。
効果それ自体は本来のものより劣るが、薬を消費せず、持続時間も長いため通常時の戦闘や手持ちが不足している時などは非常に有用である。
先程のグレイアント殲滅戦の時は、擬似悪魔化の効果を発現させていた。
深層励起:擬似悪魔化は、身体能力強化は現物に劣るが、脳機能及び信号伝達速度の強化はほとんど遜色無い。
聴覚情報は音に支配されるため、取得できる情報はかなり限られる。特にシルヴァは聴覚情報をかなり重視するのでそれを失うのは影響が大きい。
しかし逆に言えば。
脳の処理能力全てを視覚情報の処理に当てられる。
「・・・その場に氷の魔法爆弾を置いて12秒後に起爆。6時の方向、2歩の地点に炸裂弾を投擲、3時の方向に移動。閃光弾を直下に投擲。・・・魔法爆弾を置いた場所にむかって加重の攻撃魔法を使って。」
アルスはシルヴァの指示通り動く。その結果。
まず、閃光弾がヌエの全ての視界を奪う。
そして、直後に炸裂弾が起爆しヌエに破片がぶつかる。それ自体は大したダメージではないが、視界を失ったヌエはその破片に向かって我武者羅に攻撃を加える。
そしてそこは、アルスが爆弾を置いた地点。
その爆弾が発動すると同時。
アルスの重力魔法が炸裂する。
「Gryuaaaaa!!?」
過重力を察知して避けようとしたヌエだが、氷、ひいては極度の低温により動きが鈍り逃げきれずまともに重力を喰らう。
「ありったけの氷の爆弾を投げて、その後に威力を抑えた炎の魔法。」
ヌエの体に霜が降りて、そして直後に溶けて全身が濡れる。
「全ての雷の爆弾を投擲。」
そこに大量の雷の攻撃魔法を宿した爆弾。
雷魔法は空気の絶縁などを無視して対象に電気に似た衝撃を与える。
自然現象としての雷では、空気という極厚の絶縁体を突破することは困難。
故に、雷魔法と呼ばれる物の大半は、厳密には電気ではない。
威力も本物の雷には遠く及ばない。
しかし、電気に似せているのは何も見た目だけのお遊びではない。
特性もまた、電気に近い。
まず、硬い外皮や装甲を持つものに対しては有効な攻撃手段となる。
そして何より、水や金属などを通りやすい。
『単純じゃが、有効な攻撃じゃな・・・』
全身を濡らした相手に電気の攻撃。
威力そのものが向上する訳では無い。しかし、相手の全身を濡らせば1点への攻撃が広範囲への攻撃になる。
そして雷魔法は、相手をしびれさせる効果もある。
「トドメといこう。ありったけの炸裂弾をヌエの頭上に投擲して、そこに重力魔法を集中させて」
『心得た!』
痺れたヌエは、重力魔法が消えても動けない。
そこに、アルスはありったけの炸裂弾を投げ・・・起爆する前に超重力で高速で叩き落とす。
範囲を限定し、効果を高めたその魔法により、爆弾は瞬きの間にヌエの体に触れる。
そして。
度重なる攻撃により脆くなっていたヌエの外皮を突き破り、体内にまで埋まった。
「・・・うん、流石アルス、完璧だね。」
『くくっ、お主もな。』
大量の炸裂弾が体内に埋まったヌエは藻掻くも、為す術もなく。
ズンッッッ!!!
その巨体の中で爆弾が全て起爆した。
「Ga,,,,aaaaaa......」
流石のヌエも、それには耐えきれず。
か細い呻き声を短く上げると、それきり動かなくなった。
「ふう・・・お疲れ様、アルス。」
軽く息を吐くと、シルヴァは音響頭角を外す。
そして、頭痛を堪えるようにこめかみに手を当てる。
「あー・・・負担大きすぎるなぁ、これ。」
『ふむ、未来予知のような指揮であったが、さすがに無制限にできる訳では無いのか。』
「うん、あれは『擬似悪魔化・因果掌握』。全ての機能を視覚情報の処理に当てて初めてできる荒業だからね。ちなみにネーミングは僕の師匠。」
『いや、それはどうでもいいが。』
すげなくそう言うアルスに、シルヴァは少し残念そうな表情を浮かべる。
ちなみに、グレイアント戦で使用したのは『擬似悪魔化・輪転禍』。継戦能力に秀でた深層励起である。
と、戦闘を終え一息着いていたシルヴァの元にデュラス達が駆け寄る。
「まさか、本当に倒してしまうとは・・・」
「あ、お疲れ様ですー。そちらは?」
「私も、この3人も怪我はありません。ゴーレムもヌエが倒れると同時に崩れ去りました。」
そう言うデュラスの後ろでは、疲れた顔ではあるが目立った傷のないベン達の姿があった。
「正直に言えば、危ない場面もあったのですが・・・あなたから提供された例の強化薬を使用してから、危ない場面は一切ありませんでした。」
その言葉を聞いて、シルヴァは目の色を変える。
「あ、あれ使ってくれたんですね!!じゃあちょっと感想とか聞かせて貰っていいですか?今後の参考にするので!」
そう言ってデュラスへの挨拶もそこそこに、3人のサテュロスに詰め寄る。
「お、おう・・・まあ、感想くらいなら。」
突然楽しそうに話しかけてくるシルヴァに、ベン達は気圧されながらも頷く。
自分たちを気にもせずに好きなことをし始めたシルヴァに、アルスとデュラスは顔を見合わせて苦笑する。
『まったく、こやつは・・・まあ、良い。ところで、お主の娘はどうした?』
「アリアはゴーレムが壊れるのとほとんど同時に、倒れたあの娘を抱えて街まで戻って行きました。」
『ふむ、一刻も早く安全な場所に運びたかったが、千の蹄の正規兵としての義務を優先していたのじゃろうな。良い娘ではないか。』
「・・・ええ、まだまだ未熟ですが、自慢の娘ですよ。」
そう言って静かに笑うデュラス。
そこに流れる穏やかな空気はもはや戦場の物ではなく。
ヌエによる騒動が、ここに終わりを告げたことを示していた。
すでに無視できない程の損傷を受けており、戦闘行為の継続は危険な領域に入っている。
本来ならば速やかに戦闘を中止し撤退、傷を癒す必要があった。
シルヴァの予想通り、ヌエは転移することで肉体を再構成できる。しかし、それは傷を無かったことにできるのではなく、ただ傷ついた部分を後ろに隠しているだけであり、損傷それ自体を回復させるにはそれなりの時間がかかる。
今回の戦いではシルヴァから受けた傷こそ小さいが、その後の炎は大きなダメージだった。
ヌエの体の耐熱性能は高いとはいえ、あの炎は無傷で済むほど甘い攻撃では無かった。
どの観点から見ても、今すぐに逃走し回復につとめるべきである。敵は強力であるが小さく、突破は困難であっても逃走なら用意だ。
唯一の懸念は重力の魔法だが、あれは1度見た。2度は喰らわない。
しかし、それでもヌエは迷う。
理性的な本能を超えた何かが、ここに留まり戦えと命じている。
与えられていないはずの知性が、理解できないはずの言語が、複数ある頭の中で響いている。
標的は、とある錬金術師。
身体を捨て去り、精神だけになりながらも数千年自我を維持し続けている正真正銘の化け物。
錬金術の技量も常軌を逸しており、現在存在する錬金術師の中で唯一、『媒介無し』で原子を『永続的』に別物に変化させることが出来る。
異能も権能も持たず、ただ普通の上位元素の適性のみで世界の理さえもねじ曲げる、稀代の大錬金術師。
【秩序殺しの業】
かつてその名で呼ばれたその錬金術師は、今記憶と力の大部分を失い弱体化している。
滅多に街の外には出てこないそれを倒す機会は、今を逃せば二度と訪れないかもしれない。
何故倒さなければならないのか、そもそも霊体であるそれをただの物理攻撃で倒せるのか。
ヌエには何も分からない。
ただ、自身の根源から湧き上がる何かがただひたすらにヌエに命じているのだ。
彼の者を殺せ、と。
シルヴァとアルスは、自分たちから離れた位置で唸っているヌエを遠巻きに見ながら作戦を詰めていた。
「・・・とまあ、要するに僕には決め手が少ないから、出来ればアルスにトドメをお願いしたいんだよね。攻撃魔法は無理でも、その箱の中にはまだ幾らでも爆弾入ってるでしょ?」
『まあ、それはそうじゃが。ただ、どれも攻撃魔法そのものよりは威力が落ちるぞ?』
「大丈夫、数さえあれば威力は集中させられる。壁とか使えないからちょっと面倒ではあるけどね。とりあえず爆弾の種類を教えてくれる?」
『炎、雷、氷の攻撃魔法を込めたものと、重力魔法を込めたもの、それとあとは通常の焼夷弾、炸裂弾、閃光弾と言ったところじゃな。』
「おっけー・・・うん、まあなんとかなるかな。」
シルヴァはそう言うと、首にかけていた音響頭角を再び装着する。
それを見たアルスは思い出したように問いかける。
『ほう、またそれか。結局なんなのじゃ、それは?』
「うーん、細かく説明すると長くなるから凄く簡単に言うと・・・意図的にフラッシュバックを引き起こすための小道具かな。」
『・・・・・・なるほど、条件付けか。』
「あはは、話が早すぎて怖いなぁ。」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑うシルヴァ。
「さて、理由は分からないけど・・・ヌエはどうも逃げる気が無いらしい。いや、無いこともなさそうだけど。」
『今この瞬間逃走していないならば、何らかの目的があって留まっていると考えて良いじゃろう。』
「うん、僕も同じ意見。ってことで、これまでと方針を変えるよ。僕が指示を出すから、その通りに動いてくれるかな。」
シルヴァは言いながら音響頭角を操作する。
『まあ、それは構わぬが・・・』
「必要に応じて援護はするよ。ただ、音を流している間はアルスの声が聞こえないからそこのとこよろしく。」
そして、シルヴァ達の作戦会議が終わるとほぼ同時。
「「「Gryuuuu・・・Gaaaaaaa!!!」」」
ヌエが明確な敵意をその目に浮かべ、地を揺るがす咆哮を轟かせる。
「向こうもやる気みたいだね。じゃあ、始めるよ。」
シルヴァは音響頭角を起動する。
そして、音が彼の脳に響く。
シルヴァの戦闘能力は、彼が作った戦闘強化薬に依存する。
どれだけ脳を鍛えたところで、素の彼の身体能力では音に迫る速度で動ける生き物には対応できない。
つまり、彼はどんな相手であっても強化薬を服用しなければならない。
そのため、彼の体には薬の残留物が蓄積している。当然、日々適切な対処をして可能な限り残留物は体外に排出しているが、それでも全ては排出しきれず体の中に残るものもある。
悪影響は無視できる程度だが、完全に消すことは出来ない。
ならばそれを利用できないかと、シルヴァは考えた。
フラッシュバック。主に長期的に薬物を服用していた者が、薬の使用を辞めた後でも何らかのきっかけで薬の効果・・・主に悪影響だが、それが表面化する現象である。
そのきっかけというのは様々だが、薬を服用した状況に近い光景や音、あるいは連想させる言葉など。
彼は、音楽を用いてフラッシュバックを操る。
その、彼独自の、彼だけの技術、その名は。
深層励起。
「・・・2時の方向に移動、3秒後、足元に焼夷弾を設置してから9時の方向に跳んで。次は・・・」
シルヴァは間断なくアルスに指示を送る。
それは彼が得意とする動き始めの見極めすら超えた、未来予知にも近い完璧な予測に基づいた指揮。
それに従うだけで、アルスは面白いようにヌエにダメージを与えていく。
シルヴァは意図的に条件付けすることで、薬ごとに特定の音楽をトリガーとして擬似的に効果を発生させることが出来る。
効果それ自体は本来のものより劣るが、薬を消費せず、持続時間も長いため通常時の戦闘や手持ちが不足している時などは非常に有用である。
先程のグレイアント殲滅戦の時は、擬似悪魔化の効果を発現させていた。
深層励起:擬似悪魔化は、身体能力強化は現物に劣るが、脳機能及び信号伝達速度の強化はほとんど遜色無い。
聴覚情報は音に支配されるため、取得できる情報はかなり限られる。特にシルヴァは聴覚情報をかなり重視するのでそれを失うのは影響が大きい。
しかし逆に言えば。
脳の処理能力全てを視覚情報の処理に当てられる。
「・・・その場に氷の魔法爆弾を置いて12秒後に起爆。6時の方向、2歩の地点に炸裂弾を投擲、3時の方向に移動。閃光弾を直下に投擲。・・・魔法爆弾を置いた場所にむかって加重の攻撃魔法を使って。」
アルスはシルヴァの指示通り動く。その結果。
まず、閃光弾がヌエの全ての視界を奪う。
そして、直後に炸裂弾が起爆しヌエに破片がぶつかる。それ自体は大したダメージではないが、視界を失ったヌエはその破片に向かって我武者羅に攻撃を加える。
そしてそこは、アルスが爆弾を置いた地点。
その爆弾が発動すると同時。
アルスの重力魔法が炸裂する。
「Gryuaaaaa!!?」
過重力を察知して避けようとしたヌエだが、氷、ひいては極度の低温により動きが鈍り逃げきれずまともに重力を喰らう。
「ありったけの氷の爆弾を投げて、その後に威力を抑えた炎の魔法。」
ヌエの体に霜が降りて、そして直後に溶けて全身が濡れる。
「全ての雷の爆弾を投擲。」
そこに大量の雷の攻撃魔法を宿した爆弾。
雷魔法は空気の絶縁などを無視して対象に電気に似た衝撃を与える。
自然現象としての雷では、空気という極厚の絶縁体を突破することは困難。
故に、雷魔法と呼ばれる物の大半は、厳密には電気ではない。
威力も本物の雷には遠く及ばない。
しかし、電気に似せているのは何も見た目だけのお遊びではない。
特性もまた、電気に近い。
まず、硬い外皮や装甲を持つものに対しては有効な攻撃手段となる。
そして何より、水や金属などを通りやすい。
『単純じゃが、有効な攻撃じゃな・・・』
全身を濡らした相手に電気の攻撃。
威力そのものが向上する訳では無い。しかし、相手の全身を濡らせば1点への攻撃が広範囲への攻撃になる。
そして雷魔法は、相手をしびれさせる効果もある。
「トドメといこう。ありったけの炸裂弾をヌエの頭上に投擲して、そこに重力魔法を集中させて」
『心得た!』
痺れたヌエは、重力魔法が消えても動けない。
そこに、アルスはありったけの炸裂弾を投げ・・・起爆する前に超重力で高速で叩き落とす。
範囲を限定し、効果を高めたその魔法により、爆弾は瞬きの間にヌエの体に触れる。
そして。
度重なる攻撃により脆くなっていたヌエの外皮を突き破り、体内にまで埋まった。
「・・・うん、流石アルス、完璧だね。」
『くくっ、お主もな。』
大量の炸裂弾が体内に埋まったヌエは藻掻くも、為す術もなく。
ズンッッッ!!!
その巨体の中で爆弾が全て起爆した。
「Ga,,,,aaaaaa......」
流石のヌエも、それには耐えきれず。
か細い呻き声を短く上げると、それきり動かなくなった。
「ふう・・・お疲れ様、アルス。」
軽く息を吐くと、シルヴァは音響頭角を外す。
そして、頭痛を堪えるようにこめかみに手を当てる。
「あー・・・負担大きすぎるなぁ、これ。」
『ふむ、未来予知のような指揮であったが、さすがに無制限にできる訳では無いのか。』
「うん、あれは『擬似悪魔化・因果掌握』。全ての機能を視覚情報の処理に当てて初めてできる荒業だからね。ちなみにネーミングは僕の師匠。」
『いや、それはどうでもいいが。』
すげなくそう言うアルスに、シルヴァは少し残念そうな表情を浮かべる。
ちなみに、グレイアント戦で使用したのは『擬似悪魔化・輪転禍』。継戦能力に秀でた深層励起である。
と、戦闘を終え一息着いていたシルヴァの元にデュラス達が駆け寄る。
「まさか、本当に倒してしまうとは・・・」
「あ、お疲れ様ですー。そちらは?」
「私も、この3人も怪我はありません。ゴーレムもヌエが倒れると同時に崩れ去りました。」
そう言うデュラスの後ろでは、疲れた顔ではあるが目立った傷のないベン達の姿があった。
「正直に言えば、危ない場面もあったのですが・・・あなたから提供された例の強化薬を使用してから、危ない場面は一切ありませんでした。」
その言葉を聞いて、シルヴァは目の色を変える。
「あ、あれ使ってくれたんですね!!じゃあちょっと感想とか聞かせて貰っていいですか?今後の参考にするので!」
そう言ってデュラスへの挨拶もそこそこに、3人のサテュロスに詰め寄る。
「お、おう・・・まあ、感想くらいなら。」
突然楽しそうに話しかけてくるシルヴァに、ベン達は気圧されながらも頷く。
自分たちを気にもせずに好きなことをし始めたシルヴァに、アルスとデュラスは顔を見合わせて苦笑する。
『まったく、こやつは・・・まあ、良い。ところで、お主の娘はどうした?』
「アリアはゴーレムが壊れるのとほとんど同時に、倒れたあの娘を抱えて街まで戻って行きました。」
『ふむ、一刻も早く安全な場所に運びたかったが、千の蹄の正規兵としての義務を優先していたのじゃろうな。良い娘ではないか。』
「・・・ええ、まだまだ未熟ですが、自慢の娘ですよ。」
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