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緋い記憶
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暫くの沈黙。無言で彬を凝視していた隆哉が地面を指差した。感情の窺えない声で低く言う。
「いるよ、さっきの場所に。もうそれすらも、拒絶するんだね」
「なんだよ、それ!」
ムッと顔を顰めた彬は立ち上がると、今度は自分から隆哉の手を掴んだ。逃がさないぞと、思いを込めて。
「なんで、あいつとしゃべれる? どうして、俺には聴こえない、あいつの言葉まで聴こえるんだ?」
「……ねぇ、さっきも言ったけど。聴こえないんじゃなくて、聴かないんだ、あんたは。視ようとしないから視えないし、聴こうとしないから聴こえない」
「違うだろ! 俺が言ってんのは、さっき言ってたあいつの『いひょう』ってのはどーいう事だっつってんだよ! お前が何を叶えるって言うんだッ?」
グッと手に力を入れた真剣な眼差しの彬に、無表情な瞳が応じる。
「まだ、知りたいの?」
気乗りのしない声で言った隆哉に、彬は力強く頷いてみせた。
「当たり前だろ」
その言葉に、フイッと隆哉の顔が背けられる。そっぽを向いて何かを考えていた彼は、彬に視線を戻し、微かに頷いた。
「いいけど。――取り敢えず、その手放して」
「いるよ、さっきの場所に。もうそれすらも、拒絶するんだね」
「なんだよ、それ!」
ムッと顔を顰めた彬は立ち上がると、今度は自分から隆哉の手を掴んだ。逃がさないぞと、思いを込めて。
「なんで、あいつとしゃべれる? どうして、俺には聴こえない、あいつの言葉まで聴こえるんだ?」
「……ねぇ、さっきも言ったけど。聴こえないんじゃなくて、聴かないんだ、あんたは。視ようとしないから視えないし、聴こうとしないから聴こえない」
「違うだろ! 俺が言ってんのは、さっき言ってたあいつの『いひょう』ってのはどーいう事だっつってんだよ! お前が何を叶えるって言うんだッ?」
グッと手に力を入れた真剣な眼差しの彬に、無表情な瞳が応じる。
「まだ、知りたいの?」
気乗りのしない声で言った隆哉に、彬は力強く頷いてみせた。
「当たり前だろ」
その言葉に、フイッと隆哉の顔が背けられる。そっぽを向いて何かを考えていた彼は、彬に視線を戻し、微かに頷いた。
「いいけど。――取り敢えず、その手放して」
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