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【転移49日目】 所持金3730億7240万ウェン 「今までソバカスあった事に気付かなくてごめんな。」
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久しぶりに母娘を両脇に置いて寝た。
挟撃されているみたいで、居心地と寝心地が悪い。
やはりパーティーメンバーと夜通し語らい合うのが一番だな。
カーテンの遮光性が素晴らしかったので、今が朝か夜かすらわからない。
ただ性欲を使い果たしてしまっているので、日は昇っているのだろう。
カインが朝帰りしてきたので、キーンも誘って前から試してみたかったエリクサー風呂を楽しむ事にする。
手間を増やしてしまったお詫びに使用人さん達にエリクサーをプレゼント。
ついでにキーン家・グランツ家にもプレゼント。
特にグランツ家の皆さんには、お父様の《残業》に加担した罪悪感がある。
==========================
【常備薬】
エリクサー 609ℓ
↓
エリクサー 409ℓ
↓
エリクサー 376ℓ
↓
エリクサー 374ℓ
※エリクサー風呂に200ℓ使用
※キーン家に10ℓ贈呈
※グランツ家に10ℓ贈呈
※キーン家使用人に13ℓ贈呈
※コリンズ家内にて2ℓ消費
==========================
『あ! キーンさん、傷が塞がってますよ!?』
「うお! 本当だ!
折角、娼婦を口説く時に使おうと思ったのにw」
『「ははははwww」』
エリクサー風呂は物凄い効果だった。
とりあえずカインやキーンの傷はすぐに塞がる。
それどころか美肌効果もあるらしく、2人の肌はかなり滑らかになった。
「あ、グランツ君。
白髪が少し減ったんじゃない?」
「まさかあww
生え際ヤバいんだよーw
うおっ!!
染めてないのに真っ黒!?
うわっ!
すげっ!
エリクサーすごすぎい!!」
やはり人間、コンプレックスの克服に最も説得力を感じるらしく。
その後もカインは頭髪にピチャピチャとエリクサーを振りかけていた。
遠目には分からなかったのだが、生え際に白髪が目立つ事をかなり気にしていたらしい。
3人でエリクサー風呂に漬かりながら、今後の相談。
余って行くだろうカネとエリクサーの処分方法に頭を悩ませる。
『身勝手な話で恐縮なんですが、お2人に100億ウェンずつ預けてもいいですか?』
「突然だなーw」
「金融屋の私でも脳が理解を拒むよww」
『いや、私はこの身体ですし
土地勘も無いですし、使うのが一苦労なんですよ。』
「昨日債券300億ウェン買ってた癖にぃw」
『あれはたまたまですよww
でも、これ以上の使い道が思い浮かばない。
なので俺の代わりに使って下さい。』
「私、親の代から金融だけど
《代わりに使って下さい》
は初めて聞きましたww」
「使い道ねー。
コリンズさん、夢とかあります?」
『うーん、この世界に来るまでは
いっぱいセックスしてみたかったです。』
「若いなーw」
「もう叶ってるじゃないww」
『出来れば多くの女性と。』
「若いなーw」
「あー、その夢は叶わないわww」
3人で爆笑しながら風呂を出る。
エリクサー風呂なら多少の効果は出るかと思ったが、俺の肉体にだけは何の変化もおこらない。
ただ地球に居た頃からかなり悩まされていた唇の乾燥が無くなっている。
中学生くらいの頃からだろうか?
突如、唇がカサカサになり始めて、リップクリームを塗ったりして対処しようとしていたのだが、全く効果は無かった。
だが今日エリクサー風呂で唇を無意識に洗っていたら、唇から違和感が無くなっている。
勿論、再発も考えられるが…
当面、様子を見よう。
どうやら全く効果が無い訳でもないらしい。
==========================
しばらくの間、屋敷は狂騒状態だった。
皆、すぐにエリクサーを飲んだらしい。
脱毛・老眼・近眼・鼻炎・虫歯・耳鳴り・肩こり・関節痛・腰痛・猫背・胃弱・便秘・下痢。
全て治ったらしい。
もはや奇跡である。
その奇跡から奇跡的に零れ落ちた身としては、内心周囲に嫉妬もある。
特に馬丁のゴードン翁である。
若い頃に戦場で失った左目が回復してしまった。
もはや神の御業としか思えない。
…あの、神様?
俺の番はまだですか?
昼頃、キーンの奥様に呼び出されて礼を述べられた。
近年悩まされていた小じわが消えたらしい。
今まで挨拶しても口も利いてくれなかっただけに驚きである。
どうやら奥様のエルデフリダ様は帝国の亡命貴族か何からしく、宿屋の俺達が邸内に存在する事に対して吐き気を催す程憎悪していたらしい。
キーンにも俺達を追い出す様に涙ながらに懇願し続けていたらしい。
だが、今回小じわを消した事でノーカウントにして下さるそうだ。
ただエルデフリダ様が許したのは俺だけで、ヒルダ・コレットの事は相変わらず蔑み嫌っているし、母娘も同様の感情を持っている。
そろそろお暇時かな。
俺としてはずっと2人と笑って暮らしたいのだが…
まあ家族が可哀想だよね。
カインの奥様もややノイローゼ気味だし。
男の都合に合わせさせるにも限界はあるか…
==========================
「それにしても、昨日は最後の最後に超大物と逢えましたね。」
「いやあ、私もウェイトレスなんか買わずにそちらに居たかった。」
『俺なんか一昨日首都に来たばかりなのに…
いきなりあんな偉い人と面識が出来ちゃうなんて…
ちょっと驚いてます。』
ドルト・エヴァーソン。
自由食品ホールディングスの代表取締役会長。
財界の重鎮である。
名門企業の嫡男として生まれながらも士官学校に入学、青年期を軍人として過ごした人物。
平和維持軍の部隊長として幾度も首長国に援軍として赴いており、公式の記録上だけでも三刀二槍を身に受けている。
35歳で軍を退役し入社、39歳で先代の逝去を受けて代表職に就任した。
以降は財界で要職を歴任。
帝国との経済協力会議への尽力で知られる。
昨年、体調不良で辞任するまでは政府の諮問委員会のメンバーでもあった。
「まさか、向こうからお詫びのメッセンジャーを送ってくるとは…」
『昨日の印象では威張ってる怖いお爺さんだったのですが…』
「自由都市内でもそういうイメージありますよ?
我の強いワンマン社長だって。
まあ、あれだけの大企業の経営者なら仕方ないですけど。
私が子供の頃から、ほぼ毎年叙勲されてる印象がありますし。」
「キーン君、私はこのロゴマーク見たことあるよ。
自由食品の保存食パックって、冒険者なら使ったことない者はいないと思う。」
「ええ、確か冒険者ギルドのプレミアスポンサーを務めていた時期もあったんじゃないかな…
スミマセン、正確な記憶ではないかも知れませんが。」
俺達がエリクサー風呂ではしゃいでいる間に。
エヴァーソン会長のメッセンジャーが訪問していたらしい。
用件は昨夜の謝罪。
トラブルで馬車ロータリーの流れを止めてしまった事に対して、会長直々にお叱りを受けた件についてである。
《あの時は感情的になってしまって申し訳ない。
君達に全く非は無く、当方の不明を恥じている》
との趣旨である。
謝罪状には上等な菓子折も添えられており、これは謝罪風追撃ではない事を意味しているらしい。
昨日の件は明らかに俺達に非があったし、会長が謝罪する謂われもないと思うのだが、文面は極めて真摯であった。
「いやあ、これ会長が謝るような筋合いでもないと思いますけどね。
一歩間違えれば玉突き事故になっていてもおかしくない場面でしたし。
真面目な方だとは伺っておりましたが、逆に恐縮しますね。」
『あの…
この場合、俺達はどうすれば良いのでしょうか?』
「うーーん。
キーン家とエヴァーソン家じゃそもそも家格が違いますからね。
本来、私なんか会長が気を遣われる存在じゃないんですよ。
寧ろ、こっちが先に菓子折持って頭を下げに行く場面ですから。
これから贈答屋に寄って、会長の本邸にこちらの謝罪状を届けましょう。
通例としては、それで丸く収まったことになります。」
『社長の世界も結構大変なんですねえ。』
「大変ですよ。
結構、上下関係厳しいですし。
年功序列とか、軍歴官暦とか叙勲回数とか。
私、そういうの本当に苦手で…
気の合う仲間とほどほどに商売を楽しんでおいておきたいんですけどね。」
『例えばジュースの人とか?』
「ポール? アイツとは気が合いますね!
仕事で使うのは難しいですけどw」
==========================
菓子折はフルーツ系の寒天菓子っぽいものを選んだ。
老人の歯を考慮してのことである。
エヴァーソン邸の門番に謝罪状を渡してスッと帰るつもりだった。
「主人が是非お上がり下さい、と申しております。」
奥から出て来た執事さんが柔和な笑顔で言った。
御丁寧にも門番に命じて外門を全開させる。
俺達3人に拒絶することは出来ない。
これが《立場の差》というものだ。
「私はオマケなのですが」
当事者ではない所為だろう。
関係のないカインが妙に嬉しそうである。
昨日怒られた時、かなり怖かったからなあ。
正直、2度と顔を合せたくない相手なのだが…
邸宅は外観の割には質素で、絵画や装飾品は美的バランス上の最低限だけしか備えられていなかった。
ホールには甲冑が据えられていたが、くたびれ具合から推察するにドルト翁が戦場で着用していたものなのかも知れない。
ドルト翁は俺達を書斎に招きたかったようだが、俺が車椅子だったので客間に通された。
奥様らしき方が「主人が迷惑をお掛けしまして」と茶菓子を置きながら一言述べて脇室に戻る。
先方が高齢なこともあり、会見はすぐに終わった。
俺達は
「「『いえいえ、滅相も御座いません!』」」
を連発していただけである。
余計な発言をして大物を刺激したくなかった。
帰り際、会長は不意に軍隊時代を語る。
帝国の援軍として対王国戦線に参戦していた頃の話だった。
ある日から、劣勢であった王国側が次々に未知の生物を放って来て、友軍は甚大な被害を受けた。
会長も腹を裂かれて重傷を負ったそうだ。
戦局は一夜で逆転してしまい、友軍は戦線の大きな後退を余儀なくされた。
その後も王国は国境沿いに多種多様な未知の禽獣を解き放ち続け、周辺国は王国に接近する事すら出来なくなった。
幾人かの王国兵士が《召喚獣》という単語を用いていた為、いつの間にか各国軍隊も未知の禽獣を《召喚獣》と呼ぶようになった。
以降、各国の軍は王国の召喚戦法を恐れ、怯え続けてきた。
だが、ある時期から。
ぷっつりと召喚獣の戦線投入が止まった。
代わりに未知の強力なスキルを持った兵士達が北方の対公国・対魔界戦線で目撃され始めたとのことだ。
この時期から《勇者》という単語が頻出する。
いつの間にか会長は俺一人の目を見て話していた。
ああ、この人俺の素性やここに居る経緯に察しがついているな。
いや、このレベルの大物が本気を出せば、身元調査くらいは一晩で十分なのかもな。
『会長、私は何をすれば良いのでしょうか?』
「トイチさんは、もう行動されてますでしょう?」
それで会話は終了である。
深く頭を下げてから、馬車を進めさせた。
==========================
キーン邸に帰還。
3人同時に安堵の溜息を吐いてから、顔を合わせて苦笑する。
丁度、連邦からの伝令が来訪したタイミングらしく、伝令氏が門番と話し込んでいた。
こちらの馬車を見るなり、伝令氏が敬礼をしてくる。
どうやら新大使が決定したので、その報告らしい。
じゃあ、後は大使館の位置を伝令に教えて終わりだな。
ようやく生活の準備に本腰を入れられる。
ヒルダもコレットもエルデフリダ夫人と毛嫌いし合ってるからな。
早く隔離しなくちゃ。
「それでは謹んで発表します!」
「うむ、お願いします。」
「駐自由都市同盟、新大使は!」
「ええ。」
「リン・コリンズ財政顧問の兼任と決定しました!」
『…。』
…何でやねん。
俺は何度も確認し抗議するも、着任状の文面が変わる事はない。
聞けば、ミュラー・ハウザーの老害コンビが「もうアイツでいいじゃん。」などと言って決めてしまったらしい。
大使って国益の代弁者だろ?
俺は連邦人でも何でもないし、そもそもオマエらをあんまり好きじゃないからな?
一応解説すると、大使の有用性は下記の通りである。
不在>俺>連邦人
連邦外交は大使館を留守にしている期間が一番円滑に収まる。
『ねえ、御二方。
俺、これからどうすればいいんですかね?』
「…着任挨拶?」
『しなけりゃ駄目ですか?』
「そりゃあ、外交問題に発展しちゃうでしょう。」
そりゃあそうか。
大使が駐在国に到着しているのに着任の挨拶に行かないって
どう見ても喧嘩売ってるもんな。
外交実務に明るい人間が誰も居なかったので、思案のあげく政治局に向かう。
ウェーバーに泣きつけば何とかしてくれるだろう作戦である。
『政治に口を出してみたい、という欲求はあるのですが
実務には携わりたくないのですよ、御二方。』
「安心して下さい。
カネを持った老人は全員同じことを言ってますから。」
政治局の応接室に案内された直後に、貴賓室に移される。
職員達の困惑した表情を見れば何となく状況は理解出来た。
ウェーバーとは面会出来なかったが、その秘書が《ウェーバーをキーン邸へ翌日訪問させる》と約束したので、俺達はそのまま家路に着いた。
《730億ウェンの配当が支払われました。》
それにしてもこの能力って、飯時をこまめに教えてくれるから便利でいいよね。
夜、コレットから感謝された。
長年のコンプレックスであったソバカスが消えたのが余程嬉しかったそうである。
「リンは私の王子さまだよ!!」
涙ながらに感謝される。
女にとっては至上の幸福らしい。
「私! リンのお嫁さんになって本当に良かった!!
やっぱり貴方は運命の王子様!
これは最高の奇跡だよ!!!
好きっ!! 愛してる!!!」
うん、どういたしまして。
今までソバカスあった事に気付かなくてごめんな。
挟撃されているみたいで、居心地と寝心地が悪い。
やはりパーティーメンバーと夜通し語らい合うのが一番だな。
カーテンの遮光性が素晴らしかったので、今が朝か夜かすらわからない。
ただ性欲を使い果たしてしまっているので、日は昇っているのだろう。
カインが朝帰りしてきたので、キーンも誘って前から試してみたかったエリクサー風呂を楽しむ事にする。
手間を増やしてしまったお詫びに使用人さん達にエリクサーをプレゼント。
ついでにキーン家・グランツ家にもプレゼント。
特にグランツ家の皆さんには、お父様の《残業》に加担した罪悪感がある。
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【常備薬】
エリクサー 609ℓ
↓
エリクサー 409ℓ
↓
エリクサー 376ℓ
↓
エリクサー 374ℓ
※エリクサー風呂に200ℓ使用
※キーン家に10ℓ贈呈
※グランツ家に10ℓ贈呈
※キーン家使用人に13ℓ贈呈
※コリンズ家内にて2ℓ消費
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『あ! キーンさん、傷が塞がってますよ!?』
「うお! 本当だ!
折角、娼婦を口説く時に使おうと思ったのにw」
『「ははははwww」』
エリクサー風呂は物凄い効果だった。
とりあえずカインやキーンの傷はすぐに塞がる。
それどころか美肌効果もあるらしく、2人の肌はかなり滑らかになった。
「あ、グランツ君。
白髪が少し減ったんじゃない?」
「まさかあww
生え際ヤバいんだよーw
うおっ!!
染めてないのに真っ黒!?
うわっ!
すげっ!
エリクサーすごすぎい!!」
やはり人間、コンプレックスの克服に最も説得力を感じるらしく。
その後もカインは頭髪にピチャピチャとエリクサーを振りかけていた。
遠目には分からなかったのだが、生え際に白髪が目立つ事をかなり気にしていたらしい。
3人でエリクサー風呂に漬かりながら、今後の相談。
余って行くだろうカネとエリクサーの処分方法に頭を悩ませる。
『身勝手な話で恐縮なんですが、お2人に100億ウェンずつ預けてもいいですか?』
「突然だなーw」
「金融屋の私でも脳が理解を拒むよww」
『いや、私はこの身体ですし
土地勘も無いですし、使うのが一苦労なんですよ。』
「昨日債券300億ウェン買ってた癖にぃw」
『あれはたまたまですよww
でも、これ以上の使い道が思い浮かばない。
なので俺の代わりに使って下さい。』
「私、親の代から金融だけど
《代わりに使って下さい》
は初めて聞きましたww」
「使い道ねー。
コリンズさん、夢とかあります?」
『うーん、この世界に来るまでは
いっぱいセックスしてみたかったです。』
「若いなーw」
「もう叶ってるじゃないww」
『出来れば多くの女性と。』
「若いなーw」
「あー、その夢は叶わないわww」
3人で爆笑しながら風呂を出る。
エリクサー風呂なら多少の効果は出るかと思ったが、俺の肉体にだけは何の変化もおこらない。
ただ地球に居た頃からかなり悩まされていた唇の乾燥が無くなっている。
中学生くらいの頃からだろうか?
突如、唇がカサカサになり始めて、リップクリームを塗ったりして対処しようとしていたのだが、全く効果は無かった。
だが今日エリクサー風呂で唇を無意識に洗っていたら、唇から違和感が無くなっている。
勿論、再発も考えられるが…
当面、様子を見よう。
どうやら全く効果が無い訳でもないらしい。
==========================
しばらくの間、屋敷は狂騒状態だった。
皆、すぐにエリクサーを飲んだらしい。
脱毛・老眼・近眼・鼻炎・虫歯・耳鳴り・肩こり・関節痛・腰痛・猫背・胃弱・便秘・下痢。
全て治ったらしい。
もはや奇跡である。
その奇跡から奇跡的に零れ落ちた身としては、内心周囲に嫉妬もある。
特に馬丁のゴードン翁である。
若い頃に戦場で失った左目が回復してしまった。
もはや神の御業としか思えない。
…あの、神様?
俺の番はまだですか?
昼頃、キーンの奥様に呼び出されて礼を述べられた。
近年悩まされていた小じわが消えたらしい。
今まで挨拶しても口も利いてくれなかっただけに驚きである。
どうやら奥様のエルデフリダ様は帝国の亡命貴族か何からしく、宿屋の俺達が邸内に存在する事に対して吐き気を催す程憎悪していたらしい。
キーンにも俺達を追い出す様に涙ながらに懇願し続けていたらしい。
だが、今回小じわを消した事でノーカウントにして下さるそうだ。
ただエルデフリダ様が許したのは俺だけで、ヒルダ・コレットの事は相変わらず蔑み嫌っているし、母娘も同様の感情を持っている。
そろそろお暇時かな。
俺としてはずっと2人と笑って暮らしたいのだが…
まあ家族が可哀想だよね。
カインの奥様もややノイローゼ気味だし。
男の都合に合わせさせるにも限界はあるか…
==========================
「それにしても、昨日は最後の最後に超大物と逢えましたね。」
「いやあ、私もウェイトレスなんか買わずにそちらに居たかった。」
『俺なんか一昨日首都に来たばかりなのに…
いきなりあんな偉い人と面識が出来ちゃうなんて…
ちょっと驚いてます。』
ドルト・エヴァーソン。
自由食品ホールディングスの代表取締役会長。
財界の重鎮である。
名門企業の嫡男として生まれながらも士官学校に入学、青年期を軍人として過ごした人物。
平和維持軍の部隊長として幾度も首長国に援軍として赴いており、公式の記録上だけでも三刀二槍を身に受けている。
35歳で軍を退役し入社、39歳で先代の逝去を受けて代表職に就任した。
以降は財界で要職を歴任。
帝国との経済協力会議への尽力で知られる。
昨年、体調不良で辞任するまでは政府の諮問委員会のメンバーでもあった。
「まさか、向こうからお詫びのメッセンジャーを送ってくるとは…」
『昨日の印象では威張ってる怖いお爺さんだったのですが…』
「自由都市内でもそういうイメージありますよ?
我の強いワンマン社長だって。
まあ、あれだけの大企業の経営者なら仕方ないですけど。
私が子供の頃から、ほぼ毎年叙勲されてる印象がありますし。」
「キーン君、私はこのロゴマーク見たことあるよ。
自由食品の保存食パックって、冒険者なら使ったことない者はいないと思う。」
「ええ、確か冒険者ギルドのプレミアスポンサーを務めていた時期もあったんじゃないかな…
スミマセン、正確な記憶ではないかも知れませんが。」
俺達がエリクサー風呂ではしゃいでいる間に。
エヴァーソン会長のメッセンジャーが訪問していたらしい。
用件は昨夜の謝罪。
トラブルで馬車ロータリーの流れを止めてしまった事に対して、会長直々にお叱りを受けた件についてである。
《あの時は感情的になってしまって申し訳ない。
君達に全く非は無く、当方の不明を恥じている》
との趣旨である。
謝罪状には上等な菓子折も添えられており、これは謝罪風追撃ではない事を意味しているらしい。
昨日の件は明らかに俺達に非があったし、会長が謝罪する謂われもないと思うのだが、文面は極めて真摯であった。
「いやあ、これ会長が謝るような筋合いでもないと思いますけどね。
一歩間違えれば玉突き事故になっていてもおかしくない場面でしたし。
真面目な方だとは伺っておりましたが、逆に恐縮しますね。」
『あの…
この場合、俺達はどうすれば良いのでしょうか?』
「うーーん。
キーン家とエヴァーソン家じゃそもそも家格が違いますからね。
本来、私なんか会長が気を遣われる存在じゃないんですよ。
寧ろ、こっちが先に菓子折持って頭を下げに行く場面ですから。
これから贈答屋に寄って、会長の本邸にこちらの謝罪状を届けましょう。
通例としては、それで丸く収まったことになります。」
『社長の世界も結構大変なんですねえ。』
「大変ですよ。
結構、上下関係厳しいですし。
年功序列とか、軍歴官暦とか叙勲回数とか。
私、そういうの本当に苦手で…
気の合う仲間とほどほどに商売を楽しんでおいておきたいんですけどね。」
『例えばジュースの人とか?』
「ポール? アイツとは気が合いますね!
仕事で使うのは難しいですけどw」
==========================
菓子折はフルーツ系の寒天菓子っぽいものを選んだ。
老人の歯を考慮してのことである。
エヴァーソン邸の門番に謝罪状を渡してスッと帰るつもりだった。
「主人が是非お上がり下さい、と申しております。」
奥から出て来た執事さんが柔和な笑顔で言った。
御丁寧にも門番に命じて外門を全開させる。
俺達3人に拒絶することは出来ない。
これが《立場の差》というものだ。
「私はオマケなのですが」
当事者ではない所為だろう。
関係のないカインが妙に嬉しそうである。
昨日怒られた時、かなり怖かったからなあ。
正直、2度と顔を合せたくない相手なのだが…
邸宅は外観の割には質素で、絵画や装飾品は美的バランス上の最低限だけしか備えられていなかった。
ホールには甲冑が据えられていたが、くたびれ具合から推察するにドルト翁が戦場で着用していたものなのかも知れない。
ドルト翁は俺達を書斎に招きたかったようだが、俺が車椅子だったので客間に通された。
奥様らしき方が「主人が迷惑をお掛けしまして」と茶菓子を置きながら一言述べて脇室に戻る。
先方が高齢なこともあり、会見はすぐに終わった。
俺達は
「「『いえいえ、滅相も御座いません!』」」
を連発していただけである。
余計な発言をして大物を刺激したくなかった。
帰り際、会長は不意に軍隊時代を語る。
帝国の援軍として対王国戦線に参戦していた頃の話だった。
ある日から、劣勢であった王国側が次々に未知の生物を放って来て、友軍は甚大な被害を受けた。
会長も腹を裂かれて重傷を負ったそうだ。
戦局は一夜で逆転してしまい、友軍は戦線の大きな後退を余儀なくされた。
その後も王国は国境沿いに多種多様な未知の禽獣を解き放ち続け、周辺国は王国に接近する事すら出来なくなった。
幾人かの王国兵士が《召喚獣》という単語を用いていた為、いつの間にか各国軍隊も未知の禽獣を《召喚獣》と呼ぶようになった。
以降、各国の軍は王国の召喚戦法を恐れ、怯え続けてきた。
だが、ある時期から。
ぷっつりと召喚獣の戦線投入が止まった。
代わりに未知の強力なスキルを持った兵士達が北方の対公国・対魔界戦線で目撃され始めたとのことだ。
この時期から《勇者》という単語が頻出する。
いつの間にか会長は俺一人の目を見て話していた。
ああ、この人俺の素性やここに居る経緯に察しがついているな。
いや、このレベルの大物が本気を出せば、身元調査くらいは一晩で十分なのかもな。
『会長、私は何をすれば良いのでしょうか?』
「トイチさんは、もう行動されてますでしょう?」
それで会話は終了である。
深く頭を下げてから、馬車を進めさせた。
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キーン邸に帰還。
3人同時に安堵の溜息を吐いてから、顔を合わせて苦笑する。
丁度、連邦からの伝令が来訪したタイミングらしく、伝令氏が門番と話し込んでいた。
こちらの馬車を見るなり、伝令氏が敬礼をしてくる。
どうやら新大使が決定したので、その報告らしい。
じゃあ、後は大使館の位置を伝令に教えて終わりだな。
ようやく生活の準備に本腰を入れられる。
ヒルダもコレットもエルデフリダ夫人と毛嫌いし合ってるからな。
早く隔離しなくちゃ。
「それでは謹んで発表します!」
「うむ、お願いします。」
「駐自由都市同盟、新大使は!」
「ええ。」
「リン・コリンズ財政顧問の兼任と決定しました!」
『…。』
…何でやねん。
俺は何度も確認し抗議するも、着任状の文面が変わる事はない。
聞けば、ミュラー・ハウザーの老害コンビが「もうアイツでいいじゃん。」などと言って決めてしまったらしい。
大使って国益の代弁者だろ?
俺は連邦人でも何でもないし、そもそもオマエらをあんまり好きじゃないからな?
一応解説すると、大使の有用性は下記の通りである。
不在>俺>連邦人
連邦外交は大使館を留守にしている期間が一番円滑に収まる。
『ねえ、御二方。
俺、これからどうすればいいんですかね?』
「…着任挨拶?」
『しなけりゃ駄目ですか?』
「そりゃあ、外交問題に発展しちゃうでしょう。」
そりゃあそうか。
大使が駐在国に到着しているのに着任の挨拶に行かないって
どう見ても喧嘩売ってるもんな。
外交実務に明るい人間が誰も居なかったので、思案のあげく政治局に向かう。
ウェーバーに泣きつけば何とかしてくれるだろう作戦である。
『政治に口を出してみたい、という欲求はあるのですが
実務には携わりたくないのですよ、御二方。』
「安心して下さい。
カネを持った老人は全員同じことを言ってますから。」
政治局の応接室に案内された直後に、貴賓室に移される。
職員達の困惑した表情を見れば何となく状況は理解出来た。
ウェーバーとは面会出来なかったが、その秘書が《ウェーバーをキーン邸へ翌日訪問させる》と約束したので、俺達はそのまま家路に着いた。
《730億ウェンの配当が支払われました。》
それにしてもこの能力って、飯時をこまめに教えてくれるから便利でいいよね。
夜、コレットから感謝された。
長年のコンプレックスであったソバカスが消えたのが余程嬉しかったそうである。
「リンは私の王子さまだよ!!」
涙ながらに感謝される。
女にとっては至上の幸福らしい。
「私! リンのお嫁さんになって本当に良かった!!
やっぱり貴方は運命の王子様!
これは最高の奇跡だよ!!!
好きっ!! 愛してる!!!」
うん、どういたしまして。
今までソバカスあった事に気付かなくてごめんな。
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その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
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巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、
時には面白く敵を倒して(笑える)いつの
間にか世界を救う話です。
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