異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ

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【転移71日目】 所持金13兆4640億1150万ウェン 「仲間って、ファーストネームで呼び合うものだって聞きました。」

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俺の朝はリハビリから始まる。
医療知識に熟達したマーティンの指導なので効果はあると信じたい。



「社長、良い兆候です!
自覚は無いかも知れませんが、腿の付け根の筋肉の反応。
これが日に日に改善しております。
血行も明らかに良くなっているんです。」



この数日、ずっと同じことを言われている。
いや、言葉は嬉しいんだ。
でも、感覚が無いから何とも言えない。
地球の定義でこれを下半身不随と呼んでいるのかは知らないのだが、両脚の付け根以下の感覚がない。
何も感じないのだ。



今日はマーティンの提案でコボルトの医者が連れられてきた。
魔界ではかなりの名医として知られた男であり、従軍医師として先々代魔王の幕下に侍っていた経験もある。
クュと名乗った老コボルト医師は涙を流して戦争への支援の礼を述べると、鍼治療的な道具を取りだした。
一同が騒然とするが、《俺の地元にも、こういう療法はあるんです。》と説明すると収まった。
これまで鍼灸の類はあまり好きでは無かったが、地球で実際に使われている医療法なら地球人の俺にも何らかの効力があるのではないか、と思う。


今日は脚のあちこちを鍼でトントンするだけ。
と言っても感覚がないので、見ていないと刺されているのか叩かれているのかの区別すらわからない。


「脚に大きな傷がありますな。
コリンズ社長は冒険者としても高名だとか?」


『あ、いえ。
生活費を稼ぐ為に一時真似事をしておりました。
その傷もホーンラビットに切られただけで、大した活躍はしておりません。』


「御謙遜を。
ジャイアントタートルを1日に10匹狩ったという噂を聞きましたよ?」


『いや、あれこそ皆の助けあっての事で
見ての通り、ただ幸運に恵まれただけの男です。』


「なるほど、幸運と申されますか。

では、一つだけ朗報を。」


『この脚のお傷。
治療の端緒として使えます。
コボルト医学には傷部分の再生能力を周辺に広げ続ける手法もありまして。
この辺では知られていないと聞いて、少し驚いた記憶があります。

ああ、勿論。
医学水準は自由都市の皆様の方が魔界などより遥かに高いですがね。』



なるほど。
そもそも種族が異なる魔界と人間領域では学問の発展箇所が異なるのだろう。
いつか彼らが技術交流とかしたら面白いかもな。

…彼ら?
いや、俺が提唱した方が良いのだろうか?
うん、まずは考えを整理してから皆に尋ねてみよう。



==========================


クュ医師を玄関まで見送ることにした。
固辞されたがコレットに謝礼金を渡させる。

別れ際に数分玄関先で談笑。
《それでは》と互いに握手を交わした時だった。


ふと視線に気づいて通り向かいを見ると法衣の一団がこちらを凝視している。

神聖教団?

クュ医師は慌てて「申し訳ありません。 私の所為で迷惑が掛かってしまうかも」と言って慌てて用意した馬車に飛び乗って去った。

馬車が去った後も教団員達は深刻な表情で俺を睨みながらヒソヒソと話し合っている。


『あの!』


思わず声を掛けると、彼らは一瞬顔を強張らせた後、俺を無視してすぐに走り去ってしまった。



『コレット、今のは?』


「大丈夫よ、リン。
魔界との事はそんなに大事にならないみたいだから。」


『そうなのか?』


「ほら。
政治家とかの偉い人って教団との付き合いもあるでしょう?
そこから上の人達同士が穏便に収まるように話し合ってるらしいの。」


そんな話をしているとカインが車椅子を押して中に入れてくれる。



「コリンズさん。
向こうは選挙中です。
そもそも外部にリソースを割く余裕がありません。

我々が教会の真正面で配給をしていると言っても
それは港湾区だけのこと。

そこまで広く問題になってませんよ。
我々に賛同する政財界の方々が教団上層部とも話し合ってますしね。」



『その…
彼らの教義は人間至上主義的な面が強いと思います。
それで魔族のクュ医師と玄関先で談笑していたことが、さっきの彼らを不用意に刺激したのかな、と。』



「それは否めませんね。
資本関係だけで言えば、王国と魔界を挟んで教団とコリンズさんが敵対している構図でもありますから。
代理戦争というやつです。」



『俺は教団否定派で、彼らの行動を掣肘したいと考えて配給をぶつけたりしているのですが
武力を使っての抗争には発展しませんか?
みんなには迷惑を掛けたくないので。』



「うーん、武力衝突には至らないでしょう。
そこは断言出来ます。
クーパー会長達も、《教団上層部はそこまでコリンズさんを敵視していない》と分析していますし。」



『な、なるほど。
会長が仰るなら、そうなのでしょう。』



「要するに教団の手法を改善させたいけれど、暴力で云々したい訳じゃないんですよね?」



『勿論です。
暴力沙汰にまで発展すれば、住民の皆さんにまで被害が及んでしまう。
ムシのいい話かも知れませんが、あくまで法治国家のルールの範囲内で行動したいんです。』



「コリンズさんの想い、よくわかりました。
きっと無駄な犠牲を出さずに、改革は実現するでしょう。
議会へのロビー活動費はかなり嵩みますが、それは大丈夫?
何せ王国と違って、自由都市は頭を下げる相手が多くて多くてw」


『ええ、おカネで傷付く人が少しでも減るのなら
喜んで拠出します。』



==========================


【所持金】

14兆1640億1150万ウェン
  ↓
10兆1640億1150万ウェン


※広域ロビー活動資金として4兆ウェンを拠出


==========================


『カインさん。
この金額ということは。
自由都市だけでなく、全世界的にカバーするおつもりなんですね?』


「このソドムタウンには各国から使者が派遣されておりますから。

王国とか魔界とかにはそこまでの費用は必要ないのですが。
キーン君曰く、《自由都市の財界にはどれだけ頭を下げても下げ過ぎることは無い》とのことです。
合衆国の方にも小規模ながら産業資本は確立され始めているので、そちらを無視すると足元を掬われるとの見解もあります。
あそこは荒野ながらも面積だけは広いですからな。」



当初、《カネの力で教団をぶっ潰す》的な考え方もあった。
だが、何かがぶっ潰れる時、巻き添えを食うのはいつも庶民なのだ。
きっと俺がしたいのは革命ではなく、社会を一歩一歩改善することなのだろう。
少なくとも今の俺が地球帰還を目指す理由はそれだ。
勿論、異世界は地球政治の実験台ではないし、俺も誠実に向き合いたいと思っている。



『流れる血を少しでも減らしたいんです。
どうか皆で俺のこの想いを共有して欲しいんです!』



フロアに居たメンバーも強く頷き返してくれる。
ヒルダが「ここに居ない者にもリンの想いを伝えますので」と言って締め括った。



==========================



午後。
キーンの勧めもあり、予定を決めずに馬車で自由都市を遊覧。
コレットが無邪気に「わたしもみてみたーい♪」と言って馬車に乗り込んで来る。

まあ本音は俺の監視だろう。
例の真ん中と密会しないように牽制しているのだ。


俺はこの障害の所為で用事がある場所以外は全く踏み入っていなかった。
なので自由都市でそこそこ地理を把握出来ているのが港湾区しかない。
財界の人々には何度か驚かれた。
あそこは荷主(の代理人)と下層民以外はあまり立ち入らない場所なのだそうだ。
港湾区よりも一つ中央に寄っている工業区にもカネ持ちはあまり近寄らない。
工場オーナーも落成式や物件売買の折にだけ訪れるそうだ。


逆に、貴族区・富裕区・リゾートハーバーなどは上流が非常に好む。
特にこの贅美を尽くしたリゾートハーバー。
同じ港でも港湾区の積み下ろし場とは大違いだ。

ここには沖仲仕が居ない、棍棒を持った督励係も居ない。
代わりに使用人までに着飾らせた紳士淑女が颯爽と歩いている。


馬車から垣間見ただけだが、あの通りに並んでいるのは全てブティックだろうか。
一本向こうの通りにはジュエリーショップばかりが並んでいた。


『キーンさん。
俺には縁の無い所なので
ちょっと緊張します。』


そういうとキーンは驚いたようにこちらを振り返る。


『あ、俺またなんか変なこと言ってしまいましたか?』


「…報告書にも書いたつもりだったのですが。

いや、縁も何も。
このラグジュアリーストリートを管理運営している(株)プラチナム地所は
先日、弊社が子会社化しました。」


『え? え?』


「ほら、前から言ってるじゃないですか。
先年の海外植民地バブルの余波で経営が苦しくなっている会社が幾つかあると。
それで、ほら。
クーパー会長との会食の際、コンドラチェンコ社長から支援要請を受けたじゃないですか。
コリンズさんが快諾したから、皆が喜んで。」



『あ、ああ。
あの時の…』



思い出した。


《港の不動産運営が芳しくないから支援をお願いさせて下さい。
入居者の皆様に迷惑だけは掛けられないんです!》


とつい先日頼まれたのだ。
てっきり港湾区の話だと思ってたので、資金投入にGOサインを出した。
地球でもそうだったように、父の様な労働者階級が金持ち同士のいざこざに巻き込まれる事態だけは避けたかったのだ。


『…そうか、港と言っても色々あるんですね。』


聞けば。
これらのテナントの大半は貴族や資産家がオーナーである。
そして彼らは愛娘や愛人にこれらのショップを任せるのである。
最初の数か月は店頭に立つ彼女達はすぐにお店ごっこに飽きてしまい、薄給でアルバイト女子を働かせるようになる。
そして単なる消費者に戻っていく。
自由都市にはそんなサイクルがあるらしい。
俺とは縁が無かったが、きっと地球にもあるのだろう。


貴族の面子は絶対に潰せない。
だからあの時、プラチナム地所はあんなに必死だったのだ。
愚かな俺は、彼が労働者の生活を守ろうと奔走しているかの様に誤解していた。
いや、そう思いたかっただけなのかも知れない。

コンドラチェンコ社長は今でも4頭立てのアンティーク馬車に乗って愛人と共にグルメ巡りを堪能しているそうだ。



『コレットは服とかいらないのか?
ほら、あそこで靴を選んでる子なんて君と同じくらいの年頃だぞ。
欲しいものがあるなら。』



「えー。
そんなつもりで来たんじゃないよ。

リンと一緒にいたかっただけ。
今度、また港湾区の配給を手伝わせて欲しいな。

私ね?
リンが皆を助けている姿が大好きなの。
私もそのリンを何か手助けしたいと思ってる。」



…欲の深い女だ。
コンドラチェンコなどはきっと可愛い部類なのだろうな。





《3兆3000億ウェンの配当が支払われました。》




その後もリゾートハーバーを巡る。
気のせいか僧侶や外国人が多い。



「お気づきになられましたか?
ここには亡命者の別荘が多いんですよ。
皆さん国庫から潤沢な資産をお持ちだしになられているから。
良い造りの家が買えてしまう。
連れておられる御婦人もみな美しい。
御令息も良い学校に通っておられる。」


『恐ろしい国家戦略ですね。
そりゃあ王国が貧乏になる訳だ。』


「跡を継ぐまでは実感が無かったのですが、キーン不動産は自由都市の尖兵です。
それも先鋒大将としては史上最強の存在であると認識しております。

…何せ貴方をお招き出来たくらいですから。」


『光栄です。』


トロイの木馬、という単語を連想してすぐに脳裏から消した。
俺の様な身体的弱者は文明や経済に守られて初めて生存を許されるのだ。
この殻に悪意を持つこと自体が恩を仇で返す行為ではないか。




==========================



リゾートハーバーの外れのパブリックビーチに座って夕焼けをキーンと2人で見た。
若者向けのジャンクな瓶飲料で砂まみれの乾杯をする。


「旅はいいもんです。
出ている間は自由になれる。
ただのドナルドに戻れる。

私もコリンズさん同様に討伐クエストとかするんですよ。
去年は双首大蛇の捕獲クエストを手伝って褒められました。

あれは楽しかったなあ。
うん、本当に楽しかった。」



『キーンさん。』



「?」



『貴方の事、ドナルドって呼んでいいですか?
パーティーの仲間って、ファーストネームで呼び合うものだって聞きました。

貴方は最初お客様だったから。
中々こういう事言い出せなくて。』



「是非、そう呼んで下さい。
リンさん。」



『ドナルドさん、いつか皆でまた旅をしましょう。
俺は…  自分の脚で歩きたいんです。
自分の目で確かめなきゃ駄目なんです。』



「いいですね。
皆で豊かな人生を送りましょう。」



俺とドナルドは星が見えてもずっと砂浜で寝転んでいた。
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