異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ

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【転移82日目】 所持金293兆5687億7337万ウェン  「アンタ、さぞかし人生楽しいだろうな」

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王国・連邦・自由都市と渡り歩いて、今俺の眼前には首長国の光景が広がっている。
風光明媚な富裕国と聞いていたが、国境のこちらからでもあちこちに上がっている火の手が見える。


「連邦全軍が移民・難民の阻止の為に動いております。
国境侵犯を強行する者は可能な限り射殺しておりますが、それでも彼らは押し寄せて来るのです。」


『やはり三公七民に惹かれて?』


「そりゃあ税率が2割も下がるのなら、民衆の心にも火は付きますよ。
現にあれだけ真摯な統治が行われてきたアウグスブルグ領やライプチヒ領でも、占領時の民衆抵抗が皆無だったのですから。」


『俺も…  税金下げてくれる軍隊が攻めて来たら、多分歓迎しちゃうんじゃないかと思います。』


「普通はそうなりますよね。
問題は、我々に首長国を攻める意図はありませんし、難民を受け入れるつもりもないと云うことです。」



渋い表情で俺に解説してくれているのは連邦の若き新指導者ゲオルグ・フォン・ハウザー氏である。
勤勉で真摯な人物なのだが、その治世を輔弼する存在が絶無である為にかなりの苦戦を強いられている。
本来はその父であるグスタフ翁が息子の統治をサポートするべきなのだが、毎日欠かさず登楼しており居場所を掴む事さえ困難だそうだ。




『あの、首長国の方は何か?』


「幾つかの農民グループからは併合を懇願されてます。
逆に首長国王室は…」


『はい、王室はどのように言って来てるんですか?』



「《何とかしてくれないか》の一点張りで。
まあ、この状況では他に言いようがないのでしょう。」



『では、首長国軍がこちらを攻める気配はないのですね?』



「物理的に無理でしょう。
彼らは全土蜂起の鎮圧と、帝国四諸侯の侵攻への対応で精一杯ですから。

そもそも我々との軍事衝突に割ける兵力なんて残ってないんですよ。」




もう首長国の現体制は終わりだろう。
皆がそう思っている。
国境の先に見える膨大な火の手を見て、俺達も似たような感慨を受けた。

…恐ろしいな。
ミュラー卿の陰湿な減税戦法は一兵も使わずに隣国を破壊してしまったのである。


「約束通り、ワシは侵攻はしてないよ~んww」


毎度、彼らからの書簡はその一文で結ばれている。
アンタ、さぞかし人生楽しいだろうな。
あの糞ジジイのドヤ顔に腹が立ったので、俺からも一矢報えるか試してみる。



==========================


【所持金】

222兆3687億7337万ウェン 
  ↓
212兆3687億7337万ウェン 


※連邦政府並びにゲオルグ・フォン・ハウザー連邦総主席に10兆ウェンの政治資金支援


==========================



『申し訳ないんですが…
これで何とかしておいて頂けませんか?
こんな事しか出来なくて恐縮です…』


「この金額をご支援頂いて何も出来なければ
私は腹を切りますよ。」



ゲオルグ氏は聡明な人物である。
父親と違って常識的で温厚でもある。
アウグスブルグ卿と共に連邦の未来を支えるべき逸材として衆望を集め続けていた程に。
そして何よりインフレの概念も俺以上に理解している。


「これは独り言なのですが…
王国から食料調達しても宜しいでしょうか?」


『…え?
それはもしかして…』


「何も言わずに食料調達資金として20兆ウェンを追加融資頂きたい。
事の性質上、書面には残せませんが…
口頭で経過報告を致します。」


『…王国には多少の友人も居るんですがね。
例えば、我が最愛の親友は王国検問所で日々精勤しております。
警備サービスに邁進している者も居れば、伯爵領の統一戦争に粉骨砕身した忠臣もおります。』



「私に任せてくれれば王国も三公七民になりますよ?」



『…全て貴方にお任せします。』



「卑怯な物言いで申し訳ありません。
立場上、私は国益を全てにおいて優先しなければなりませんが。
敵国人民の利益にすらなる方策を探し続ける所存です。」



==========================


【所持金】

212兆3687億7337万ウェン 
  ↓
192兆3687億7337万ウェン 


※連邦政府の対王国食糧購入工作費として20兆ウェンを供与。


==========================



国土論でも示唆されていたが、封建制は近く消滅する。
資本主義社会に対して経済効率が著しく劣るからである。
自由都市同盟が成立し、その国防態勢を盤石な物にした時点で、いずれはこうなる事が決まっていたのである。

帝国・首長国・王国がどうなるのかは分からないが、封建制よりも効率的な政治体制に移行するのだろう。
そこに住む人民がどうなるかは分からないが、その地域の最低税率ラインが更新されておくことは好ましいことである。
《たったの一度でもその地域が低税率を経験した事がある》
この事実が何としても必要なのだ。


ゲオルグ氏は自家が滅び終わった先を見据えている。
俺は未来の為に現在を生きる者の生活を圧迫する政治手法には反対だが…
その手法が止む無い場合は、彼の様に高潔な人物に実践して貰いたい。



==========================



「で? このままミュラー領に向かうのですか?」


『国境が破られてるのが、そこですから。
どうせあの老人が破り易い状況を敢えて作ったのでしょうけど。』


そうなのだ。
あれだけの戦上手がむざむざと流民の侵入を許す訳がないのだ。
わざと侵入し易いようなシフトを組みでもしない限り。
恐らく書状で訴えたほどの窮状ではない。
領土内のコアゾーンには侵入させていない筈である。


『こうして右手を見ると、破られている部分は限定的ですね。』


「首長国政府に取っては国家全てが破られたも同然なのでしょうけど。」



馬車はライナー領を進む。
滅ぼされたライナーは義に篤い仁君であったらしいが、それを懐かしむ者とは誰一人逢えなかった。
税率が下がったからである。

俺達は減税の功労者として歓迎され続けた。
もしも誰かが二公八民を提唱したら、すぐに狩られる側に回るのだろうが…


先触れが宿を確保してくれていた。
代々のライナー家の別荘跡らしい。
他のライナー家の邸宅は略奪の上で全て焼き払われたが、この別荘は湖畔に位置している所為か何となく燃えにくかったので焼き討ちが断念されたとのこと。

今は冒険者ギルドの支部として利用されており。
俺達はその宿泊区画に泊まれるらしい。



案の定、ここにも女冒険者は居なかった。
そういう勇ましい女は全員ヒルダ軍に参加しており、例外はない。


「ええ!?
売春婦相場が高騰している?」


ポールが驚いてカウンターに聞き返す。


「ええ、我々にとっては痛いことなんですがね…
最近の女共は結託していて…
買い叩けない状態なんですよね。

仕方がないんで結婚する男が増えましたね。
だって娼婦の数自体が激減しちゃったから。
所帯でも持つ以外に遣り様がないでしょう?」


…見事である。
そりゃあ女達がヒルダに従うのも理解出来るわ。




要は…
《喰わせてくれるのは誰か?》
というシンプルな話なのだ。

義理や慣例などどうでもいい。
人間は今、自分を喰わせてくれる者に従うのだ。



《ンディッド・スペシャルアンバサダー信徒》当が支払われました。》



俺が生み出す、この金属片は近く価値を失う。
価値の指標たる価格は最終的に需給関係によって決定されるからである。
俺と言うミュータントが無限に供給している限り、この金属片の価値は下がり続けていく。
今後はゲオルグ氏が予想しているように、農産物や安定した農政が…



あ!!
地球と同じか!

ああ、そうだったのか。
それで金持ちは未来永劫金持ちなんだな。

腑に落ちた。
この金属片に価値があるうちに、次の時代の資産を買い占めるのだ。
それが土地でも宝石でも何でも構わない。
経済法則に従って淡々とトレードしているのだ。


暴落するのがドルであれ石油であれ証券であれ、何だって構わないのだ。
何かが暴落しているという事は、他の《何か》に価値が移行している証拠なのだから。
どうせ金持ちはその《何か》を買い占め終わってるのだから。


ああ、そうか。
ようやく実感できた。
これが金持ちが金持ちであり続けているサイクルなのだな。



『ねえ、カインさん。
ミスリルがダブつきによって価値を失って…
良い事って何がありますか?』


「皆が気軽にスキルを使う様になるんじゃない?
コスパの悪かったスキルが普通に使われるようになるよ。
鑑定とか召喚とか。
リンも、その友達も普通に元の世界に帰れるかもね。」



それで俺が居なくなれば、またミスリルが高騰するのか。
世の中上手く出来てるな。
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