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【顛末記17】 御菓子司
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勿論口には出さないが、王国人は大魔王夫妻を激しく嫌っている。
理由は明白。
王国が召喚に成功した奇跡(カネ)を夫妻が国外に持ち去ってしまったから。
そして、当時王国と敵対していた魔界や、王国人が永年差別対象としていた遊牧民族にのみ資金援助を行ったから。
その所為で王国は最貧国・魔界に敗戦し、遊牧民族出身のマキンバ公爵の台頭を許してしまった。
御一新後も統一政府は王国への支援を殆ど行わず、終わりなき内戦を冷淡に傍観している。
王国人の憎悪は妻であるコレット・コリンズに対し特に強く向けられる。
理由など語るまでもない。
彼女が宿屋の娘だからである。
一般的に宿屋とは売春施設の隠語の一つ。
文脈によっては宿屋の娘≒非合法な低年齢売春婦を指すことも少なくはない。
故にコレット・コリンズは身分意識の高い王国では厳密な市民階級として扱われない。
その為、末期の王都から逃亡したコリンズ一家はやっかみもあり必要以上の誹謗中傷を受けたと聞く。
ワダなる大魔王の級友が一人で弁護の論陣を張り、そのお陰でコリンズ家が当時の王都で唯一売春業に手を染めてなかった資料が辛うじて後世に残されたのだが、そのワダも魔界で戦死した。
王都にも摂政の絶大な権威に媚び諂う者は無数に居るが、コレット・コリンズ個人の味方は一人も存在しない。
王国人がコレット・コリンズを憎むように、地球人はその夫のリン・コリンズを嫌っている。
同じ地球人であるにも関わらず、現地人と平等に扱われてしまった恨みはさぞかし深いだろう。
眼前の少年は、帰還についてさしたる感慨もないようだが、大魔王が身重の妻を捨てたことを未だに許していなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王国と合衆国の間には長い1級河川が流れている。
俺や摂政に言わせれば、この河を国境線にすれば全てが解決するのだが、そうは簡単ではない。
長い戦争の歴史で、互いに越河支配を経験しているし、地権も非常に入り組んでいる。
王国と合衆国では商法も土地登記法も全く異なる為、1つの土地に両国の正当な所有者が存在しているケースが非常に多い。
加えて神聖教団系の開拓ファンドも絡んでおり、経済が崩壊した今でもその債権者は世界中に存在している。
『この河を国境にしたらどうでしょう?』
俺が何度そう言っても、両国の役人は恨みがましい目で睨んでくるだけである。
『摂政殿下も概ねこの案に賛成されておられるのですがね。』
役人達が唇を噛んで屈辱に堪える。
俺が言えた筋合いではないが、コイツら本当に摂政が嫌いだよな。
『じゃあ、貴方達はどんな裁定が下れば満足なんですか?』
俺が問い質すと異口同音に「不可逆的な全面領有」と答える。
それはもう休戦の意志すらないのと同義であるので見過ごせない。
『魔王ダンの判始と同時に惣無事令が発令される事はご存知ですよね?
駆け込み戦争も惣無事令違反だと摂政殿下から通達が行ってますよね?
私の言っている意味わかります!?』
もう何度この遣り取りをしただろう。
俺は心底うんざりしていた。
本来貴族の元服は15が相場だが、空位の長期化は政権の安定を著しく脅かすので魔王ダンは3歳で元服させられる。
これは統一政府の総意である。
元服と同時に魔王権限で、全ての戦争行為を違法と定める惣無事令が発令される。
ここまで済ませて御一新は完遂するのだ。
なので紛争地の領主や住民は来年の魔王元服までに既成事実を作ろうと必死である。
特に反コリンズ色の強い王国人は酷い。
駆け込み侵略の機会を虎視眈々と狙っているのだ。
そして当然だが、統一政府はそんな愚行を看過しない。
今は俺の軍が駐屯しているので双方おとなしい。
だか、撤退した瞬間に紛争を再開するつもりなのは、誰の目にも明らかだった。
兵達は俺に気を遣って平静を装ってくれているが、内心は穏やかではない。
そりゃあそうだろう。
彼らは世界一貧しい砂漠の民である。
どうして極貧の自分達が豊かな河川沿いの住民の安全を保護しなくてはならないのだ。
狭い駐屯地から外を見れば豊穣の田地が無限に広がっており、王国人も合衆国人も大量の水を浪費してパスタを茹でていた。
アホらしいにも程がある。
その上、ゴブリン・エルフであると言うだけの理由で投石までされる始末。
現時点で殉職者は7名。
全く意味のない場面で暴徒に巻き込まれ、脈絡なく殺された。
遺族にどんな弔辞を贈るべきなのかさえ、俺には思い浮かばなかった。
王国と合衆国の和平が成立すれば帰れる。
だが、成立するにはあまりに人が死にすぎた。
領土紛争は早くも仇討ちの連鎖に置き換わっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「差し入れに参りました。
兵士の皆様への慰問として菓子を振る舞わせて下さい。」
静かに止まった荷馬車。
軽やかに駆け下りた少年は屈託のない笑顔で俺にそう告げた。
背後で頭を下げた女性は少年の妻であろうか。
『ご無沙汰しております。
合同葬儀ではお世話になりました。』
「いえ、義務を果たそうと試みただけです。」
ユキ・アルフォンス・ウラベ。
大魔王と共に転移して来た少年。
大魔王帰還直前、葬儀参列の為にソドムタウンにやって来た。
王都の菓子屋に入り婿していた縁もあり、葬式饅頭なる地球菓子を作ってくれた。
大魔王同様に潔癖な倫理主義者。
但し、天下国家にしか興味を持たない大魔王とは対極を向いており、家族や恋愛に重きを置く。
良く言えば人間的であるし、女々しい哲学の持ち主とも言える。
妻子を捨てて帰還する大魔王に腹を立て、葬儀が終わると内戦中の王国に帰国してしまった。
「男子の責務は己の妻子を守ることである。
身重の妻を置いて去るなど言語道断!」
出国理由を尋ねた国境役人にそう言い捨てたらしい。
空前の大魔王フィーバーの最中だっただけに、ウラベの毅然とした正論は社会に鮮烈な印象を与えた。
婦人のような繊美な風貌とは裏腹にかなりの硬骨漢である。
「ゴブリンの皆様は生姜を好むと伺ってます。
私の故郷のレシピで恐縮なのですが。」
『おお、これが噂の冷やし飴ですか。
液体ですから、皆で気軽に分けて飲めますね。』
「慰問の一環ですので、甘味をやや強めに致しました。
ゴブリン種もエルフ種もそこまで味覚は変わらないと伺っていたのですが、如何でしょう?」
『はい、問題ありません。
私の領地でも皆が同じ酒を飲み、同じ釜のメシを食しております。』
案の定、冷やし飴なる地球の甘味は3種族を喜ばせた。
皆、変化に飢えていたのだ。
他にも王国式のクッキーやドライフルーツを樽に詰めて持参しており、それらを陣営に寄贈してくれた。
兵達の表情に久し振りの笑顔が戻った。
さて、本題。
『ウラベ殿。
兵達に変わって御礼申し上げます。
こちらからは何が返礼出来ますか?』
「この幼児菓子を王国・合衆国に配給して貰えませんか?」
そう言ってウラベは小さな焼き菓子を俺に手渡した。
何が欲しいかと問われて配ることを願う、これが令和の群雄のスタートライン。
老害達が為す術もなく淘汰されてしまったのも当然だろう。
『…これは?』
「卵ボーロと言う私や遠市厘の故郷の菓子です。
殆どの国民が乳幼児期に与えられているのではないでしょうか?」
『ウラベ殿も召し上がられたのですか?』
「あはは、どうでしょう。
物心付いてから欲するものではありませんしね。
でも、親は与えてくれたと思います。
私の両親は共に身寄りがなく貧しかったので…
育児ノウハウの無い中で我が子に与えれたものは限られていたでしょうから。
自分に子供が生まれて、初めて両親の苦労を知りました。」
『ウラベ殿…
これを渡す為に危険警告エリアを通って来たのですか?
貴国は実質的な内戦状態なのですよ?』
「危険と言われても、一時よりはマシです。」
『…この菓子を私から魔王ダンに渡せと?』
「いえ、遠市ダンに渡して下さい。」
なるほど。
この男は商いではなく、やはり戦いに来たのだ。
『…承知しました。
摂政はこの種の贈答を嫌う方ですが、コレット・コリンズ女史にとっては心強いかも知れませんね。』
「卵アレルギーには注意して欲しいのですが、私の祖国では歯の生え始めから与えているとのことでした。
ソースは召喚直前まで乳児と同居していた級友です。
既に王都では炊き出しのメニューに加えております。」
『…王都は苦しい状況であると伺っております。
前線や魔王城に物資を回す余裕はないのではないですか?』
「ありませんね。
ですが、余裕なんて本来ないのが当たり前です。」
この少年は暗に大魔王の遺産に頼った現在の政治を非難している。
…君は正しい。
正しいが故に、誰も彼の言い分に耳を傾けなかったのだろう。
だから、夫人とたった2人でここに来た。
「公王陛下、確かにこの紛争は、いえ統一政府は多くの死者を出しました。
どれだけ慰霊鎮魂を騙ろうが、死んだ者は戻りません。
だからこそ、新たに生まれた命を精一杯祝福しましょう。」
『卵ボーロを配ることで?』
「少なくともコストパフォーマンスは最高です。
駄菓子の評論コラムを執筆されていた公王陛下が一番御存知かと。」
『あくまで外連ですが…
嗜好品の掌握こそが統率の最短ルートだとは捉えております。
そんな軽薄者はいないと信じたいですが、他を置いて嗜好品の中毒性を統率に悪用する恥知らずこそが最強の将となるでしょう。』
「手厳しいご意見ありがとうございます。」
『いえ、自分自身を戒めての発言です。
乳幼児向けの菓子を配る程度であれば、十分に配慮の範疇に収まることでしょう。』
ウラベは卵ボーロの包装紙に描かれた子供向けのイラストを1つ1つ優しく指さしながら話を続ける。
「王国にも合衆国にも遠市ダンにも同じ物を食べさせます。
それにより、文化や体験の共有が発生する。
世界にとってもダン個人にとっても、価値ある行為だと思いませんか?
少なくとも、相手が奇跡の結晶でもなんでもなく、同じ人間であると実感出来る。」
『仰る通りです。
…ダンの情操にまで気を遣って下さる方が少なくて…
御礼申し上げます。』
「礼には及びません。
私は級友の子捨て行為を止めきれなかった。
贖う義務があります。」
『子供が幼いのはウラベ殿も同様でしょう?
背負い込み過ぎですよ。』
「ですが。
公王陛下が私の立場ならダンを見捨てなかったのではありませんか?
少なくとも貴方は自分の子より知己の子を優先する方です。」
『…買い被りです。
私は自分可愛さに逃げ回っているだけの卑怯者ですよ。』
「評価は後世に委ねましょう。
尤も、そんなものを我々が遺せればの話ですが。」
『後世すらも遺せませんか、人類は。』
「遠市が全て壊してしまいました。
実際、この世界も経済が極めて順調なだけで、社会そのものは潰れてしまっているでしょう。」
『やはり大魔王には納得出来ませんか?』
「まず、盲目的に施しを与えられることに反対です。
それは際限のない搾取と本質的には変わらないのでしょうか。
生殺与奪を明け渡しているだけです。」
惜しいな。
社会の理解度さえ追い付いたなら、この男こそが天下人となっていただろうが。
ウラベの言葉を咀嚼出来る者は万人に1人もいない。
『大魔王は…
ただ全ての人民に平等に恩恵が行き渡る事を願っておりました。
短い間でしたが、共に過ごした私はそう捉えております。』
「遠市厘は…
再分配者でありたいだけの男です。
短い間とはいえ、共に過ごした公王陛下は気づいておられるのはないでしょうか?」
『例えそうだとしても、結果として彼は一切の徴収を行わなかった。
再分配者ではなく、完全な分配者です。
超常的なスキルの賜物だとしても、それで大勢の人間が救われました。』
「公王陛下が御存知の通り、私はスキルの無い世界から参りました。
なので、こちらの世界が大魔王という偶発的な奇跡に支えられている現状をとても危うく感じます。
人心安寧に信仰は必要かも知れませんが、社会運営には百害あって一利ありませんよ。」
『私だってそうです。
人間の力だけでより良い社会を作れるなら、幾らでもそうしたい。
でも、無理だった。
大魔王が降臨するまでは、世界は酷くなり続けてました。
少なくとも私は無力だった。
…奇跡、いや言葉を飾るのは止めましょう。
怪物が、怪物の力が皆を救済してしまった。
それは許されませんか?』
「甘んじる事が罪だと申しております。」
驚いたな。
この少年も摂政と同じ答えに辿り着いたのか。
いや、真面目に統一政府の政治方針を観察していれば、それが大魔王崇拝に見せ掛けた脱大魔王運動であると理解出来てしまうか。
そう。
見れば誰にだって分かることなのだ。
摂政が奇跡の排除を目的としていることなど。
【サイエンス教育に熱心であり、テクノクラートを尊重。
王権神授的な追従には一切耳を貸さず、築いたのはあくまで機能としての王権】
例え原資が大魔王の遺産だとしても、コレット・コリンズは大魔王無き社会の構築を我が子の王権確立と並行して進めている。
矛盾の理由はシンプル。
彼女が誰よりも誠実な政治家であり、誰よりも貞節な母だからである。
「整合します。」
俺の内心を見透かすようにウラベが卵ボーロの袋を押し付けて来た。
『整合?
私はそれに悲観的ですよ。』
「遠市厘は兎も角、コレットさんもダンも血の通った人間です。
彼女達のパーソナリティを認めることで、社会の主を怪物から人間の手に取り戻す事が出来るのではないでしょうか?」
きっと本質は人間と神の闘争なのだ。
社会を運営するのが人間の蓄積か天が与えた奇跡か。
「人間が自然に持つ情愛こそが、社会の幅を左右するのではないでしょうか?
だからこそ、人間は家族を愛するべきですし、公人にも公務に相反しない範囲での私が認められるべきなのです。」
『きっと、それが社会を円滑に回す方法なのでしょうね。
為政者を神とも悪魔とも扱わない。
家庭にも居場所を作らせ、【100%の公人】なる怪物を産み出してしまわない。』
「ええ、言語化して下さってありがとうございます。
遠市厘は悪い意味で【100%の公人】でした。
あれは私専一である事と表裏一体です。
モノポリーの怪物であると断言して差し支えないでしょう。」
『さっきから随分と大魔王に辛辣ですね。』
「…可哀想じゃないですか。」
『ああ、確かに摂政も魔王ダンも…』
「誰か1人くらいは、アレが遠市厘だったと覚えておいてやるべきなんです。
彼以外の全員が享受している、批判される権利が与えられるべきなんです。」
『…。』
「あの合同葬儀。
とてもじゃないが見ていられませんでした。
この世界の人達はおカネ欲しさに酷い真似をする。
私1人くらいは遠市厘を供養してやらないと。
そう思っただけです。」
…口を開けば情愛だの憐憫だの。
こういう女のような発想も今となっては随分貴重だ。
俺は下らない人間だからウラベのアプローチを心底アホらしく感じるが、正解はどう考えてもそっちなんだろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この少年と哲学を語り合うのは軍務の上では全くの無駄なので、淡々と本題を進めた。
勿論、ウラベは実務者としても極めて優秀だった。
乳幼児食の配給が政権支持率にどれだけ寄与するかをデータで提示してくれる。
損得の話として、魔王ダンに父親としてのリン・コリンズを慕わせた方がどれだけプラスになるかも説いて来た。
「どうせ最後は統一政府と地球の誘致合戦になるでしょう?
遠市厘を引き込んだ方の世界が残りますよ。」
『まるで誘致に失敗した方の世界が滅ぶとでも言いたげですね。
流石に大袈裟ではありませんか?』
「恐れながら経済学者としてのポールソン博士に質問させて下さい。
世界がゼロサムでないと言い切れますか?」
若い癖に意地の悪い男だなぁ。
答えを知っている癖に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、この問題は暴力が簡単に解決した。
俺の後任がカロッゾであると発表された瞬間、王国側も合衆国側も終戦協定の早期締結を乞うてきたのである。
そりゃあね、機甲師団の蛮名は四海に轟き渡っているからね。
卵ボーロ?
即効性すらもあったよ。
ゴブリンへの投石は止まらなかったが、その母親が石を握りしめる我が子を窘めるようになった。
あまりの変貌ぶりにィオッゴと顔を合わせて驚愕し合ったほどだもの。
【異世界紳士録】
「ポール・ポールソン」
コリンズ王朝建国の元勲。
大公爵。
永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。
「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」
四天王・世界銀行総裁。
ヴォルコフ家の家督継承者。
亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。
「ポーラ・ポールソン」
ポールソン大公国の大公妃(自称)。
古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。
「レニー・アリルヴァルギャ」
住所不定無職の放浪山民。
乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。
永劫砂漠に収監中。
「エミリー・ポー」
住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。
殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。
永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。
「カロッゾ・コリンズ」
四天王・軍務長官。
旧首長国・旧帝国平定の大功労者。
「ジミー・ブラウン」
ポールソン大公国宰相。
自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。
「テオドラ・フォン・ロブスキー」
ポルポル族初代酋長夫人。
帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。
恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。
「ノーラ・ウェイン」
四天王・憲兵総監。
自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。
先々月、レジスタンス狩りの功績を評されフライハイト66万石を加増された。
「ドナルド・キーン」
前四天王。
コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。
大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。
「ハロルド・キーン」
帝国皇帝。
先帝アレクセイ戦没後に空位であった帝位を魔王ダンの推挙によって継承した。
自らを最終皇帝と位置づけ、帝国を共和制に移行させる事を公約としている。
「エルデフリダ・アチェコフ・チェルネンコ」
四天王筆頭・統一政府の相談役最高顧問。
前四天王ドナルド・キーンの配偶者にして現帝国皇帝ハロルド・キーンの生母。
表舞台に立つことは無いが革命後に発生した各地の紛争や虐殺事件の解決に大きく寄与しており、人類史上最も多くの人命を救済していることを統計官僚だけが把握している。
「リチャード・ムーア」
侍講・食糧安全会議アドバイザー。
御一新前のコリンズタウンでポール・ポールソンの異世界食材研究や召喚反対キャンペーンに協力していた。
ポールソンの愛人メアリの父親。
「ヴィクトリア・V・ディケンス」
神聖教団大主教代行・筆頭異端審問官。
幼少時に故郷が国境紛争の舞台となり、戦災孤児として神聖教団に保護された。
統一政府樹立にあたって大量に発生した刑死者遺族の処遇を巡って政府当局と対立するも、粘り強い協議によって人道支援プログラムを制定することに成功した。
「オーギュスティーヌ・ポールソン」
最後の首長国王・アンリ9世の異母妹。
経済学者として国際物流ルールの制定に大いに貢献した。
祖国滅亡後は地下に潜伏し姉妹の仇を狙っている。
「ナナリー・ストラウド」
魔王ダンの乳母衆の1人。
実弟のニック・ストラウドはポールソン大公国にて旗奉行を務めている。
娘のキキに尚侍の官職が与えられるなど破格の厚遇を受けている。
「ソーニャ・レジエフ・リコヴァ・チェルネンコ」
帝国軍第四軍団長。
帝国皇帝家であるチェルネンコ家リコヴァ流の嫡女として生を受ける。
政争に敗れた父・オレグと共に自由都市に亡命、短期間ながら市民生活を送った。
御一新後、オレグが粛清されるも統一政府中枢との面識もあり連座を免れた。
リコヴァ遺臣団の保護と引き換えに第四軍団長に就任した。
「アレクセイ・チェルネンコ(故人)」
チェルネンコ朝の実質的な最終皇帝。
母親の身分が非常に低かったことから、即位直前まで一介の尉官として各地を転戦していた。
アチェコフ・リコヴァ間の相互牽制の賜物として中継ぎ即位する。
支持基盤を持たないことから宮廷内の統制に苦しみ続けるが、戦争家としては極めて優秀であり指揮を執った全ての戦場において完全勝利を成し遂げた。
御一新の直前、内乱鎮圧中に戦死したとされるが、その詳細は統一政府によって厳重に秘匿されている。
「卜部・アルフォンス・優紀」
御菓子司。
大魔王と共に異世界に召喚された地球人。
召喚に際し、超々広範囲細菌攻撃スキルである【連鎖】を入手するが、暴発への危惧から自ら削除を申請し認められる。
王都の製菓企業アルフォンス雑貨店に入り婿することで王国戸籍を取得した。
カロッゾ・コリンズの推挙により文化庁に嘱託入庁、旧王国の宮廷料理を記録し保存する使命を授けられている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
異世界事情については別巻『異世界子供部屋おじさんはチートスキル【清掃】でこっそり世界を救っちゃってます。 』にて。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/405548244/283972667
理由は明白。
王国が召喚に成功した奇跡(カネ)を夫妻が国外に持ち去ってしまったから。
そして、当時王国と敵対していた魔界や、王国人が永年差別対象としていた遊牧民族にのみ資金援助を行ったから。
その所為で王国は最貧国・魔界に敗戦し、遊牧民族出身のマキンバ公爵の台頭を許してしまった。
御一新後も統一政府は王国への支援を殆ど行わず、終わりなき内戦を冷淡に傍観している。
王国人の憎悪は妻であるコレット・コリンズに対し特に強く向けられる。
理由など語るまでもない。
彼女が宿屋の娘だからである。
一般的に宿屋とは売春施設の隠語の一つ。
文脈によっては宿屋の娘≒非合法な低年齢売春婦を指すことも少なくはない。
故にコレット・コリンズは身分意識の高い王国では厳密な市民階級として扱われない。
その為、末期の王都から逃亡したコリンズ一家はやっかみもあり必要以上の誹謗中傷を受けたと聞く。
ワダなる大魔王の級友が一人で弁護の論陣を張り、そのお陰でコリンズ家が当時の王都で唯一売春業に手を染めてなかった資料が辛うじて後世に残されたのだが、そのワダも魔界で戦死した。
王都にも摂政の絶大な権威に媚び諂う者は無数に居るが、コレット・コリンズ個人の味方は一人も存在しない。
王国人がコレット・コリンズを憎むように、地球人はその夫のリン・コリンズを嫌っている。
同じ地球人であるにも関わらず、現地人と平等に扱われてしまった恨みはさぞかし深いだろう。
眼前の少年は、帰還についてさしたる感慨もないようだが、大魔王が身重の妻を捨てたことを未だに許していなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王国と合衆国の間には長い1級河川が流れている。
俺や摂政に言わせれば、この河を国境線にすれば全てが解決するのだが、そうは簡単ではない。
長い戦争の歴史で、互いに越河支配を経験しているし、地権も非常に入り組んでいる。
王国と合衆国では商法も土地登記法も全く異なる為、1つの土地に両国の正当な所有者が存在しているケースが非常に多い。
加えて神聖教団系の開拓ファンドも絡んでおり、経済が崩壊した今でもその債権者は世界中に存在している。
『この河を国境にしたらどうでしょう?』
俺が何度そう言っても、両国の役人は恨みがましい目で睨んでくるだけである。
『摂政殿下も概ねこの案に賛成されておられるのですがね。』
役人達が唇を噛んで屈辱に堪える。
俺が言えた筋合いではないが、コイツら本当に摂政が嫌いだよな。
『じゃあ、貴方達はどんな裁定が下れば満足なんですか?』
俺が問い質すと異口同音に「不可逆的な全面領有」と答える。
それはもう休戦の意志すらないのと同義であるので見過ごせない。
『魔王ダンの判始と同時に惣無事令が発令される事はご存知ですよね?
駆け込み戦争も惣無事令違反だと摂政殿下から通達が行ってますよね?
私の言っている意味わかります!?』
もう何度この遣り取りをしただろう。
俺は心底うんざりしていた。
本来貴族の元服は15が相場だが、空位の長期化は政権の安定を著しく脅かすので魔王ダンは3歳で元服させられる。
これは統一政府の総意である。
元服と同時に魔王権限で、全ての戦争行為を違法と定める惣無事令が発令される。
ここまで済ませて御一新は完遂するのだ。
なので紛争地の領主や住民は来年の魔王元服までに既成事実を作ろうと必死である。
特に反コリンズ色の強い王国人は酷い。
駆け込み侵略の機会を虎視眈々と狙っているのだ。
そして当然だが、統一政府はそんな愚行を看過しない。
今は俺の軍が駐屯しているので双方おとなしい。
だか、撤退した瞬間に紛争を再開するつもりなのは、誰の目にも明らかだった。
兵達は俺に気を遣って平静を装ってくれているが、内心は穏やかではない。
そりゃあそうだろう。
彼らは世界一貧しい砂漠の民である。
どうして極貧の自分達が豊かな河川沿いの住民の安全を保護しなくてはならないのだ。
狭い駐屯地から外を見れば豊穣の田地が無限に広がっており、王国人も合衆国人も大量の水を浪費してパスタを茹でていた。
アホらしいにも程がある。
その上、ゴブリン・エルフであると言うだけの理由で投石までされる始末。
現時点で殉職者は7名。
全く意味のない場面で暴徒に巻き込まれ、脈絡なく殺された。
遺族にどんな弔辞を贈るべきなのかさえ、俺には思い浮かばなかった。
王国と合衆国の和平が成立すれば帰れる。
だが、成立するにはあまりに人が死にすぎた。
領土紛争は早くも仇討ちの連鎖に置き換わっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「差し入れに参りました。
兵士の皆様への慰問として菓子を振る舞わせて下さい。」
静かに止まった荷馬車。
軽やかに駆け下りた少年は屈託のない笑顔で俺にそう告げた。
背後で頭を下げた女性は少年の妻であろうか。
『ご無沙汰しております。
合同葬儀ではお世話になりました。』
「いえ、義務を果たそうと試みただけです。」
ユキ・アルフォンス・ウラベ。
大魔王と共に転移して来た少年。
大魔王帰還直前、葬儀参列の為にソドムタウンにやって来た。
王都の菓子屋に入り婿していた縁もあり、葬式饅頭なる地球菓子を作ってくれた。
大魔王同様に潔癖な倫理主義者。
但し、天下国家にしか興味を持たない大魔王とは対極を向いており、家族や恋愛に重きを置く。
良く言えば人間的であるし、女々しい哲学の持ち主とも言える。
妻子を捨てて帰還する大魔王に腹を立て、葬儀が終わると内戦中の王国に帰国してしまった。
「男子の責務は己の妻子を守ることである。
身重の妻を置いて去るなど言語道断!」
出国理由を尋ねた国境役人にそう言い捨てたらしい。
空前の大魔王フィーバーの最中だっただけに、ウラベの毅然とした正論は社会に鮮烈な印象を与えた。
婦人のような繊美な風貌とは裏腹にかなりの硬骨漢である。
「ゴブリンの皆様は生姜を好むと伺ってます。
私の故郷のレシピで恐縮なのですが。」
『おお、これが噂の冷やし飴ですか。
液体ですから、皆で気軽に分けて飲めますね。』
「慰問の一環ですので、甘味をやや強めに致しました。
ゴブリン種もエルフ種もそこまで味覚は変わらないと伺っていたのですが、如何でしょう?」
『はい、問題ありません。
私の領地でも皆が同じ酒を飲み、同じ釜のメシを食しております。』
案の定、冷やし飴なる地球の甘味は3種族を喜ばせた。
皆、変化に飢えていたのだ。
他にも王国式のクッキーやドライフルーツを樽に詰めて持参しており、それらを陣営に寄贈してくれた。
兵達の表情に久し振りの笑顔が戻った。
さて、本題。
『ウラベ殿。
兵達に変わって御礼申し上げます。
こちらからは何が返礼出来ますか?』
「この幼児菓子を王国・合衆国に配給して貰えませんか?」
そう言ってウラベは小さな焼き菓子を俺に手渡した。
何が欲しいかと問われて配ることを願う、これが令和の群雄のスタートライン。
老害達が為す術もなく淘汰されてしまったのも当然だろう。
『…これは?』
「卵ボーロと言う私や遠市厘の故郷の菓子です。
殆どの国民が乳幼児期に与えられているのではないでしょうか?」
『ウラベ殿も召し上がられたのですか?』
「あはは、どうでしょう。
物心付いてから欲するものではありませんしね。
でも、親は与えてくれたと思います。
私の両親は共に身寄りがなく貧しかったので…
育児ノウハウの無い中で我が子に与えれたものは限られていたでしょうから。
自分に子供が生まれて、初めて両親の苦労を知りました。」
『ウラベ殿…
これを渡す為に危険警告エリアを通って来たのですか?
貴国は実質的な内戦状態なのですよ?』
「危険と言われても、一時よりはマシです。」
『…この菓子を私から魔王ダンに渡せと?』
「いえ、遠市ダンに渡して下さい。」
なるほど。
この男は商いではなく、やはり戦いに来たのだ。
『…承知しました。
摂政はこの種の贈答を嫌う方ですが、コレット・コリンズ女史にとっては心強いかも知れませんね。』
「卵アレルギーには注意して欲しいのですが、私の祖国では歯の生え始めから与えているとのことでした。
ソースは召喚直前まで乳児と同居していた級友です。
既に王都では炊き出しのメニューに加えております。」
『…王都は苦しい状況であると伺っております。
前線や魔王城に物資を回す余裕はないのではないですか?』
「ありませんね。
ですが、余裕なんて本来ないのが当たり前です。」
この少年は暗に大魔王の遺産に頼った現在の政治を非難している。
…君は正しい。
正しいが故に、誰も彼の言い分に耳を傾けなかったのだろう。
だから、夫人とたった2人でここに来た。
「公王陛下、確かにこの紛争は、いえ統一政府は多くの死者を出しました。
どれだけ慰霊鎮魂を騙ろうが、死んだ者は戻りません。
だからこそ、新たに生まれた命を精一杯祝福しましょう。」
『卵ボーロを配ることで?』
「少なくともコストパフォーマンスは最高です。
駄菓子の評論コラムを執筆されていた公王陛下が一番御存知かと。」
『あくまで外連ですが…
嗜好品の掌握こそが統率の最短ルートだとは捉えております。
そんな軽薄者はいないと信じたいですが、他を置いて嗜好品の中毒性を統率に悪用する恥知らずこそが最強の将となるでしょう。』
「手厳しいご意見ありがとうございます。」
『いえ、自分自身を戒めての発言です。
乳幼児向けの菓子を配る程度であれば、十分に配慮の範疇に収まることでしょう。』
ウラベは卵ボーロの包装紙に描かれた子供向けのイラストを1つ1つ優しく指さしながら話を続ける。
「王国にも合衆国にも遠市ダンにも同じ物を食べさせます。
それにより、文化や体験の共有が発生する。
世界にとってもダン個人にとっても、価値ある行為だと思いませんか?
少なくとも、相手が奇跡の結晶でもなんでもなく、同じ人間であると実感出来る。」
『仰る通りです。
…ダンの情操にまで気を遣って下さる方が少なくて…
御礼申し上げます。』
「礼には及びません。
私は級友の子捨て行為を止めきれなかった。
贖う義務があります。」
『子供が幼いのはウラベ殿も同様でしょう?
背負い込み過ぎですよ。』
「ですが。
公王陛下が私の立場ならダンを見捨てなかったのではありませんか?
少なくとも貴方は自分の子より知己の子を優先する方です。」
『…買い被りです。
私は自分可愛さに逃げ回っているだけの卑怯者ですよ。』
「評価は後世に委ねましょう。
尤も、そんなものを我々が遺せればの話ですが。」
『後世すらも遺せませんか、人類は。』
「遠市が全て壊してしまいました。
実際、この世界も経済が極めて順調なだけで、社会そのものは潰れてしまっているでしょう。」
『やはり大魔王には納得出来ませんか?』
「まず、盲目的に施しを与えられることに反対です。
それは際限のない搾取と本質的には変わらないのでしょうか。
生殺与奪を明け渡しているだけです。」
惜しいな。
社会の理解度さえ追い付いたなら、この男こそが天下人となっていただろうが。
ウラベの言葉を咀嚼出来る者は万人に1人もいない。
『大魔王は…
ただ全ての人民に平等に恩恵が行き渡る事を願っておりました。
短い間でしたが、共に過ごした私はそう捉えております。』
「遠市厘は…
再分配者でありたいだけの男です。
短い間とはいえ、共に過ごした公王陛下は気づいておられるのはないでしょうか?」
『例えそうだとしても、結果として彼は一切の徴収を行わなかった。
再分配者ではなく、完全な分配者です。
超常的なスキルの賜物だとしても、それで大勢の人間が救われました。』
「公王陛下が御存知の通り、私はスキルの無い世界から参りました。
なので、こちらの世界が大魔王という偶発的な奇跡に支えられている現状をとても危うく感じます。
人心安寧に信仰は必要かも知れませんが、社会運営には百害あって一利ありませんよ。」
『私だってそうです。
人間の力だけでより良い社会を作れるなら、幾らでもそうしたい。
でも、無理だった。
大魔王が降臨するまでは、世界は酷くなり続けてました。
少なくとも私は無力だった。
…奇跡、いや言葉を飾るのは止めましょう。
怪物が、怪物の力が皆を救済してしまった。
それは許されませんか?』
「甘んじる事が罪だと申しております。」
驚いたな。
この少年も摂政と同じ答えに辿り着いたのか。
いや、真面目に統一政府の政治方針を観察していれば、それが大魔王崇拝に見せ掛けた脱大魔王運動であると理解出来てしまうか。
そう。
見れば誰にだって分かることなのだ。
摂政が奇跡の排除を目的としていることなど。
【サイエンス教育に熱心であり、テクノクラートを尊重。
王権神授的な追従には一切耳を貸さず、築いたのはあくまで機能としての王権】
例え原資が大魔王の遺産だとしても、コレット・コリンズは大魔王無き社会の構築を我が子の王権確立と並行して進めている。
矛盾の理由はシンプル。
彼女が誰よりも誠実な政治家であり、誰よりも貞節な母だからである。
「整合します。」
俺の内心を見透かすようにウラベが卵ボーロの袋を押し付けて来た。
『整合?
私はそれに悲観的ですよ。』
「遠市厘は兎も角、コレットさんもダンも血の通った人間です。
彼女達のパーソナリティを認めることで、社会の主を怪物から人間の手に取り戻す事が出来るのではないでしょうか?」
きっと本質は人間と神の闘争なのだ。
社会を運営するのが人間の蓄積か天が与えた奇跡か。
「人間が自然に持つ情愛こそが、社会の幅を左右するのではないでしょうか?
だからこそ、人間は家族を愛するべきですし、公人にも公務に相反しない範囲での私が認められるべきなのです。」
『きっと、それが社会を円滑に回す方法なのでしょうね。
為政者を神とも悪魔とも扱わない。
家庭にも居場所を作らせ、【100%の公人】なる怪物を産み出してしまわない。』
「ええ、言語化して下さってありがとうございます。
遠市厘は悪い意味で【100%の公人】でした。
あれは私専一である事と表裏一体です。
モノポリーの怪物であると断言して差し支えないでしょう。」
『さっきから随分と大魔王に辛辣ですね。』
「…可哀想じゃないですか。」
『ああ、確かに摂政も魔王ダンも…』
「誰か1人くらいは、アレが遠市厘だったと覚えておいてやるべきなんです。
彼以外の全員が享受している、批判される権利が与えられるべきなんです。」
『…。』
「あの合同葬儀。
とてもじゃないが見ていられませんでした。
この世界の人達はおカネ欲しさに酷い真似をする。
私1人くらいは遠市厘を供養してやらないと。
そう思っただけです。」
…口を開けば情愛だの憐憫だの。
こういう女のような発想も今となっては随分貴重だ。
俺は下らない人間だからウラベのアプローチを心底アホらしく感じるが、正解はどう考えてもそっちなんだろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この少年と哲学を語り合うのは軍務の上では全くの無駄なので、淡々と本題を進めた。
勿論、ウラベは実務者としても極めて優秀だった。
乳幼児食の配給が政権支持率にどれだけ寄与するかをデータで提示してくれる。
損得の話として、魔王ダンに父親としてのリン・コリンズを慕わせた方がどれだけプラスになるかも説いて来た。
「どうせ最後は統一政府と地球の誘致合戦になるでしょう?
遠市厘を引き込んだ方の世界が残りますよ。」
『まるで誘致に失敗した方の世界が滅ぶとでも言いたげですね。
流石に大袈裟ではありませんか?』
「恐れながら経済学者としてのポールソン博士に質問させて下さい。
世界がゼロサムでないと言い切れますか?」
若い癖に意地の悪い男だなぁ。
答えを知っている癖に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、この問題は暴力が簡単に解決した。
俺の後任がカロッゾであると発表された瞬間、王国側も合衆国側も終戦協定の早期締結を乞うてきたのである。
そりゃあね、機甲師団の蛮名は四海に轟き渡っているからね。
卵ボーロ?
即効性すらもあったよ。
ゴブリンへの投石は止まらなかったが、その母親が石を握りしめる我が子を窘めるようになった。
あまりの変貌ぶりにィオッゴと顔を合わせて驚愕し合ったほどだもの。
【異世界紳士録】
「ポール・ポールソン」
コリンズ王朝建国の元勲。
大公爵。
永劫砂漠0万石を所領とするポールソン大公国の国主。
「クレア・ヴォルコヴァ・ドライン」
四天王・世界銀行総裁。
ヴォルコフ家の家督継承者。
亡夫の仇である統一政府に財務長官として仕えている。
「ポーラ・ポールソン」
ポールソン大公国の大公妃(自称)。
古式に則り部族全体の妻となる事を宣言した。
「レニー・アリルヴァルギャ」
住所不定無職の放浪山民。
乱闘罪・傷害致死罪・威力業務妨害罪など複数の罪状で起訴され懲役25年の判決を受けた。
永劫砂漠に収監中。
「エミリー・ポー」
住所不定無職、ソドムタウンスラムの出身。
殺人罪で起訴されていたが、謎忖度でいつの間にか罪状が傷害致死にすり替わっていた。
永劫砂漠に自主移送(?)されて来た。
「カロッゾ・コリンズ」
四天王・軍務長官。
旧首長国・旧帝国平定の大功労者。
「ジミー・ブラウン」
ポールソン大公国宰相。
自由都市屈指のタフネゴシエーターとして知られ、魔王ダン主催の天下会議では永劫砂漠の不輸不入権を勝ち取った。
「テオドラ・フォン・ロブスキー」
ポルポル族初代酋長夫人。
帝国の名門貴族ロブスキー伯爵家(西アズレスク39万石)に長女として生まれる。
恵まれた幼少期を送るが、政争に敗れた父と共に自由都市に亡命した。
「ノーラ・ウェイン」
四天王・憲兵総監。
自由都市併合における多大な功績を称えられ四天王の座を与えられた。
先々月、レジスタンス狩りの功績を評されフライハイト66万石を加増された。
「ドナルド・キーン」
前四天王。
コリンズ王朝建国に多大な功績を挙げる。
大魔王の地球帰還を見届けた後に失踪。
「ハロルド・キーン」
帝国皇帝。
先帝アレクセイ戦没後に空位であった帝位を魔王ダンの推挙によって継承した。
自らを最終皇帝と位置づけ、帝国を共和制に移行させる事を公約としている。
「エルデフリダ・アチェコフ・チェルネンコ」
四天王筆頭・統一政府の相談役最高顧問。
前四天王ドナルド・キーンの配偶者にして現帝国皇帝ハロルド・キーンの生母。
表舞台に立つことは無いが革命後に発生した各地の紛争や虐殺事件の解決に大きく寄与しており、人類史上最も多くの人命を救済していることを統計官僚だけが把握している。
「リチャード・ムーア」
侍講・食糧安全会議アドバイザー。
御一新前のコリンズタウンでポール・ポールソンの異世界食材研究や召喚反対キャンペーンに協力していた。
ポールソンの愛人メアリの父親。
「ヴィクトリア・V・ディケンス」
神聖教団大主教代行・筆頭異端審問官。
幼少時に故郷が国境紛争の舞台となり、戦災孤児として神聖教団に保護された。
統一政府樹立にあたって大量に発生した刑死者遺族の処遇を巡って政府当局と対立するも、粘り強い協議によって人道支援プログラムを制定することに成功した。
「オーギュスティーヌ・ポールソン」
最後の首長国王・アンリ9世の異母妹。
経済学者として国際物流ルールの制定に大いに貢献した。
祖国滅亡後は地下に潜伏し姉妹の仇を狙っている。
「ナナリー・ストラウド」
魔王ダンの乳母衆の1人。
実弟のニック・ストラウドはポールソン大公国にて旗奉行を務めている。
娘のキキに尚侍の官職が与えられるなど破格の厚遇を受けている。
「ソーニャ・レジエフ・リコヴァ・チェルネンコ」
帝国軍第四軍団長。
帝国皇帝家であるチェルネンコ家リコヴァ流の嫡女として生を受ける。
政争に敗れた父・オレグと共に自由都市に亡命、短期間ながら市民生活を送った。
御一新後、オレグが粛清されるも統一政府中枢との面識もあり連座を免れた。
リコヴァ遺臣団の保護と引き換えに第四軍団長に就任した。
「アレクセイ・チェルネンコ(故人)」
チェルネンコ朝の実質的な最終皇帝。
母親の身分が非常に低かったことから、即位直前まで一介の尉官として各地を転戦していた。
アチェコフ・リコヴァ間の相互牽制の賜物として中継ぎ即位する。
支持基盤を持たないことから宮廷内の統制に苦しみ続けるが、戦争家としては極めて優秀であり指揮を執った全ての戦場において完全勝利を成し遂げた。
御一新の直前、内乱鎮圧中に戦死したとされるが、その詳細は統一政府によって厳重に秘匿されている。
「卜部・アルフォンス・優紀」
御菓子司。
大魔王と共に異世界に召喚された地球人。
召喚に際し、超々広範囲細菌攻撃スキルである【連鎖】を入手するが、暴発への危惧から自ら削除を申請し認められる。
王都の製菓企業アルフォンス雑貨店に入り婿することで王国戸籍を取得した。
カロッゾ・コリンズの推挙により文化庁に嘱託入庁、旧王国の宮廷料理を記録し保存する使命を授けられている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
異世界事情については別巻『異世界子供部屋おじさんはチートスキル【清掃】でこっそり世界を救っちゃってます。 』にて。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/405548244/283972667
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